障害のない社員と障害者を区別・差別せず採用・配置した事例
- 事業所名
- トヨタカローラ愛媛株式会社
- 所在地
- 愛媛県松山市
- 事業内容
- トヨタの新車販売、各種中古車販売、自動車リース、自動車整備・修理・板金、保険代理店業、通信機器販売、カー用品販売、福祉車両改造 他
- 従業員数
- 329名(アルバイトを含む。平成24年10月現在)
- うち障害者数
- 8名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 4 洗車(2名)営業(1名)整備(1名) 肢体不自由 2 事務 内部障害 1 整備 知的障害 1 洗車 精神障害 - 目次

1.会社概要、障害者雇用の経緯・背景
(1)会社概要
『夢と感動と挑戦を・・・我々はお客様に喜ばれる仕事を通じて、成長し、生きがいを見い出し、地域社会にお役にたつ会社になります』のスローガンのもと愛媛県内に11店舗を有する県内屈指のカーディーラーである。
当社における障害のある社員は8名、その障害の種類は聴覚障害・知的障害・上肢障害・下肢障害となっている。また、当社は愛媛県の自動車販売業関連では法定雇用率を達成する企業が少ない中、障害者雇用率3.14%という高い雇用率を誇っている。
(2)障害者雇用の経緯、背景
① 特別視しない障害者雇用
「障害者雇用のきっかけは特に無いですね」と総務部の泉次長は困ったように笑いながら語る。「会社としては、障害のない社員と障害者を区別・差別していません。障害があろうとなかろうと色んなことができるから、障害者を特別扱いすることがないですね」と続けた。
障害者を特別に雇用する、障害がない人だから雇用する等の意識は無く、応募者が会社にとって必要な人材かどうかで判断するという。「障害者雇用にはメリットもデメリットもないですね」と、障害者と共に働くことがここでは当たり前、ということに念を押すように泉次長の言葉が続く。
採用に関しては、募集する対象の仕事ができるかどうかで判断をすると言う。「障害がある、ないということではなく、『その仕事がちゃんとできること』つまり、会社に入り一人の社員として自分の役割を果たせるかどうかを重視します。聴覚障害や下肢障害と聞くと、日頃の業務に困難が生じることを想像してしまいがちですが、『障害があるから仕事ができない』という報告は無いです。部署の中で相談がしっかりできていたり上司の理解があったりするのでしょうね」と、にこやかな表情で語ってくれた。
② 障害者に対する配慮
聴覚障害者は会話で困難が生じるものの、筆談をしたり文書で指示をしたり本人が分かるまでこちらが何度も説明したりする等のことで対応をしていると言う。障害のある社員のために特別に障害の種類や関わり方についての勉強会を開いたことは一度も無い、障害者を「特別扱いをしていない」ということに念を押して語る。
当社は顧客へのより良いサービス提供のため、社員への教育や関わりを大事にしている。社員同士の関わりの一つに、社員旅行がある。今年の社員旅行では、障害のある社員は8人中4人が参加、社員全体では6割以上が参加する、といった参加率の良さを誇る。
障害のある社員に特別な配慮はそれほど必要なく、声を少し多めにかける程度で「皆、分かっているから大丈夫。仲間同士の気心が知れている」と社員を信頼し安心している様子だ。会社だけでなく障害のある社員もそうでない社員も「障害のあることを理由に、特別扱いしない。障害があってもなくても同じように接するし、仕事もする」という考えが、誰に教えられた訳でもなく、自然と社員一人ひとりの胸の内にあるのではないかと感じられた。
障害の種類についても、障害者を雇用することと同様に特別な意識は無いと言う。「仕事は皆でするものだからね。お互い遠慮し合ってしまうと仕事にならない。社員に嫌がられたり煙たがられたりしても言いたいことは言う、社員が伝えたい言いたいことは聞く、このやり取りが信頼関係を生み、障害者が障害のない人と同様の職場で、特別扱いをされることもなく、業務を行うことができるんじゃないでしょうか」との言葉が続いた。
③ 雇用率の高さや早期退職率の低さが物語る職場の雰囲気
当社では障害者として雇用された社員で、対人関係を理由に辞めた社員はいないと言う。10年間、障害者の雇用に携わって来た泉次長は、「一度採用された社員は体調を崩したりすることもなく今までずっと仕事を続けられている」ということや、「全社員でもこの5年間の早期離職率がゼロ」というとても良い状態が続いていると語る。
雇用率の高さや離職率の低さは、会社にとって必要な社員の適切な採用が行うことができていることや、人とのめぐり会いや本人が会社に入ってから活躍できる場を見つけ出せていたり、会社がそのような作業を意識的・無意識的に提供できていたりしたことの積み重ねではないだろうか。
「"仕事のやりがい"とはよく聞かれることだが、普通に仕事ができることや居場所や役割があって此処にいること、"辞める理由が見当らない"ということかな。」質問に対する答えが具体的な言葉になっていないことに申し訳なさそうな笑みを浮かべながらも泉次長は語った。
「イヤ、好き・嫌いといった感情を持ち込んで仕事はしないですよ。」
実際に、入り口に段差の無いトイレや車椅子マークのあるトイレを「障害者用トイレ」と特別な呼び名で言わずに、お年寄りや子ども連れの男性など、いろんな人が使うことのできる「多目的トイレ」と呼ぶことをインタビューの中で教えてくれた。特別な意味を持たせてしまいがちな言葉を、全ての人が当たり前に、普通に使えるように言葉の使い方に気をつけているこの会社だからこそ、障害者が自分を障害者と思わない、他の社員が障害のある社員を障害者と思わない職場の雰囲気ができあがっているのではないかと感じられた。
「障害のあるなしに関わらず、うちの社員は勉強がしたい、資格を習得したいなど、自己のレベルアップをしたいという気持ちがありますね」と泉次長は言う。
社員の「向上心」や「やる気」を基に、会社の収益を上げる勉強の機会(研修会等)を提供することで営業力や接客等のスキルを向上させ、研修会の中でメンタルヘルスや本人の興味のある分野の勉強を社員のレベルアップを目的として盛り込むことで、会社の人材として個人としての成長を促していると言う。


