違いが社内分業体制を築いていく
- 事業所名
- 前出産業株式会社
- 所在地
- 本社:上田事業所 滋賀県近江八幡市
工場:竜王事業所 滋賀県蒲生郡 - 事業内容
- 電子部品受託製造事業、金属加工事業、業務請負・派遣事業、環境事業
- 従業員数
- 89名
- うち障害者数
- 2名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 1 機械オペレ—ター業務 内部障害 知的障害 1 部品取り付け業務 精神障害 - 目次

1.事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
1973(昭和48)年に創業。法人化までは畳床の製造・販売を行う。時代の変化と共に京セラ株式会社・立川ブラインド工業株式会社の下請会社として組立・加工の事業へ転身した。
現在は、電子部品受託製造事業、金属加工事業、業務請負・派遣事業、環境事業の4つの事業を3事業所で行っている。
電子部品は現在半導体部品、特に精密部品の組立・加工を行っている。半導体部品組立は、ミリ単位の大きさのものをミクロン単位で加工・組立を行い、約180万個/月の半導体精密部品の加工処理能力を維持している。
2002(平成14)年のITバブルなどを経て業務内容は大きく変化すると同時に、多品種小ロットの生産が増えてきている。
また、最先端の半導体加工技術(MEMS)を利用し微小機械を製造する技術で、通信用(RFスイッチ)・センサー(加速度センサー)・計測圧力センサー・バイオテクノロジー(診療・医療)関連の請負を行っている。
一方、地域の中小企業や大学と連携し、薪ストーブの開発・商品化を行っており、単に製造販売だけでなく、「薪のある暮らし」を地域やお客様に提案し、再生エネルギーとしての森林資源の有効性を見直して欲しいと新しい事業や環境事業も展開している。
(2)障害者雇用の経緯
当社では、2名の障害者を雇用している。身体障害者のAさん(男性)、知的障害者のBさん(女性)である。
① | Aさんの雇用のきっかけは、10年前(2002(平成14)年)から従業員の高齢化とそれに伴う退職によって人手不足が顕在化したことによる。Aさんはハローワークの求人票を見て応募してきた人である。面接で過去の経歴を見ても、股関節の病気により歩行が不自由であることだけあり、前職でも精密部品の検査などを経験していることもあって採用となった。 障害者であるという意識よりも、わが社のこの仕事ならできると、人に仕事を合わせることで採用を決めた。これまでも社員やパートさんは会社近隣の人を雇用してきたことから、「障害が有る無しよりも地域から雇用すべし」という社長の決断であった。 |
② | Bさんは、知り合いである社会保険労務士の紹介で、「高校を卒業するが働く場がない、なんとかならないか」と相談を受け、地域のためならばと雇用することになった。 |
2.業務内容、雇用後の社内の変化、経営者・社員の声
(1)業務内容
Aさんは下肢障害があることから、まず通勤に配慮した。通勤は自家用車を利用しているが、歩行は杖を使えば時間はかかるが移動は可能なので、社員駐車場はあるものの本人用として社屋前に駐車スペースを確保した。社内ではエレベータを本来は社員の利用はできない決まりにしているが、本人のみ利用可能にした。
Aさんの業務内容は、入社当初はモニターを見ながらの精密部品切断作業で、座りながらの作業のため特に支障はなく、過去の職歴をみても十分可能な仕事であった。
しかし、Aさんの股関節の病気が再発したため長期入院となり、復職したのは1年を過ぎてからであった。しかしその時には、ITバブル崩壊により精密切断の仕事はなくなっており、精密部品のメッキの前工程作業に配置転換となった。多品種小ロットの部品をメッキ処理するための前工程として、部品を円形のラックに一つひとつ取り付ける作業となった。
その後、熟練の機械オペレーターの退職で通信機器部品の組み立て機械のオペレーターに転換した。熟練者が一人で何とかこなせる仕事であったが、Aさんと別の社員の2名体制で、オペレーションと手作業の組み立て部分をセットにし、今までよりも生産性を上げることができた。
Bさんは、入社当時から前記のメッキの前工程作業に従事している。多くの業務を遂行することや作業スピードのアップはなかなか難しいが、とにかく根気よく正確に作業を行ってくれるため、適職であった。作業グループ内でもスピードよりもその正確さは品質管理の観点からも他の社員が学ぶことが相当に大きかった。
グループは女性が大半で、年齢も30代から50代で後輩社員というよりも娘という感覚でBさんの作業を見守り励ましている。



(2)雇用後の社内の変化
① 戸惑う対応
