造船不況時の職域開発が障害者雇用を実現
- 事業所名
- カワサキテクノウェーブ株式会社
- 所在地
- 香川県坂出市
- 事業内容
- 船舶・海洋構造物、鉄鋼構造物及びパイプ等各部品の設計・加工・製作、工場設備保全業務、クリーニング業務 他
- 従業員数
- 241名
- うち障害者数
- 5名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 1 事務職 内部障害 知的障害 3 生産職 精神障害 1 生産職 - 目次

1.事業所概要、障害者雇用の背景
(1)事業所の概要
本州と四国を結ぶ瀬戸大橋のたもとに広がる工場地帯に位置する当社は、船舶・海洋構造物、鉄鋼構造物およびパイプ等各部品の設計・加工・製作を中心にその他多種多様のサービスを業務としている。
昭和50(1975)年10月に「川重神戸サービス株式会社」が坂出営業所を開設、昭和59(1984)年に坂出営業所が「川重坂出サービス株式会社」として分離独立した後、平成21(2009)年「カワサキテクノウェーブ株式会社」に社名変更した。
当社は主に船舶構造部材及び艤装品の加工業務を行っていたが、造船不況時に雇用確保のため不況を乗り切る策はないかと試行錯誤した結果、「布団丸洗いクリーニング」に注目し、昭和62(1987)年にクリーニング業の資格を取得し、現在に至っている。また、特許を取得したマットレスの洗浄脱水機及び乾燥機の製造販売業務も行っている。
(2)障害者雇用の背景
当社での障害者雇用は、関連会社から派遣されてきた人が偶然にも知的障害者であったことがきっかけとなる。当該障害者の挨拶がとても気持ち良く好印象であったことや、教える仕事に対してまじめに取組み、気を抜くことなく一生懸命働く姿を目の当たりにした社員の誰もが障害者雇用に対して否定的にならなかった。
その2~3年後には、「障害者雇用は企業の社会的責任」との理念の下、特別支援学校生徒を中心に職場実習の受入れを経て採用をするようになっていった。雇入れ後は学校側からの長期に渡るフォローもあり、職場定着を実現している。
2.障害者の業務内容
当社の事業内容は川崎重工業に関連する業務を中心としているわけであるが、大きく船舶構造部材製造等を担う「製造部」、船舶建造用原材料・貯蔵品及び購入品の保管管理並びに集配等を担う「材管部」、各種機械・器具・機材の修理点検、土木・建築・各種施設保全等を担う「整備部」及び総務・管理・売店等を管理する「業務部」に分類される。
その中で障害者の携わっている部署は、布団・マットレス等の洗濯を中心とした「材管部」内のリフレッシュグループと「整備部」である。現在は当社に勤務する知的障害者3名のうちの2名が「材管部」に、もう1名は「整備部」に配置されている。初めて知的障害者を受入れた時にマッチングした部署(材管部)での配置が望ましいと考え、以後の知的障害者も同様に同部署へ配置しようとしたが、それぞれの障害特性や性格から必ずしもマッチングするものではないことを肌で感じ、結果として材管部以外の部署(整備部)を加えた2つの部署で、以下に掲げる業務内容となっている。
(1)布団・マットレス洗浄業務(材管部リフレッシュグループ)
布団を丸洗いする一連の流れは、布団の回収又は持込みによる引取りがなされた後、①受注検査 ②シミ抜き ③前処理 ④洗浄・脱水 ⑤熱風乾燥 ⑥復元・仕上げ ⑦検査・納品 ⑧配達である。配置する2名の業務については次のとおりである。
Ⅰ Aさん
知的障害者Aさんは、主に①の受注検査と②のシミ抜き作業を担当する。①の受注検査はお客様から受注後、側地(布団の羽毛等詰め物を包んでいる布地)の傷みやほつれ、とじ具合やシミの汚れを点検し、傷みに対しては補強を行う。②のシミ抜き作業はシミの種類と程度によっていろいろな溶剤を使用し、シミ抜きを行う。シミには落ちにくいものもあり、シミの種類によって2、3種類の薬品を使い分けるが、その判断をAさんが行っている。
シミの見落としがないように注意するほか、シミを落とす溶剤や程度もシミの種類によって変わることから、かなり高度な知識と技術を必要とする。
また、生真面目さが無いとできない職務であるし、わずかでもシミを残すわけにいかない大変さがある。落とすことが困難なシミは他の社員に報告し、どのようにして落とすかを一緒に調べるわけであるが、コミュニケーションもしっかり取れ、協調性を持って行動できている。
この部署にAさんを配置した理由は他にもある。一つは車の普通免許を取得していること、二つは計数作業が可能なことであった。布団の引取りは車で回収に行く場合と直接お客様が持ち込む場合があるが、配置当初は業務主担当者に同行して布団の引取りをしていた。これにより接客が身に付き、受付を含む検品作業もできるようになり、⑦の検査・納品、⑧の配達も担当できるようになった。現在では工程管理も任され、近隣の集配業務は一人で行えるほどに成長している。
Ⅱ Bさん
