たとえ心身に如何なる障害があっても、かけがえのない一人の人格として認め、
一人ひとりを大切にする
- 事業所名
- 社会福祉法人 カトリック聖ヨゼフホーム
- 所在地
- 奈良県奈良市
- 事業内容
- 指定介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)・養護老人ホーム
- 従業員数
- 126名
- うち障害者数
- 11名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 11 洗濯、食器洗浄、掃除 精神障害 - 目次


1.事業所の概要と基本的な方針、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要と基本的な方針
① 事業所の概要
当法人は、奈良市に特別養護老人ホームサンタ・マリア、御所市に聖ヨゼフホーム(養護老人ホーム)を運営する社会福祉法人である。
奈良市の特別養護老人ホームサンタ・マリアは、平成3(1991)年8月開所当時は定員50名、現在は定員80名で、併設事業として、ショートステイ(短期入所生活介護)・デイサービス(通所介護)・ホームヘルプサービス(訪問介護)・居宅介護支援事業(介護支援専門員-ケアマネジャ-所属)・配食サービス(奈良市委託事業)などを行っている。
御所市の聖ヨゼフホームは、昭和37(1962)年1月に30名定員の養護老人ホームとして事業を開始し、同38(1963)年4月に定員50名と規模変更の許可を受け運営している。併設事業として、生活管理指導短期宿泊事業(ショートステイ2名)、平成11(1999)年から居宅支援事業、同18(2006)年6月より特定施設入居者生活介護事業所(外部サービス利用型)及びホームヘルプサービス(訪問介護)を行っている。また、社会福祉法人せせらぎ会が運営する障害福祉サービス事業所と協調的かつ積極的な連携を図っている。
② 事業所の基本的な方針
当法人の運営方針に、キリスト教的愛の精神を基本として『入所者一人ひとりをたとえ心身に如何なる障害があっても、かけがえのない一人の人格として認め、大切にする』と謳っている。当法人はその一人ひとりを大切にするという精神が法人内で働く全ての職員も同じ考えを持つ事業体であり共同体である。
(2)障害者雇用の経緯
① サンタ・マリアでの雇用の経緯
特別養護老人ホームサンタ・マリアにおいては、平成6(1994)年に県立養護学校の要請を受けて、3年の卒業前に男性のОさん、女性のNさんの1週間程度の職場実習を受け入れた。それが最初の障害者雇用に結びついた発端である。
その時は採用云々ということは考えてなかったが、この両名の保護者が何としてもサンタ・マリアで働かせていただきたいという要望や、養護学校の進路指導の先生の熱意に当時の施設長の決断で、職場適応訓練制度を活用して1年間の両名の仕事ぶりを見て判断するということになった。
1年間の彼らの仕事ぶりを見た結果、正式にサンタ・マリアの職員として採用することを決定し、平成8(1996)年4月に当施設として最初の障害者雇用となった。職場適応訓練期間の1年間、両名は嫌がることもなく、まじめに仕事をしてくれたことが正式な採用に繋がったもので、その一生懸命さは現在まで続いていて、今も勤務している。
3人目は、彼らの1年後輩のTさん(女性)で、同養護学校2年生の時にサンタ・マリアにボランティアに来たのが最初であった。彼女も卒業後は勤務したいと希望したので、職場適応訓練制度により1年間の試行をして、平成9(1997)年4月に正式採用した。
4人目のMさん(男性)は、4年制の公立高校出身で最終学年次である4年生の時に当施設で1年間の職場体験学習をし、その後に採用した。現在もこの4名が継続して勤務している。
勤務時間は午前9時から午後3時30分までで、昼食時に1時間の休憩をとり、週5日勤務である。
休日は交替である。理由は、洗濯の仕事は毎日必要なので、土曜・日曜・祝日にも仕事がある。そのため、シフトを組んで出勤日を決めているのである。土・日・祝は1〜2名で勤務をしている。以前は、日曜日には出勤していなかったが、入所者の洗濯物がたまって、介護職員が洗濯をしなければならないので、4名の保護者と相談して交代で出勤することになった。
