障害者雇用を推進させることで高齢者介護福祉サービスの質を高めている事業所
- 事業所名
- 社会福祉法人 萩市社会福祉事業団
- 所在地
- 山口県萩市
- 事業内容
- 介護保険サービス事業 受託事業 障害福祉サービス事業
- 従業員数
- 418名
- うち障害者数
- 11名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 5 清掃・介護・介護補助 肢体不自由 2 看護・相談員 内部障害 知的障害 精神障害 4 清掃 - 目次

「萩・福祉複合施設かがやき」外観
1.事業所の概要等
(1)理念と構成組織
萩市は、平成17(2005)年の町村合併によって広域化し(総面積699平方キロに)、山口県内で4番目に面積の広い市となった。また、同市の高齢化率は33%を越え、3人に1人が65歳以上の高齢者である。それゆえに市内広域に生活している高齢者への支援は、同市にとって焦眉の急となっている。
社会福祉法人萩市社会福祉事業団は、萩市に平成16(2004)年に設立された。「誰もが住み慣れた地域で、いつまでも安心して暮らせるような地域社会づくり」を理念に、日本海の離島を含めた市内全域に全10の施設を設置し、高齢者介護福祉サービスを鋭意展開している。
設置している施設は、施設名で「萩・福祉複合施設かがやき」「萩市楽々園」「萩市中津江・福祉複合施設なごみ」「萩市無田ケ原口・福祉複合施設おとずれ」「萩市須佐・福祉複合施設やまびこ」「萩市見島ふれあいセンター」「小規模デイホーム朝陽の家」「田万川うたたね」「萩市指月園」「萩市救護所」がある。
法人本部は萩市大字椿にあり、これら10の施設の一つである「萩・福祉複合施設かがやき」がこの本部に併設されている。本稿では、この「萩・福祉複合施設かがやき」(以下「かがやき」という。)における障害者雇用を中心に紹介する。「かがやき」は、萩市民病院に隣接し、そのシックなたたずまいは萩の町並みに静かに調和している。
(2)障害者雇用の実績
当事業団で障害者支援に携わっておられる事務局係長の的場望氏と、事務局の原まり子氏に話を伺った。お二人とも障害者職業生活相談員の資格を取得している。
的場係長は主に精神障害のある従業員への相談にあたり、原氏は当事業団に勤務する前から手話を学んでいたという実績から、主に聴覚障害のある従業員への相談にあたっている。
当事業団には計11名の障害者が就労し(平成25(2013)年1月現在)、そのうち「かがやき」には身体障害者(聴覚障害)4名と精神障害者4名の計8名が配置されている。その8名のうち3名は、曜日によって他施設の業務も兼任している。聴覚障害のある従業員は主に洗濯業務と清掃業務、精神障害のある従業員は主に清掃業務に従事している。
「当事業団は平成16(2004)年に設立され、活動を開始しましたが、その時点から聴覚障害のある従業員を雇用していました」と的場係長は語る。障害者雇用への取り組みは、当事業団として設立当初から開始されていた。

事務局の原まり子氏
2.取り組みの内容(従業員に対する支援の内容)
(1)従業員に対する共通した支援の内容
「かがやき」で働く身体障害者(聴覚障害)4名と精神障害者4名に対する共通した支援の内容を紹介しよう。
① 身体障害者(聴覚障害)と精神障害者の全員に対する共通した支援
仕事上あるいは生活上の悩みが従業員に生じた場合、それを早く察知し対応する必要がある。そこで当事業団では、必要がある従業員には毎月1回、その他の従業員には随時、悩みなどを含めながら自由に語ることのできる日を設けている。障害のある人はその障害ゆえ、必要な情報に十分に接することができなかったり、意思疎通に困難が生じやすい。それゆえ、こうした日の設定は、悩みへの早期対応につながり、ひいては安定就労を促進させる上で大きな意義があるといえよう。
② 身体障害者(聴覚障害)に対する共通した支援
- 手話ワンポイントレッスンの実施
当事業団の事務局では、聴覚障害のある従業員と障害のない職員が円滑に意思疎通を図ることができるよう、週2回(火曜日と木曜日)、約5分間、手話ワンポイントレッスンを実施している。職場で必要とされる事柄を手話で表現する講習会である。こうしたレッスンの実施により、積極的に手話でコミュニケーションを図ろうとする姿勢が生まれた。また、職員の中には、聴覚障害者と接することで自発的に手話を学び始める人もいる。障害のある従業員にとっては職場への信頼につながり、ひいては安定就労の促進が期待できよう。
- パトランプの設置
火事などの緊急時には、パトランプの点滅は大きな威力を発揮する。それゆえ、当事業団は従業員が勤務する部屋(洗濯室など)の壁にこのランプを設置した。迅速に避難するための必須の設備である。この設置費用については、障害者雇用納付金制度に基づく助成金が活用された。
洗濯室の壁に設置されたパトランプ - 入室センサーと発光ランプの設置
