障害者雇用で会社も社員も大きく変わった
- 事業所名
- 有限会社世羅きのこ園
- 所在地
- 広島県世羅郡
- 事業内容
- 松きのこ、松なめこの栽培・収穫、廃菌床堆肥による野菜作り
- 従業員数
- 24名(パート・栽培委託者含む)
- うち障害者数
- 5名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 4 きのこ栽培作業 精神障害 1 きのこ栽培作業 - 目次

1.事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
理念 『障害者支援でなく障害者と共に地元の活性化に貢献する企業になる』
<事業計画>
① 未来の子供たちに安心安全な食品を届ける
② 環境にやさしい物作り
- 山の木を3本切るところを1本にする(菌床栽培は通常3回発生だが当社では8回から9回栽培することでセルロースを完全分解する)。きのこ栽培2年後、ミミズの養殖3年後、カブト虫・クワガタ虫の培養4年後、完熟堆肥による無農薬野菜5年以降
③ 世羅町発広島県の特産品作り
- 「松きのこ」、「松なめこ」は日本全国で唯一私共が栽培しているきのこである。
- それらのきのこの販売はもとより、これを使った加工品作りをすることでも地元の活性化につなげたい。
④ 受注生産の確立
- 要らない物作りはしない。
- どこでどんなものがどれくらいいるのか、の情報を確保する。
⑤ 障害者・高齢者・若年者と地元自治会との共有化による商品開発、販売の確立廃校舎の利用による地域の活性化を模索中である。
<世羅きのこ園グループの雇用現状(農事組合法人菜のこファームを含む)>
平成24(2012)年9月1現在、従業員24名うち、知的障害者(女性1名、男性3名)、精神障害者(男性1名)他、男性7名、女性3名、パート9名
(2)障害者雇用の経緯
① 私(筆者)と最初の障害者との出会い
平成4(1992)年4月従業員数125名、年商24億の木材製品関係の会社で、当時私は38歳だった。事務所は電話が鳴りっぱなし、現場は毎日残業で、深夜12時頃まで作業していた。入社3ヶ月の研修を終え社長室に呼ばれると、営業かばんを渡され受注獲得の仕事を指示された。入社したばかりの私はこれ以上受注するとお客様に迷惑ではと言った。社長よりそれでは如何するのかと聞かれ、私は「納期遅れゼロです!」と宣言すると、社長は即決で私を改善係に任命した。
各部署の改善調査に入ったとき、工場内の天井裏の薄暗いところで一人の知的障害者が座って紙箱折作業をしているところに遭遇した。
彼女は送迎バスの通勤で30分、山の頂上付近の自宅から通ってきていた。作業状況は製品を入れる外箱作りだったが、ある日突然作業中に発作が起こり慌てたことがあり、それを機会に彼女と話をするようになった。
腰掛けて作業するため、マイペースで自分は皆と一緒の速度では作業できないと思い込んでおり、毎日会社と自宅の往復の生活であった。
そんな中、彼女に提案をしてみた。
② 彼女との取り組み
まず、バイク免許の取得と寮に入り自炊生活を提案した。
学校とハローワークからは反対の意見が上がり、話し合いを重ねた。最終的には、「彼女は誰に一生面倒を見てもらうのか」という私の意見に、彼女が自立できるよう協力してもらうこととなり、提案は前進することとなった。
座り作業から立ち作業に移行し、箱折りから布張りの二人作業に異動し、従業員同士のコミュニケーション作りを図ったところ、皆で食事に行ったりカラオケに行くことで明るくなり自信がつき作業速度にも慣れた。
その後の様子を聞いてみると、寮生活では寮より原付バイクで通い、その後自宅からの電車通勤となり駅から原付バイクで会社に来ているとのことであった。現在、作業は箱折りに戻ったそうであるが、指示書を自分で見て段取りから全て一人でできるようになっているとのことである。