2.取り組み内容と効果(職場配置の事例)
(1)Oさん(物流センター、センター長)
「自分が障害者であることを特別意識したこともないし、周りが特別な目で見ない。障害があるから、どうのこうの、ということもない」とOさんは言う。Oさんは右足に軽い麻痺があって、歩行の際に多少の不自由は見られるものの、大型トレーラーの運転や、仕事に有利になるようなエンジニアとしての資格があったり、障害のない人に負けないレベルを持っている。
後2、3年で定年を迎えることになるOさんは、トヨタカローラ愛媛で最初に採用された障害者である。この仕事を選んだことに後悔は無く、今の会社の雰囲気を「エンジニアの資格など仕事に必要な知識・技能さえあれば生活のために道具が必要になってくる障害のある人でも、障害のない人と同じ様に、働き、生活できる場所である」と語ってくれた。
この仕事を始めて37年ほど経っているが、当時は障害者雇用という概念そのものが無い時代で、障害者が働いて生活をすることは大なり小なり物理的、心理的な困難があったのではないかと推測できる。しかし、インタビューの中では「特別扱いはされなかった」と念を押すように、次のように話してくれた。
「みんなと同じように仕事をして、みんなと同じように上司に怒られました、扱いも全く同じだった。それに、『障害があるから作業ができない』ということは言わなかったし、『障害があるからできない』という作業もありませんでした。もちろん下肢の障害があるから、運動面では障害のない人に比べてハンデがあることには間違いはありません。でも、気持ちの中では、『何でもやれる』と仕事に対する意欲を持っていました。」
本人の言葉の通り、障害に対する差別や偏見の目が無く、同等に扱われることで、障害者も障害のない社員も同じ勤労意欲を持って働くことができるということを語ってくれたのだろう。この考え方が、障害者雇用に限らず、会社や地域社会の中で広がることで障害者雇用の幅も今よりももっと広がるのではないだろうか。

(2)Sさん(物流センター、事務係)
左足に麻痺があり、移動しづらいというSさんはOさんの部下の一人である。新車のカメラ、バイザー等のディーラーオプション部品を手配するのが主な仕事だ。
1日中注文を受け付けることもあり、5〜20台の車の部品を一人で管理している。
「3月、7月の忙しい時期や12月の新車の出る月は家に帰るとぐったりします。特に歩き回るのがしんどいね」とSさんは語る。夏場の暑さや移動距離など、体に感じるしんどさはあるものの仕事に向かうSさんは真剣そのものだ。
Sさんは、サービス部門から今の部署に移って3年半が経つ。「転職とか考えたこともあるけれど、やっぱり、ここは居心地が良いね。きっと、この仕事も職場も好きなんだろうね」と過去の本音を明かしてくれた。会社やそこで働く上司、社員の雰囲気の良さにも後押しされて、今の仕事に精を出している様子だった。