勤務する部屋(洗濯室など)に誰かが入室した時、聴覚障害のある従業員はそれを音で感知することが困難である。そこで、当事業団は部屋入口のほぼ真上の天井にセンサーを設置し、人の入室をランプの発光で従業員に知らせるよう配慮した。
入室センサー(入口真上の白い円形物)と発光ランプ(パトランプの右隣の円形物) - 多用な意思疎通手段の用意
「かがやき」では、聴覚障害のある従業員にとっての意思疎通手段は筆談か口話(相手の口の動きから言葉を読み取る)が中心となっている。そこで、勤務する部屋(洗濯室など)には筆談用としてホワイトボードとペンが用意されているが、筆談・口話で話しが伝わらない場合には、お互いの話しの内容を伝えるため、手話通訳を原氏が行う。
(2)従業員に対する個別支援の内容
「かがやき」で働く身体障害者(聴覚障害)4名と精神障害者4名に対する個別支援の内容をそれぞれ紹介しよう。
① 身体障害(聴覚障害)のある従業員への個別支援
- Aさん(聴覚障害・身体障害者手帳2級)
Aさんは、萩市内の自宅からバスで通勤する女性である。「かがやき」の設立当初から就労し、常勤の従業員として洗濯の業務を担っている。洗濯するのは「かがやき」の利用者(入所している高齢者、デイサービスに通う高齢者)が使用した衣服、バスタオルなどである。
Aさんは少しではあるが音声で自身の意思を伝えることができる。しかし補聴器を着用しても相手の音声を聞き取ることが困難なAさんにとって、職員との意思疎通の手段は、やはり口話か筆談が中心となる。ここで、周囲からの配慮を紹介しよう。
まず、職場では衛生管理上、職員はマスクを着用しているため、Aさんは相手の口の動きを読み取ることができない。そこで、相手はマスクを外して口の動きを見せながらゆっくりAさんと話すよう配慮している。続いて、筆談をする場合、Aさんは文の読み取りが得意ではないため、その内容が十分に理解できないことがある。そのような時には、原氏が手話を用いつつ、内容の正確な理解が行われているか確認している。
聴覚障害のある従業員は、必要な情報が十分に入らぬ場合、思い違いや誤解の生じることがある。そのため、情報の確かな伝達と正確な理解を促す配慮が職場で必要とされる。
洗濯業務にとりくむAさん(左) - Bさん(聴覚障害・身体障害者手帳2級)
BさんとAさんの二人は姉妹であり、Bさん(妹)も萩市内の自宅からバスで通勤している。Aさんと同じく「かがやき」の設立当初から就労し、常勤の従業員として、洗濯の業務を担っている。
BさんもAさん同様、補聴器を着用しても音声を聞き取ることは困難である。Bさんは、少しではあるが音声で自身の意思を伝えることができる。Bさんにとって、職員との意思疎通の手段は口話か筆談が中心となるため、前述したAさんと同様、きめ細かな支援が職場内で実施されている。
洗濯業務にとりくむBさん - Cさん(聴覚障害・身体障害者手帳1級)
Cさんは、萩市内の自宅からバスで通勤する女性である。公共職業安定所を通して「かがやき」に就職した。1日5時間(週5日)の短時間勤務の従業員として、清掃(廊下、トイレ、居室)の業務を担っている。明朗な性格である。必要な情報が十分に入らぬ場合、職員間で思い違いや誤解の生じていることがある。こうした時には、原氏が手話で通訳し、内容の正確な理解が行われているか確認している。
清掃業務にとりくむCさん - Dさん(聴覚障害・身体障害者手帳1級)
Dさんは、萩市内の自宅から自家用車で通勤する女性である。前述のCさんと同じく、公共職業安定所を通して「かがやき」に就職した。1日5時間(週5日)の短時間勤務の従業員として、清掃(廊下、トイレ、居室)の業務を担っている。職場の行事(忘年会など)にもよく出席する社交的な従業員の一人である。情報の確かな伝達と正確な理解への配慮があれば、仕事内容を自ら判断し、進めていくことのできる従業員であり、仕事に関しての問題は特に生じていない。
清掃業務にとりくむDさん
② 精神障害のある従業員への個別支援
- Eさん(精神障害者保健福祉手帳3級)
Eさんは、萩市内の自宅から自転車もしくはバスで通勤する男性である。1日最長6時間(週5日)の短時間勤務の従業員として、清掃(廊下、トイレ)の業務を担っている。
「かがやき」では以前、清掃業務を外部に委託していたが、障害者雇用を展開する方針のもと、萩市内にある障害者就業・生活支援センターに清掃業務を担える人材の推薦を依頼してみたところ、推薦された一人がこのEさんである。
Eさんの業務には、ポリッシャー等を使用する廊下清掃が含まれている。館内の廊下は清掃中でも通行者(利用者や職員など)が頻繁に行き来するが、こうした時にも通行者が支障なく歩けるよう配慮ができる人として、Eさんは当センターから推薦された。その後、「かがやき」に就職するまでにEさんは1年間(週2回各2時間)の実習を通し、清掃手順(ポリッシャー等の扱いを含む)を習得した。
館内の廊下は、かなりの長さと幅がある。うっかりすると磨き残しが生じる可能性もある。そこで、廊下の突き当たりの壁面下部に、ポリッシャーの横幅間隔で白印を横並びに貼り、ポリッシャーを効率よく直進させる目印にした時期もあったが、今は必要なくなった。