③ あの経験から20年経って
世羅きのこ園に、みどりの町障害者就業・生活支援センターから障害者雇用の話があった時は正直如何したものかと思った。事業を拡大することばかりを考えていたので、障害者のことは考えていなかった。しかし、私たちのテーマである「未来の子供たちに安心安全な食を届けたい」という想いを考えた時、それは障害のない人も障害者も同じでないといけないのでないかと考え、一度話を聞いてみようと思い後日連絡して状況等を詳しく教えてもらった。その結果、障害者の受け入れの準備としてトライアル雇用の推奨を受け実施することとした。
2.取り組みの内容
〜障害者雇用に当たって実践してきたこと〜
(1)導入までの取り組みとして
① 障害者について現状把握の徹底
- 支援センター、行政、家族の意向と方針
(本人の将来をどのように考えているのか) - 本人の意識(本当に仕事に取り組む意識を持っているのか)
② 現在の従業員に対する障害者受け入れの説明、職場のリーダー格に協力依頼
- 障害者であることの認識と協力要請(訓練期間の限定と時間の調整)
- 作業の中で障害のない人と障害者との差別と区別の排除の徹底(分け隔てなく)
- 障害のない人と障害者の作業の統一化(障害者の得手・不得手の把握と訓練の徹底、治具・工具の共通化)
③ 社内作業の分析、菌床製造工程における作業の細分化、行程の見直し
- 工程のうち単純作業が占める割合
1日の中で2時間以上になる単純作業の抽出、1週間の中で4日以上ある単純作業の抽出、1ヶ月の中で20日以上ある単純作業の抽出
(2)入社に当たって
① 支援センター、本人、家族の方々への依頼(仕事の平等)
- 会社の就業規則に則って仕事をしてもらうことを前提とするため、例外事例の排除(特別扱いはしない)の共有化
- 将来、障害者が自立できるように社会人としての指導と教育の共有化
② 雇用後の取り組み
〜Aさん(平成21(2009)年3月23日入社、知的障害B、学校卒業後の初仕事)〜
<問題点>
- 仕事とは何かが理解できていない、計算ができない、母親が送迎
- 基本的には仕事をしたくない
- 自分から進んですることはしない
- 理解していないから返事がうそになる
- 障害者を取り巻く家庭環境の問題
- 交友関係の問題(出勤せずに遊びにいく)
- 家庭環境の問題(障害者の収入に頼っている、生活保護が受けられない)
<取り組み>
Ⅰ 本人に仕事を教える為には何が必要かについての取り組み
- 通勤の為の原付免許の取得の応援を従業員全体でフォローすることによりどうしても取りたいというより「取らなくては仕事に行けない」と納得してもらい、免許の取得にチャレンジしてもらう。
- 従業員全体の焼肉パーティ、カラオケ大会、海水浴、卓球大会等を通じてみんなで一緒に楽しむことにより、何でも話ができる環境づくりを推進した。
- 基本的には仕事をしたくない胸中を察し、何かの作業で一番になれるように作業工程を見直しながらチェツクし、1年間かけて作業の中でナンバーワンに仕上げる為にみんなの協力を求めた。
- 毎日の朝礼での発声練習を3回実施する。
「おはようございます」、「いらっしゃいませ」、「ありがとうございました」
Ⅱ 本人の将来の自立の為、家族との話し合いを行い覚書を結ぶ
〜Bさん(平成21(2009)年8月17日入社、知的障害B、普通乗用車免許有り)〜
<問題点>
Ⅰ 糖尿病(トイレが近い)
半日研修中2時間に1回、1日研修中1時間に1回
Ⅱ 朝食を食べるとトイレが近くなるので食べない
Ⅲ 就寝時間(夜1時から2時)
Ⅳ 休憩時間は車の中で小説を読む
<取り組み>
Ⅰ 過去に仕事に就いて辞めた経験があるため、辞めないための作業作りと責任感の追求への取り組み
- 飽き性である(慣れるに従ってトイレ、手袋の交換が頻繁になる)