(3)Uさん(洗車係)
Uさんは補聴器が無いと音が全く聞こえない。補聴器をつけていても小さな声は耳に入らず、会話に困難が生じる程度の聴覚障害を持つ。この職場に採用されて2年目のUさんは、車の洗車をしており、ボディコートと呼ばれる車の塗装を保護する膜を作る作業をしていた。屋外での作業のため、暑さや体のだるさを感じることもあるが「普通にがんばっている」と話をしてくれた。障害による会話の困難さだけでなく聞こえの悪さから誤解を招くこともあるが、自分自身が会話でのトラブルのことを深く考えないようにしたり、何を言っていたのか解かるまで教えてもらったりすることで対処しているようだ。

(4)八幡浜店での知的障害者の雇用
当社の八幡浜店では、会話もできて字も書ける採用者(知的障害)の話が泉次長とのやりとりの中であげられた。
現在、入社して4年目に入っているそうだ。入社後しばらくは、支援団体や施設関係の人が心配をして、彼の仕事の様子を見にきたり声をかけてくれたり2、3時間ずっと見守ったりしている状態だったが、本人は仕事をする時間や帰宅する時間、食事の時間などを理解していたため、心配するような出来事はなかったと言う。
「休んだら給料が減る」と言って毎日休まず会社に来るというこだわりがあり、上司から「この日は体を休ませて」と念を押して言われるものの、休まず元気に出社しているようだ。また、そのことについて上司も「体が元気そうだから、大丈夫だろう」と本人の意思を尊重して法定労働時間内、体調には気を使いながら一緒に仕事をしていると言う。
3.今後の展望と課題
泉次長の話しでは、今後の障害者の採用についても要望や応募があれば、可能な限り障害の種類も程度にも関係なく応じていきたいと前向きな姿勢だ。「応募がある限り採用したい。その際には、障害のあり・なしの区別はせず、フルで働いてもらいたい」と言いつつも、「まだ、障害のある新卒の人にはお会いしていないし、応募も無いですね」と言う。
「障害者を受け入れることに対して拒絶はしないし、拒絶する必要が無いです。ただ、人には向き不向きがあるから、よく考えて選んでほしいです。でも、人間関係で辞めた社員は今のところ一人もいませんから。失敗を恐れる気持ちは分かるけれど、もう少し挑戦してくれてもいいのにと思います。キレイ事かもしれないけれど」という言葉を前置きにしつつ、「応援していますし、一緒に仕事ができる人を、こちらは求めています」といつか会えるだろう新規採用者に向け、今後の採用方針についての考えを語ってくれた。
インタビューに応じてくれた聴覚障害を持つUさんは「自分の体に障害があり、うまくやっていけるか、この仕事が自分に合うのだろうか、不安があると思うけれど、いっぱい努力や挑戦をして、頑張って此処に来て欲しいですね」とUさんは、まだ見ぬ未来の後輩に向けてメッセージを送ってくれた。
当社は障害者の定着率が非常に高い、おそらく仕事の面では障害者の適性、能力を充分に見分けての配置の他、福利厚生面では社内旅行などの例にあるように、良好で目に見えない強いコミュニケーションの構築がなされているのであろう。人事の担当者もほかの社員も「意識していない」とまるで何も考えていない様に言われるが、そこには障害者を充分に配慮された強い企業理念があるように思われる。
平成25年度から障害者法定雇用率が2.0%に上がる。多くの企業が更に高くなるハードルに苦慮する中、この会社には将来に亘り、そのことで苦慮するという事はないであろう。世の中の企業が障害者雇用に関して障害者を特別視する事なく、この事例のように人材募集の際、障害がある、ないということではなく、「その仕事がちゃんとできること」つまり、会社に入り一人の社員として自分の役割を果たせるかどうかとの見方で、一度シフトレバーをニュートラルに戻し、自然体で臨んでほしいものである。
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