人を大切にする社風、専門的技術をもつ社員が集い、活躍
- 事業所名
- 株式会社アワハウス
- 所在地
- 大阪府大阪市
- 事業内容
- 大阪・堺・神戸を中心に外出介助・身体介護等の介護サービス事業を主体とし、その他多岐にわたる事業を展開
- 従業員数
- 50名
- うち障害者数
- 5名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 4 システム開発、事務 内部障害 知的障害 精神障害 1 システム開発 - 目次

1.事業所の概要及びポリシー、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要及びポリシー
株式会社アワハウスは、1992(平成4)年、高齢者、知的及び身体障害のある人々にホームヘルパーの派遣を行う有限会社としてスタートし、現在では居宅介護支援事業、講師受託事業、システム開発事業、マッサージ事業、通所介護事業と多岐にわたる事業展開を行っている。
社名には、『社会全体を同じ家に集う仲間であると考え、仲間全員が誰も欠ける事なく、豊かな人生を送りたい。「楽しさ」も「悲しみ」も感じながら共に生きたい。それが"私たちの家"アワハウス(英語名 OUR HOUSE inc.@)なのです。』という想いが込められている。
また、お客様に最進(最も進んだ)、最幸(最高の幸せ)のサービスを提供するための企業憲章を定め、「心の通ったサービスの提供」に日々努めている。
(2)障害者雇用の経緯
Aさん(肢体不自由)の雇用(2005(平成17年)が、障害のある人の採用を拡大していく契機であった。Aさんは、この会社の訪問介護サービスの利用者であり、ここに就職する前は身体障害者が「情報処理業務」をとおして「就労に向けた実地訓練」等を行うと共に「就労の場」を提供して職業自立に寄与することを目的にしている身体障害者通所授産施設でシステム開発を担当していた。社内の業務用のシステムは汎用性がないシステムで、ちょうどこれを改善しなければならない状況にあり、社長自らがAさんの技術力を見込んで雇用することとなった。
Aさんの雇用で障害のある人が戦力として認められ、続いて同じ授産施設で就労していたBさん(肢体不自由)が雇用された。
次第にシステムの自社開発が進み、パソコンでExcelを使ったシステムからWeb系での開発を検討するようになり、人員不足を解消するため、ハローワークに求人を出すこととなった。ここでも社長がAさん経由で、同じ授産施設を利用しているCさん(肢体不自由)に声を掛けた。
また、同時期に、求人票をみて精神障害をもつDさんが応募してきた。Dさんは、発症前はシステムエンジニアであり、システム開発の能力を持ちながらも就職がうまくいかず、約1年間求職中であった。選考の結果、Cさん、Dさんも雇用され、当初外注で考えていたシステムは、技術力のある人員が集まったことで、自社開発で取り組むこととなった。
このように、訪問介護サービスの利用者やその知人、ハローワーク等を通じて専門的技能を持った人と出会い、雇用につながった。Aさん、Bさん、Cさんともに重度の脳性まひ(乳幼児期以前の非進行性の脳病変による運動機能障害)がある。社会情勢としても、その頃までは、重度の障害のある人は外出の機会が制限されたり、能力があっても社会に出て力を発揮する機会に結びつくのが難しかった時代であったと考えるが、障害者自立支援法が制定されたころから、障害のある人がヘルパーの力を利用して外出したり、一人暮らしが進むようになった。
Aさんは採用3年目(2007(平成19年))から一人暮らしをスタートさせた。その支援も会社が行っており、今年で一人暮らしも6年目となっている。これも社長からの声掛けで実現した。Aさんは「いろんなことが楽しみ。会社の雰囲気が働きやすい」と語ってくれた。
2.継続就業にあたっての配慮事項
(1)肢体不自由のある人への配慮
Aさんの受け入れに際しては、特に事前準備はなく、設備の物理的障壁もなかった。車いすを利用しているが、採用当初はビルのワンフロアーを借りていたので、他企業との兼ね合い等を懸念することもなかった。また、同じフロアで働く社員は、ほとんどが訪問介護経験者であり、Aさんの食事やトイレ介助を行っている。本人は、フルタイム勤務で非常に体調が安定しており、風邪などをひくこともなく、休みをとるのは、通院や自己都合(旅行等)ぐらいである。
