職場環境整備の取り組みを通して、障害者雇用の可能性を広げる
- 事業所名
- 株式会社東京食品
- 所在地
- 福岡県嘉穂郡
- 事業内容
- 食品製造卸販売
- 従業員数
- 50名
- うち障害者数
- 23名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 2 事務 内部障害 1 事務 知的障害 20 油揚げ・厚揚げの製造、コンテナの洗浄作業等 精神障害 - 目次

1.事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
① 事業所の特徴
当社は、昭和32(1957)年に豆腐・油揚げの製造販売業として、穂波町秋松に設立。その後昭和54(1979)年に主力を玉子とうふ、茶わん蒸しの製造卸販売に転換し、嘉穂町に油揚げ部門を移転した。この時期より知的障害があっても作業を単純化することで彼らにも十分働いてもらえるだろうとの考えにより業務の細分化を図り、事業所近くの知的障害者、軽度の身体障害者を若干名雇用し、平成元(1989)年ごろより、さらに職場定着だけでなく、就業生活を支える仕組みとして「障害者職業生活相談員」を配置するなど、彼らの生活までも包括した支援体制づくりを行い、徐々に障害者の雇用人数を増やしてきた。
② 経営方針
経営方針は次の3点である。
- 自然の味、本物の味、そして新しい味を追求する。
- 品質を向上させる。
- お客様の心をいち早く察知し、応える。
当社はこれら当たり前のことを繰り返しながら、常にオリジナリティにあふれた商品を生み出してきた。今後もその姿勢を崩さず、本物志向の商品作りを目指していく。
また、食品製造という日常生活に密着した仕事を通して、障害者の雇用を積極的に行ってきた。今後も社会貢献を目的とした職場を障害の有無に関係なく提供し、彼らの社会参加に寄与することを目指す。
(2)障害者雇用の経緯
昭和54(1979)年、嘉穂町に油揚げ部門を移転した当時より、嘉穂町近隣住民の紹介等により知的障害者や軽度の身体障害者の雇用を開始した。その後、平成元(1989)年ごろよりハローワークの障害者専門担当者から、特別支援学校からの新卒の知的障害者、近隣の障害者の受け入れ要請を受け、本格的に障害者雇用の拡大を検討するようになった。
その頃、全国重度障害者多数雇用事業所協会から「重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金」を紹介され、現在の独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(以下「支援機構」という。)に申請し、平成4(1992)年2月に認定となる。平成4年当時の障害者人数は、身体障害者3名、精神薄弱者5名であったが、現在(平成25(2013)年1月)は重度を含む身体障害者3名、知的障害者20名を雇用。さらに平成25(2013)年4月に新卒者2名の採用を既に決定している。
2.具体的な取り組み
(1)障害者の従事内容
身体障害のある従業員は事務員である。
知的障害のある従業員は、油揚げ製造工程のほとんどの部門に配置されている。その主な内容は、①油揚げの保管に使用するコンテナ等の洗浄作業や、②油揚げや厚揚げの生地をのばし、生地供給機に並べる、③揚がってきた商品を回収してコンテナへ整列する、④包装し段ボールへ詰めるなどである。知的障害の特徴として認知機能の障害があげられるが、①〜④のように作業工程を細分化し、単純化することで作業内容の理解を促し、作業遂行が可能になるよう工夫をしている。こうして一人二種類の作業を担当できるよう指導を行い、ローテーションを組んで配置を行っている。


(2)具体的な取り組み
① 障害者の職場定着のために
特別支援学校等からの新卒者を採用するにあたり、一人につき2週間の職場実習を実施している。これは、実習期間内に一人一人の作業能力の評価を行い、どの部門に配置することで彼らの能力を最大限引き出すことができるか等の判断をすることができることと、障害の特性はもちろんであるが、障害者一人一人の作業時の様子や性格等についても知ることができるので、実際に採用した際の指導方法の検討に役立ち有効である。
職場実習時の作業工程の指導方法は、実習生と障害のある従業員とをペアにし、作業指導も障害者が担当するように配置している。前述したように知的障害の特徴として認知機能の障害が挙げられるが、細分化・単純化された作業工程を①手本を示し、②一緒に行う、③一人で作業をさせ、④改善点の指導を行う等、繰り返し指導を行うことで、時間はかかるが徐々に作業工程を身に付けることができるようになる。
障害者が一つの工程を覚えるまでの期間は最低でも3か月はかかるとのことだが、最初の1か月ほどはペアを組み、その後は監督役として実習時の指導者役の障害者が作業に立ち会い、指導および見守りを行っている。障害者が一工程を一人でこなせるようになるまで根気よく、繰り返し指導を行い、着実に作業を身に付けていくことを目指すのである。
② 安全で安定した職業生活を送るための「障害者職業生活相談員」
