支援学校卒業生の体験から障害者雇用の範囲拡大の取り組み
- 事業所名
- 国立大学法人 高知大学
- 所在地
- 高知県高知市
- 事業内容
- 教育、研究機関
- 従業員数
- 2,287名
- うち障害者数
- 25名(教育学部附属特別支援学校卒業生7名含む)
※人数は平成24年6月1日現在 - (内訳)教育学部附属特別支援学校卒業生7名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 7 園芸作物・山上作業の業務補助 2名
キャンパス構内の環境整備作業 4名
作業学習等の補助 1名精神障害 - 目次

1.事業所の概要、障害者雇用の経緯、背景
(1)事業者の概要
平成15(2003)年10月に旧・高知大学と高知医科大学が統合。平成16(2004)年4月の法人化により現在の国立大学法人高知大学となった。
当大学は、高知市曙町の朝倉キャンパス(人文学部・教育学部・理学部)、南国市岡豊町の岡豊キャンパス(医学部)、南国市物部の物部キャンパス(農学部)を有する総合大学である。県下の大学機関は限られており、人材育成の中核的存在としてその役割は大きい。
より深く地域に根ざし、より個性的な智の創造と継承の場としての大学の本務を全うしながら地域の戦略拠点として進化しつつある。
教育研究を通じて育成した人材の知的資源を駆使して高知県を中心とした地域社会への貢献を深化・発展させ、地域に欠くことのできない大学としての存立基盤を強化したいと考えている。
(2)障害者雇用の経緯、背景
① 取り組みの経緯
当大学が、教育学部附属特別支援学校の卒業生の受入れを始めたのは、平成19(2007)年度からである。
朝倉キャンパスには教育学部附属特別支援学校(知的障害児の教育を中心とした特別支援学校、以下「支援学校」という。)があり、この支援学校卒業生の就職先の問題もあった。また、地域教育の核となる大学として種々の社会的責任を果たすことも求められており、障害者法定雇用率2.1%(平成25年以降2.3%)の達成もその重要な責務のうちであった。
平成19(2007)年以降、支援学校の卒業生7名の受入れと公共職業安定所を通じた公募の結果、平成22(2010)年度には雇用率2.1%を上回った。また、平成20(2008)年には朝倉キャンパスに屋外清掃等を行う「環境整備室」を新たに設け、ここに障害者を受入れることにより、障害者雇用の推進を目指すこととした。
今回は障害を持つ雇用者25名のうち支援学校卒業生7名にスポットを当てて、その取り組みを紹介する。
② 取り組みの背景(農学部の場合)
平成19(2007)年、人事課から障害者法定雇用率の達成に向けて農学部に障害者雇用の協力依頼を行った。まず支援学校から推薦されたAさん・Bさんの2人に職場実習期間(10日間)を設定し、色々な仕事を取り組ませた後、同じ職場の職員にアンケートを取った。アンケートの結果は、雇い入れには厳しい内容であったが、ひとまず19(2007)年4月から1年間、2人を雇用することとなった。
雇い入れに対して職員から難色を示されたが、家族や職場の協力もあり、仕事に取り組んだ。職員が言っていることは理解できるし、職員から指導を受けることもあるが、仕事には積極的に取り組む。むしろ、指導する職員の方が障害者の特性を理解し、フォローする能力を身につけないと、一緒に仕事はできないと気付いた。
以後、Aさん、Bさんは、契約を更新し勤務している。
2.障害者の従事業務、職場配置等
(1)障害者の業務内容
今回、紹介する障害者7名は配属先が3カ所に分かれている。
① 農学部のフィールド技術室で園芸作物や山上作業の業務補助を担当(2名)
Aさんの仕事は、主に農場の果樹園やハウスの除草、演習林の溝掃除や薪を切る作業等である。炭焼き等季節によって仕事が違うが、内容は毎日指示される。
Bさんの仕事は、誘引・ミカンの収穫や袋詰めと販売の手伝い、草刈りや下草作り、山からの運搬作業等である。彼は、約2,000人が来場するミカン狩りの引率責任者にミカン狩りの説明や注意事項を知らせる役割も務める。長文メールも打てるし、連絡・報告もできる。
② 朝倉キャンパス構内の環境整備を担当(4名)
環境整備室に所属するCさんからFさんまでの4名は、広い朝倉キャンパスにある街路樹の季節毎にでる大量の落ち葉や側溝に堆積する土砂の処理や草刈り等構内の環境整備が仕事である。
③ 支援学校で生徒の作業学習及び支援学校内の環境整備の補助を担当(1名)
支援学校の用務員のGさんは、作業学習の教材準備や後片付け等の補助をする。学習現場で使用する空缶は、洗浄やプルタブを取り除き、生徒が即使えるようにする。他に草引き、ビニールハウスの窓あけ、ゴミ処理や生姜の箱の運搬等もする。教室や廊下の清掃など後輩に働く姿も見せている。
(2)雇用管理
当大学における障害者の採用は、①公共職業安定所、②支援学校の卒業生からである。
雇用契約は1年度毎で、雇用形態はパート職員である。勤務時間は主に9時から16時まで。休憩時間は1時間で実働時間は1日6時間、週30時間を基本としている。休日は土日および祝日で、有給休暇もある。賃金形態は、時給制。要件該当者には通勤手当を支給。社会保険等を含む福利厚生については、他の職員と同様である。




3.取り組みの内容
(1)障害に対する支援
彼らは不平不満を言わないし、仕事の手を勝手に休めない。
一緒に働く者が、彼らの体調管理に配慮してあげないと、倒れるまで仕事をしてしまうことがあることを忘れてはいけないと思う。
