自然体で障害者の雇用と定着を実現した中小企業の事例
- 事業所名
- 株式会社黒田製作所
- 所在地
- 兵庫県姫路市
- 事業内容
- 金属製品製造業
- 従業員数
- 188名
- うち障害者数
- 6名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 2 はかり組立・検査1、プレス形成1 肢体不自由 3 はかり組立・検査1、生産技術1 内部障害 知的障害 1 自動車電装部品組立・検査 精神障害 - 目次

1.事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
当社は昭和22(1947)年創業の金属製品製造業で、主な営業品目は自動車電装部品加工・組立、ガス給湯器部品加工・組立、FRPプレス形成、衝器部品各種加工・組立等である。
(2)障害者雇用の経緯
当社では、現会長の「人と人とのつながりを大切にする」という経営理念に基づき採用、人材育成を行ってきた。障害者雇用のきっかけは、ハローワークに提出していた求人に対して、たまたま障害のある求職者の紹介があり、当社の業務と似たような仕事の経験があったことから、当社の仕事も可能と判断して採用することとした。障害は一つの個性であり、当社の仕事に合う人材であれば障害の有無にかかわらず受け入れている。
以下は当社の社是・社訓であるが、経営者の理念が社是・社訓を通して職場に浸透していたことで社内全体に障害者雇用の土壌ができており、特に構えることなく自然と障害者雇用が進んだ。
◇社 是 | 融 和 |
◇社 訓 | 1 信頼できる人々の集いであること 2 原理原則尊重の精神に徹すること 3 常に技術の練磨向上に励むこと 4 安全なる作業に誇りを持つこと 5 仕事を通じて社会に貢献できる喜びを持つこと |
2.取り組みの内容及び効果、現場の声
(1)取り組みの内容及び効果
① 募集・採用
採用はハローワークを通じて行い、当社の仕事に合う人材であれば障害の有り無しを問わず採用している。
② 障害者の業務・職場配置
Aさん(知的障害)は自動車電装部品の組立・検査を担当し、その中でも、2ヶ所の仕事を任せられていた。生活面について何か問題があれば財団法人姫路市障害者職業自立センターが経営する「職業自立センターひめじ」(平成23(2011)年4月から、経営母体が(社福)姫路市社会福祉事業団へと変わる。姫路障害者就業・生活支援センター事業を実施している。)の職員がフォローをしてくれる体制ができており、また、休み時間には自ら積極的に他の従業員とコミュニケーションをとるなど職場にも馴染み、平成24(2012)年60歳で定年退職するまで14年間勤務した。
Bさん(下肢障害)は、出荷する製品の検査や梱包を担当する。細かい部品もあり検査も大変だが、細部も見逃さず仕事をしてくれている。
技術を見込んで中途採用したCさん(下肢障害)は、FRP第二工場で生産技術を担当し、主に設備の修繕を行っている。また、若い従業員への設備修繕の仕方も率先して指導してくれている。
元歯科技工士のDさん(聴覚障害)は給湯器等のプレス形成や検査を担当する。同じ部署の従業員と口話でコミュニケーションを取りながら仕事をしている。
③ 配置に当たっての配慮
採用・配置については、総務部の人事採用部門と現場の工場長及びグループリーダーとが担当業務や就業環境について綿密に話し合いを行い決定している。
なお、採用に当たり特に大がかりな作業施設・設備の工事は行わず、障害者雇用に関する助成金等も活用していない。下肢障害者については、例えば、移動の負担軽減を図るため既設のエレベーターの近くに配置し、通常は立って行う作業を座ってできるようにしている。作業内容は季節により変動するが、作業場所を固定し、逆に作業に必要な機械・工具・材料を作業場所に持ってくることにより、移動の負担をなくすととともに、安全な職場環境を確保している。
聴覚障害者については、口話で対応可能な者もおり、難しい技術用語については筆談で対応するなど、従業員のコミュニケーション手段や担当業務に応じてフレキシブルに対応している。また、安全対策として、災害等があった場合は、周囲の従業員が真っ先に聴覚障害のある職員の肩を叩いて避難指示を行うなど、防災訓練等を通じて徹底している。


なお、聴覚障害者については、総務部が積極的にコミュニケーションをとるように努めており、現場での意思疎通等で問題が生じた場合は、総務と工場長が間に入って話し合いを行うなど、必要なフォローを行っている。
以上の取り組み、そして何よりも障害を個性として認め合いお互いを尊重する職場風土があったことにより、自然と職場定着が進み、障害者雇用率も平成20(2008)年4.09%、21(2009)年4.14%、22(2010)年4.12%と4%台を維持しており、平成20(2008)年度には障害者雇用優良事業所として独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構理事長表彰を受賞している。
(2)現場責任者の声
