適材適所を基本として障害者雇用と農業のコラボレーションを実現した事例
- 事業所名
- 農業生産法人 株式会社ハイジの野菜畑
- 所在地
- 山梨県笛吹市
- 事業内容
- 農産物生産
- 従業員数
- 18名
- うち障害者数
- 2名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 精神障害 2 農作業 - 目次

1.事業所概要
(1)事業内容
当社は、山梨県で広く菓子製造販売や飲食事業を手掛ける桔梗屋グループが、安心安全な農作物の調達を目指し、グループとして農業部門への本格的な参入をはじめるために設立した会社である。栽培には、菓子製造過程で生じる生ゴミなどをリサイクルした堆肥を活用し、環境に優しい循環型農業に取り組んでいる。また、水耕栽培に力を注ぎ、減農薬や有機栽培にこだわっているのが特徴である。
一昨年春から石和町と明野町の約21,000㎡で、トマトを主体に葉物など約20数種類の水耕栽培としいたけの原木栽培をスタートしており、農場の管理には、グループが山梨県から委託され指定管理者として運営している山梨県立フラワーセンター「ハイジの村」でのノウハウも生かされている。
生産された農作物は、市場への出荷は行わず、全てグループが経営する飲食事業部門の食材や、グリーンアウトレットでの販売、レストラン向けに使用されている。また、自社のハウス内に開設されたヘルシーレストラン「アルムおんじの台所」では、実際に栽培されている野菜等を見ながら食事を楽しむことができる。
(2)企業理念等
当社は、桔梗屋グループの一員であり、その経営理念等はグループ共通のものである。したがって、企業の姿勢なども、その理念に基づき具現化されているため、原文のまま紹介する。
「地球上でもっともお客様を飽きさせない企業であること。伝統や、既存の価値観を大切にしながらも、常に新しい視点、切り口でお客様を『あっ』と驚かせる場であること。それが私たち桔梗屋の目指すものです。私たちは、ひとりひとりが桔梗屋の『顔』であるという自覚をもち、お客様に最高のお買い物をしていただくため、進化し続けています。お客様は、本物の価値、嘘偽りのない味わい、さりげない健康への配慮、日常の生活にちょっとした新鮮な驚きを求めています。モノが豊富な時代になったからこそ、お客様の求めるものは『目に見えるもの-モノや価格』から、『目に見えないもの-モノがもたらしてくれる体験や価値』へと変わってきています。
桔梗屋は、桔梗信玄餅の素朴ながらも真摯な菓子づくりへのこだわりと、本物の味への飽くなき追求によって、多くの人に支持されてきました。そして、『美味しさ』、『楽しさ』、『美しさ』、『健康』、を目指しています。」
(3)組織構成
管理業務及び生産業務から成っている。
(4)障害者雇用の理念
経営理念に沿って、地域への奉仕、地域に根ざした企業として貢献することを心掛けている。それはまさに適材適所の実践であり、ノーマライゼーション(障害者や高齢者など社会的に不利を受けやすい人々が、社会の中で他の人々と同じように生活し、活動することが社会の本来あるべき姿であるという考え方)の実現に他ならない。
適材適所とは能力を発揮できる仕事で、しっかりと発揮してもらうだけのことであり、当社では、障害の有無が生産性にとって大きな問題になることは少ないと認識されている。この認識が障害者雇用を推進しているものと思われる。

