やさしさと思いやりの心をもって
- 事業所名
- 株式会社エーデルワイス
- 所在地
- 兵庫県尼崎市
- 事業内容
- 洋菓子の製造販売、喫茶経営
- 従業員数
- 736名
- うち障害者数
- 12名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 1 工場業務全般 内部障害 知的障害 11 検品、ばんじゅうの洗浄、計量 精神障害 - 目次

1.事業所の概要、障害者雇用の沿革
(1)事業所の概要
株式会社エーデルワイスは1966(昭和41)年に創業し、洋菓子・パン・チョコレート等菓子類の製造販売、喫茶経営を行っている。創業ブランドである「エーデルワイス」、素材を活かし出来立ての高級洋菓子を提供する「アンテノール」、ベルギー王室御用達の老舗ヴィタメール社との提携で実現した最高級のチョコレート・ケーキの「ヴィタメール」など、商品コンセプトにより各ブランドを展開し、百貨店内の店舗を中心に関西に34店舗、関東に35店舗、中部・中国・九州地区に7店舗を運営。本社工場(尼崎)と関東工場を製造拠点とし、全国に販売している。
創業の精神である「忍耐と信用」を基礎の考え方とし、本場ヨーロッパの歴史と伝統に学ぶことで培われた「技術力」、時には既存概念を打ち破り新しいことに「挑戦する姿勢」、誠意と愛情を持って行動する「誠実さ」の言葉をもとに、市場が変化する中で消費者のニーズを的確にとらえ、新たな価値ある商品を提供し続けるため、既存ブランドのブラッシュアップに加え、新ブランドを産み出すことにも積極的にチャレンジしている。
(2)障害者雇用の沿革
同社では創業者である現会長の「障害者も必ず能力を発揮できるところがある」という考えのもと、以前からハローワークの紹介等で障害者を受け入れており、2001(平成13)年には兵庫県知事表彰を受賞している。しかし関東拠点の強化や店舗の増大に伴い障害者雇用率が低下し、2006(平成18)年度には当時の法定雇用率(1.8%)を下回る結果となった。そこで人事総務グループが障害者雇用率の達成をトップに提案し、障害者雇用をすすめるために、障害者が働ける現場や仕事の把握に努めるとともに、現場担当者とも十分に話し合いを行った。
雇用にあたっては、まずハローワークに相談したところ、尼崎市内にある支援施設の利用者を紹介された。同社では市場ニーズに応えるため、あえて手間のかかる多品種・少量生産を行っているので、人による処理が必要な工程が多く、各ラインの連携が重要となる。そこで面接にあたっては、「人の話を聞けるか」「判断に困ったときにパニック状態にならないか」等、仕事におけるコミュニケーション能力を重視した。また、業務には根気が必要なため、集中力・体力・健康面も確認した。
ハローワーク以外では、特別支援学校や障害者職業能力開発校からも推薦を受けた。求人に関しては特に障害の種類は問わなかったが、社屋や製造ラインがバリアフリー化されていなかったこと、立ち仕事である点検・選別業務を担当してもらおうと考えていたこともあり、一つのことに集中して取り組め、体力もある知的障害者を中心に3人の障害者を採用した。その後さらに2人採用し、このうち4人が現在も仕事を続けている。
こうした取り組みのもと、2008(平成20)年度は雇用障害者数10人、雇用率は2%を達成し、2012(平成24)年度には雇用障害者数12人、雇用率は2.3%にまで達した。さらに定着率もよく、12人のうち7人が勤続5年以上であり、勤続20年を超える人も在籍している。出勤状況も良好で、欠勤や遅刻もほとんどない。また、ここ数年離職者もなく安定した雇用を実現していることから、2012(平成24)年度には障害者雇用優良事業所として厚生労働大臣表彰を受賞した。

2.安定して働ける職場づくり
(1)職務内容と雇用管理上の配慮