Cさんは2010(平成22)年に入社して2年になる。週に1度の出勤、週4日在宅勤務を行っている。以前、大手のシステム開発会社に職場実習に行ったが、通勤が大変で体が持たなかった。「職場実習では、顧客へ直接訪問して業務をこなすこともあり、たいへんだった。ここでは体力的にも、雰囲気も良い」とのこと。
在宅での就業管理は、グループウェアのタイムカードシステムを利用している。しかしながら、基本は自己管理に任せている。本人には、システムをつくれるという技術力があり、安心感があるという。
業務で利用するコミュニケーションツールは、「Windowsメッセンジャー」、「スカイプ」である。スカイプは、テレビ電話として顔をみながらコミュニケーションができるので、たいへん有効なツールである。相手の顔色や態度をみることで、体調などの把握も行いやすい。また、パソコンの画面共有ができ、システムを協働開発する際にも便利である。
Cさんは言語障害があるため、電話だけのコミュニケーションは難しく、顔をみた方がコミュニケーションも豊かになる。Cさんは、「スカイプは確かに利便性が高いが、実際に週1日通勤し、コミュニケーションをとることが必要。完全在宅だと思い込みなども起きる」と話してくれた。また、「社内システムを完成させることが当面の目標。これから、クラウド(インターネット上のサーバーを介して、様々なデータを保存したり活用したりするサービス)系の開発に興味があり、勉強していきたい」と今後の抱負を語ってくれた。
当社では、体調が優れない場合や毎日の通勤が大変な社員に限って在宅勤務を実施している。会社として、業務を実施するために、便利なものは積極的に組み入れ、環境を創造し、やりたいことができるようにするという考え方に基づいている。このような環境で雇用された人は、確実に成長しており、本人らは「特にモノができ上がり、社員の人がこのシステムのおかげで便利になった、助かった。という声を聞けると嬉しい」という。

(2)精神障害のある人への配慮
Dさんは2010(平成22)年入社、入社時30歳。前職をやめてから1年経過していた頃で、事務系で就職口を探しており、ハローワークに週1回通っていた。IT系の求人は条件が厳しいところが多かったが、アワハウスの求人票は時間外勤務が無いこともあり、「これならいけるのでは」と感じ応募した。実際、就職して最初は自信がなかったが、職場の理解もあり、現在就職して2年が経過している。
職場の上司Eさんは、「会社のフォロー体制としては、(症状の)波をおこさないということではなく、『波はあるものだ』という認識で付き合っている。自分の力で解決しないといけないことも多いのだが、専門的なところは医療機関に任せて、波の振れ幅を小さくするよう、また、調子が上がって、落ち込んだときの反動が大きいので、上がりすぎないように抑えることに気をつけている」という。
また、「障害のある人への対応というよりも個人として、個性としての対応で対処している。ここ1年間は、大きな調子の変動もなく、非常に安定している。本人はいろんな人とコミュニケーションをとっており、周囲の人が理解してくれている環境が良いと感じているようだ。最初は、外見上わからないので、どう接して良いかわからず、変に気を遣うところがあった。今では、垣根なく社員とコミュニケーションができている」ともいう。
周囲の社員の9割は、訪問介護を経験している社員なので、障害のある人への接し方は、自然な感覚で、特に障害を意識するというのではなく、ひとりひとりの個性、それぞれの感性にまかせているそうだ。
Dさんは、今まで就職した会社では、障害を開示せず入社したこともあり、「何でこうならないのだろうか」という部分で悩んだり、「どう切り出して良いのか」、「言ってもいいのか」等、遠慮の部分があったというが、ここでは障害を開示して入社したということもあって、自発的に、「こうしてもらえた方がありがたい」と言えたり、「今まで言えなかった部分や、こういった状況になりがちな自分も認めてもらうことができた」という。
上司のEさんも「本人が、悩んでいる、引っ掛かりがある等、少し気になる場合は、意識して声掛けをしている。そういった意識は、お互いを守ること、会社を守ることにも繋がる。入社して落ち込んだ時期もあったが、ここ1年は、休むことは殆どない」という。
