標準化(ISO)をめざし、社会貢献としての高齢障害者の雇用
- 事業所名
- 北勢運送株式会社
- 所在地
- 三重県桑名市
- 事業内容
- 道路貨物運送・倉庫入出庫管理業
- 従業員数
- 591名(うち本社 174名)
- うち障害者数
- 10名(うち重度身体障害者 2名)
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 1名 ポリ洗浄 肢体不自由 9名(うち重度2名) ポリ洗浄、ポリ矯正、空容器洗浄、商品詰め替え、運転手、事務 内部障害 知的障害 精神障害 - 目次


1.事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
1954(昭和29)年7月23日に設立、三重県桑名市に本社、静岡県磐田市に磐田支店、さらに7営業所(岡山県瀬戸内市、兵庫県宝塚市、長野県上伊那郡、群馬県太田市、神奈川県南足柄市、岐阜県美濃市、静岡県富士市)を有している。
事業内容は、貨物自動車運送事業、貨物運送取扱事業のほか、引越し業務、重量物運搬、据付業務、機械部品用ポリ洗浄業務、倉庫保管管理業務、輸出梱包作業、各種梱包作業、トランクルームなどで、国産軸受(ベアリング)などを製造販売をするNTN株式会社の製品輸送を主とし、そのほか27社との取り引きにより、三重県・静岡県を中心に自動車部品輸送を手がけているプロドライバーの集団である。
事業所の性格上、当社の基本理念の一つには、「安全な交通環境を創造し、交通事故の無い明るい社会をめざす」ことが挙げられている。なかでもプロドライバー集団という自覚の下、1997(平成9)年4月から「省エネ運転=安全運転」を合言葉として、省エネ運転実技講習を全ドライバーが繰り返し受講し、エコドライブを推進するとともに、社内でも省エネコンテストを実施し燃費向上に努めてきた。さらに、新人ドライバーの研修を強化し、省エネ運転・法規履行運転を最低限の条件としたプロドライバーを養成してきた。また、2006(平成18)年度から社内エコドライバー認定制度を創設し、優秀なドライバーを『エコドライバー』として認定し表彰することにした。こうしたことから、地球環境の負荷低減に努める事業所の積極的な姿勢がうかがわれる。
行動指針としては、社会への貢献として「良き企業市民として、地域社会との融和を図り、文化の発展に寄与する」ことが挙げられ、地球環境の保全として「企業活動において常に省エネルギー、省資源、環境保全に配慮する」ことが挙げられている。
こうした中で、障害者雇用が進められるとともに、地域社会での交通安全教室に自社の大型車両を提供するなどして積極的に参加し、さらにISO9001(品質マネジメントシステム)、ISO14001(環境マネジメントシステム)を取得して、標準化が進められている。
(2)障害者雇用の経緯
障害者雇用については、当初は、1988(昭和63)年に1名、障害者であることが分からずに採用していた。1997(平成9)年にも障害者1名の採用があった。本人が応募してきて、障害があったが仕事ができるので、採用することになった。両名とも障害の程度と仕事の内容がマッチするように配慮している。
そのような雇用状況の中で障害者雇用率は、会社全体で考えなければならないということが判明した。当初は障害者雇用を本社事業所で対応していたことと、本社事業所は従業員150名ほどで300名を超えていなかったことで、あまり気にしていなかった。しかし、会社全体で雇用率を考えると法定雇用率を下回ってしまうことになるため、障害者雇用を進めるようハローワークに相談に行くことになった。
ハローワークの障害者担当官に相談し、事業所には障害者もいくつかできる仕事があること、またハローワーク担当官からこういう人がいるとの推薦もあって雇用率を上げるための対応に取り組んだ。