知的障害者Bさんは、主に②のシミ抜き、③の前処理及び④の洗浄・脱水を担当する。②のシミ抜き及び③の前処理は洗剤を吹き付けて綿の中まで均等に染み込ませ同時に側地をブラシで洗う。シミを見つけて少しずつ丁寧に落としていく作業であるが、純粋な性格でコツコツと働くBさんにはマッチしていた。しかし、シミを落とすということは側地を摩擦するため、細心の注意を払わないと破るおそれがある。Bさんは純粋でまっすぐな性格であるがゆえ、シミが完全に落ちるまで丁寧に落そうとすることで、配置当初は預かった品物を傷つけてしまうこともあった。対策として、シミの程度は他の社員が判断して、破ることのないものを洗浄させることにした。
④の洗浄・脱水は、布団類に水を吹き付け、遠心力を利用して、中綿の汚れやほこり、塩分をきれいに洗い流す。その後脱水機で脱水する。洗浄作業で水を吸収した布団類はかなりの重量になる。しかし、水をかけて作業しているBさんの姿を見ると重さを感じさせないほど軽々と器用に裏返す。Bさんは、この部署でかかせない人材となっている。

(2)命名式典準備等及び施設整備業務(整備部)に配置転換したCさん
当社で最初に障害者を受入れてから2〜3年後に知的障害者Cさんを特別支援学校からの実習を経て、材管部に配置した。しかし実際の業務では指示通りに動けず、またコミュニケーションもうまく取れなかったため、同部内における業務継続が難しい状況になった。Cさんが指示を受けて一人で作業に取組むことが苦手であることに気付いた当社の責任者は、解決策として配置後間もなく材管部から整備部へ異動させることとした。
整備部では手すりの錆を落としてからペンで塗装する作業及び船の命名式の式典準備などを担当している。船と簡単に言っても巨大船であり、式典ではステージ作りをするために必要な、1枚が18メートルある紅白幕を大量に用意する。整備部の作業は1人でするのではなく2〜3人のグループ作業が多いことから、1人での作業を任される洗浄作業とは違って問題なく業務を遂行できており、適材適所の配置となっている。
3.取組み内容と効果、今後の課題と展望
(1)取組み内容と効果
当社において一番長く勤務するBさんは、平成24(2012)年現在で雇用されて13年になる。
今では他の2名も含め、素晴らしい働きぶりであるが、雇用した当時に問題がなかったわけではない。大事なことは、作業は何度も覚えるまで教え続けることであるという。当社の場合は、実際に作業をしているところを目で覚えさせてから身体で覚えさせることに重点を置いた。担当者は根気よく作業を繰り返し、指導していった。なかなかうまくいかないことも多かったが、一度覚えたことは忘れることはないと知り、担当者の本来業務を後回しにしてでも、やりがいを持って業務指導に没頭したという。
特にシミ抜きなどに使う薬品の取扱いについては、薄める液の分量を「ここまで計量カップに入れる」というように丁寧に身体に染みつくように教え込んだ。時には布団の側地が破れてしまうこともあったが、誰がやっても起こり得ることであるし、リスクが少し高いだけであり、周りが注意すればすむことであると考えた。
結果として、担当者の思いに答えるように障害者は業務を身につけていき、現在の職場定着につながり、彼らは当社にとって貴重な存在へと成長してきた。
また、自分から休むとは言わないし決してサボることがないことから、特に夏場の作業時に必要な水分補給や体調管理については周囲が常に気にかけている。
Bさんに、「仕事はどうか」と尋ねると、「仕事は楽しいし、やりやすい。苦労も感じない。周りの方々も優しい」と答えた。彼らの素直で純粋な人間性と一生懸命さが担当者の根気を生み、周囲の従業員達も温かく見守る。そんなアットホームな職場環境が成立したことが大きな効果であると感じる。
(2)今後の課題と展望
当社で雇用されている障害者は知的障害者だけではなく中途障害者も2名在籍している。中途障害者に対しては本人と相談のうえ、体に負担のないよう短時間勤務への変更などの配慮も行われてきた。
賃金面では、他の社員と障害者とを特に区別することなく、同様に賞与や昇給もあり、家族から喜びの声を聞いているという。
平成23(2011)年度にはBさんは独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長努力賞を受賞した。Bさんから「昨年の表彰はとても嬉しかった」と直接聞くことができた。他にもこちらからの質問に対して全く悩むことなく答えが返ってくる。これも長期にわたり同社に勤務することで、コミュニケーションの取り方が培われている。周囲の理解と渾身の努力があれば、全ての面で確実に成長するものである。
当社の布団洗浄業務の現状は、安価な布団販売が増えているため、洗浄よりは買替えを選ぶといった客も増え、景気としては厳しい状態にあるという。今後、障害者の新規雇用は難しい状況にあるが、かつて造船不況を乗り切った時と同様に、業務開拓や技術改革などにより、新たな障害者雇用に繋がる時が来ると感じられる事業所であった。
執筆者: | 香川高齢・障害者雇用支援センター |
障害者助成金等担当相談員 影山 孝美 |
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