「障害者のトラブルは専門家に」早目な対処で快適職場をめざした取り組み
- 事業所名
- 株式会社デリッシュ
- 所在地
- 高知県高知市
- 事業内容
- 惣菜・食肉・魚介・ベイク製造販売及び外販事業(弁当・寮の給食)
- 従業員数
- 704名
- うち障害者数
- 7名(重度3名、軽度4名)
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 7 惣菜工場(肉加工1、野菜加工3、パック詰め1) 店鋪(寿司製造2) 精神障害 - 目次

1.事業所の概要、障害者雇用の経緯、背景
(1)事業所の概要
当社は、株式会社サニーマート(スーパーマーケット業)のグルメキッチン事業部を分社化し、平成15(2003)年10月に設立した会社である。
分社化以前のサニーマートでは、平成10(1998)年塩干物リパック、デリカ用肉・魚類下味付、カット野菜加工をする事業所「弘化台PFセンター」を稼働し、平成11(1999)年にPFセンターを管轄するグルメキッチン事業部を設立した後、平成14(2002)年にはサニーマート流通センター内に惣菜工場を設立、惣菜製造および米飯製造を開始した。
当社の設立で、これらの惣菜製造(御座惣菜工場、弘化台PFセンター)と販売(サニーマート各店鋪の惣菜部門「グリグラ」・ベイク部門)が統合された。
「グリグラ」の店鋪は、高知19店・愛媛2店・香川1店にあり、その他外販事業として学生寮や企業食堂への食事提供を5カ所で実施している。
事業内容は惣菜製造から惣菜工場のバックアップ基地として食材や原料の加工(カット野菜等インストア用キット商品、塩干商品のリパック、青果カット野菜商品の製造等)と業務は多種多様になっている。
当社は、より専門的、より独創的な惣菜製造業を目指してスタートした会社ではあるが、前身のサニーマート時代から<味、健康、安心・安全>へのこだわりを持っている。鮮度を大切にするはもちろん、味の追求や食べる方の身体を気づかった製品の開発にも力を入れている。また、地元との結びつきを大切にし、産地へのこだわりを持って、豊かな食卓に貢献していきたいと願っている。
(2)障害者雇用の経緯、背景
① 取り組みの経緯
当社は、サニーマートから分社化した時点で障害者も受け継いだ。平成10(1998)年の製造工場「弘化台PFセンター」の稼働に伴い障害者も雇用されていたので自然に受け入れて、雇用してきた。
現在、知的障害者7名(重度3名、軽度4名)が働いているが、当初から現在に至るまで継続してジョブコーチや障害者就業・生活支援センター(以下「支援センター」という)の支援を受けている。障害の理解から始まり、具体的な説明や指導方法等を丁寧に教えてもらうことで職場に溶け込み社内のみんなと一緒に働けるようになったと言える。
② 専門家の活用
知的障害に対する理解は、とにかく専門家に頼り、その力を借りることでやってきた。障害の内容が個々に違うことは対面だけではなかなか理解できない。つまり、彼にできても、他の人ではだめで同じ指導が通用しない。また、仕事を教える上司や仲間はやさしく、丁寧にやろうとするが、これも「だめ」が多い。障害者が作業を覚える前に指導する者がイライラすることがある。
当社では、ミスが続くと支援センターの専門家に相談してきた。個々の理解の程度が違うので、相手が納得する適格なアドバイスによって気づかされることが多かった。例えば、数を確認するには、専門家に早見表を作ってもらい、カードをめくって覚えることを本人と手取り足取り状態でやってきた。その繰り返しをやることでカードもいらなくなったのである。
会社側が知ったのは、障害者自身からは「こうしてくれたら良い」が言えないし、「こうしたら」と歩みよることもできないのだから、その気持ちを繋ぐ人が必要だと言うことであった。様子がおかしいとなれば早めに支援センターに連絡し、直接、生活支援ワーカーから指導を受けたことで職場全体に障害に対する理解が深まった。
2.障害者の従事業務、職場配置等、取り組みの内容
(1)障害者の従事業務、職場配置等
① 障害者の業務内容
現在、当社で働く障害者は全員知的障害者で、男性5名、女性2名である。全員サニーマート時代から在職しており勤務年数は長い。