ポリッシャー壁面下部に等間隔に貼られた白印清掃業務にとりくむEさん - Fさん(精神障害者保健福祉手帳2級)
Fさんは、萩市内の自宅から自家用車で通勤する女性である。1日2時間(週2日)の短時間勤務の従業員として、清掃(廊下)の業務を担っている。Fさんはかつて他の事業所で医療事務を経験したこともある。
当事業団はFさんと前述のEさんとをペアで、ポリッシャー等を使用する廊下清掃業務に配置した。FさんはEさんに清掃の方法をアドバイスするなど、高い能力を発揮する。そのため、当事業団では、業務を増やすことを検討し、部屋などの清掃業務(1日3時間(週3日))を追加した。しかし、この清掃は一人での作業であり、作業中は他の職員との関わりがなく、Fさんは孤独感にさいなまれるようになった。結果、この業務については中止し、以前からの清掃業務のみを行うことにした。Fさんは、Eさんとペアで清掃を行い、少しでも話しを聞いてもらうことで気が楽になるという。Eさん、Fさん共に、お互いの存在感が大きいと言えるだろう。
Fさんは、Eさんと同様、障害者就業・生活支援センターから推薦された一人であり、当センターとFさんとは今もつながりがある。そのため、就業等に関する問題や悩みなどの相談は、当センターのスタッフと事業団の職員とで連携しながら解決している。こうしたつながりのあることも、Fさんにとっては心強い支えとなっている。
なお、Fさんの労働時間に関して、当事業団としては雇用率にカウントされないことは認識しながらも、Fさんにとって就労を通して社会とのつながりを保つことが重要だと捉え、今後も継続して雇用することとしている。
清掃業務にとりくむFさん - Gさん(精神障害者保健福祉手帳2級)
Gさんは、萩市内の自宅から自家用車で通勤する女性である。1日5時間(週5日)の短時間勤務の従業員として、清掃(廊下、トイレ、居室)の業務を担っている。
Gさんは仕事柄、利用者と接することが多い。それゆえに利用者とコミュニケーションを取りたいとの思いで、自発的に介護の勉強を行い資格を取得した。
Gさんは精神障害者の委託訓練制度を使って「かがやき」に就職した。
仕事を自分の力で進めていくことのできる従業員である。以前より、事業所の行事には積極的で、職員間で構成する「互助会」の宿泊を伴う旅行への参加もあり、自らコミュニケーションを図っている。
清掃業務にとりくむGさん - Hさん(精神障害者保健福祉手帳3級)
Hさんは、萩市内の自宅から自家用車で通勤する男性である。1日5時間(週5日)の短時間勤務の従業員として、清掃(廊下、トイレ、居室)の仕事を担っている。また、HさんもGさんと同様、精神障害者の委託訓練制度を使って「かがやき」に就職した。
真面目な性格のHさんは就労当初、同僚とのコミュニケーションがうまくとれないことで対人関係に課題を抱えていた。そこで、当事業団はHさんの清掃場所を別な階に転換させたところ、Hさんは落ち着いて仕事に取り組めるようになった。一時的に調子の落ち込むこともあるが、上司がHさんの悩みを聞くなどして、適宜きめ細かく対応している。
最近では、事業所の忘年会、新年会等の行事にも積極的に参加し、コミュニケーションが取れるようになってきた。
3.まとめ(障害者雇用の推進と福祉サービスの質の向上)
当事業団にも、毎年春に新しい職員が入ってくる。なかには、当事業団が障害者雇用を実施していることを知らぬ人が含まれていることもある。そこで、この職場に障害のある人が働いているということとその人たちへの配慮事項を記載した啓発プリント(1枚)を新しい職員全員に配布し、説明を加えている。こうした取り組みを真摯に進めつつ、障害者雇用を推進させた結果、当事業団の障害者雇用率は法定雇用率としての1.8%を大きく上回る3.1%に達した(平成24(2012)年6月現在)。
「もし障害がおありの方が退職されるようなことがあっても、その後任に障害がおありの方に来ていただきたいと私は思っています」と的場係長は朗らかに語る。
当事業団は、高齢者介護福祉サービスを日々展開しているが、この福祉サービスの基本は、一人一人の利用者をかけがいのない大切な存在として尊重し、自身の知識と技術の向上に努め、良心と愛情をもって接する姿勢にあるといえよう。
障害のある従業員と接するようになってから、周囲の職員がこれまで以上にやさしくなり、気配りするようになったという事例が、これまで全国の数多くの事業所から報告されている。当事業団も、障害者雇用を推進させる取り組みを通し、結果として高齢者介護福祉サービスの質を着実に高めていることと思われる。
障害のある人にとって、就労は究極の社会参加である。社会福祉法人萩市社会福祉事業団は、障害者雇用を推進させつつ、「誰もが住み慣れた地域で、いつまでも安心して暮らせるような地域社会づくり」という理念の実現に向けた経営を今日も続けている。
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