知的障害者の新たな職域開発、障害に配慮した雇用管理を進めている事業所
- 事業所名
- 株式会社ゲットイット
- 所在地
- 東京都中央区
- 事業内容
- IT事業(リユース・リサイクル)、家庭用品輸入事業、トイデジタルカメラ事業 (企画・製造・輸入・販売)など
- 従業員数
- 20名
- うち障害者数
- 1名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 1 PC・ネットワーク機器の解体 精神障害 - 目次

1.事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
株式会社ゲットイットは、1999(平成11)年12月、インターネットサイト「Get It」として中古パソコンの販売事業を開始し、2001(平成13)年に法人化を行った。2005(平成17)年に株式会社ゲットイットに組織変更し、現在では国内でも有数の中古・再生の業務用IT機器販売会社である。
また、家庭用品輸入事業を主な事業とし、トイデジタルカメラの卸など、多角的な経営を実践している。中古のIT機器のなかで、販売できないものを以前は有償で処分していたが、現在では分解、分別し、リサイクルし資源の有効活用に努めている。このリサイクル業務は障害者を職場実習生として受け入れ、2011(平成23)年12月より取り組み始めた。その後、その実習生であった知的障害者1名を雇用したことを契機に、東京都が運営している「障害者雇用優良企業登録事業」に登録している。
(2)障害者雇用の経緯
障害者雇用への取り組みは、意外なことが発端であったという。ゲットイットは、設立から12年とまだ若い会社で、社長や社員も若い。当初は、売り上げや利益があがることを優先に考える風潮が強かった。そんなあるとき、社長が『日本でいちばん大切にしたい会社』(坂本光司)という本に出会い感銘を受けたことから変化が始まった。
この本には、著者が日本中の人たちに知ってほしいと思うような障害者雇用を含む中小企業による社会貢献の取り組みも紹介されていた。
ちょうど、その時期には社内でいろいろなトラブルが発生していた時でもあり、このことが経営方針を見直す機会となり、「もう少し社員にも目を向け、会社として皆が楽しく働ける職場環境の実現を目指そう」ということになった。その後のゲットイットは社内研修において利益追求とはまた違った方向性のものを取り入れはじめた。
そんなタイミングで、社長から「障害者雇用が当たり前にある会社であった方がいいし、それを目指したい」との提案があった。社員の中には、知的障害者についての知識が既にある社員もいて、賛成の声もあったが、それは少数であった。そんな中、いざ受入れに向けて動き始めると、多くの社員からは、「そんな突然に障害者雇用だとか言い始めて、どうなっても知らないよ」という戸惑いの声があがった。話し合いを続け、とりあえず2週間だけ職場実習生を受け入れてみて、それで様子をみようという結論となった。
2.取り組みの内容
知的障害者の職場実習生を受け入れることとした背景には、リサイクル業務の作業場所が倉庫の一角なので、①入り口が小さく狭い、②階段がある、③車が頻繁に出入りすることなどがある。また、職場実習生の受け入れは東京都の雇用・就業施策である離職障害者職場実習事業を活用して障害者雇用のコンサルティング会社から2名を受け入れることになった。
実習生を受け入れる前、社内では作業の説明方法一つとっても、これでは伝わらないのではないかと身構えていた。IT機器の分解後の分別も、これまでの流れによる作業では支障が出るのではないか、自分たちの業務に負担がかかってくるのではないか、社員がみな仕事の手を止めて議論をしているような状態であった。
実際に実習生が来所し作業が始めると、これは大丈夫だろうという実感が得られたという。一緒に仕事をするまでは、知的障害者の具体的なイメージが湧かず、電車のなかで見かけるくらいという社員がほとんどだった。しかし、実習生を受け入れ、仕事の様子を見ているうちに、知的障害者へのイメージが一変したのだという。
作業内容は、基本的にはネジを外し、パーツを取り外し分別するという流れだ。IT機器の種類が変わっても、問題なく対応はできているという。「作業内容と相性のいい知的障害者が多いという印象を持っています。それがラッキーだったと思います」と人事担当のTさんはいう。
2名の実習生のうちの1人であるIさんの実習が終了した後、Iさんと両親に一緒に来所してもらい、3者で話し合いの場を持ったという。来所前、両親はゲットイットに就職することには反対であったようで、断るつもりで来所したのだそうだ。特に父親が心配していたようで、Iさんが過去に企業で働いていた際に、周囲との人間関係が上手く築けずに、いじめみたいな状況があったようで、今回も息子が同じように傷つくのではないか、それは避けたいという親心からの反対であったという。さらに、ゲットイットのような小さな企業では、そのうち仕事がなくなり、就労が継続できないのではという不安もあったようだ。