通勤も自立していて、電車やバスを利用して通っている。一番遠い者は、大阪から勤務地まで地下鉄そして近鉄へと乗り継ぎ、1時間半掛けて通勤している。通勤が遠いので当初は両親が付き添っていたようだが、現在は一人で通勤している。
② 聖ヨゼフホームでの雇用の経緯
一方、聖ヨゼフホームは、介護保険制度ではなく老人福祉法に基づく措置制度となっており、その制度に係る措置費の中に入所者処遇特別加算がある。これは、原則として満60歳以上64歳未満の者、身体障害者、知的障害者、母子家庭の母及び寡婦を採用し、総雇用人員の累積年間総雇用時間が400時間以上見込まれる場合に、当該者の雇用奨励の意味で加算されるもので、その範囲で当施設での障害者雇用が可能となっている。
当施設の基本的な考え方は、『今、困っている人を救う』というカトリックの精神である。障害者雇用のきっかけとなったのは、社会福祉法人せせらぎ会から「障害者の働ける処、受け入れて頂ける所がない」と当時の施設長に相談があり、それが障害者を受け入れるきっかけになり、現在、雇用している障害者の人達は全員社会福祉法人せせらぎ会が運営する御所園(知的障害者日中活動多機能型施設、就労継続支援A型及びB型事業や居宅介護事業等を実施する多機能型施設)を利用している人達である。
聖ヨゼフホームは、社会福祉法人せせらぎ会とは相互の地域連携の関係で、日常的に交流しており、行事の時には鍋、釜、テントなどの什器をお互いに貸し出しする等、交流を図っている。聖ヨゼフホームの現在の施設長は、20歳代に地域の障害者にかかわった経験があり、学校卒業後、当施設に勤続20年、4年前に他界された前施設長の後を引継ぎ施設長となったという経歴である。「あそこに行けば相談にのってくれて、一緒に考えてもらえる」を目指し、障害者雇用もウエルカムの姿勢であり、職場実習も積極的に受け入れをしている。
2.取り組みの内容
(1)サンタ・マリアでの取り組みの内容
サンタ・マリア所属4名の主な職場は洗濯場である。4名のうち、3名は重度の知的障害者である。彼らの面倒を見るためもあり、Aさんが指導担当者として洗濯場に配置されている。
Aさんと4名が施設内の洗濯の仕事を担当しているが、主な洗濯物は、入所者の衣類と施設用品である。入所者の衣類は肌着と他の服に分けて洗う。施設用品は、ベッドのシーツや防水シーツ、タオル等リネン類である。入所者80名、デイサービス40名、ショート10名の洗濯物を担当している。
洗濯物は、大きな洗濯機で洗浄した後、乾燥機や天日で乾燥させ、乾燥した衣類等を大籠に取り入れ、畳む台がある部屋に運び、大籠から衣類を取り出して、台の上で畳む。畳んだ衣類は入所者の名前が書かれた籠に入れる。次にその籠を各部屋に持って行き、利用者の引き出しに入れていく、これら一連の流れが仕事となっている。
彼らの仕事は実に細かく、丁寧である。入所者80名の洗濯物となると量も少なくない。大籠から、色も形状も素材も違う衣類を、1枚ずつ取り出し、きれいに皺を伸ばしながら丁寧に畳み、名前を確認して、棚にある利用者別の籠に間違わないように入れていく。字は読めるのでできる仕事ではあるが、おおよそ、誰の籠は何処にあると覚えていないとスムーズに仕事はできない。長年この仕事に携わっている彼らは、畳み方も籠への選別も実に手際が良い。
しかし、4名それぞれに個性がある。Оさんはゆっくりだが丁寧にきれいに畳む。Mさんは仕事は速いが多少雑なところがある。Nさんは内気、Tさんは話好き、とそれぞれ仕事の仕方には個性がでる。皆一生懸命働いているが、時には手を抜いた仕事をする時もあるので、その時はきっちりと注意をしている。
Tさんは洗濯機や乾燥機の操作を完全に理解し、担当者が休んでも処理できる能力を持っている。前述のように、土曜・日曜・祝日も仕事があるが、Aさんが休みの日は彼らだけの2名の組み合わせで勤務ができている。
彼らの仕事で注意を払っているのは、80名分の衣料を間違いないように分け、利用者のところに届けないといけないのだが、時々間違って入所者の引き出しに入っていることがある。それを少しでも無くすための工夫もしている。それは、籠に鳥の写真を貼り、その写真と同じ写真を入所者の引き出しに貼り、それぞれを合わせてから洗濯物を入れるようにしている。
ただし、洗濯に使用する薬品関係については、担当者や介護職員のみが触れるように配慮をしているが、それ以外には、特別な取り組みをしている訳ではなく一般の職員と同じ様に仕事をしている。
彼らは、この洗濯場の仕事だけでなく、異なる部署の仕事も手伝っている。