重度障害者3名(男性)の業務は、次の3つである。
- デリカ部門でトンカツ製造の筋切りや打ち粉等
- 野菜部門で大根のつまの洗浄や脱水や計量等
- サニーマート内の店鋪で商品製造
軽度障害者4名(男性2名、女性2名)の業務は、次の4つである。
- 商品のパックや袋詰め部門のシール貼りや袋詰め等
- 機械を使用して野菜のスライス
- 惣菜工場で製造手伝い
- サニーマート内の店鋪で商品製造
製造工場の業務には、単純作業が多いので得意なことを見つけると力を発揮することができるが、店鋪販売の現場では顧客との対応や個別の注文等があり大変であるが頑張っている。
作業現場に障害者を配属させる時の基本は、次の2つである。ただし、広いスペースでの作業は落ちつかないので仕切られた場所に限定している。
- 管理の目が届く範囲に配置する。
- 単純作業が多い部署を選択する。


② 雇用管理
雇用形態は、週5日勤務(週30時間以上)の準社員である。
勤務時間は配属部署のローテーションにもよるが8時30分〜16時30分の7時間である。
休日は、ローテーションにより各自違いがあるが、週休2日である。
賃金形態は時給、昇給は年1回、また、ボーナスが年2回支給される。諸手当は交通費が支給される。有給については社員と同条件。また、当社独自の特別休暇制度もある。これは契約時に日数を決める。
一方、検診等健康管理には食品を扱う企業であり、特にO-157等については神経質に取り組んでいる。衛生面では朝礼時のチェック、手洗の励行から始まり年4回の検便など実施している。
(2)取り組みの内容
① 社内体制と人的支援
現場では、作業を何でもやって欲しいのが本音であるが、工程が3つ程重なるとパニックになる。だから一気にはできないが、一緒について教えることで可能性は高まる。ルーチンワークをやるのは得意で作業効率も上がる。
何と言っても大事なことは、声がけである。安全面からも大事な確認作業となる。本人に対して「仕事を任せている」、「あなたの能力を活かしている」、「助かっている」等、本人を認めていることを話すことにより信頼関係も高まる。
作業の進捗状況を確認するのが現場責任者の役割だが、数を数えられない場合もシール貼り等の補助を行わせる等、配属を適材適所でやれば一般社員が少なくても業務可能な範囲は広がると言える。スムーズな社内運営を目指し、普段から工場全体を把握しながら障害者にも目をかけているが、それでもトラブルも起きる。そのトラブル対処にも方向づけをしている。
例えば、障害者の様子がおかしい時は、作業場で大声を出す等のサインがある。上司が一通り話を聞いて注意するが、改善が見られない場合は専門家の生活支援ワーカーに指導を依頼する。従業員同士の不満なのか、会社への不満なのか、家庭内のもめ事で不安なのか等を信頼する支援員に聞いてもらうことで解決する。それでも改善が見られない場合ははっきりと病院に行くよう要請する。生半可な対処をすると長引くこともあるので、医者の判断を仰ぎ復帰プログラムを相談する。
自分の思いを整理して話せるとは限らない。原因がわからないまま仕事が続けられなくなった例もあり、今では無理せず専門家に任せることが会社にも障害者にも良い結果に繋がっている。
② 活用した制度や助成金等
- トライアル雇用奨励金
- 特定求職者雇用開発助成金
- 業務遂行援助者の配置助成金
- 障害者雇用調整金
3.取り組みの効果と課題
(1)朝礼の活用による効果
毎朝の朝礼では、①身だしなみ、爪、髪の毛のチェック、②職場の教養の朗読、③今日の製造量の発表がある。これをみんなで声に出して言うことでどこが忙しいかも分かるし、発注具合がわかる。当日の仕事の確認を指示書に沿って確認するだけでなく、ノロウィルスへの注意や手洗の励行も出てくる。障害者もみんなと一緒なので確認や注意が抜からないよう気をつかう。
以前は、この朝礼時間に作業でできていないことを注意する場面が多かったが、今はほめることを積極的にやっている。例えば、掃除をしてきれいになったのはあたり前だが、みんなの前で「いつもきれいにしてくれて気持がいい」と褒められることで「認められた」、「やっていることを知ってくれている」という満足感が生まれている。
