細やかでさりげない支援によって安定就労を目指す就労継続支援A型事業所
- 事業所名
- 社会福祉法人 山口県コロニー協会 ワークショップ・山口
- 所在地
- 山口県防府市
- 事業内容
- 障害福祉サービス事業所(印刷業)
- 従業員数
- 53名(ワークショップ・山口)
- うち障害者数
- 29名(ワークショップ・山口)
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 清掃 聴覚障害 1 印刷製造 肢体不自由 20 印刷製造、庶務保全 内部障害 2 印刷製造 知的障害 精神障害 5 印刷製造、庶務保全 - 目次

1.事業所の概要等
(1)事業所の概要
① 理念と歴史
当協会は、「私たちの誓い」として五つの項目を理念として掲げている。その一つに「働く喜び」があり、次のように謳っている。
「私たちは、さまざまな困難を乗りこえ、働く場やそれを支える暮らす場を創設し、働くことを通じて積極的に社会に参加できることを目指します。」
就労を通した社会参加に価値を置く当協会は、昭和31(1956)年に結核回復者数名で組織した任意団体として出発し、印刷事業等を開始した。昭和33(1958)年に社団法人としての認可を受け、印刷事業を展開させながら、従業員の宿舎などの建設にも力を入れていった。昭和40(1965)年に社会福祉法人としての認可を受け、身体障害者を対象とした授産活動を本格的に開始し、印刷事業の規模を拡大していった。印刷事業での雇用は昭和47(1972)年4月に身体障害者福祉法に基づく身体障害者福祉工場(現在の「ワークショップ・山口」)を開設したことから始まる。また、平成18(2006)年4月に障害者自立支援法が施行されたことを機に、当協会はこれまでの身体障害者に加え、精神障害者の雇用も開始した。

② 当協会の構成組織
当協会は、障害者自立支援法に基づく指定障害福祉サービス事業である「ワークショップ・山口」(就労継続支援A型及び就労継続支援B型)、同じく指定障害福祉サービス事業である「山口コロニーキャンパス」(就労継続支援B型)、指定障害者支援施設である「山口コロニーワークセンター」(就労移行支援、自立訓練・生活訓練、生活介護、施設入所支援)の三組織で構成されている。
本稿では、「ワークショップ・山口」(就労継続支援A型)における障害者雇用について紹介する。「ワークショップ・山口」は印刷業に取り組む事業所として、地域からは「コロニー印刷」の名称で親しまれている。
(2)精神障害者と身体障害者の雇用
「ワークショップ・山口」で障害者雇用を担当しておられる次長の小方教史氏と、当協会総務課課長の新山王(しんざんおう)氏に話を伺った。

① 精神障害者の雇用
「当協会は長年、身体障害者を雇用の対象としてきましたが、障害者自立支援法の施行を機に、精神障害がおありの方の受け入れも本格的に開始することにしました。当協会も参加した合同就職面接会には、精神障害がおありの方が14名来られ、面接などを通し、最終的に3名を採用としました」と新山王課長は精神障害者との出会いを語る。
「でも当初は、精神障害がおありの方にどう接すれば良いのか、私たちには正直よくわかりませんでした。この3名のうちの1名は、現在も当協会で勤務しておられますが、残る2名は残念ながら仕事にうまく適応できず、その後退社されました。退社された方の1名は、勤務中に生まれた空き時間をどう過ごせばよいか不安になってしまう方であり、とても生真面目な方でした。もう1名は、仕事への緊張のために手先が震えて機械操作が困難になった方でした。後者については、早めに製品保全の部署などに異動させればよかったと今思います」と小方次長は痛い思い出を振り返る。
その後、精神障害者が4名入社したことにより、現時点(平成24(2012)年12月現在)での精神障害者は計5名となった。
② 身体障害者の雇用
当協会は長年、身体障害者を雇用対象としてきた歴史をもつ。
「ワークショップ・山口」では、精神障害者5名とともに、現時点で身体障害者24名(内訳:肢体不自由20名、視覚障害1名、聴覚障害1名、内部障害2名)が勤務している。
2.取り組みの内容(働く従業員への支援)
障害のある従業員29名のうち、精神障害者3名と身体障害者3名への支援の様子を紹介しよう。
(1)精神障害のある従業員への支援
① Aさん(精神障害者保健福祉手帳2級)
Aさんは、防府市内の自宅から自家用車で通勤している。
Aさんは県外の短期大学を卒業後、一般企業に就職した。
その後、山口県内の高等職業訓練校で学び、県内の企業で働いた後、合同就職面接会を縁に「ワークショップ・山口」に入社した。現在は、事務局のデスクで勤務している。
Aさんは体調を保つため、保健師や障害者就業・生活支援センターとの密接なつながりのもとで、今も定期的な服薬を継続している。
Aさんへの支援について、新山王課長から三点伺った。
(a) | 「通常は"ささいなこと"に思われるような内容でも、Aさんにとっては大きな心配事になる場合があります。例えば、Aさんがふと体調不良を感じ、通院したい旨の要望を出せば、私どもはそれを許可するようにしています。通院するということが、結果的にご本人の安心につながるからです。」 本人が信頼する人や機関とのつながりを尊重しながらAさんに対応することが、Aさんの安定就労につながっていることが伺える。 |
(b) | 「仕事量が急に増えたり、複数の仕事が重なったりすると、Aさんの心身は不安定になります。それゆえ、増やす必要のあるときには、少しずつ増やしていくよう配慮しています。」 過度な精神的プレッシャーを与えることなく、Aさんにとって対応可能なレベルから仕事量を徐々に増やしていくことも、Aさんの安定就労につながっていることが伺える。 |
(c) | 「露骨に配慮すると、Aさんもそれを気にしますので、そこにさりげなさも必要ですね。」 Aさんに向け、細やかでいて、同時にさりげない対応が職場でなされていることが伺える。この点もAさんへの配慮となっている。 |