2名は厨房での食器洗浄及び乾燥を手伝っている。食器はプラスチック中心で割れないし、怪我の心配も無い。厨房の職員が忙しくそれらのことができない時は、大変重宝している。他の2名は館内清掃を手伝っている。
4名のうち男性は男子トイレの掃除や特別養護老人ホームの部屋から出るダンボールやごみなどを集めて、施設専用のゴミ箱を台車に乗せて運ぶ仕事もしている。これらの仕事は一々指示をしなくても、自分たちの業務として作業している。
(2)聖ヨゼフホームでの取り組みの内容
聖ヨゼフホーム所属の人達の主な業務は園内の掃除と軽作業である。清掃は、掃きそうじ・窓拭き・風呂そうじである。その他に月4回墓地のトイレ掃除などがある。作業をすることによって自立性を養ってもらっている
メンバーは知的障害者7名で、内2名が重度であり、年齢も24歳から47歳まで幅広い。掃除をしていると、利用者からも「よく頑張っているね」と声が掛けられる。90歳や100歳の高齢の利用者さんから「ありがとうねぇ、みんなのお陰できれいになって気持ちがよく、とても嬉しいですよ」などと褒められる事もある。それが非常に励みになり、地域の障害者からも「ヨゼフに(仕事に)行きたい」と希望が出され、御所園にも喜ばれている。






3.取り組みの効果、今後の展望と課題
(1)取り組みの効果
サンタ・マリアでは当初、養護学校の先生からの要請があって、職場体験として受け入れ、1年間の訓練期間をまじめに従事する様子が評価され、正式採用となった4名であるが、それから永年勤務し、洗濯場の仕事をきちんとしてくれているので周りの人達とも溶け込んでいるし、何よりも当てにされている。洗濯場は、1日休むと仕事が溜まる。彼らが日曜・祝日もきちんと洗濯をしてくれるので、職員はとても頼っているし、助かっているのである。
利用者のとの接触はさほど多くは無いが、洗濯物を利用者の部屋に届ける時は、きちんと挨拶をしている。時には、利用者から『ありがとう』と声を掛けられ、嬉しいそうだ。
職員とは、洗濯物を持ってきた時に「○○さん、洗濯お願いね」「分かりました」と、良い返事で声を交わしている。勤続年数が長いので、職員の名前や勤務をよく知っていて「**さん、夜勤あけですね」と話をしている時もある。
大人しいNさんも普段は「元気か?」と声を掛けても「ハアー」とあまりしゃべらないが事務所に来て「有給休暇の紙ください」としっかり言えるようになった。入社した当初は「Mが体に当たった」「ぶつかった」と小さなトラブルが有ったが、今はそれもない。あまり会話は得意ではないが人間関係は良いし、昼食時間は洗濯場の隣の部屋でみんな一緒に食事をしている。
(2)今後の展望と課題
サンタ・マリアでは、最初に採用した2名が勤続17年になるのを初め、4名とも勤続年数が長い。介護職員や他の職員が数ヶ月で辞める者がいる中で17年も働いていることに、家族は感謝されている。家族にはお盆と年末の年2回来られる方もいるし、7月に行われる施設での祭りにボランティアとして参加くださる家族もある。
法人としては職員として、今迄以上に仕事に誇りを持って取り組んでほしいと思っている。今の仕事をそのまま、完結する形で働き続けてもらいたいと考えている。
聖ヨゼフホームでは、養護老人ホームの運営は市町村からの措置費なので、経費はきちっと決まっている。利用者の重度化は確実に進んでおり、職員数が平成18(2006)年3月には17名だったものが、現在(平成25年1月)30名となっている。しかし、時代が変わっても措置費である事務費や生活費は変らないので、運営は決して楽ではない。そのため加算の範囲でしか雇用ができない。しかし、地域の障害者雇用に協力していきたいとの思いから、相談があった時から障害者を雇用している。
現在一人当たりの勤務時間が少ないので、人数を減らして一人当たりの時間を増やしたらという声も有るが、当人たちはそう長時間働くことができないので、当面今のような形で来て貰うことと考えている。
聖ヨゼフホームは、障害者の人達の働く場、働く機会、働くチャンスを持ってもらう、そういう地域福祉貢献の場だと思っている。ただ、障害者の人達の働く場、その人らしさを発揮する場を提供するという意味から、雇用の形に拘らなくても良いのではないかとも考えている。
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