何気ない一言や行動でも人を喜ばせることがあり、気持ちをなごませることがある。明日はもっと頑張ろうと職場が明るくなる。






(2)障害者のコメント
■Aさん(43歳、男性、勤続12年)
彼の勤務は午前8時30分の朝礼から始まる。仕事が始まれば、無駄話しをする余裕はないが、仲間と仕事のことは話すと言う。
仕事は① 機械の部品設定 ② 肉のすじ切り ③ 探知機による肉通し ④ 打ち粉が中心だが、加工品を冷蔵庫に持って行く、包装、数量確認とさすがに勤続年数が長いだけあって作業範囲は広い。「自分で作ったものを食べるとおいしい」「お昼のお弁当はお母さんが作ってくれる」「家でも仕事の話をする」等を話してくれた。
楽しみはテレビの野球観戦とDVDでの映画鑑賞。そして給料は両親が管理しているが、小遣いを貰って買い物等をすることであると言う。毎日自転車で通勤している。たまにはコンビニに寄り道するのが面白いそうだ。これからのことを聞くと「自分の仕事を頑張ろうと思う」とのことだった。
■Aさんの現場の声
彼は、腹が立っても言い返すことができず物にあたったり、すねる。年配者は息子のようなものだから悪気なしで小言を言うこともあるが、上目線で注意するとか、特別扱いはしない。仕事上では確認、声がけをまめにするようにしている。
■Bさん(38歳、男性、勤続8年)
彼は、15〜30歳まで木工関係の会社で塗装の仕事しており、忙しくて徹夜することもあったと言う。当社入社後は弁当製造等色々担当してきたが、今は定番の寿司を作っている。
「寿司は火曜日は少ないが、金土日は多い。売り場を見ながら調整して作る。多くても少なくてもいけないのでよく売り場を見ている」と寿司を作る手を休めることもなく話してくれた。普段仕事中は人と話す暇はないそうだ。昼食は近くの自宅に帰って食べるので休憩室にはいかないとのこと。
月曜日・木曜日が休みで、給料は<いきものがかり>のCDを買うぐらい。最近父が亡くなり、母も病気だから自分は独り住まいしているが、給料は貯金している」「休みの日は発注書を作ったり、じっとすることがない、何かしてないと腹がたつ」そうだ。
日常気をつけていることを聞くと「手洗い」の返事が返ってきた。「たまにトラブルが発生することもある。ガミガミ言われることはないが、値引きシールが抜かったらダメと上の人から注意を受ける」との反省のことばもあった。
将来については「今後もこの仕事を続けたい。寿司のプロになってPОPとかも書いてみたい」とのことであった。
■Bさんの現場の声
彼は、ペースが遅くて段取りが少々悪いので、何人かでやる仕事はまわりと合わないが、数字については記憶力が抜群だし、とにかく素直。ただ返事は良いが、理解が十分でなく学び切らない状況があり、本人に任せても失敗することがあるので仕事は選んでやってもらっている。また、時々うそを言うことがあり直すよう注意もするが、持病も抱えているので心配だ。
(3)今後の展望と課題
これまでの障害者雇用の経過を見ていると、当社の作業内容の幅は広いし、実際障害者でもできる可能性が高い作業がある。事業拡大時に商品量が増加すれば積極的に障害者を雇用したいと思っているという。
現在在籍する障害者は、分社化前のサニーマート時代の採用であるが、社内組織も拡充したので平成24(2012)年からは独自の採用募集も始めた。
障害者に無理を要求するのではなく、会社側が障害を理解し可能な範囲を把握し、配属や作業を判断することで障害者雇用の可能性はまだまだあるのではないかと考えるようになった。そのためには、新人のみならず勤続者も陥る各種トラブルの対処が問題となる。仕事を教えることはできても心理面や家庭のことや障害者特有の問題等を現場で解決しようと無理すると長引くこともわかったので、すぐに障害者支援の専門家に依頼するようにしている。専門の支援ワーカーと連携することによって、会社だけでなく障害者にとっても安心を与え、働きやすい環境に近づくのではないだろうか。
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