自立を目指した障害者雇用事例
- 事業所名
- 鳳来精密工業株式会社
- 所在地
- 愛知県新城市
- 事業内容
- 自動車部品製造
- 従業員数
- 69名
- うち障害者数
- 17名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 17 機械加工製品製造、組立部品製造 精神障害 - 目次

1.事業所の概要、初めての障害者雇用
(1)事業所の概要
弊社は、昭和54(1979)年9月に創業した輸送用機械器具(自動車部品)を製造する会社である。自動車部品(等速ジョイント、ニードルベアリング)、産業用機械部品(テーパーベアリング、カムフロアー)などの製造を、NC旋盤、マシニングセンター等および自社製の専用機を使用して精密加工部品の製造を行なっている。製造した製品は、発注元の親会社を通じて、全世界の自動車メーカーに納入されており、約85%が、海外向けとなっている。
また、弊社は平均年齢が約34歳と若い社員が頑張っている(写真1)。
平成24(2012)年1月には、健康診断の事後指導をしている方を講師に招き、工場内各部署の班長を対象として「職場におけるメンタルヘルス活動について」と題した講習会を社内で開催した。社員のメンタルヘルスの基本は、健康診断結果を基にした事後指導が大切であることを学び、実践に活用している。
(2)初めての障害者雇用
平成17(2005)年度に、新城公共職業安定所の指導官からの依頼により、1名雇用したのが障害者雇用の始まりである。
弊社は、地元の柔道場が閉鎖された際、社屋にある社内柔道場(写真2)を地域の子供たちの練習場に開放するなど、企業として地域貢献をする地域密着型の方針で営んでいる。初めての障害者雇用もこの一環として取組んだ。このときに雇用した社員には、簡単な機械加工に従事してもらった。このときは弊社の自助努力で職域を確保することができ、障害者の雇用管理もさほど問題となるようなことは起きなかった。
その後も障害者雇用の依頼があった。さらなる障害者雇用となると、弊社の業務が機械部品の精密加工という性格上、障害者が担当する仕事量を確保することに困難が生じた。地域の要望に応え、継続的に障害従業員を増員していくには、機械加工製品製造以外の簡単な手作業で行える製品(たとえば組立製品)製造が必要と考えた。
このため、取引先に障害者雇用を通じ企業として地域へ社会貢献をしたいと粘り強くお願いした。その結果、組立部品製造を発注していただくことになった。これにより職域の確保は進んだが、雇用が進むに従って、多様な障害特性を有した障害者への対応が、職域の確保と同様に必要となった。


地域の子供に開放している柔道
2.障害者雇用の基本姿勢
障害者雇用についての弊社の基本姿勢は、「親が健在のうちに子供を自立させ、せめて生活費だけでも稼ぐようにさせる」である。また、障害者、保護者、会社が一丸となって問題解決に当たり、厳しく接する反面、親身になって相談に乗ることである。
ところが、障害者雇用に当たって感じることは、保護者及び介助者が、少し過保護に見受けられる。このことから、弊社では保護者と同伴で面接に来社された時、保護者には必ず先に述べた基本姿勢をお伝えする。入社後も言い続けており、私(筆者)自身、このことを肝に銘じて障害者雇用に取組んでいる。
雇用する障害者が少ないうちは、勤務における問題に対しても何とか手探りで対応してきた。その後、障害者の雇用が進む中で障害者の就労支援(ジョブコーチ)を経験した社員を採用した。このことがきっかけとなり、障害者雇用納付金制度の「業務遂行援助者の配置助成金」を活用し、障害者職業生活相談員の資格取得も進め、障害者の就労支援の社内体制が徐々にではあるが整ってきた。
社会保険の加入、社内研修・旅行等は、障害者を特別視することなく全従業員が同じ基準で実施し、明るい職場の形成に役立っている。
3.取組みの内容、効果
(1)取組みの内容
障害者が働きやすい職場の整備は、新しい職域の開発につながる。組立製品の製造は、機械加工とは違った作業であった。当初は、試行錯誤の連続であったが、機械加工及び機械設計の経験を活かし、組立製品の製造に活用できる会社独自の専用機を開発、運用し、予想を越える作業量をこなすことができたときは、基本姿勢が認知され「障害者でもやればできるのだ」と就労意欲が高まった。障害者の自信と障害者雇用に対する社内のわだかまりの解消にも有効であった。
業務遂行援助者を兼任させた障害者職業生活相談員(生活相談員)4名、ジョブコーチ経験者1名を作業現場に配置(写真3)し、障害者を孤立させないよう「声かけ」により事前に悩み、問題点を引き出し、きめ細かな作業指示がいつでも行えるようにしている。
また、ジョブコーチ、生活相談員と気軽に相談できる専用の相談室(写真4)を設け、風通しのよい職場環境整備に努めている。相談対応に当たっては、例えば自分の思いどおりにならないことの相談には、相手もそう思っていることを伝え、同僚に言われないように仕事をすることが大切だと親身に対応している。甘やかさず、厳しく接する反面、親身になって接することが基本で、相談後には、前向きな気持ちで相談室から退出できるような回答を心がけている。こうした対応が、コミュニケーションのよい職場を作り出していると思っている。
問題が生じた場合には、必ず両親と障害者本人、ジョブコーチ、生活相談員等の関係者が参加し、家庭と会社の両面から、問題点の洗い出しを行い、問題点について話し合い、教育につなげている。こうした場で解決できない事案については、障害者の出身施設等に職員の派遣を求め、解決の糸口を見つけている。基本は、「自立できる社員に育てる」ことであり、希望を持たせるように指導している。


