ジョブコーチと連係した障害者雇用への取り組み
- 事業所名
- 矢崎部品株式会社 ものづくりセンター
- 所在地
- 静岡県牧之原市
- 事業内容
- 自動車用部品の開発、設計及び製造
- 従業員数
- 2,700名(ものづくりセンター)
- うち障害者数
- 30名(ものづくりセンター)
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 24 事務・開発 内部障害 知的障害 精神障害 6 事務・庶務・清掃 - 目次
1.事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
矢崎グループは、矢崎総業と海外グループ93法人、国内子会社65法人および特定公益法人1法人からなる巨大な事業組織である。
ワイヤーハーネスを中心とした自動車部品のみならず、空調機器、太陽熱利用機器、ガス機器、家庭用電気配線ユニットなど、人々の暮らしに密着した様々な製品を扱っており、1941(昭和16)年の創業以来、「世界とともにある企業」「社会から必要とされる企業」という社是のもと、ものづくりを通じて社会に貢献し続けてきた。
この矢崎グループの金型専門工場として、1965(昭和40)年に島田市にて操業を開始した榛原事業所は、1967(昭和42)年11月に県内有数のお茶の産地である牧之原台地に移転し、緑豊かなこの地で事業活動を行ってきた。その後2012(平成24)年4月、「ものづくり」という原点に立ちかえり、開発、生産、販売を集約し、榛原事業所の名称を「ものづくりセンター」とした。日本のみならず、海外に向けた矢崎グループのハブ事業所として、大きく生まれ変わった。
ここで生産されるワイヤーハーネスは世界の25%強のシェアを誇っている。
121千平米の広大な敷地には何棟もの建屋が立ち、その建屋の間を小型電気自動車が行き来して社内便を運んでいる。この電気自動車を運転し社内便を運ぶのも、障害者の仕事である。
ものづくりセンターでは、地域環境に配慮し従業員が快適に働くことができる職場環境を実現するために、2012(平成24)年4月に新建屋「ものづくりセンター事務棟」を竣工した。この建屋は静岡県建築物環境配慮制度に基づき、その建築物の総合環境性能の評価システム(CASBEE)の最高ランクであるSランクを取得している。
昨年静岡県に申請を出した172棟の建築物のうち、Sランクを取得したのはわずか4棟だという。このことからも、この建屋が、いかに高い評価を受けたかがよくわかる。また、当事業所では環境保全活動にも非常に力を入れており、1998(平成10)年5月にISO14001の外部認証を取得。事業活動に伴う環境負荷低減活動を継続している。
(2)障害者雇用の経緯
矢崎グループは、1970(昭和45)年頃から積極的に障害者への支援活動に取り組んでおり、障害者就労・自立支援施設である「天竜福祉工場」や「あしたか太陽の丘」へ、継続した作業支援を行ってきた。この取り組みは現在も継続している。
障害者雇用においては、行政からの働きかけもあり、CSRの一環として特例子会社の設立に取り組み、2005(平成17)年、関連会社「矢崎ビジネスサポート株式会社」が矢崎総業株式会社の特例子会社に認定された。この特例子会社は裾野市にあり、ここで働く障害者は社宅・寮・ビル等の建築物・工作物の保守、維持管理及び修繕等に従事している。
このように、矢崎グループでは特例子会社での雇用もあるが、全社を挙げて障害者の雇用活動を積極的に推進し、事業所単位で雇用率を達成しようと努力してきた。そんな中、ものづくりセンターにおいては、2010(平成22)年からの事業の統廃合と再編成により業種・職種および人員が大きく変動し、障害者雇用に有効な諸施策が打てずにいた。障害者雇用が進まない中、2011(平成23)年には事業所単独で全国平均雇用率を下回る結果となったため、本社より、早急な対応を取るよう指示があった。そこで、管轄のハローワークや静岡障害者職業センター(以下「職業センター」という。)の全面的協力を得て障害者の募集を行い、2011(平成23)年、2012(平成24)年にそれぞれ5名の障害者を雇用することとなった。
2.取り組みの内容
ものづくりセンターの障害者雇用の取り組みを語る上で重要なことは、職業センターとの関わりである。
当事業所は、2010(平成22)年9月、地域障害者職業センターで実施している精神障害者のリワーク支援事業である職場復帰支援に関わるコーディネートを職業センターに依頼した。これをきっかけに、2011(平成23)年11月から2012(平成24)年2月にわたり2名、2012年3月から7月にわたり2名の、計4名の精神障害者(以下、この節において「障害者」、発達障害者を含む。)の受け入れに対し、職業センターのジョブコーチ支援を受けることとなった。
(1)ジョブコーチ支援による採用前の取り組み
当事業所は障害者雇用の経験がなく、すべては一からのスタートだった。そこでまず、合同面接会で障害者の面接を行うため、ジョブコーチから障害者を面接する際のポイントを聞き、それに基づいて面接シートを作成した。受け入れる部署の担当者も障害者と接するのは初めてだったため、管理部とともに合同面接会に参加し、面接を希望する障害者から直接話を聞いた。面接にはジョブコーチにも同席してもらい、障害特性や対応方法についての説明や支援策の提案を受けた。
採用に関しては、ある程度の社会経験がないと社会のルールも教えなくてはならず、配属部署の負担が大きいと考え、就労経験のある20代後半の人を中心に採用することにした。
(2)ジョブコーチ支援による採用決定後の取り組み
採用が決定すると、ジョブコーチ支援開始前に職業センターが実施した職業評価(職業リハビリテーション計画の策定)により把握された障害特性や職業上の課題を共有するための打ち合わせが行われた。