代表取締役 石川 一さん(右)
係長 曾雌 隆広さん(左)
2.取り組みの経緯・背景・きっかけ、取り組みの具体的な内容
(1)取り組みの経緯・背景・きっかけ
会社設立時に近所に住む方から、障害のある子供さんのお話を伺ったこともあり、県立わかば支援学校からの実習を受け入れ、卒業と同時に採用したことがきっかけとなっている。その社員は実家が農業ということもあり、仕事の内容に親しみが持てたこともプラスに作用したと思われる。その後、県立わかば支援学校からは、毎年、職場実習の依頼が来るようになり、それを受け入れている。採用者については、先輩後輩ということもあり、継続した人間関係が維持されている。
(2)取り組みの具体的な内容
① 労働条件
- 期間
1年間の有期契約を締結している。 - 場所
明野ファームの生産現場となっている。 - 時間
フルタイムであり、基本的には8時〜17時であるが、仕事の内容、季節、収穫期等に応じて就業時刻の繰り上げ繰り下げが行われることがある。 - 賃金
時給であり、最低賃金を超える設定を基本としている。 - 野菜の包装、仕上げ、袋詰め
- 種まき
- 収穫
- 片付け、洗い物
- 花の栽培、土の手入れ
- 採用時等について
家族の協力が非常に大きいため、連携しながら見守ることが有効である。したがって、家族が様子を見に来社することは歓迎している。
- ジョブコーチ支援の活用について
好不調の波があり、態度に表れることが少なくないため、職場だけでは対応できない場合はジョブコーチに連絡し、対応を相談することが非常に効果的である。また、本人も何かあればジョブコーチに相談することができるため、安心感や安定感につながっていると思われる。したがって、ジョブコーチの支援の活用により、急に帰宅するなどの不安定な行動は全く見られなくなっている。支援開始当初は、週に1回の頻度で支援を受けていたが、現在では、ほとんど派遣がないくらいにまで安定している。
- 職場実習の受け入れについて
職場実習を受け入れた際、障害者本人が先輩として実習生に接することで、自分自身の成長を促すとともに、未来の社員を見極めることにもつながるので一石二鳥の効果が認められる。
- 配置について
入社当初は疲れやすく、体調を崩しやすいため、原則として、危険な作業はさせないことが求められる。また、仕事に慣れるためには、家族とジョブコーチの協力が大きく影響する。仕事に慣れてくると、体調管理も自分でできるようになるため、徐々に仕事をレベルアップしていくことが可能となる。
- 仕事の指導・教育について
最も大切なことは、管理者や直属の上司がよく見ることである。しかし、よく見ても、特別扱いしないことが、同じくらい大切であり、区別のない指導・教育をすることで、確実に仕事をこなすことが可能となる。
- 賃金について
賃金などの労働条件について、最大のポイントは公平・公正への配慮と思われる。障害者同士も含め、年齢や職歴なども含め差別や格差ということに対して非常に敏感であり、その意識がいろいろな不調につながるおそれが高くなることが認められる。年齢や職歴以外の差が生じたとすれば、その合理的な説明が難しいことも事実であり、慎重な対応が求められる。したがって、「障害者だから」という労働条件の設定の仕方は禁物であり、働きをしっかり見て、障害のない者を上回ることもあり得るような運用となっている。
- 日常について
特別扱いすることはないが、日常においては、特に、孤立させないことがポイントである。温かく見守ることで、態度や体調の変化の兆候を察することは極めて重要である。また、通勤の安全等の配慮も怠ることなく、積雪時には早めの退社等も心掛けている。なお、上記のⅥにもあるが、誰か特定の者だけを呼んだり、ひいきすることがトラブルの原因となるため、常に公平・公正を意識して接している。
- エピソード
本人並びに直属の上司の方の話を伺うことができたので、一部をエピソードとして紹介する。
本人 「この仕事は野菜の成長が実感できるから楽しい。特に、誘引作業がおもしろい。将来は、働いた給料で、自然環境に優しいハイブリッド車を購入するのが目標。」 上司 「入社時は挨拶もできなかったが、最近では、挨拶もできるようになり、言葉遣いもよくなった。明るくなって、表情もよくなり、おおらかになったと感じている。また、一定の仕事を任せられるようになったことが嬉しい。」
障害者のコメントからは、希望を持って生き生きと楽しく仕事をしている様子がはっきりと伝わってくる。一方、直属の上司のコメントからは、障害者である部下を温かく見守り、その成長を自分の喜びとしている姿が感じられる。したがって、この上司と部下の関係こそが労務管理のノウハウと言っても過言ではないと思われる。

(明野ファーム)
② 仕事の内容
農作業全般であり、主に、次のような作業を担当している。

(※蔓が支柱に上手に巻き付いて伸びるようにする)作業の様子






(※余計な葉を取る)作業の様子
③ 職場適応に係る支援の活用
山梨障害者職業センターよりジョブコーチを派遣してもらい、支援を受けている。
④ 労務管理上の工夫
労務管理の工夫について一言で言うと、障害の有無で特別視しないということになるが、段階に応じて次のようなポイントがあげられる。
3.取り組みの効果、今後の課題と対策・展望
(1)取り組みの効果
仕事のできない人を雇用することはできないので、仕事のできる人を普通に雇用しているだけのことであり、特に障害者雇用だからということで、効果として実感できる点はあまりなく、あくまで自然体と認識している。ただ、強いてあげるとすれば、他人に対する優しさの意識の向上と思われる。結果として、社内いじめもなく、人間関係でもめることは皆無である。
(2)今後の課題と対策・展望
① 課題
農作業ということもあり、自然の厳しさでもある暑さ、寒さや、雨、風等に対して対応できるかが気になる点ではある。今は水耕栽培が主なので、それほど労働環境も厳しくはないが、事業展開に応じて職場を拡大した場合には、厳しい自然環境のなかで仕事をしなければならないケースが出てくることも考えられる。また、畑の増設等により就業場所が分散することで、直接接する機会が減り、ケアーが行き届かないおそれが生じることも予想されるところではある。
② 対策・展望
増員もあり得るが、あくまで適材適所が基本であるため、人材確保の点では、お金のためではなく健康のために働きたいという就農希望の高齢者等と競合関係になりやすい。
しかし、障害者雇用だからということを強調することで、特別扱いになってしまうことは本意ではなく、もどかしさを感じることも事実である。重要なのは今もこれからも本人の意欲であり、意欲があれば障害があることは問題にはならず、適材適所として適切な人がいれば雇用する予定である。
③ 総括
最後に、今後障害者雇用に取り組む企業に対してアドバイスするとすれば、次のとおりである。
- 待っていてはダメ、相手の中に飛び込むこと。(こちらから声をかける。距離を近づけて接する。)
- 雇い入れて終わりではなく、会社全体で対応すること。
- あくまで適材適所であり、特別扱いはしないこと。
以上であるが、障害者雇用の取り組みによって、優しさの醸成による人間関係の円滑化という何にも代え難い成果が得られたことは、特筆すべき点であり、そういう社員の皆さんが心を込めて育てている農産物の価値は、ますます高まることは論を待たないであろう。即ち、障害者雇用と農業のコラボレーションによる素敵な効果を物語っている事例と思われる。
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