「障害者の雇用の促進等に関する法律」において、障害者を5名以上雇用している事業所は障害者職業生活相談員を配置することとなっている。当社では障害者職業生活相談員の配置を積極的に行っていて、現在5名を配置している。当社の障害者職業生活相談員は、障害者の職場での人間関係の構築の支援や、作業環境の整備、就業に関することだけでなく、生活全般に関する相談事も受け付けている。また、障害者職業生活相談員が配置されていることを全従業員に周知することで、障害者も障害のない従業員も、相談できる人・場所があることで互いに安心して就業することができ、これらは障害者の就業生活の安定に貢献していると同時に、職場環境の調整に大いに役立っているということができる。
③ 「就業できる」環境づくり
当社は、これまでに多くの障害者を雇用してきたが、面接を行い双方が気に入っても、通勤手段がなく雇用を諦めたケースは少なくない。
東京食品は川と畑に囲まれた場所に位置し、バス停まで徒歩15分、最寄りの駅まで徒歩30分ほどかかる。そのため、東京食品で働きたいと思っても通勤することが困難な障害者も多い。
そこで当社では、支援機構の「重度障害者等通勤対策助成金」を活用し、障害者のための通勤バスを購入、彼ら一人一人の自宅近くから事業所までの送迎(朝晩2便ずつ)を行っている。優秀な人材がいても、自動車免許のない障害者が自らの足で通勤するには利便性が大切な要素となってくる。そこを事業所としてどのように環境整備に取り組むかが、東京食品だけでなく、地方企業に共通する重要な課題であろう。
また、自宅近くまで送迎をしてもらえるということで、障害者の保護者も安心して見守ることができるのだそうだ。障害者だけでなく、障害者の保護者までもが安心できる環境づくり、このことがより安定した就業生活の維持に繋がるのである。その重要性を感じることができた。
さらに、3名の身体障害者に関しては、通勤は自家用車を使用しており、身体障害者用の駐車スペースを確保することと、施設の出入り口にスロープを設置する等、ハード面での環境整備にも努めている。
④ ハローワーク、特別支援学校や職場適応援助者との連携
ハローワーク、特別支援学校との日ごろからの情報交換は有用である。事業所が望んでいる人材と求職している障害者とのマッチングにおいて、事前の情報交換があれば雇用契約まで順調に運ぶ可能性が高まるからである。
また、雇用している障害者の中には、職場適応援助者(ジョブコーチ)を利用している者もいる。職場適応援助者は職場での作業工程や彼らの職業生活について、当社の障害者職業生活相談員と連携して解決を図り、作業能力の評価や円滑な支援方法について検討することができる。また、職場適応援助者をはじめ、前述のハローワークや特別支援学校と日ごろから情報交換を行うことで新しい情報や、東京食品の取り組みについて広く外部に知ってもらう良い機会となっている。
3.取り組みの効果と将来の展望
(1)取り組みの効果について
障害者雇用を開始して33年が経つが、障害者の仕事に対する真面目な勤務態度や、適合する部門であれば根気強く業務に取り組むことができ、当社にとって今では欠かすことのできない人材となっている。さらに障害のない従業員と比べ、突然の遅刻や欠勤がほとんどないため、製造個数の予測等が立てやすく従業員数の確保の点で安定を図ることができる。また彼らの真面目な態度が、他の従業員の就労態度にも影響を与え、波及効果を与えている。
障害者にとっても、社会の一員としての役割を担えるというやりがいや達成感、自尊心の獲得といった点で、一定の効果をもたらしているといえる。
さらに、前述の「障害者職業生活相談員」であるが、事業所側より適任と思われる従業員に声をかけ、研修を受けるよう勧めることもあるが、現在配置されている障害者職業生活相談員のうちの数名は、自ら障害者職業生活相談員になることを希望した者もいるとのこと。一緒に働くことで、彼らの抱える大変さ、生活のしづらさを自然と理解することができ、障害者への支援に興味を持つようになったようである。そのため専門的な知識や技術を少しでも身に付け、障害者および事業所のために少しでも役立てようとする従業員の前向きな気持ちを汲み取ることができる。その点も、事業所での積極的な障害者雇用のひとつの成果といえるだろう。
(2)課題と将来の展望
現在、身体障害者・知的障害者を合わせて23名の障害者を雇用しているが、平成元(1989)年当初に雇用した者は、加齢に伴い作業能力が年々低下している状況にある。またその他の障害者の中にも集中力や体力の維持が難しく、周囲から見てフルタイム就業への困難さを感じる者もいるという。こうした環境下での作業は、就業中の事故、不良品の発生等の原因につながることが考えられ、現在の大きな課題の一つとなっている。そこで解決策の1つとして、ワークシェアの導入を検討しているとのこと。フルタイム就業が難しい者を短時間労働へと切り替えていき、一人ひとりの就業時間を短くすることで、より多くの障害者に就業の場を提供することができるのではないかと考えている。また、長年勤務している従業員が多いため、数年で定年になる者が多いそうなのだが、定年者との入れ替わりで新しく雇用する従業員に関しても、積極的に障害者を雇用することを考えているとのことである。
企業としてまだまだ課題はあるとのことだが、社長や統轄本部長は「障害があっても、作業工程の細分化や指示の統一、繰り返し指導を行う等、少しの努力と工夫があれば就業は可能だということを、これまでの30年以上の実績から彼らは教えてくれている。これからは、短時間労働の導入や、高齢化した従業員の入れ替え等、東京食品としてさらに障害者雇用の促進を図っていきたいと考えている」と語っており、障害者への期待が大きいことが伺える。
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