障害者も自立できる経済力を目指して
- 事業所名
- 特定非営利活動法人 ネピオン(多機能型就労支援事業所ジョイント)
- 所在地
- 兵庫県神戸市
- 事業内容
- 障害者の就労・生活支援(就労継続支援A型事業所・同B型事業所)
- 従業員数
- 47名
- うち障害者数
- 24名(A型23名、その他1名)
障害 人数 従事業務 視覚障害 9 機能訓練師 聴覚障害 1 飲食店販売補助 肢体不自由 7 機能訓練師、飲食店販売補助・製麺 内部障害 3 機能訓練師ドライバー 知的障害 1 飲食店販売補助 精神障害 3 飲食店販売補助 - 目次

1.事業所の概要、新規事業導入の経緯
(1)事業所の概要
① 概 要
当法人は平成10(1998)年に「カーボランティア団体『介援隊』」を設立して高齢者、障害者の送迎サービスを開始したのが始まりで、その後、平成14(2002)年6月に「特定非営利活動法人ネピオン」として法人格を取得し、支援費制度による事業を開始するとともに、平成15(2003)年4月には障害者に対する介護サービスの提供を開始した。多機能型就労支援事業所「ジョイント」(就労継続支援A型及びB型事業所)は平成18(2006)年10月、障害者自立支援法施行に伴い設立したもので、障害者の就労・生活支援を行っている。
当法人は、社会復帰、自立、社会参加に努力している障害者及び高齢者に対して、社会適応訓練、職場適応訓練、職業能力開発訓練等の諸事業並びに一般就業、雇用にかかわる事業の推進を図り、障害者および高齢者の安心、安定した地域生活を支援し、ノーマライゼーション社会の構築並びに社会福祉の増進に寄与することを目的としており、次のような理念、経営方針を掲げている。
【企業理念】
さぁ行こう 会社と云う船に 宝である人間をのせて
皆で共に 二度とない人生を どう生きるか
一つの目的に 向かって進んでいく
そんな素晴らしい 航海をしよう
【経営理念】
利他的行動を推進し、地域社会の発展に努めます。
寿考者の智彗に学び、社員相互の成長に努めます。
清浄経営を指針とし経済発展に努めます。
【経営方針】
- 信義を守りお客様のご縁を大切にいたします。
- お客様が心から満足し感動するサービスの提供をいたします。
なお平成21(2009)年には、厚生労働大臣より在宅就業支援団体の登録を受け、また障害者の職域の拡大を目的にジョイントの事業所内で製麺事業を開始し、平成23(2011)年には、既存のうどん店の業務を請け負うという形で、うどん店の第1号店「前田屋」の運営を開始した。
② 事業実施の背景
当法人の理事長は自身が障害者であり、就労支援事業を始める前から、「障害者になることが悪いのではなく、障害者になったことでめげるのはよくない。障害者も納税者になれる」という強い思いと何度も生死をさまよい、いつ寿命が尽きるかという不安があったことから「残された人生はおまけである。ならば直接社会に貢献できることはないか。高齢者・障害者に対して何か自分にできることはないか」と考えていた。また、障害者に出会う度に、将来に不安を抱いている人が多いことを知った。そこで、障害者が働くことのできる環境をつくることで、障害者自身が納税できるよう、平成18(2006)年、障害者自立支援法の施行に伴い、障害者の就労・生活支援事業を開始することとした。
(2)新規事業導入の経緯
多機能型就労支援事業所「ジョイント」では、就労に必要な知識・技能を習得し、また、社会人としての労働習慣や職場のルールを学ぶことにより、障害者の就職の促進を図るため、就労継続支援A型・同B型事業を実施している。その事業種目としては当初は木箱・本棚などの木工製作、旅行用のかばんの解体、古着の仕分け等を行っていたが、一定の仕事量及び工賃を確保するためには、軽作業中心の事業には限界があり、何よりも「障害者でも税金を払えるよう経済的に自立してほしい」という理事長の強い思いを叶えるためには、新たな事業を展開する必要があった。
そこで、理事長の出身地が香川県ということもあり、「うどん」に関する事業であれば労働報酬の向上も期待できると考え、就労継続支援A型事業として製麺事業をスタートすることとした。
製麺事業の開始にあたっては、障害者作業施設設置等助成金(第1種)を活用して製麺機を整えた。担当スタッフは、それまで木工作業や服の採寸作業等の様々な分野で活躍していた就労意欲・作業能力の高い障害者から選抜した。このことにより他の障害者の就労意欲の向上が期待できると考えた。
製麺機の管理、商品管理、作業工程の段取り等の指導のために障害のないスタッフを配置し、その指導の下、障害者は主に製麺機への材料・水の補給等の製麺作業、麺を番重に並べる等の作業を担当する。
製造したうどんの玉は、事業当初は当法人の各施設内で消費(有料販売)するのみであったが、平成23(2011)年、うどん店「前田屋」と契約を結んだ会社と業務請負契約を結び、うどん店の運営をスタートした。
「前田屋」は、讃岐うどんスタイルの店構えで客席数は68席。神戸のオフィス街という立地からお昼休みのサラリーマンを顧客ターゲットとし、そのため営業時間は11時から15時まで(ただし、麺が売り切れ次第終了)としている。一時は夕方の営業も考え、うどん以外にアルコールやおつまみの提供も検討したが、顧客ターゲットを絞り込むことと障害者が働きやすい環境とすることを目的にお昼の営業に集約することとした。
なお、店舗には常時7名のスタッフ体制で運営しており、障害のない従業員3名、障害者6名が交替で勤務している。従業員の配置及び従事業務については、個々の能力及び就労ニーズ(障害特性や勤務時間等)に応じて決定している。