両親に対しては、いくら「心配ないです」と言っても説得力がないと考えて、実際に仕事場の様子を見てもらい、2週間に渡る実習期間をIさんがどのように過ごしたのかを説明しつつ、社長自らが「ご本人がやりたいというのならば、私たちは全力で受け入れていきます」と会社の意思を伝えたのだという。本人にも、職場実習後も仕事を続けたいかどうかを尋ねると、「来たいです」と答えてくれたそうだ。最初は、断る気持ちで来所した両親だったが、帰る頃には笑顔で「よろしくお願いします」と話すくらい態度が一変したという。「私たち自身が知的障害のある方と接してみて変化したように、ご家族も初めて息子さんの仕事場に来ていただいて、ここならばと思ってくださったのだと思います」と人事担当のTさんは振り返る。
実習生を紹介してくれたコンサルティング会社からは、「知的障害者は家族と同居していることが多く、実際に何かあったときに企業と家族の連携も取らないといけないので、家族の理解は必要なステップだ」と事前に聞いていたのだが、「最初に来ていただいただけで、今のところ特に家族と連携すべき出来事も起きていません」という。
リサイクル業務のチームリーダーであるHさんにも話をきいてみると、「最初はどう接していいのかなど、戸惑いもありました。でも3〜4か月ですっかり落ち着いた」という。
Iさんも最初はパニックになったりしたこともあったようで、彼の作業を見直した時期もあったという。しかし、時間の経過とともに落ち着いて、今ではIさんはテキパキと業務をこなすようになったという。さらに、「Iさんは記憶力がよく、普段周りの人たちの会話をよく聞き、理解していることなど、すぐれた面を持っていることがだんだんわかってきました」とHさんはいう。
Iさんは、職場実習の2週間を終えた後、2013(平成25)年1月現在、社員として2年を経過した。彼は淡々としていて、喜怒哀楽はあまり見せてくれないのだという。Iさんの勤務時間は10時から17時までで、彼は会社に早く来て、掃除をしたりしてくれているという。ご本人に職場実習がどうだったと質問すると、「楽しかった」との言葉が返って来た。Iさんの独特な人柄を社員たちが愛情を持って、理解していることがとても印象的であった。


人事担当のTさん(左から)
〔その他の取り組み〕
- 障害に配慮した作業場の設置、一般社員への社内研修の実施、職場実習の受入れ、シンポジウムなどでの障害者雇用の取り組み事例などの発表を行っている。
- 小さい企業でも障害者雇用を実践できるということを知らせたいという思いから会社のホームページ上で障害者雇用の経験を情報発信している。
- リサイクル事業では、継続して知的障害者を実習生として受け入れている。ただし、長時間地味な作業を続けられる人であること、手先の器用さがある程度あることが必要とされる。
3.取り組みの効果、今後の展望と課題
(1)取り組みの効果
職場に知的障害のある労働者が来る前と、来た後とでは、障害者に対する社員が持つイメージもだいぶ変化したという。知らないでいた以前の社員の意識が、受け入れることに後ろ向きな気持ちにさせていたのだと気づいたという。しかし、ゲットイット社が障害者雇用に取り組んでみようと動き出すことになった原動力は、社長の決断だったという。トップの意識変革がきっかけとなり、全体を引っ張ってくれたのがよかったとTさんは振り返る。
2012(平成24)年度に入社した新入社員のSさんは、就職活動をしていた際に、ゲットイット社の障害者雇用に積極的に取り組む姿勢を見て、それが魅力の一つになっていたという。会社のホームページを見て、社員募集のチェックをしていたという。「自分はちょっと変わっていますからと」Sさんはいう。中小企業は人材の確保が難しいと言われているなか、こうした取り組みが企業の魅力となる可能性も感じさせる事例だ。人事担当のTさんによると、「応募している人の中に、障害者雇用への姿勢を魅力として感じている人が時々います」とのこと。
また、取り組みを始めた後には社員の意識にも変化があったという。「電車の中で知的の障害者と思われる人がいると、何か困っていることはないかなと気にするようになった」、「自分の子供ができた時に、どんな子供でも受け入れたいと思えるようになった」など、個人として関心を持てるようになったとの感想を複数の社員が話してくれたという。そういう「当たり前のことが当たり前になることに、自分たちが一歩貢献できているのだなと思って、嬉しかったです」と社員一人一人の変化をTさんは振り返る。
(2)今後の展望と課題
もう一人と思いながらも、社員がいろいろな業務を兼任していることもあり、限界がある。また、その後に東日本大震災があったこともあり、現在に至っている。今後は少しずつでも採用を増やしていきたいと考えているという。
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