製造工場では主にケーキ・半製品製造と焼き菓子製造に分かれる。ケーキ・半製品製造はスポンジだけの状態や下地のクリームをぬっただけの状態で出荷し、店舗でデコレーションを行ったり、完成品を出荷する形態をとる。クリスマス、年末年始、バレンタイン、卒業・入学時のお祝いなど冬から春にかけてが一番の繁忙期で、生産量は夏の倍以上となる。生ものなので作り置きができず、また季節ごとのイベントに生産が集中するため、日々の仕事量は大きく変動する。
一方焼き菓子製造では、クッキーやフィナンシェなど比較的賞味期限の長い商品を扱うため、仕事量の変動もケーキ・半製品製造に比べて小さいので、知的障害者には焼き菓子の検品及びばんじゅう(薄型の運搬容器)の洗浄を任せることとした。他にも原材料の計量部門に数字を覚えることが得意な知的障害者を配置するなど、個々の特性に配慮した職務設計を行った。
【焼き菓子製造の検品】
作業台にでき上がりのクッキーを並べ、割れや焦げがないかを確認していく。作業台一つを一人で使用できるようになっているので、周りのことを気にせず自分のペースで集中して作業ができる環境になっている。
はじめから全てができたわけではなく、検品の項目が簡単な商品からはじめ、それができるようになれば別の商品の検品と順々に仕事を任せていくようにした。これ以上は難しいと思われる限界の部分が見えてくると、できるようになった商品の検品を担当業務と定め責任を持たせるようにした。
また検品の合間に検品が終了した製品を入れたばんじゅうを出荷などのタイミングにあわせて移動させる必要があるので、あらかじめ移動のスケジュールを定めて忘れがないように注意している。現在ではそのスケジュールを自身で理解し行動できるまでに成長している。

【ばんじゅうの洗浄】
製造部門以外では配送部門でばんじゅうの洗浄業務に同時に採用した知的障害者2人と障害のない従業員1人が配属されている。
製品を各店舗に配送する際にはばんじゅうを使っており、店舗で使用されたばんじゅうは再び製造工場に戻される。戻されたばんじゅうは専用の洗浄機械に投入し、洗いあがったばんじゅうをブランドごとに背の高さほどに積み、台車に乗せ所定の位置にまとめて保存している。繁忙期になると隙間なくばんじゅうが積み重ねられる。ばんじゅうがある程度積みあがると次の台車を持って来て準備したり、洗浄場所ではあと何個流せば一つの山が完成するかを見ながらばんじゅうを流す量の調整を行う。

ばんじゅう
洗浄機から出てきたばんじゅうは汚れがないか確認し、落ちなかった汚れについては、磨いて汚れを落とすこととしているが、最初の頃は磨かなくてもよいばんじゅうを磨いたり、磨きにムラがあったりしたが、その都度声かけを行い、磨き残しがないように注意している。また、台車を片付ける際に急ぐあまり勢いよくドアにあててしまいドアの塗装がはげてしまったことがあった。人が通るところなので危険であり、もう少しものを大事に扱うよう丁寧に説明すると、その後は注意してゆっくり通るようになった。
2人の障害者のうち、1人は明るくきさくな性格で、1人はまじめな性格で段取りを自分で行うことができる。性格は対照的ではあるが、お互いの得手不得手をうまく補い、障害のない従業員がわかるまで何度も粘り強く教えながら2人を見守っている。当初は1人のみの採用と考えていたが、結果的に2人を同時採用したことで良い影響を与え合っていると採用担当者、現場の担当者は口を揃えていう。
また会社と家庭の関係も良好で、現場の担当者と家族の連携もある。現場の担当者から「会社で言うこと聞かへん」と聞いた家族が本人に「○○さんの言うことを聞くように」と言い聞かせたところ、それからは帰宅時に「○○さんの言うことを聞いた」と自ら報告するようになったというエピソードもある。