(2)取組みの効果
重度障害者のA君とは、5年前(平成20(2008)年)に、関係機関の方と一緒に面接した。その時、支援者の「この子は初めて仕事に就くので1日1〜2時間にしてほしい」という言葉に、私は「製造業はあくまで、8時間勤務が原則であり時間をかけてでも8時間を目標にして欲しい」と話した。それを横で聞いていたA君は翌朝7時前に出勤してきた。聞いてみると5時40分にグループホームを出て、JR飯田線の豊川駅6時15分の始発列車に乗り出勤してきたとのことであった。現在も元気に勤務している。
ニューヨークヤンキースの野球を本場のアメリカで観戦することを夢としてきたB君は、平成24(2012)年の夏に、夢を実現し、頑張ればやれることを、皆に証明した。本人の自信にも繋がったことと思っている。
前に勤めていた会社で、いじめにあい心を閉ざして入社したC君は、当初は挨拶ができなかった。しかし、弊社の厳しさの中にも温か味がある職場環境の中で就労し、会社と家庭で大きな声で挨拶ができるまでになった。この変化を親はたいそう喜んだ。不幸にも、突然死したC君の葬儀では、会社の作業服を着せておくり出したとのことであった。
こうした取組みが、関係者に知れ渡り、毎年就労体験の申し込みがあり受け入れている。就労体験では、就労した際の心構え、社会の仕組みなどを体得してもらい、この面からも社会貢献させていただいている。
4. 今後の展望と課題
地域社会の要請と会社の経営方針、地域に根ざした会社運営が合致して、これまでやってこられた。障害者雇用は、指導の仕方次第でやればできるのだと実感している。
現在(平成25(2013)年1月)、徐々にではあるが会社規模が拡大し、手狭になったため工場を拡張している。弊社は、若手社員が多く在籍し、こうした社員が活躍できる会社を目指してきた一方で、障害者雇用にも力を注いできた。
障害者雇用を無制限に拡大することが不可能であることは、自明の理である。障害者の雇用という地域社会の要請に応えるためには、会社全体が取り扱う事業量を確保すること、障害者が従事できる作業の範囲を広げることの二つの方法があると思う。製造業分野の事業量は世界情勢から鑑みると、大幅に拡大することは難しいと考えている。こうしたことから、新たな作業を受注した場合は、作業内容によっては、障害者が担当できるように、特別な専用機械を設計・製作して作業内容を簡素化する、受注した作業の手順、工程の見直しにより作業内容を簡素化することに絶えず取り組むこと及び障害者が従事できる作業の範囲を広げること、すなわち、担当する障害者の能力(新しい作業に従事できる能力)の向上のための教育を推進していくことが、今後の課題と考えている。関係機関のご支援を頂きながら、引続き障害者雇用に前向きに取組んでいきたい。
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