障害者雇用の維持継続を目指した事業所の取り組み
~業務内容とともに障害者雇用を引き継ぐ~
- 事業所名
- 東伸オペレーション株式会社
- 所在地
- 福岡県筑紫野市
- 事業内容
- 一般廃棄物焼却プラント等処理施設の運転維持管理
- 従業員数
- 27名
- うち障害者数
- 8名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 8 廃棄物の選別作業、解体作業、危険物の除害作業等 精神障害 - 目次

1.事業所の概要、障害者雇用の経緯、障害者の従事内容
(1)事業所の概要
① 事業所の特徴
当社は、平成19(2007)年10月に、東伸エンジニアリング株式会社(主に一般廃棄物処理施設であるごみ焼却施設・リサイクル施設・し尿処理場等の運転維持管理、補修工事を行っている)の子会社として福岡県小郡市に設立された。現在は、親会社である東伸エンジニアリング株式会社の九州支店内に本社を構え、県内に2か所の事業所を持ち、各市町より一般廃棄物処理施設の運転維持管理業務の委託を受けて業務を行っている。
② 経営方針
当社は、東伸エンジニアリング株式会社の子会社として、障害者雇用の維持継続を目指した事業所である。障害を持っていても働くことができ、収入を得て、社会人としてごく当たり前の生活を営むことができるよう、最低賃金の保障や雇用保険の加入等、経済活動への参加の手助けとなるよう、企業として貢献していくことを目指している。
(2)障害者雇用の経緯
二つある事業所のうち、障害者雇用を行っているのは宝満事業所で、現在、東伸オペレーションの宝満事業所従業員15名のうち8名が知的障害者である。以下、この事業所について紹介する。
平成20(2008)年度に現在の施設へと建て替わり、前任の会社(旧施設)で働いていた障害者の雇用を引き継ぐことを契機として、東伸オペレーションとして障害者の雇用を開始したものである。
雇用を引き継ぐ際、当社代表取締役の江﨑氏は保護者との面接を何度も重ね、労働条件の継続の説明を行った。その時保護者は、知的障害の特性上環境の変化に弱いため、職場環境の変化によって彼らがパニックを起こすのではないか、これまでと同じように就業を継続することができるのか、と不安な気持ちを話してくれたとのこと。その不安を聞くことで、江﨑氏も事業所としてできるだけの準備と対応策を整えることができ、そのおかげで、実際の新事業所への移行は順調に行うことができたという。
この結果、江﨑氏の熱心な働きかけもあり、それまで旧施設で働いていた障害者10名のうち、8名が東伸オペレーションへの転職を果たしている。
(3)障害者の従事内容
主に障害者が担う作業は、以下の4つの作業に大別することができる。
① 選別作業
I. ビン類選別作業・・・ | コンベア上を流れてくるビンの中からリサイクル可能なビンを回収する作業で、ビンの種類も白色ビン、茶色ビン、その他のビン(黒、青、緑、赤、黄色等)の3種類に選別を行う。 |
II. 不燃物選別作業・・・ | 安全に処理できるようコンベア上を流れてくる不燃物の中から危険物(スプレー缶、ライター等)を回収して選別を行ったり、アルミ製品、ステンレス製品、電線コード等の有価物の回収を行う。 |
② 解体作業
回収された電気製品等をさらに細かく解体する作業である。扇風機からモーターを回収したり、水道の蛇口を回収したりする。
③ 危険物の除害作業
①-Ⅱで回収したスプレーやライターを安全に処理するために行う作業である。スプレー缶に穴をあけて、破砕機にかけた際の爆発や火災等の発生を防ぐための作業で、施設の管理上重要な作業である。
④ 搬出作業
回収した製品を外部に搬出するための積み込み作業であり、蛍光灯や乾電池、電線コード等などを積み込む。
この4つの部署を、ローテーションを組んで回している。全員、どの部署の配置になっても滞りなく業務遂行ができるよう、徐々にできる部署を増やしていくとのことである。
現在勤務している障害者は全員男性で、30代から60代までと幅広い年齢層が働いている。体力を必要とする仕事であると同時に、とくに選別作業においては経験を重ねることも必要な作業であるが、長い人では20年以上これらの作業に従事しているため、新しく業務に就く障害のない従業員は、かえって彼らに教えてもらうことも多いという。
真面目に根気強く作業を続けることが得意な彼らの存在は、今では事業所にとって欠かすことのできない人材となっている。


2.具体的な取り組み
(1)命令指示系統の統一
障害者雇用を開始するにあたり、事業所の中で班長、副班長を設けた。これは、命令指示系統が複数あることで障害者が混乱することを防ぐためである。班長を務めるのは障害のない従業員で、副班長は知的障害のある従業員である。この2名を中心に障害のある従業員の作業分担を決め、業務に関する指示もこの2名から出すよう事業所内で統一を図っている。また、班長、副班長がいることにより、他の障害のない従業員も何か困ったことがあった場合に相談できる人物がいること、班長、副班長の元に情報の集約ができるといった点で、事業所全体の報告や連絡が円滑になり、業務の効率化にも繋がっている。
