その人らしさを大切に障害者雇用を考える
- 事業所名
- 社会福祉法人 萬葉の杜福祉会 朝日山ケアセンター
- 所在地
- 富山県氷見市
- 事業内容
- 介護福祉事業
- 従業員数
- 20名(朝日山ケアセンター)
- うち障害者数
- 5名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 1 介護業務 知的障害 2 清掃業務 精神障害 2 介護業務 - 目次

1.事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
社会福祉法人萬葉の杜福祉会の運営する小規模多能型居宅介護施設「朝日山ケアセンター」と軽費老人ホーム「ケアハウス萬葉の杜」は、氷見市朝日丘の国道160号線沿いの朝日山に面した丘陵地に隣り合せて建つ。日本海と立山が眺望できる素晴らしい自然環境のなかで、『高齢者から幸齢者へ』を新提案として、「老いても共に、いつまでも前向きに充実した実りある生涯のステージを構築する」を基本に介護福祉事業を運営している。
また、「高齢者・障害者」等の社会福祉向上のため地域の様々な方々と連携し、交流・活動を広めて地域社会に貢献することを経営理念としている。
本事例は、当法人が運営する2つの施設のうち、小規模多機能型居宅介護施設「朝日山ケアセンター」で初めての障害者雇用となったNさん(知的障害)の雇用についてである。
なお、朝日山ケアセンターではNさんの雇用の後、これがきっかけとなって知的障害者1名(清掃作業)、精神障害者2名(介護職)の雇用をすることができ、ケアセンターの開所時から雇用されている内部障害者(介護職)と合わせて5名の雇用となっている。
(2)障害者雇用の経緯
朝日山ケアセンターは、介護保険法にのっとり高齢者向け地域密着型のデイサービスを中心に、希望に応じて宿泊や訪問介護を提供する施設として、介護支援専門員(施設長)1名、介護主任(認知症対応管理者)1名、総務1名、介護職10名、看護職2名、宿直職員2名の人員で平成20(2008)年8月1日にスタートした。
開設当初から、利用者数が順調に伸び、半年後には最大利用登録人数25名に達したが、半面職員数の不足や雑用業務(清掃・消毒業務等)の多さに介護職員が利用者と関わる為の時間があまりとれない状況になった。
そこで、当時の理事長が、障害者の採用により事業所内に障害者の就労の場を設け、併せて職員が本来業務に専任できる総合的な支援体制づくりについて、高岡障害者就業・生活支援センターの就労支援ワーカーY氏に相談・依頼した。
その結果、Y氏からは障害者雇用にあたっての受け入れ準備から本採用までの、支援機関の援護制度を活用した具体的な計画の提案を受けた。それと共に、清掃業務に2年間従事した経験のあるNさんを推薦され、平成21(2009)年2月17日、Nさんと保護者が朝日山ケアセンターを訪問、見学され、Nさんの雇用に向けた取り組みが開始された。
2.取り組みの内容、効果
(1)取り組みの内容
本人の特性として、定型の反復作業への適応は高いが、場や人に慣れるまで時間がかかることから、集中力の維持、正確な作業遂行ができるように具体的な目標設定を行い、作業ごとの所要時間を確認できるよう作業マニュアル、スケジュール表、チェック表を整備することとした。
① 援護制度を活用した雇用支援計画の策定
就労支援ワーカーY氏の提案書を基に、本採用までの受け入れ準備期間を①ジョブコーチ支援による雇用前実習と②トライアル雇用期間に分けて、次のような雇用支援計画を策定した。
- ジョブコーチ支援雇用前実習
実習期間: 平成21年3月9日〜平成21年3月25日 勤務時間: 13:00〜17:00 休 日: 土、日曜日、祝日 指導計画: ジョブコーチとN君の業務について打ち合わせた内容にもとづいて指導する。 - トライアル雇用(試用期間)
使用期間: 平成21年3月26日〜平成21年6月25日 勤務時間: 13:00〜17:00 休 日: 土、日曜日、祝日 指導計画: ジョブコーチ支援雇用前実習で身につけた業務を試用期間中にさらに丁寧にできるように指導する。
② 職場内への周知
- ジョブコーチ支援による雇用前実習の開始2週間前
ジョブコーチ支援による雇用前実習開始前の平成21(2009)年2月23日職員会議で、Nさんの雇入れ(障害者雇用)についての目的(3本柱)を説明。また、実習期間中の業務内容や勤務スケジュールの概要を職員各位に配付・説明し、全職員がNさんについての情報を共有することとした。その時に配付した資料に記載されている内容は次のようである。
(雇入れの目的)
1. 障害者雇用の場の拡大と併せて、職員が自分の所掌に専任できるよう総合的な支援体制を推進するためであること 2. 職員の雑用業務(掃除等)を減らし、職員が利用者の隣に座って話を傾聴する等の気持ちに寄り添う時間を増やすためであること 3. センター内の衛生を保つためであること
実習期間: 平成21年3月9日〜25日(休日:土・日曜日、祝日) 業務内容: 風呂掃除、トイレ掃除、玄関掃除、ホール掃除機かけ(但し、晴れた日は外の窓ふき、草むしりも可能)
* 実習期間中は、ジョブコーチがNさんの指導を行う予定になっているが、ジョブ
コーチ不在の際はその日勤務の職員に指導・見守りの協力をお願いしたいこと
留意点として
☆ 指導方法:なんでもハッキリと伝えること
☆ もし、パニックになることがあれば、別室でクールダウンしてもらうことになること
(雇用勤務スケジュール案)
13:00〜 トイレ掃除 14:00〜 風呂掃除 15:00〜 窓ふき、草むしり等 その他 拭き掃除 休憩 16:00〜 玄関掃除 16:30〜 掃除機(フロア内) - ジョブコーチ支援雇用実習の開始3日前
ジョブコーチ支援による雇用前実習直前の平成21(2009)年3月5日職員全体会議において、詳細の留意事項や作業スケジュールを説明した。説明時の資料に記載されていた内容は次のようである。
■ 実習期間中はタイムカードなし
■ 指定の出勤簿に出勤印、確認印を捺印←センター長、主任又は総務の印
■ 実習期間終了後3月26日〜3カ月の期間を試用期間とし、本人も希望している
■ 試用期間中の休日はセンターが指定して良い
■ ジョブコーチ支援について
富山障害者職業センターよりKジョブコーチとMジョブコーチが1週間3回ほどの割合で指導を行い、コーチ不在の場合は総務またはホール係が指導・見守りを行う予定とする。■ 注意事項として
※ 本人は明るく利用者様と話しだしたら止まらないかもしれないので、そういう状態のときは職員がキリの良いところで止めて業務に戻ってもらう。 ※ パニック状態になった時は、宿直室等の個室に連れて行きクールダウンしてもらう(滅多にない)。 ※ どんな話しかけに対してもはっきりとわかりやすい言葉で返事してあげる。
(例)掃除は終わりました?×→掃除はおわりましたか?○※ 本人が使用する雑巾は、それぞれの場所ごとに分かりやすく必ず記載する。
13:00〜 暖炉横にまき運び、トイレ掃除 13:30頃〜 玄関掃除(窓ふき、下駄箱ふき等) その時に手すきの職員が確認して捺印して下さい 14:30頃〜 風呂掃除 15:30頃〜 手すりふき、車椅子ふき、窓ふき、遊具(レク用具)ふき、草むしり等その他職員が気づいたところを指導して下さい。 16:00頃〜 フロア内掃除がけ ※ それぞれの作業が終わったら、職員が確認しチェックシート(資料1「業務日報」 )に済印を捺して、もし手抜きがあればやりなおしてもらう。 *17:00頃 業務終了→出勤簿に捺印
③ 業務日報の作成
本人特性(定型の反復作業への適応は高いが、場や人間関係に慣れるまで時間がかかるため、集中力の維持、正確な作業遂行を見守る必要がある)に配慮した雇用管理の一つとして、一定の期間に応じた「業務日報」を作成することとした。
- 実習期間中の業務日報(資料1参照)
業務日報には、作業の流れを理解してもらえるよう作業内容と作業手順を様式に盛り込み、各作業毎の終了時間の記入欄も設けることとした。 - 本採用後の新業務日報(資料2参照)
実習期間中の清掃作業については、職員からの注意や指摘がないと手抜きをする傾向が見受けられたため、新たな業務日報を作成し全職員に変更内容を含め周知した。
主な変更点は、作業項目毎に担当職員からの確認印と評価を受けるもので、担当職員も具体的な評価理由を本人にコメントすることとした。


