「やりたい」意志を尊重し能力アップさせ
売り場に出た障害者達が社員の意識の向上を図る立役者となった
- 事業所名
- 西村ジョイ株式会社
- 所在地
- 香川県高松市
- 事業内容
- ホームセンター事業・リフォーム事業 他
- 従業員数
- 526名
- うち障害者数
- 16名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 1 レジ係(水道・配管部門) 肢体不自由 2 塗料品部門全般、事務担当 内部障害 4 灯油部門全般 知的障害 5 検品・バンドル作業・商品出し等 精神障害 4 検品・バンドル作業・商品出し等 - 目次

1.事業所概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所概要
昭和50(1975)年に香川県初のDIY専門店としてDIYジョイ高松店をオープン、平成元(1989)年に社名変更し、現在は西村ジョイ株式会社として、香川県内に7店舗、他に愛媛県、広島県、山口県で4店舗を営業する。またグループ企業として内地木材・建材卸や新築・改築等の関連事業を手掛けており、当社の経営理念である「喜びと共生」をモットーに、最大限のサービスを考えた事業を展開している。
全ての社員が自分の持ち場にプロとしての自覚を持っており、店内は常に活気にあふれている。
(2)障害者雇用の経緯
障害者雇用については現在の常務取締役総務部長が、平成17(2005)年から「雇用率を達成することが企業の責任」との方針を各店舗に示し、特別支援学校からの見学や実習の受入れを積極的に行うようにした。結果として実習を通じて、多くの障害者を雇用するに至っている。
採用については各店舗の責任者に委ねている。採用の決め手となるものは?と尋ねると「本人の仕事に対する意気込みを重要視している。特に研修時には障害者であるかないかは関係なく当社で働きたいのか、それともただの研修のつもりなのかということを判別し、意志の強い者だけが採用となる。実際に就職後は、仕事に対する意気込みで期待に応えてくれている」という。
当社はほぼ毎年障害者を採用しているが、その経緯は最初に雇入れた知的障害者にある。DIYブームの裏で競争の激化するこの業界で生き残るには確実に来客者の心を掴むことが必要である。店舗に出る以上は「心に響く挨拶」と「周囲への気配り」が重要であるが、それを当該障害者は持っていた。実習を行っている時から教える仕事に対して熱心であったが、特に挨拶が素晴らしかった。その姿は他の社員を刺激することになり、覇気のある社内に一変したという。
知的障害者を雇用することに全く不安がないわけではなかったし、反対する社員も出るであろう、そういった覚悟もしていたが、社員は驚くほど理解があり、それまで以上に気配りを持って仕事ができるようになっていった。確実に障害者雇用で学んだものがあったようである。
2.店舗別 障害者雇用の課題と取組
(1)屋島店(初めての発達障害者の雇用)
当社では平成22(2010)年の時点で計11名の障害者を既に雇用しており指導・援助の経験もあったことからルーティーンとして、平成23(2011)年に屋島店で新たに2名の障害者を雇用した。そのうちの1名が発達障害があるAさんである。障害者就業・生活支援センターからの働きかけによる採用であった。採用当初の担当業務はバックヤードでの商品の袋詰め作業とした。
採用した店長は、「発達障害」とはどういったものかを様々な書籍等から調べたが、それでも理解するには難しく、障害者就業・生活支援センターの支援を受けながら、とにかく手探り状態で雇用定着を念頭に、次の主な課題と対策にあるように一つずつ課題解決に取り組んでいった。このように店長が一つひとつ解決の鍵を見つけていったことにより、他の従業員に対して障害特性及び対応方法などに十分な説明ができるようになり、結果として社員全員の理解と協力を得られるに至った。
① 課題と対策
課題1: | 複数の社員から作業指示を受けることが苦手であった。 |
事例: | ビニール袋に2個ずつ商品を袋詰めするといったバンドル作業の指示をしたが作業スピードが速かったので、作業終了後に別の社員がビニール袋に3個ずつ商品を袋詰めすることを指示したところ、とても不安な顔つきになり作業スピードが落ちてしまった。 |