② Bさん(精神障害者保健福祉手帳2級)
Bさんは、防府市内の自宅から自家用車で通勤している。Bさんは県外の大学を卒業後、一般企業での勤務中に発病し、山口県内の障害者支援施設を経て「ワークショップ・山口」に入社した。
Bさんには、仕事の出来具合について、必要以上に確認しようとする生真面目な傾向がある。そのため、大型の印刷機械等を扱うことには困難な面がある。現在、Bさんは印刷業務の最終工程を担う部署「仕上係」で、資料をホッチキスで綴じる作業や、丁合作業などに従事している。BさんもAさんと同じく、定期的な服薬を継続している。
Bさんへの支援について、小方次長から二点伺った。
(a) | 「Bさんには体調に波があります。不調のときには、周囲の従業員は意識してやわらかな言葉でBさんに語りかけるようにしています。」 心身が不調の時には、自信を喪失しがちになる。そのため、周囲が柔和な態度(言動)でBさんに接しようとしていることが、Bさんの体調の回復と能力の発揮につながっていると思われる。 |
(b) | 「昼食時には、Bさんと一緒にお弁当を食べようと周囲が気を遣った時期があるのですが、Bさんは"一人で食べたい"という様子だったので、今は食事場面ではあまり気を遣わないようにしています。」 精神に障害のない人にとっては、周囲の従業員と一緒に食事したり談笑したりすることが休息になるが、精神障害者の場合にはこれがかえって負担になる場合がある。Bさんなりの休息の仕方を周囲が尊重していることが、Bさんの心身の安定につながっていると思われる。 なおBさんにはエレキギター演奏の趣味があり、現在、従業員仲間とバンドを組んでいる。メンバーとしては、Bさん、そして身体障害のある従業員3名、障害のない従業員1名の計5名である。月2回、仕事が終了した夕刻より、当協会内の多目的ホールで練習が始まる。協会内で開催されるイベント(クリスマス会など)に出演するため、その練習には熱がこもる。仕事に真摯に取り組み続けるBさんの心を、音楽が和ませている。仕事と趣味の両立は、Bさんの就労生活に大きな意義を有していると思われる。 |


③ Cさん(精神障害者保健福祉手帳3級)
Cさんは、防府市内の自宅から自家用車で通勤している。
Cさんは県外の高等学校を卒業後、キャリアデザイン専門学校で情報処理技術を学んだ。その後、市役所等での就労を経て「ワークショップ・山口」に入社した。現在、部署「製作1係」で校正一筋の日々を送っている。
CさんもAさんBさんと同じく、定期的な服薬を継続しているが、体調にあまり大きな波のないCさんは、入社後の努力により、校正の技能をぐんと上達させた。
ただ、季節の変わり目には不調傾向が見受けられることもあるので、そうした時に周囲の従業員は、Bさんの場合と同じように意識してやわらかな言葉でCさんに語りかけるようにしている。