それとともに障害者本人には、職業センターや支援機関と相談しながら、自分の障害特性や、事業所に配慮してほしいこと、自分自身のセールスポイント等をまとめた「ナビゲーションブック」を作成してもらった。(本人がまとめることが難しい場合は「サポートブック」として、本人の了解を得て職業センターが取りまとめた。)
そして、採用前にこの書面を配属先の現場で実際に障害者と直接係わる担当者に渡し、情報の共有を図った。
障害者が配属される各部署では、リーダーとサブリーダーがペアを組み指導に当たった。これは、精神障害や発達障害のある人にとって、心の悩みを相談できる人が近くにいたほうがより安心して作業に取り組めるという配慮である。
ジョブコーチ支援開始後も、本人や、本人が当事業所に就労する前に在籍していた就労支援施設、ハローワーク、事業所の人事担当、配属先の上司、職業センターのカウンセラーやジョブコーチが一同に会して、支援に係わる打ち合わせである「ケース会議」を行い、その都度理解を深めていった。このような取り組みをすることによって、事業所側の支援ニーズ(障害者本人に対して不安視している点や、本人に求める到達度、ジョブコーチ支援に期待すること等)や、本人のニーズを確認し、より良いジョブコーチ支援が受けられる体制が整った。
このような取り組みのおかげで、事業所と支援機関との綿密な連係のもと、4名の障害者が標準3ヶ月のジョブコーチ支援を受けた。そして、支援終了後も定期的にジョブコーチが事業所を訪問してフォローアップを行うことによって、定着をより確実なものにしている。
採用した障害者に対しては、必要に応じて勤務時間を徐々に延ばしたり、始業時間を遅らせたりする等の配慮もしている。時間はかかっても、確実に定着するような工夫がされている。
障害者が従事している仕事は事務や庶務業務、清掃などである。取材当日、勤続1年になったばかりのYさんの作業の様子を見せていただいた。彼の業務内容はパソコンの入力業務。「忙しいが、やりがいがある。」と話す彼の顔はやる気に満ち溢れ、生き生きとしていた。
このように、自分の仕事に前向きに取り組めることの背景には、障害特性に合った適材適所の配属が大きく関係している。当事業所では、障害者の配属に関しても、職業センターやハローワークの全面的なバックアップを得ることができた。ものづくりセンター管理部労務チームの人に、障害者を雇用するなかで困ったことはあるか質問してみたが、特に困ったことはなかったとの答えであった。
発達障害者の中には、今与えられている業務以上の、かなり高い水準を目指そうとしてしまう人もいるそうだが、まずは今の仕事が確実にできるようにとアドバイスしたことにより、目の前の作業に集中するようになったという。このように、ジョブコーチから助言を受けながら事業所も対処法を学び、問題が小さいうちに適切な対応で改善を図ってきた結果、大きな問題に発展するのを防ぐことができたのだと考える。
また、定期的にケース会議をもつことも、雇用の安定に重要な役割を果たしているといえる。
3.取り組みの効果、今後の展望と課題
(1)取り組みの効果
ものづくりセンターには、2011(平成23)年に5名、2012(平成24)年に5名の計10名の障害者が入社し、その中で1名が体調の悪化で退職したものの、それ以外の人達は当事業所の戦力として、現在もやりがいをもって働いている。
職業センターのジョブコーチが障害特性に合わせた業務計画・教育の進め方の助言を行ったこと、および、当該者の障害特性や性格等をわかりやすくまとめたサポートブックを作成し、事前に職場の仲間が障害者を理解することによって、障害のある人が働きやすい環境が整ったことなどが、定着に繋がった大きな要因であると考えられる。
現在は、障害者を採用する前に、先に述べた「サポートブック」や「ナビゲーションブック」を作成し、採用日には配属先の人に渡せるような体制ができ上がっている。
発達障害や精神障害等の場合は、障害特性が一見してわかりにくく、職場で起こる課題や対応方法について、現場の不安や戸惑いが大きかったが、事前に受け入れる障害者に関する資料があるおかげで、周囲が理解を得やすくなると同時に、障害者本人も安心して働けるようになった。
また、障害者を受け入れて3ヶ月の間は月1回のペースでケース会議を設けたことにより、障害者と係わるすべての人の間で共通理解ができ、現状の確認や、問題点とその改善策を話し合うことができた。この取り組みは本人のフォローはもとより、受け入れ部署のフォローにも繋がっている。
このような、理想的な環境で安定した就業生活を送ることができる障害者の中には、仕事だけでなく、趣味にも生きがいを見い出し、結果、生活全体の質が向上するケースも見られた。これは、障害者雇用の理想的な形といえる。
(2)今後の展望と課題
当事業所は、社是である「社会から必要とされる企業」の一員として、まずは法定雇用率を達成できるよう、引き続き積極的に障害者雇用に取り組むことを目標としている。
今後は、今まで採用実績のない知的障害者の採用も視野に入れ、障害者雇用の拡大に向けての新たな仕事の創出を模索している。具体的には、当事業所の敷地内にある海外から来ている研修生等が宿泊する寄宿舎の清掃やベッドメイキングの仕事や、1日2,000食以上の食事を提供する食堂での下準備の作業、また、製品を製造する際に出た不良品を解体、分別し、それを再利用するシステムを構築し、その解体や分別を障害者の仕事として創出しようとの考えがある。
多様な職場の集合体である当事業所に、多くの雇用の可能性を感じている。
サブコーディネータ 保坂 真理
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