対策: | Aさんに対してパーソナルコーチ(指導係)を1名選任し、複数人からの指示は出さないようにした。選任したパーソナルコーチには、困ったことが発生した時には必ず店長に相談することを伝えた。パーソナルコーチの選任は、会社の仕事を熟知していること、性格が几帳面で丁寧に指導できること及びAさんに年齢が近いこと等を考慮した。 |
課題2: | 口頭での指示や連絡に対する理解力には問題があり、特に「あれ」「これ」「それ」などの抽象的な言葉に戸惑うことがあった。 |
事例: | 「洗剤を下3段はケースのまま陳列、その上はケースを開けて1個1個陳列してください」との指示に本人は「わかりました」と返事をしたが、しばらくして確認に行くと指示とは全く違った陳列になっていた。 |
対策: | 「正面あたりに陳列してください。」というのは当該障害者からすると曖昧であり「どこか?」となるので「正面サービスカウンターの右に陳列してください。」と明確に伝えることを心がけた。また「1時間以内に…」と言った表現の作業指示も不安にさせ、作業効率の悪さに繋ることから避けた。 |
課題3: | コミュニケーションを取ることが苦手であった。 |
事例: | 来客者が商品Aの場所を教えてほしいとAさんに訪ねた時に「はい」と答え、来客者を連れて店内を探し歩き、全く違った場所へ案内してしまった。不愉快そうな来客者に社員が気づき、Aさんに理由を聞いたところ「もういいですとお客様は言ったので私はきちんとできています。」と答えた。 |
対策: | 初めはバックヤードでの作業をしていたが、接客もしたいという要望があったので売り場に出ることにしたが、来客者との関係も考慮した上でAさんには制服ではなくエプロン姿で「研修生」と傍目にわかるようにし、接客で何かあればすぐに社員がサポートできる体制にした。 |
課題4: | 不安な感情が疲労をためやすかった。 |
事例: | 閉店後の社員出入口は防犯上オートロックになっているが、誤って外に出て、中に入れなくなってしまい、自身での冷静な判断ができなくなった。 |
対策: | 不安要素は、落ち着きを失うこともあるので、不安を感じた時には休憩を取らすようにした。また、社員がAさんに質問された内容に対して少しきつく返答をすると、とても疲れた様子になるので、口調に対しても注意するように社員に伝えた。 |
② 障害特性を活かした工夫点と職場環境づくり
Aさんの勤務形態については、1日8時間の労働時間帯を毎日同じ出勤時間に決めてしまうのではなく、曜日毎に商品の入荷時刻が違うことから、その時刻に合わせた出勤時間とし、入荷後の商品出しなど一つひとつの作業をできる限り細分化したスケジュール表を作り、自身にも業務の区切りがつけやすい状況を作った。
その結果出勤時間が月曜日は13時から、火曜日は7時からといったように曜日ごとに変わるシフトとなったが、几帳面な性格からAさんはすぐに馴染めた。併せてなるべく同じ作業を2〜3名のメンバーで行い、フォローしやすい環境に整えた。作業の指示や説明ではメモを取る習慣を付け、不明点は必ず聞くように伝えた。その中でも新規の作業は写真や図面を付けて説明を行い、必ずパーソナルコーチと一緒に作業をすることとした。
もともと責任感と集中力を兼ね備え、几帳面な性格でもある。特技は個人名を覚えることであり、挨拶は個人名を付けて大きな声で言う。周囲からも好感を持たれ、今では来客者の質問にも的確に応えるなど、貴重な戦力として成長している。
職場では、「ありがとうボード」を設けている。このボードは「今日は品出しを手伝ってくれてありがとう」などの簡単なメモを入れられるように、社員一人ひとりの顔写真を貼ったメールボックスである。Aさんも毎朝自分の「ありがとうボード」を確認しては嬉しそうに自分宛てのメモをみて「よし!」と声を出し、日々笑顔で頑張っている。「思いは見えないが思いやりは見える」という言葉がありがとうボードに貼られているが、社員間の思いやりが接客にも繋がるということだろうか、かなり奥深い言葉に感じられた。

(2)成合店(人間関係から生まれた向上心)
① 取り組みと効果
