職場の認識を変えた知的障害者雇用の好事例
- 事業所名
- 医療法人天真会 南高井病院
- 所在地
- 愛媛県松山市
- 事業内容
- 医療業
- 従業員数
- 406名(法人全体)
- うち障害者数
- 8名(うち重度障害者4名)
障害 人数 従事業務 視覚障害 2 理学療法士 聴覚障害 肢体不自由 3 理学療法士、医療相談員、清掃業務 内部障害 知的障害 3 介護補助 精神障害 - 目次

1.事業所概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所概要
当法人南高井病院は、松山市の南部に位置し、その南には重信川が流れ、東には石鎚山の尾根を望む自然豊かな松山市南高井町に昭和54(1979)年、ベッド数19床の「南高井診療所」を開設したのがスタートである。
そして昭和56(1981)年にベッド数48床にて「南高井病院」を開院。その後は地域の皆様に信頼され、昭和61(1986)年には、353床に増床し、平成12(2000)年の介護保険法施行に伴い、南高井病院が介護療養型医療施設の指定を受けた。その後、病棟単位での医療療養病床への転換及び障害者施設等一般病棟への転換を図り、医療と介護の両面から一人一人に安心と満足を提供している。
また開設当初より「人々の仕合わせのために」を理念に掲げており、患者さんはもちろんのこと、すべての職員にも、しあわせになって欲しいと考えている。また患者さんの人権と尊厳を重んじるとともに、患者さんの満足を追求する場であること、そして人格の向上に努め誇りある職場であることを基本方針とし、活動している。
またISO9001を認証取得し、地域に根ざした病院として更なるサービスの質の向上に努めている。さらには慢性期状態にある患者さんの多様なニーズに対応できるように、在宅サービスについても提供を進めている。
従業員数(法人全体)
医師 | 10名 |
看護職 | 136名 | 介護職 | 160名 |
技術職 | 40名 |
事務職 | 40名 |
その他 | 20名 |
計 | 406名(非常勤職員含む) |
事業内容(詳細)
<一般病床> | 障害者施設等一般病棟 | 60床 |
<療養病床> | 医療療養型 介護療養型 | 180床 113床 |
<関連施設> | 南高井居宅介護支援事業所 南高井訪問看護ステーション 南高井ホームヘルパーステーション 南高井デイサービスセンター デイホームひがしの デイホームつよし ショートステイみなみ |
(2)障害者雇用の経緯
当法人南高井病院では、地域に根ざした病院を目指していることから、以前より障害者の雇用を進めていた(すでに看護助手として2名の知的障害者を採用していた)が、平成22(2010)年3月、新たに重度の知的障害者を雇用した。本事例はこの雇用についてを紹介するものである。
取材に対応していただいた方は、本人の栗田あゆみさん、その上司である介護福祉士の高本さん、総務部長の中川孝志さん、障害者採用の担当である経理課主任の日高祥博さんである。
日高さんは栗田あゆみさんの雇用のきっかけを次のように説明される。
平成22年2月、愛媛県立みなら特別支援学校の先生から採用の打診があったことがきっかけになっている。打診があった後、本人、保護者、学校の担任の先生に職場に来ていただき、人事担当者を交えて、どの程度の作業が可能か、話しを伺うことになった。「ほとんどのことは教えて頂いたら普通にできる」とのことであったが重度の知的障害者の受け入れが初めてのことであった為、慎重になった。しかし本人も実際に職場を見て「ぜひこの職場で働きたい」と、目を輝かせていた。人事担当者から見た栗田あゆみさんは、ハキハキとした返事ができるとてもさわやかな印象であった。一抹の不安と淡い期待が交錯していたが、本人の明るさと意欲的な態度により、3月からの採用が決まった。
2.取り組み内容および配置業務
日高さんは、次のように説明される。
勤務を開始する前に、本人、保護者、学校の担任の先生、愛媛障害者職業センターの担当カウンセラー、そして職場の上長を交えて何度か相談を重ねた。
どのような作業が向いているか、そして苦手な作業は何かを確認し、1日の業務の流れを組み立てて、作業工程図や手順書を作成した。また愛媛障害者職業センターへはジョブコーチの派遣を依頼した。
ジョブコーチは実際に現場で支援いただくと共に「支援計画書」を作成していただき、事業主が注意すべきポイントについても指導していただいた。ジョブコーチによる本人への支援、また事業主への助言により、勤務開始日からスムーズに業務に就くことができた。日数を重ねるにつれ栗田あゆみさんも業務に慣れてきたことから、勤務開始から3週目以降はジョブコーチの支援無しで勤務を続けている。
障害者雇用納付金関係助成金である「業務遂行援助者の配置助成金」も活用している。この助成金を活用することにより援助者および指導者が明確になり、きめ細かく反復した粘り強い指導と温かく見守りながらの援助を、担当者が責任をもって行えるようになった。
この助成金の支給を受けるためには援助内容を日誌に記録しておく必要があるが、この援助日誌のおかげで、日々漠然と援助を続けるのではなく、どのような援助をすることにより本人が成長していくのかを考えながら指導していくようになった。本人が得意とする作業であるか、あるいは難しい作業であるかを判断していく材料としても援助日誌の記録を活用することができ、大変有効であった。
2年目を迎えた栗田さんは『1日の仕事の流れ』(写真左)をもとに、次のような業務をしている。
栗田さんの一日(仕事の内容と流れ)
- 朝礼出席
- 職員ネームプレートの準備・貼り付け
- 患者の朝食の片付け
- 清拭用タオルの準備
- 点滴棒、車いすの清拭
- 昼食の準備
(昼食・休憩) - 患者食事用シンクの移動
- 患者の昼食後の片付け
- 洗濯物、職員ユニフォームを配る
- 清拭用タオルの準備
- 休憩室の掃除
- お茶淹れ
- おやつの片付け
- 職員ネームプレートの準備・貼り付け
- その他 ・・・・