事業所の対応は、障害のある人の障害の内容や程度によって、この人はこうした仕事ならばできると判断することができ、また以前から働いている障害者もいるので、その障害者が就いている仕事ができるのであれば採用ということになった。身体障害者は、仕事がゆっくりで時間がかかるということはあるが、フォークリフトが動いたり機械が動いたりしている職場でも、安全の確保の点で危険は少なかった。ハローワークからの薦めにより一度やってみようということで知的障害者の雇用を実施したが、長続きせずに退社してしまった経験もあった。このときは、安全の確保に関しては危険であり、安全の面から難しいという印象を受けた。また、知的障害者に関して専門的に対応することのできる人がいるわけではないため、気の合う従業員が話をする程度の対応だけであった。
現在(2012(平成24)12月)、本社6名、磐田支店4名の障害者が勤務している。全員が身体障害者で、女性は1名、男性9名である。年齢構成は、20代1名、40代1名、50代3名、60代5名であり、勤続年数では、2年2名、5年2名、6年1名、8年1名、12年1名、13年1名、15年1名、最長の24年1名という構成になっている。年齢からみると、比較的高齢の方が多く、若い人は少ないといえる。
また2012(平成24)年度には、高齢者のうち70歳になった人が2名退社し、昨年度は65歳で1名が退社した。重度の身体障害者2名がその中に含まれている。
本社勤務者は桑名市近郊に住んでいて、自動車通勤と自転車通勤である。磐田支店では磐田市内に住み、自動車通勤である。車での通勤者の中には、手だけで運転操縦のできる特別仕様車に乗っている人もいるとのことである。
フルタイムで勤務する正社員5名のほか、パート3名、60歳以上の嘱託2名(ポリ洗浄、商品詰め替え)がいる。従事している職場の担当は、事務1名、運転手1名、ポリ洗浄4名、空容器(クラフト箱)洗浄2名、ポリ矯正1名、商品の詰め替え1名である。
事務担当者は、比較的軽度の障害者で、コンピューターによる伝票の整理、配車の段取り等を担当している。
ポリ洗浄は、NTNの製品を入れるポリ容器が搬入され、容器内のゴミをとったあと洗浄機に投入する作業である。
また、クラフト箱が返却されて、ビニールやラベル等をはがして、再利用できるものを整理し直す作業もある。
ポリ矯正は、NTNの製品を入れるポリ容器の底の部分が何度か使用するうちに変形してくるため、それを120℃の高温で暖め、それをもう一つの台で固定し、冷まして矯正する作業である。
2.取り組みの内容
障害者の職務の選定は、障害者の能力や障害程度と職務内容とのマッチングにより決めることにしているが、実際の流れとしては仕事内容を見て自ら仕事を覚えてもらい、自立してできる仕事に就いてもらうようにしている。
障害者の仕事の内容は、事務、運転手や商品の詰め替えの仕事についている人もいるが、ポリ洗浄が大部分である。ポリ容器はいくつかの大きさがあり、製品であるベアリング等を入れて各工場に配送するためのものである。その容器は使用後に当社に戻ってくる仕組みとなっている。戻ってきた容器には油が付着していたり、ビニール袋などのゴミも入っているため、ゴミなどを取り出して洗浄機で洗浄できるようにする作業に続いて、洗浄機に投入する段取りになる。洗浄されたポリ容器は濡れたまままとめられてパレットの上に乗せられ、洗浄した日にちを前面に表示してフォークリフトで積み上げられ、乾燥するのを待ってからNTNに再び出荷されることになる。
クラフト箱の整理では、段ボールより堅い紙箱で、使用後に再利用するため、ビニールなどのゴミを取り除いて整理し、それらをまとめて使えるようにすることにしている。ここでは、障害者は高齢者と一緒に作業をしている。
ポリ容器の矯正は、高温で柔らかくした容器を型に乗せ圧縮して成形し、底の部分の膨らみを元の形に戻す作業である。これは1人の人が担当し、膨らんでいるものを120度で暖め、もう一方で冷やしてまっすぐにする。この工程が2分半かかるため、ポリ容器をセッティングした後の空き時間には、並べたものをバンドで縛る作業にも取り組んでいる。
勤務時間は、午前8時から午後5時までの8時間勤務である。
休日は年間105日となっている。休日は、原則として土日であるが、第3土曜日は出勤日となっている。正月、ゴールデンウィーク、お盆の休暇も取れるようになっている。