現場で従業員の管理・指導に当たる工場長は次のように話す。
「会社には、健常者・障害者など様々な方が従事されています。障害者にもさまざまな障害があります。基本的な考え方として、"特別扱いをしない"ようにしています。視力が悪い人がメガネをかけているとよく見えるように、下肢障害者であれば座っていれば健常者と同じですし、聴覚障害者・知的障害者もそれ相応のコミュニケーションがとれれば健常者と同じと考えています。もちろん、下肢障害者に重い物を持って運べ、という指示はしません。幸いなことに、弊社では障害者を特別視する風潮がありませんでした。そこで、健常者と同様に仕事に従事できる環境を整えた上で、健常者と同じ量・質の仕事をし、作業指示をこなすことで、障害者にとってはやりがい・達成感につながっています。健常者には、彼彼女が障害をもっていても一人前の仕事をしているのだから、自分たちも頑張ろうと思ってほしいと考えています。」
3.今後の課題と展望
総務の中治部長は製造業を営む中小企業の状況を次のように話す。
「今、企業は制度(労働基準法、安全衛生法等の法令)とコスト増への対応に悩んでいます。当社では、従業員のモチベーションを高めることで安全性と生産性の向上を図る工夫を行っています。勤勉さ、弱者をいたわる心、他者への尊敬といった日本人の優れた特色、情の力を大切にし、職場の良好な人間関係の維持、職場改善活動への取り組みを通じて従業員が働きやすい職場環境を実現することが生産性の向上につながるものと考えます。そして、その根底にあるのは人を大切にする経営です。」
「企業にとって規模の拡大は難しいことではありませんが、それより重要なのは中身です。日本の製造業は今、危機に立っており、資源がない日本はこれまで技術力に頼ってきましたが、その技術や人材が新興国に流出し、さらに円高により海外シフトを選択する企業が増えています。産業の空洞化と少子化による労働力不足が進むなか、GDPを上げるためには外国人労働者を活用するか海外移転するしかない。また、若年者雇用について言えば、残念ながら労働力の質そのものが低下しているのが現状です。海外移転か日本に残るかの選択を迫られるなかで、当社は日本に残る選択をしました。それは、今の仲間(従業員)といっしょでなければ品質を維持することができないと考えているからです。」
「現在、後継者がいないため、またそれゆえに設備投資もできず、多くの企業が廃業しています。一方で、"嫌な仕事はしない"という風潮から製造業以外の仕事を選択する若者が多く、人材の確保が困難になっています。また、当社は年配者や若者が多く、つまり、ちょうど介護や育児という問題を抱える時期に当たる従業員が多いため、人材確保が大きな課題となっています。」
では、部長が話された課題を改善するため、当社ではどのような取り組みをおこなっているか、その活動を中心となって行っている総務部の岩井係長に話を聞いた。
「当社では、職場風土改革について従業員にアンケートを行い、仕事と家庭の両立についての課題や要望を把握しました。その結果、女性社員では、妊娠して辞めるのではなく、出産・育児休業を取得して復職する者も増えました。育児休業取得率は平成22(2010)年度より100%となっています。男性社員は、会社を休んで子供の保育園・小学校の行事に参加したり、と少しずつですが両立支援ができてきました。これで満足するのではなく、もっと両立支援を率先していきたいと思っております。そこで、"仕事と家庭の両立に関わる支援制度"をまとめ、従業員に配布するとともに、総務部を相談窓口として相談しやすい環境作りに努めました。また、配偶者が出産予定の男性従業員から"男性の育児参加計画書"を提出してもらうことにより、男性の育児参加を推進しています。このような取り組みにより仕事と家庭の両立を推進することで、従業員誰もが安心して長く働ける職場環境作りに努めています。」
さらに、障害者雇用について岩井係長は次のように話す。
「当社では常に障害のある従業員が5〜6名います。最初はどう対応すればよいか戸惑う人もいますが、各職場の先輩が他者を敬い、障害者・健常者と分け隔てなく接する態度を見て、日常業務を通じて仕事だけでなく様々なことを学び、お互いの心の成長に繋がっています。将来自分が先輩になったときには自然と同じように他者に接し、後輩を指導できるようになって欲しいと願っています。今後も障害を個性として認め合い互いを尊重しながら働ける職場、仕事と家庭を両立して安心して働ける職場を目指したいと思います。」
生産性の向上と人材確保は企業が抱える共通の大きな課題である。当社は、従業員のモチベーションを高めることで生産性の向上を図り、また、生活と家庭の両立の推進により従業員が安心して長く働ける職場環境作りに取り組むことで人材確保を図っている。各部門が経営理念に立って課題解決に取り組んだ結果、障害者も戦力として十分に力を発揮し、誰もが安心して長く働ける職場を実現している。
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。