(2)身体障害のある従業員への支援
小方次長は「身体障害のある従業員に向けて、特に支援らしい支援はしていないのですが・・・」と控えめに語る。この言葉から、身体障害のある従業員も職場で自然に受け入れられ、定着している様子が伺える。
① Dさん(両上肢障害・身体障害者手帳4級)
Dさんは、防府市内の自宅から自家用車で通勤している。
Dさんは脳性麻痺により、両上肢に障害を負った。山口県内の高等学校を卒業後、高等職業訓練校で学び、「ワークショップ・山口」に入社した。電気工事士の資格を有するDさんは現在、部署「印刷係」で大型の印刷機械を操作している。上肢障害を感じさせない程の円滑な身のこなしで、Dさんは印刷機械を調整し、指先で液晶画面に入力し、始動スイッチを入れる。入社して四半世紀を迎えたDさんは、現在12名の従業員を有する印刷係の係長のポストにある。12名のうち、6名が障害者、6名が障害のない従業員である。部下を指導しながら、同時に自身のノルマを果たさねばならない責任のあるDさんである。
係長を支えるポストである主任(1名)が現在Dさんの業務を支えているが、自身の業務をテキパキこなし、同時に係長として部下を指導するDさんの姿は、おそらく部下にとっての憧れであろう。こうした憧れは、働く動機づけにもつながっていると推測される。


② Eさん(左上下肢障害・身体障害者手帳1級)
Eさんは、当協会内にある寮から通勤している。
Eさんは県外の高等学校を卒業後、県内の大学で学び、その後、一般企業での就労を経て「ワークショップ・山口」に入社した。現在、部署「製作3係」で、右手を使ってパソコンのマウスを操作し、印刷用データの製作に取り組んでいる。Eさんの手で、年賀ハガキ、各種研究紀要、パンフレットなどが次々とでき上がる。
入社して20年以上の経験を積んだEさんは、現在6名の従業員を有する製作3係の係長のポストにある。6名全員が障害者である。自身の作業を進めながら部下を指導する立場にあるEさんには、これまで時間的な余裕が少なかったため、平成25(2013)年4月より、Eさんを支える主任(1名)のポストが設けられる予定である。前述した印刷係長のDさんと同じく、係長として部下を指導するEさんの姿は、部下にとっての憧れであり、働く動機づけにもつながっていると推測される。


③ Fさん(右上肢障害・身体障害者手帳5級判定)
Fさんは、山口市内の自宅から自家用車(左上肢で操作できる改造車)で通勤している。
Fさんは県外の高等学校を卒業し、一般企業に就職後、交通事故で右上肢に障害を負った。その後、県外の障害者職業能力開発校で商業デザインの技術を1年間学び、合同就職面接会を縁に「ワークショップ・山口」に入社した。現在、係長Eさんの働く部署「製作3係」のオフィスで、左手を使ってパソコンのマウスを操作しつつ、印刷用データの製作に取り組んでいる。Fさんの手で、各種研究紀要、パンフレット、チラシなどが次々と出来上がる。
人格円満のFさんは、誰からも信頼されている。また努力家でもあるFさんは、平成24(2012)年開催の第33回全国障害者技能競技大会(長野大会)の技能競技種目「DTP」(印刷データの製作)に山口県代表として出場し、その実力を存分に発揮した。

3.まとめ
(1)細やかでさりげない支援
「ワークショップ・山口」では、精神障害のある従業員と身体障害のある従業員が、全従業員数の半数を超えている。特に、近年雇用を開始した精神障害者への支援について、「ワークショップ・山口」はそのノウハウを蓄積しつつある。
精神障害者には、いわゆる生真面目な人が少なくない。そのため、日々のストレスをうまくコントロールできないことがある。また、懸命に仕事を続ける反面、適切に休むことができずに疲労を蓄積させるといった面もある。一人ひとりに個人差があるので、本人や関係機関と連携をとりつつ対応の仕方を個別に検討しなければならないであろうが、そこに、細やかさとさりげない配慮が必要とされよう。
(2)自分自身の人生
障害がおありの皆さんは、「ワークショップ・山口」からの細やかでさりげない支援のもとで、それぞれの部署で今日も勤務している。その働く後ろ姿からは、就労を通して生活する喜びとともに、社会参加していることの誇りも伝わってくる。
障害の有無にかかわらず、人は皆、その持てる力をこの社会で発揮し、社会参加したいと願っている。
社会福祉法人山口県コロニー協会の「ワークショップ・山口」は、「私たちの誓い」のなかで謳う「働くことを通じて積極的に社会に参加する」という理念の実現に向け、就労継続支援A型事業所としての社会的責任を果たしていく経営を今日も続けている。
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