入社時は障害に対する社内の見解がまとまらず、現場ではどう接していいか戸惑いがあり、障害があることで最小限の特例措置や生産性の問題などで意見が様々あった。
入社初期の段階では色々とあったが、経営者は「スタート時には能力の違いはあっても経験数と時間が解決してくれる。障害のある人もない人もスピードの差はあっても必ず成長する。特段の気遣いや配慮はしないほうがよい」と社内で語ってきた。気を使うあまり、本人の成長意欲やその機会を失ってしまうことを危惧したのである。
実際にAさんやBさんも、周りに支えられて仕事をしていること、仲間と仕事をしていることという意識が芽生えたと言う。現在では、当初は参加していなかった新年会や社内行事にも参加している。一方で、社内では「障害ではなく個性の違いである」という認識となっている。
② 企業の役割
当社の障害者雇用の背景は、経営者が大切にしている「"会社はだれもが働ける場"であること、働きやすい空間づくり、環境整備を行うこと、"だれもが"は、障害者であろうと障害がない人であろうと、能力や個性の違いはあり、互いにその違いを認め補うことで会社も社会も成り立っているということ」にある。
そのことを社内で理解したうえで環境を整備し、方法を改善することによって誰もが能力を発揮できるようになる。つまり、当社では、その人の身体的、能力的にあった仕事や工程があるので、その面をよく考えた上で職場配置を行っている。結果として、社員の労働条件や環境面でも働きやすい職場につながってきている。
③ 短期企業実習の受け入れへ
Aさん、Bさんの雇用をきっかけにはじまった、地域の障害者就労支援施設からの短期の企業実習の受入れも継続して行っている。
実習から雇用へは現在の仕事量との関係から至っていないものの、実習の依頼があれば基本的に受け入れている。その要因となっているのは、社長以下従業員の中でも理解がある方がおられ、積極的に受け入れることが可能であるとのこと。しかしながら、経済的・指導力不足の面から雇用にまでは踏み込めていないのが現状でもあるという。
(3)経営者・社員の声
① 経営者の声
「障害者を含めたすべての従業員の雇用を守るのが私の仕事だと思っています。企業の収益はリーマンショック以降厳しい状態が続いています。人員削減で乗り越えるのは簡単です。しかし、社員には家族もそれぞれの暮らしがあります。この厳しい状況をいかに乗り切るのか、ここが経営者の力量が問われるところですし、この姿勢が経営者にとって大切だと思います。」
② 一緒に仕事をしての感想(従業員)
「前出産業は、先代社長が地域で起業した会社です。地域と共に成長し、地域で仕事をさせていただいています。障害者雇用についても、地域の企業で支えていく必要があると思います。従って、現在は特に障害者だからという意識はほとんどないです。違いが分かれば後はやり方を工夫するだけです。」
3.今後の課題と展望
(1)厳しい経済情勢
企業の収益状況は依然厳しい状況が続いているが、企業に課せられている使命は、障害者も含めて誰もが働き続けられるよう企業を維持することである。ただ、世界や業界の動向から、社内に今ある業務を別の業務に変更したりして、設備が遊休状態になってしまっている場合、どのように対応するかが課題であり、会社にとっても雇用を守る上でも新しい仕事づくりは必須である。
会社という器を守るだけなら社員(障害者を含む)の人員削減で可能である。しかしそれは経営とは言えない。その困った状況を乗り越えることこそが、本当の強さ、企業組織としての力量である。
会社をつぶしてしまったら何もならない。だからこそ、危機に面した際には一体となって乗り越える姿勢、統一感などが大切で、社員にも理解される体制を作ることが重要である。
(2)地域で暮らす、地域の雇用を守ること
一方、世間には多くの障害者がおられるが、おそらく障害のない人達は、日常生活で障害者と接することはほとんどないかも知れない。当社社内で聞いてみたが、「小中学校にはクラスにいた」ということぐらいである。そのような中では、どう接するか、どう対処していいのかわからないのが現実である。
会社では働きやすくとも、地域社会で"どうすれば障害者や障害のない人が安心して暮らせるか"を学校現場やその他地域社会で考え取り組むことが大切である。
障害のある人もない人も能力の差はある。地域の雇用を守り、地域経済や暮らしを考えて、一企業でなく、地域単位、業界単位での雇用問題を考える場も必要である。
もちろん企業努力は引き続き行い、障害者だけでなく、誰もが安心して働ける企業を、地域で支え増やしていくことが本来あるべき姿であるはずである。
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