(2)取り組みの効果
① 業務日報による作業定着
業務日報により作業手順を固定化したことで一日の作業の流れを理解し、迷うことなく取組めるようになった。また、担当職員も作業毎に評価をすることで、本人の理解程度に応じてどこまで支援すればよいかを理解するきっかけとなった。また、職員全体で本人の就労状況を共有することが可能になるとともに、事業所内でスタッフが交代した際の引継ぎ資料としても活用できるものとなっている。
② Nさんの受け入れによる効果(職員の声)
- 毎日明るく元気に挨拶をするので、職員と利用者様は元気をもらっている。
- 職員の清掃業務負担が大幅に軽減し、職員が利用者様とかかわる時間が増えた。
- 利用者様や職員の名前も早く覚えてくれ、笑顔も絶やさず、職場も明るくなった。
- 毎日一生懸命で嫌な顔をせず、仕事をしてくれて、感謝している。
- 知的障害者に対する指導方法を職員が共有することにより、その後に採用した障害のある人の指導・対処等に活かすことができた。

③ Nさんへのインタビュー
Nさんに話を聞いた。
「始めは、掃除の順番を覚えることが大変でした。手順書を見ながら掃除しています。掃除をしていて大変なことは、トイレの汚れがなかなか取れないので、こするのが大変です。
時々、理事長さんが来て、「がんばっていますね」と言われます。今は、利用者の人たちの名前もちゃんと覚えました。ゴミをかたづけたら「ありがとう」と言われます。これからも、朝日山ケアセンターをきれいにして、みんなに喜んでもらえるように頑張りたいと思います。」
3.今後の展望と課題
Nさんの雇用継続については、仕事にムラが出やすいので、少しずつ本人のペースを考慮しながら解決していかなければならないことや利用者様との関係性をより良いものとしていくこと等があげられる。
法人としては、障害のある人を雇用してから日も浅く、様々な就労支援機関等の協力のおかげで、本採用以後ひとりも離職者を出しておらず、今後も引き続き障害のある人が障害のない人と同様、その能力と適正に応じた雇用の場に就き、住み慣れた地域で、その人らしく自立した生活を送ることができるような社会の実現を目指し、障害のある人の雇用を支援していく意向である。
センター長 蔵田 晋也
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