なお、ばんじゅうの洗浄で2人を採用するにあたっては、支援施設の勧めにより初めてジョブコーチによる支援制度を活用することにした。作業手順やばんじゅうの仕分け方法について覚えやすいように場面ごとの対応方法を何度もモデリングしたり、ばんじゅうを床に落としてしまったとき等のイレギュラーな事態への対処方法や、身体に負担がかからない姿勢や効率性を意識できるように工夫を伝えてもらったほか、次のような提案やアドバイスを受けた。
○作業面
・仕事の開始時の注意
5分前には作業開始の用意を完了し作業場で待機することを伝えられていたが、機械の状況により作業がすぐに始められない時に、機械が動くまで待機せずにトイレに行こうとするなどの行動をとってしまうことがあった。そこで作業スケジュールを提示することで適切な行動内容を確認できるようにした。
○コミュニケーション面
・その場その場での適切な指導
荷物を持って帰ってきたドライバーに対して「お帰りなさい」などの適切な挨拶ができていれば今後も継続するように伝え、出入りの業者に対してなれなれしい態度になってしまっている時にはその後ですぐ指摘した。
○その他
・連絡ノートの作成
シフトの変更等について一部口頭のみの説明であった。本人理解の確認や家庭への伝達を徹底するために現場と本人・家族間の連絡ノートを作成した。
なお、現在も出勤時や帰宅後の様子で不安な点があればジョブコーチに相談するなど、会社・家庭・ジョブコーチの三者が連携して本人をフォローすることにより職場定着が図られている。
(2)働きやすい職場風土
障害者の職務指導は現場が中心となって行っているが、会長や工場長も時間を見つけては工場内を巡回し、障害の有無・国籍・性別の区別なく全ての従業員に対して声かけを行っている。その姿を見ている周りの従業員も同じように行動するので、全体としてあたたかい職場となっている。仕事の教え方も、どの従業員に対してもうまくできれば褒め、できなくてもやり方を考えて丁寧に指導する方法をとっている。基本的に叱ることはしないが、機械の中に手を入れそうになるなど、ケガや事故に繋がる危険がある場合はきちんと叱るといった、メリハリのきいた指導を実施している。
また、2011(平成23)年に開催された「2011年スペシャルオリンピック夏季世界大会・アテネ」(知的障害者の世界スポーツ祭典)に障害のある従業員が日本代表として出場した際には、2週間に及ぶ海外遠征へあたたかく送り出すなど、個人の活動についても理解が得られやすい職場風土であることがうかがえる。野球が好きな知的障害のある従業員は、他の従業員と一緒に甲子園球場へ野球観戦に行ったりと、余暇活動も充実しており、このような職場風土も障害者の職場定着の大きな要因となっている。
3.まとめ
本社工場で働く障害者にも話を聞くことができた。焼き菓子の検品に従事する方に仕事をする上で気をつけていることや今後の目標を尋ねると、「体調管理に気をつけながらミスがないようにしている。今後は定年まで働きたい」と笑顔で答えていただいた。また、ばんじゅうの洗浄を担当している方に勤続年数を尋ねると、「5年働いています」とこちらも笑顔で答え、てきぱきと積み上げられたばんじゅうを整理していた。
最後に雇用の安定の秘訣を工場長から伺った。「知的障害者は自分と相手の性格が合うか合わないかを見る目が鋭い人が多いので、自分自身が心をオープンにしていれば相手も必ず応えてくれる。上から押さえつけるのではなく、相手が安心してなじめるように下からすっと心にはいっていくようなあたたかさと思いやりをもつことが大事」と言葉を結ばれた。
一人ひとりの障害特性や個性を十分に把握し、それぞれの特性に配慮した配置や雇用管理を行い、障害の有無に関係なく各現場の従業員が思いやりをもって「ものづくり」に取り組む同志としてともに働くことで、誰もが働きやすい職場となっている
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