成合店では重度知的障害者1名を含む3名の知的障害者を雇用している。平成17(2005)年に初めて成合店で雇用した知的障害者は、後から入ってきた2名の後輩に負けてはならないという気持ちが起こるのか、最初はバックヤードでバンドル作業をしていたが、店長に対して「他にも自分はできる」というアピールをし、売り場に出て日用品類の品出し作業もこなすようになった。今では他の2名も同様に売り場に出て作業をしている。3名は良い意味でのライバルとして一生懸命に丁寧な仕事をしている。
3名はともに、複数の指示があった時に自身で優先順位を付けることが苦手であるが、優先順位を示すことで作業は手を抜くことなく正確にやり遂げることができる。時には厳しく注意することもあるが、その時には必ず人前ではなく一人の時に事情を説明し、その結果どうなるのかを伝えることで理解させている。
売り場での品出し業務は来客者と接することになる。最初は店長も接客の際に起こるトラブルの対応に困惑したが、「研修生」として店内業務をさせることでトラブルはほぼ解消された。なによりも本人たちが「店内作業をしたい」という意志を強く持っている。値札の付替え、商品の品出し・補充等、食品・酒類の賞味期限管理といったことを同じ売り場の社員にサポートされながらも誇り高く行っている。
② コミュニケーションと信頼関係
障害のない社員と障害者たちは休憩時にプライベート面の話もよくしている。3人のうちの一人が原動機付き自転車の免許を取得した際には、恥ずかしそうに免許証を見せて話してくれたという。店長としては通勤に対する不安もあるが、少しずつ色々なことにチャレンジしていくことは素晴らしいことなので温かく見守っている。金銭面での相談を家族から受けた時には、店長が障害者と十分に話し合い、事実関係を把握し解決に至ったこともある。店長と障害者との信頼関係が構築されていることを表しているといえる。
3.今後の展望と課題
当社では現在身体障害者が7名、知的障害者が5名、精神障害者が4名勤務し、レジ・事務処理・灯油給油・塗料部門・検品・バンドル作業などそれぞれの専門分野で活躍している。全ての障害者がバックヤードだけではなく売り場に出て、他の社員と同様に接客等の仕事をするようになっている。接客は失敗により来客者にマイナスイメージを与えることもあるが、本人のやる気が店舗内をプラスに変える。
「DIY(Do It Yourself)」という言葉は当社の事業内容だけでなく、社員にもそのまま当てはまる。花が好きということから園芸部門で働く知的障害者は、自分から積極的に花のイラストを入れたポップを作ることもある。自分自身ができることを自ら行動に移すことについて、店長も微笑ましく思っている。
また、当社は障害者の職域開発を特別支援学校等の職場実習を活用して行っている。職場実習の受入れによる様々な体験は、障害特性に合った業務の見極めや新たな業務の発見がある。障害のあるなしに関係なく、「働きたい」気持ちと「能力」があれば仕事は見つかる。まだまだ障害者にもできる仕事があるという意味で、事前の職場実習で作業ができると判断した者は採用する。ポイントは「どれだけの気持ちを持って西村ジョイで働きたいのか」である。
障害者との関係が深まると各店長がいつも思うことは、雇用している障害者の将来のことである。「いつまでも当社に居続けてほしいので、例え少しずつでも幅広く色々と教えたいと思っている。そしていずれは専門的な知識をつけてプロとして育て上げたいと考えている」という。
当社では、聴覚障害、肢体不自由、内部障害、知的障害、精神障害と幅広い種別の障害者を雇用しており、それぞれの特性を理解し、職場に定着できるノウハウを構築しつつある。障害者にとって自立できる力を身に着けることが如何に大変であるかがわかるからこそ、本人の職に対する気持ちも汲んで定着に力を注いでいるわけである。
一方で、今後障害者の高齢化が進み、体力的な問題等が発生した時にどう対処していくのかといった将来的な不安が無いわけでもない。当社に勤務する障害者が高齢化するにはまだ時間的な余裕があることから、障害者雇用の促進に併せて、なるべく早い段階から対策に係る検討を開始していただきたいと考える。
障害者助成金等担当相談員 影山 孝美
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。