対応策としてかび取りの単純作業の継続をすることにより意識改革を徹底的に指導した。手抜きすると次の日はもっとひどくカビが氾濫してしまい、みんなに迷惑が掛かることを認識してもらうことにより仕事の重要性と、もっとひどくなるときのこが生えなくなることを理解してもらう。 - 社会人として仕事に応じて給与が支給されることを理解してもらう。
糖尿病だからトイレは近いと言い、朝から炭酸飲料を飲み30分おきにトイレに通う。お茶に変更するよう注意し注意を聞けなければ作業体系の変更をすることを伝え、トイレの回数を減らす努力をするか、作業時間の短縮をするか等、作業の内容が限られると休日が多くなり給与も少なくなることの認識をしてもらう。
Ⅱ 糖尿病の原因は家庭にあった。
ある日介護士さんより電話があり、本人の主治医より入院させなければ生命の危険があるという内容にびっくりし、その内容を教えてもらい再び驚いた。本人は糖尿病であり、インシュリンを打たなくてはならない状態だったが実行されていないのが現状であった。母親に話をしたが「自分が言っても聞いてくれない」の一点張りで、「如何することもできない」とのことであった。
支援センター、保健センター、介護士の方々と協議し、最終的には私が会社の昼休憩時間にインシュリンの注射を打ち、酢をスプーン一杯飲ませることとした。
3.取り組みの効果、今後の展望と課題
(1)取り組みの効果
① Aさん
- 6ヶ月かけて原付免許が取得できた。
- 菌床作りの中の袋折りは10秒に1枚折れるようになった。
折れるだけではなく、雑菌混入率0パーセントにまでに成長した。 - 今では大きな声で挨拶ができるようになり、作業日報を漢字を使って書き、弁当を自分で作り洗濯機で作業服を洗うようになった。また収穫量を量りに掛け合計を出して記入できるようになった。
- そして、普通車の免許も取得し、結婚し子供も生まれ、現在は子育てしながら仕事に来ている。
② Bさん
- 毎日インシュリンの注射を昼に打ち、酢をスプーン一杯飲むことにより、血糖値も下がり体調も良くなり仕事も前向きに取り組めるようになった。
- 今では彼がいなくては作業が前に向かなくなるぐらい必要不可欠になっている。


(2)今後の展望と課題
〜この3年を振り返ってみると〜
① | 信用と信頼の違いを認識し、障害者と正面から取り組むことによって障害者の心が開き、障害者にとって安心・安全な人であり、障害者の味方であることを理解してもらうことが必要であると思った。 |
② | 間違ったことをしたら、必ず何がどのように違うのか説明と共に障害者が納得するまで話をする(いくら説得しても納得しなければ同じ過ちを繰り返してしまう)。 |
③ | 障害者が社員を信頼すると、休みの日でも会社にやって来て皆に会いたいと意思表示をしている。 |
④ | 一度覚えた作業は一途な面が良い方向に作用し、手抜きをしないので良い成果が得られている。 |
⑤ | お互いの信頼関係ができ上がると、本当に忠実で誠実な作業者であり企業にとって安定した信頼できる裏切らない従業員となり、それにつれて障害のない作業者も頑張るようになり、社内雰囲気が良くなる。笑いのある会社を作り育てることで、障害のない人も明るく健康的な障害者に心がリフレッシュされ、人は皆おおらかになり人間本来の姿になるになるのだと思う。 |
最後に私は、知的障害者は障害者ではないと思えるようになった。
生活環境の中で何かのタイミングで、心が萎縮してしまい殻に閉じこもってしまった状態が続いているだけで、少し手を差し伸べて心の中に入ってあげることで何事にも前向きに取り組んでいけるようになると思う。私たちは、スローな物作りと称して100パーセント無農薬の、100パーセントリサイクル型のきのこ作りを今後も障害者を含め高齢者、若年者を問わず「未来の子供たちに安心安全な食を届ける」ために頑張りたいと思っている。
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