障害者の雇用に関しては、配属先の現場の人にお願いすることになり、現場の負担が増えることになるが、採用が決まると配属現場の周りの人に受け入れを頼む形で進めている。始めの取っ掛かりの部分で問題がある場合もあるが、しばらくして仕事ができるようになると問題はなくなるなど、現場の周りの人の対応でこれまでうまく進んできた。



3.取り組みの効果、今後の展望と課題
本事業所での障害者雇用の取り組みは、三重県内の事業所では、2001(平成13)年に2名の障害者を雇用していたが、順次増員し、2011(平成23)年度には4倍の8名を雇用していること、またこのうち、重度障害者が4名という実績を評価され、平成23(2011)年度の障害者雇用優良事業所として三重県知事表彰を受賞したことにもうかがえるように、運送業という業種における障害者雇用の実績が高く評価されたものといえよう。取り扱っている事業内容の関係で、障害者もできる職域があることが大きな意味をもっていると考えられる。
また、2008(平成20)年2月には、障害者作業施設設置等助成金の受給により、倉庫内のトイレの改築工事も行われ、身体障害者の職場環境の整備に役立てることができた。
また、2012(平成24)年4月に桑名市に新設された「知的障がい児童生徒のため」の県立くわな特別支援学校からも生徒の職場実習の受入れについてアプローチがあった。高等部1年生からの職場実習に取り組む方向で進めている。この取り組みは1年生から毎年実習を行い、「3年間で仕事内容や職場環境に慣れ就労できるようにする」というプランであり、今後の障害者雇用に関しての新しい方針にするとのことである。
障害者が働く職場を訪ねた。障害のない人に比べると、スピードが速いとは言えないが、真剣に、遅いなりに気を遣って一生懸命にやっている姿が見られる。「採用してもらって有り難う」、「長いこと勤めさせていただいて有り難う」という感謝の気持ちが伝わってくるようである。
働ける、自分で給料をもらえるということが一番大きな意味をもち、自立のために必要である。奥さん、子どもと家族のある人も働いており、特に障害のない人と分け隔てはしていない。ほとんど一緒に、同じ職場で仕事をしているので、どの人が障害者だという意識を持っていない。ただスピードが遅いというのは否めないが、遅いからどうとかいう考え方では接してはいないということである。
Aさんの場合は、脳出血のため左半身が麻痺し、車いす生活から杖をついて歩けるようになって、今の仕事を右手だけでしている。当初はパソコンを使った事務の仕事であったが、片手のため伝票をめくることができず、ミスが出たりして悩んでいた。その時、会社側で自分ができる仕事を見つけてくれ、現在の片手でもできるポリ容器の矯正成型の仕事に就くことができた。「仕事は楽しくやらせてもらっています。5年働いていますが、このように優しい会社であり、朝8時から夕方5時まで、昼休み1時間で8時間みっちりと働かせてもらっています。」と話してくれた。
69歳になったBさんは9年目で、四日市の外れから通っており、お孫さんに何かしてやりたいと元気に働き続けているとのことである。
また、4年目を迎えたCさんは、夏は暑いし冬は寒く、大変な仕事で、ちょっとえらくて(大変で)、特に夏の暑さには困っているが、家庭、お孫さんなど周りの状況を考えながら、仕事を続けているとのことであった。
今後の展望と課題に関しては、高齢者の雇用が多いこともあって、70歳を迎える頃になると退職される人が出てきている。これからの採用にも力を入れていかなければならない。2013(平成25)年度からの雇用率のアップにともない、事業所としては、「今後も職務の創出や標準化を進め、1名でも多くの障害者を雇用します」との決意表明がなされている。
雇用率を充足することと社会貢献という意味も含めて、両方から障害者雇用と高齢者雇用を進めていくことが課題である。
今回の取材にあたっては、加藤常務取締役と黒澤総務部長さんに資料等も含めてお話を伺い、作業現場の案内・説明もして頂いた。
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