また、本人の提案から、障害のある人は、通院で休む場合には年次有給休暇(年休)を利用するのではなく、特別休暇として1か月に1日、通院による休暇取得が認められている。こういった制度は本人からの発言で生まれたもので、毎月通院で年休を消化していると休みがなくなるといったことが、この制度で解消された。このような障害のある人からの提案等、ボトムアップで制度が実現するあたりもこの会社の雰囲気を良く表している。
Dさんは生活面も充実し仕事をするなかで、結婚、そして子供の誕生という嬉しい出来事もあった。これらは精神面での充実に繋がり、上司のEさんは障害を持つ前の状態に戻りつつあるのではないかと感じている。
本人の成長もあったが、障害のある人を雇用することで会社も成長できた。本人も明るいので、楽しく仕事ができる環境が一番である。また、本人はシステムができ上がり、上司や社員が頼ってくれるのが嬉しいようだ。職場での介助が必要な場面がある等、障害のある人が社員に頼むことが多いと思われるが、この職場では逆に頼りにされる、また同じ立場に立っているということを実感できているのが非常に大きい。これらは専門的な業務で活躍され、その業務で雇用ができているからといえる。

3.企業の社風として、今後について
(1)企業の社風として
アワハウスでは、共生の概念として、共に豊かに生活していく、お互いに豊かになる、WIN-WINの関係性といったことを重視している。ここには素晴らしい企業憲章があるが、トップダウンではなく、従業員からこういったものを作りたいという要望から生まれ、自分たちが工夫してボトムアップで作り上げたものであり、心の拠り所となっている。
『人』を大切にする。
自分を大切にするように、出会ったすべての人を大切にし、常に相手の立場に立って考え行動する。
『最進・最幸』をお届けする。
既成概念を捨てた今までにない最も進んだ最進のサービス、お客様に最高の幸せと喜びを感じていただける最幸のサービス。
『変化すること』を恐れない。
変化を重ねることは、常に学び、更なる高みを目指して成長し続けること。
『明らめる心』を忘れない。
明らめる心とは、物事の本質を見極め、いかなる難問にも目を背けず、明るく前向きに立ち向かう心。
『ありがとう』で終える一日。
今日一日の「出会いと感動」に感謝し、明日への続く航海に旅立とう。
これらの憲章の言葉には、信念や誇り、自然と湧き出てくるような感情、使命感が込められている。この憲章ができて約2年。社会情勢や環境が変化し、憲章に紐づく部分に変化があるかもしれないが、憲章に込められた根本的な企業の精神面は不変であるという。
今回話を聴かせていただいた人たちは、口を揃えて「働きやすい」と話してくれた。こういった社風によって、障害の有無に関係なくお互いの関係性を豊かにしていくための従業員同士の意識があり、働きやすいという雰囲気を自然に作りだしていることが大きく影響しているのではないかと考える。
(2)今後について
上司のEさんは、「人を育成していきたい。能力開発施設などと連携しながら、一人でも多く専門的な人材を育成していきたい。仕事をするなかで、自分たちで作ったシステムが、企業を支えているという意識が生まれることが大きい。仕事を通じて社会参加でき、社会との繋がりができる。自分の得意な分野を活かして、仕事をして欲しい。障害があることで諦めるのは、非常にもったいない。自分の技術をどう生かすか?多くの人に可能性がある」とおっしゃられた。
この会社には、障害の有無に関わらず、人を受け入れ、大切にする、また、人に対して寛容な環境がある。人の成長は、企業の成長でもあり、上司のEさんが『お互いが成長できている』と発言されたことが非常に印象的であった。
介護サービスという障害のある人を受け入れやすい土壌があったにせよ、企業憲章や社名に込められた想いが社員一人ひとりに浸透し、自然と多様な人を受け入れる体制がこの会社にはある。
ここに集まったITの専門的な技術力のある人が、自分たちの力を充分に発揮して活躍され、充実した生活を送られている様子を今回の訪問で伺うことができた。今後も専門的な分野での障害のある人の雇用を検討されている様子であり、一人でも多くの人材が育成され、活躍されることを期待したい。
大阪市職業リハビリテーションセンター 副主幹 岡本 忠雄
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