(2)通勤手段の確保
事業所が市街地より離れた場所に位置するため、最寄りの駅より徒歩30〜40分、路線バスを利用しても待ち時間や運行状況により、遠い者では通勤に片道1時間半以上を要する。そのため、少しでも通勤にかかる負担を軽減する目的から、通勤用バスの購入を検討した。しかし、事業所の運営は委託形式で業務を請け負っているため、次年度の委託契約の継続の有無や実質的な給与の建て替え等の現状を考えると、通勤バスの購入は事業所にとってかなり大きな負担であった。その時、「障害者雇用助成金」を利用して通勤用バスが購入できることを知り、助成認定が下りたため通勤用バスの購入に踏み切ることができた。
現在は、最寄りの駅から事業所までの朝夕の往復送迎を行っており、障害をもつ従業員にとっては、なくてはならない交通手段となっている。
(3)仕事のやりがいと余暇の楽しみ
年に一度、事業所ごとに社員旅行(1泊2日)を実施している。社員旅行の他にも、社内懇親会や忘年会等を企画、実施している。これは、従業員同士の親睦を深めることと、仕事を頑張った成果として楽しみが待っているということを障害者にも感じてもらいたいとの想いから始めたものである。参加の強制はしていないが、おおむね障害者の参加率は高く、8〜9割が毎回参加している。実施して感じることは、やはり時にはこのように"自分が働いて得た収入で余暇を楽しむ"という機会を作ることで、就業へのモチベーションの維持・向上や、やりがい・生きがい、社会に貢献できているといった自尊心の獲得につながるのではないか、ということである。
"働く"ということを通して、自分の居場所や役割、存在感を得ることができるだけでなく、"楽しみを見出せるようになる"ことも職業人として大切である。社員旅行や親睦会への参加率が高いことから考えても、この点について貢献することができていると考えられる。
(4)就業を維持・継続するための支援
現在、知的障害者8名を雇用しており、彼らは継続して勤務することができている。しかしこれまでの間には、職場定着することができなかった障害者A氏がいる。A氏はハローワークからの紹介でトライアル雇用を利用していたが、もともとA氏の就業に対する意欲がそれほど高くなかったこともあり、就業態度や集中力等の問題から正式な雇用に結びつかなかった例である。A氏はトライアル雇用と併用して職場適応援助者(ジョブコーチ)も利用していた。
職場適応援助者は、A氏の職場での様子から作業能力の評価を行ったり、環境整備に努めたり、支援計画を立てて支援を行う役割を担う。A氏の場合は職場定着には至らなかったが、職場適応援助者が定期的に訪問し、計画を立てて支援を展開したことで、客観的な評価・判断をすることにつながり、A氏にとっても自らの振り返りを行うことができ、また事業所にとっても客観的な評価を得られるといった点で、一定の効果を得ることができたと考えられる。
また、障害者の雇用支援を考えたとき、専門的知識をもつ外部機関の支援があることは事業所にとっても大きな支えであり、情報交換はもちろんのこと、相談できる場所があることは障害者雇用を図る上での一つの安心材料となっている。
3.取り組みの効果と今後の課題・展望
(1)取り組みの効果について
障害がある従業員は、一度作業を覚えると根気強く真面目に作業に従事できるため、他の従業員にも刺激を与えることにつながり、事業所としても欠かせない人材となっている。体調不良等でまれに休むこともあるが、急な欠勤、遅刻等が少ないため、人員の確保という面においても事業所への貢献度は高い。
障害者雇用を開始した当初、江﨑氏をはじめ多くの従業員は、彼らとどう接してよいのか、どのように指導したらよいのか不安や迷いもあったとのことである。
だが一緒に作業するにつれ自然と迷いや心配も減り、今では同じ職場で働く仲間となっている。障害者として特別な扱いをするのではなく、障害を個人の特徴として捉えることができたため、現在のような信頼関係が構築されたのではないだろうか。
(2)今後の課題と展望
事業所内はコンベア類の機器が多く、危険な作業を伴うことも少なくない。そのため、従業員の安全性の確保・維持は常に重要な課題である。特に知的障害者は認知機能に障害があり理解力に乏しいため、彼らが安全に作業を行えるようさらなる環境の整備・改善を行っていく必要性を感じているとのことである。
障害者はすでに大切な人材となっている。障害を抱えていても共に働ける場所、彼らが社会人としての役割を担う場として、今後もぜひ障害者雇用を続けていきたいと考えているとのことである。「彼らの雇用を守るためにも、継続して委託を受けられるよう事業所として努力を行っていかなくてはと強く感じます」と、真剣な眼差しで語る江﨑氏の表情が印象的であった。
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