2.新規事業における課題と工夫
「前田屋」のオープン当初は店長が朝礼時にその日の担当業務を伝えていたが、精神障害を持つスタッフが、自分がイメージしていたその日の業務内容と朝礼で指示された業務内容が異なることに混乱して帰ろうとするトラブルがあった。そこで従業員の担当業務は固定することとし、担当以外の業務を急に指示することのないように注意している。
従業員の担当業務については、当法人が作成するアセスメントシートに基づき障害特性や適性等を考慮して決定している。例えば知的障害者であれば一つの業務に集中できるように返却口の洗い場に配置し、精神障害者であれば能力に応じて、配膳や注文口、掃除、レジに適宜配置している。
当初は一つの工程を覚えるのが大変で、スタッフが常に声掛けし指導する必要があったが、日々反復することにより身体で覚え担当業務をこなせるようになったと店長はいう。実際に店舗で取材を行った際も、どの人が障害者かわからない作業ぶりであり、能力に応じて考慮された配置であることがうかがえた。なお、具体的な課題に応じた工夫等は次のとおりである。
【挨拶及びコミュニケーションの訓練】
お客様に対する挨拶は飲食サービス業の基本であるが、従業員との間でも挨拶ができない状況がみられ、スタッフ同士のコミュニケーションが課題であった。そこで朝礼・終礼を通して、挨拶の練習や実際のお客様を想定した実践研修を店長が根気強く行うことにより、徐々に挨拶ができるようになり、スタッフ間のコミュニケーションも改善された。
【メニューのシンプル化】
お客様が注文口でうどんやセットメニューをオーダーし、天ぷらやおにぎり等の中から好きなものを自分でお皿に取り、レジで会計するセルフ形式をとっているが、オープン当初は、オーダーの聞き間違いが多く、注文口で混乱が生じたため、メニューをできるだけシンプルに、丼ぶり物もセットの1種類とした。また、セットの丼ぶりについては、引渡番号を渡し、従業員がその番号の席まで配膳するスタイルをとることにより、効率化と注文口での混乱の防止を図っている。
【値段設定のパターン化】
オーダーの聞き間違いと同様、オープン当初にはレジでの勘定の間違いが多発した。そのため、ミスや混乱を招かないよう、「かけうどん」以外のうどんメニューの値段をパターン化し、どのうどんもサイズが同じであれば同じ値段とした。
【業務の集約化】
障害によっては同時に複数の作業を行うことは混乱を招くため、従業員の業務を簡素化、集約化、固定化した。具体的には、水や薬味のねぎ、その他のトッピングを1か所のテーブルに配置し、お客様が自分で取りに行くことができ、また、食べた後もお客様が返却口まで運ぶセルフ方式を取り入れることにより、障害者が一定の業務に集中できる店舗づくりを行った。
【応援体制の整備】
通勤途中に具合が悪くなり欠勤するケースがあるため、当日欠勤により他のスタッフに負担がかからないよう、いつでも他の事業所から応援を頼めるよう体制を整えるなどの配慮も行っている。
オープン当初は、メニューを「うどん」のみとし、営利目的ではなく障害者が働くことのできるお店にすることが目的であった。しかし働く場所をなくさないためにもお店を存続させること、さらに、障害者でも経済的自立ができるだけの給料を払えるようにするためには、売上目標をもつことが大事であるということを意識させ、スタッフ全員がお店のこと、お客様に喜んでもらえることを考えるようになる必要があった。
そこで店長は、「前田屋ノート」を作成し、朝礼・終礼で伝達したことや売上目標を記載して全員が確認できるようにした。また、朝の通勤ラッシュの時間帯に店舗の宣伝のためのチラシを配布するなど、スタッフ全員で「前田屋」の宣伝活動を行った。その成果もあり、ビルの地下1階ではあるが、今ではお昼どきになると地上までサラリーマンや学生の行列ができるほどのにぎわいを見せている。
さらに、看板メニューでもある「うどんと丼ぶりのセット」の日替わりミニ丼のアイデアや店舗、お客様へのサービスに関するその他のアイデアを全員が「前田屋ノート」に出し合うなど、一人ひとりが店舗づくりに関わるようになった。店長は、うどんを食べに来られるお客さまも大切であるが、うちは障害者もお客様。他の店よりも従業員も大事にしており、「人が財産である」という。