(2)就労への支援
知的障害者の職場は少ない。支援学校では生徒に一般就労させることを目指しているが、現状では、なかなか難しい。
問題点として、次のようなことがある。
① | 生徒の力量と職場に必要な能力のマッチングが難しく、能力に見合う職場になかなか巡り会わない。また、事業所の業種・業務は多岐に渡り、生徒にどのように力を付けさせるかが難しい。 |
② | 受け入れ側に受け入れる体制が十分整っていなくて、障害に対する理解や適切な関わり方などを共有するなどの事前準備が必要な場合がある。 |
③ | すべての家庭が障害者をサポートできるとは限らない。家庭自体にサポートが必要な場合もある。アフターケアを要する家庭と援助する側の橋渡しやネットワークづくり、相談できる場所やシステムがもっと必要である。 |
④ | 40代や50代の年長者に対するアフターケアは難しい。 |
働きつづける障害者をサポートするシステムや機関があってこそ、長く働き続けることができる。仕事に対するスキルを伝えようと支援学校での指導は日々研鑽されているが卒業生に対するサポートには限界がある。
支援学校での障害者雇用は、学校現場で雇用をすることで、生徒を送りだす側の心配だけでなく、受け入れる事業所側の問題も検討できるし、職場で起きうる事例を確認しながら雇用者側の悩みにも対応できる利点がある。支援学校のGさんは「手本とする人が誰もいない」と困っているが、役割を決めて任せることで確実に仕事の幅を広げている。
Gさんを通じてサポート内容をもっと検討したいものである。
(3)活用した制度や助成金等
・特に無し。
4. 取り組みの効果と課題
(1)取り組みの効果と課題
農学部における障害者雇用も6年を経過し、現場は助かっている。多忙な各職員に代わって細々とした仕事をする。誰も付いていなくてもできる。わからない時は直接聞きにくるので、確認しなくても任せられる。職員が本来業務に没頭できるようになってよかったという。
彼らがする作業は、誰かが必ずやらなければならないものである。今後は収穫の喜びを知って欲しいと思っている。
この農学部では特別な技術の幅を広げなくても、もっとやって欲しい仕事がある。これまでの経験でわかったことだが、障害者雇用で重要なのは、受け入れる側がもっと障害や障害者のことを知ることだろう。障害者とともに周囲も悩んできたが、専門家から障害の特性を明確に学んでいれば、受入れがもっとスムースだったのではないかと思う。お互いが葛藤を経験したので今後の受入れではその経験を活かし、職場での戦力になるまでの時間も短縮できるはずである。
今後の課題は、本人のモチベーションを維持向上させること。収穫物を販売等することによって収益を得ているが、努力によってその収益を上げることも体験できるので、収穫の喜びと同様に知って欲しい。
(2)障害者のコメント
① Bさんのコメント(農学部フィールド技術室所属)
採用されて戸惑ったのは、道具の名前が学校と大学では違っていたこと。人の名前がなかなか覚えられなかった。わからない時はすぐ「先生」と呼ぶ。
② Cさんのコメント(環境整備室所属)
Cさんは28歳、平成20(2008)年4月採用である。夏は草集め、冬は落ち葉集めが中心で仕事は5〜6名が単位で動きながらやっていく。雨の日は合羽を着て草引きもするが毎日場所は変わる。Cさんは「草引きもやるが私は掃き掃除が好き」と言う。外の仕事は「暑いか」「寒いか」だから昼休みは昼寝をする。仲間と話もするが、仕事の世話をしてくれるNさんの言うことを守り、これからも今の仕事を続けたい。
③ Fさんのコメント(環境整備室所属)
Fさんは21歳、平成22(2010)年4月採用である。仕事は草引きや草運びで、しんどい時もある。病気もしないし、遅刻もしない。「ただ、稼ぐだけです」と淡々と言う。仕事仲間と話もあまりしないそうだ。
④ Gさんのコメント(支援学校所属)
もうすぐ成人式。仕事で「特に誉められたことはない」が、楽しい毎日とのこと。出勤後まず窓を開ける。草刈りでは機械を使うこともあり、指を挟まないよう気をつけるそうだ。やっぱり、休み時間がゆっくりできて楽しい。
(3)今後の展望と課題
平成25(2013)年1月現在、国立大学法人としての障害者法定雇用率(2.1%)は達成しているが、各職場の体制を充実させて障害者が働く業務の拡張の可能性を探りながら、さらに障害者の雇用率を向上させたいと考えている。具体的には平成25年4月から雇用率が2.3%へ引き上げられるにあたっての対応である。各キャンパスで連携しながら障害者が働きやすい環境整備を整えるためには、内部的に障害者をフォローできる人材を増やす必要があると痛感している。障害者に対する意識啓発から始め、障害に対する専門性を高めるよう現場担当者に研修の機会を増やしていきたい。
キャンパスが離れているため、各職場間でコミュニケーションを図る機会は少ないが、障害者雇用に関して各現場ではそれぞれの模索を続けている。実働する障害者を目の前にして各現場の担当者は、まだまだ改善の余地はあるし、業務を拡張できるはずとして健闘している。
また、雇用障害者のステップアップは簡単ではないが、業務内容によっては可能性がないわけではない。今後、さらに大学内のフィールドを活用した支援学校生徒の職場実習の受入れを拡充し、職務の創出や改善の検討に資する方策や、広く一般企業の職場にも通用する技能を身につける方策にも取り組みたいとしている。
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