3.本人と上司の想い、今後の展望と課題
(1)本人と上司の想い
① 就業当初の想い
- 本人(栗田あゆみさん)
私にできることをしたい、ここで働きたいと思った。最初から緊張しなかった。 - 上司(介護福祉士 高本さん)
病院は、医療・介護という専門の知識技術をもつ人々の職場集団であり、その中で重度の知的障害を持つ人に指導できるだろうか、不安と心配ばかりであった。当初、本人はかなり緊張しているように見えた。
② 現在の想い
- 本人
仕事がしんどいと思ったことはない。わからないことはすぐ教えてもらうようにしている。毎日、仕事が楽しい。ずっと働きたい。でも一番の楽しみは休日。休日はゲームをしたり、友人とのメールを楽しんでいる。 - 上司
当初持っていた不安や心配は1〜2ヵ月で消え去った。最初は付きっきりの指導であったが、覚えは早く何回も言わなくても覚えてくれた。もちろん、多くの種類の作業だから時には忘れることもあるが、まじめに取り組んでいる姿勢に今では安心感を持つことができるようになった。当初心配していたことが取り越し苦労であってよかった。
患者さんに優しい声掛けをして笑顔で接している姿がとても微笑ましくて、患者さんからも可愛がってもらっているのを見ると嬉しくなる。
③ 現状の問題点(上司)
あとは一つ一つの作業に拘りを持ちすぎるきらいがあることくらいで、時々ずーっと同じものを洗っていたり、洗剤を使うときは徹底的に泡を立てないと気が済まないとか、しかし大きな問題ではありません。


(2)今後の展望と課題
① 今後の障害者の雇用について
総務部長の中川孝志さんは、地域の皆様に信頼され、また地域に貢献していくという趣旨から、障害者雇用については前向きに考えている。当法人での障害者雇用の実績が認められ、平成24年には障害者雇用優良事業所として愛媛県知事表彰をいただくことができた。今後についても就業場所の状況を見ながら、新たな障害者の雇用を検討していきたいと言う。
② 採用担当の所感〜採用前、あるいは後の感想など〜
日高さんは、採用担当として次のように感想を述べられる。
栗田あゆみさんが就職される以前から、数名の知的障害者を雇用していたものの、個人により障害の程度や状態が大きく異なることや、栗田さんについては重度の障害であること等々で不安はあった。しかし担任の先生や愛媛障害者職業センターの担当カウンセラーの細かな援助・指導により、就職時から今日までスムーズに就業いただいている。また指導に不安や疑問が生じたときには愛媛障害者職業センターの担当カウンセラーに相談し、アドバイスをいただくことにより的確な対応ができている。
栗田さんは性格も明るく、返事もさわやかで心地良い。今後についても上司や同僚と信頼関係を更に深め、やりがいを感じながら楽しく勤務を続けて欲しい。栗田さんに出会って知的障害者に対する認識が変わった。
③ 取材を終えて
なんとも心が温かくなる取材であった。本人はもちろん人事担当者、上司、職場の皆さん、職場環境、雰囲気、院内全体にさわやかなそして優しい空気が漂っていた。将来、自分が病気になったら、願わくばこういうところで療養させて頂きたいものである。
インタビューした栗田さんはとても明るく屈託がない。患者さんや職場の皆さんに可愛がられているのが理解できる。野球が大好きで、野球の話をしだすと留まるところがないとのこと。先日は、一人で夜行バスに乗って東京ディズニーランドまで行ったらしい。しっかりお土産を買ってきて、職場の皆さんをびっくりさせたそうだ。
採用担当の日高さんや直接の上司である高本さん、そして周りの職場の皆さんは栗田さんに出会って知的障害者に対する認識が変わったとおっしゃった。
仕事柄、いろいろな事業所を訪問したり、お話しを伺う機会も多いが、職場や回りの人達にうまく溶け込めなかったり仕事が合わなかったりで挫折することも多いと聞く。
今回のような好事例は稀なことかもしれないが、これは偶然生まれたものではない。天真会南高井病院の皆様が、本人や家族も含めた事前の話し合いなど、プロセスを大切にし、受け入れ体制の整備をしっかりと行い、支援機関等を有効に活用したことにより必然的に生まれた、トータルの好結果・好事例である。
栗田さんにはこれからも理解ある皆さんに囲まれて、この職場で長く明るく元気に頑張っていただきたいものである。
雇用支援業務担当 遠山 悦郎
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