パターン化した値段

3.取り組みの効果と展望
(1)うどん店で仕事をしたいと言う目標をもって
多機能型就労支援事業所ジョイントでは、A型事業所とB型事業所を併設し運営している。B型事業所ではカバンの解体や古着の仕分けを行っている利用者もいるが、製麺事業やうどん店の事業内容に興味をもった障害者については、本人の意欲と施設スタッフの判断により、製麺・うどん店の業務に移行できるシステムをとっている。
まずB型事業所の訓練施設として、神戸市湊川の商店街の空き店舗の一部にうどん店、やきそば店、喫茶店、ラーメン店の店舗を構えた。ここで一定のスキルを身につけてもらう。
障害のないスタッフと障害者がペアになり、マンツーマンでお客様対応業務の指導などを行うことにより、最終目標は「前田屋」のようなうどん店で働くという具体的な目標を全員が持てるような運営を行っている。湊川の商店街は、これらの店舗が並ぶ前は殺風景な空き店舗が多い商店街であったが今では通行人が各店舗に立ち寄り憩う姿も見られ、賑わいをみせており商店街の活性化にもつながっている。


(2)障害者の働く場の拡大
多機能型就労支援事業所ジョイントでは、うどん事業の拡大をすすめるとともにドーナツ製造事業を運営している。ドーナツ製造事業自体は平成23(2011)年からスタートしており、現在スタッフは4名、スタッフの中に下肢に障害のある人がいる。ラッピング、請求書作成、納品管理を担当している。下肢障害ということもあり、モノを落した際自分で拾うことや移動することが難しく、作業工程がスムーズに行えなかった。そこで本人の意向を取り入れ、机の間隔とゴミ箱の位置を変更した。このことで向上心も倍増した。
同事業所の提供するドーナツは、厳選した食材を使用した油で揚げない焼きドーナツで、大手遊戯施設の飲食スペースや大手ハウスメーカー、その他多数の取引先に納品しており、その実績はスタッフのモチベーションの向上にもつながっている。今後も販売拡大を目指し、新商品の開発や、店舗を開く意思のあるスタッフがいれば店舗拡大を検討したいという。
また、同事業所では、うどんの製麺事業に併せて厨房設備付きの自動車を使用してイベントへの出店参加や施設訪問によるうどん、その他の商品の販売を行っており、障害者の雇用の場を広げるため販路や店舗の拡大によりさらなる事業展開を図っている。
(3)理事長の思い
理事長は次のように語る。
「施設を利用する障害者の中には人に負けない頑張り屋も多く、みんなには親に先立たれても自立できる能力を一人ひとりに身につけてもらいたい。そのために全員が一丸となって運営に当たり、事業計画と予算を常に意識させ達成責任を負わせ、収益に応じた賃金を支払っている。今夏においては少額であるが初めて賞与を出し保護者からも喜びの声が寄せられた。健全な事業運営を行い、より良い報酬及び職場環境を維持することができれば、スタッフ全員が仕事は楽しいと思えるようになる。」
理事長の思いの中には、自分が現役の間に障害者専用の社宅を建て、社宅の1階にはうどんの製麺事業が行える場所を作りたいという計画がある。先述のとおり、親に先立たれて独りになっても自立することのできる基本は住まいの確保が必要と考えているからで、そのためには、従業員が住まいの費用の支払いができるだけの給与をもらい、経済的な自立ができているということが前提となる。
今後の事業計画として20店舗の「うどん店」のオープンを検討しており、さらにうどん店で使用する小麦を自社で生産し、低温倉庫を整備して他のうどん業者にも小麦粉を販売したいと考えている。「障害者も納税者になれる」という強い信念の下、経済的自立ができるような事業を目指し、理事長の取り組みはこれからも続く。
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