障害を意識せずに定年後も能力を発揮できる事例
- 事業所名
- 学校法人 九州アカデミー学園
- 所在地
- 佐賀県鳥栖市
- 事業内容
- 専門学校(医療、看護、福祉の3専門学校)の経営及び歯科医院、老人福祉施設、保育園等の経営
- 従業員数
- 64名
- うち障害者数
- 2名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 2 教員 知的障害 精神障害 - 目次
1.事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
学校法人九州アカデミー学園は、昭和43(1968)年3月財団法人鳥栖歯科衛生士学院として設置認可を得て、同年4月に佐賀県鳥栖市において開学した。その後、昭和51(1976)年4月の専門学校認可を経て、時代の変化とともに様々な学科を増設、平成7(1995)年4月に学校法人九州アカデミー学園に法人名を改称した。
現在当法人が経営する学校は、九州医療専門学校、アカデミー看護専門学校、長崎福祉専門学校の3校がある。鳥栖市にある九州医療専門学校には、歯科衛生士科、歯科技工士科、歯科技工士専攻科、鍼灸師科、鍼灸臨床研修科、柔道整復師科、柔道整復臨床研修科、精神保健福祉士通信学科、社会福祉士通信学科の9学科がある。
また、同法人グループでは歯科医院、老人福祉施設、保育園等も経営しているが、医療専門学校の建物内に付属の整骨院及び針きゅう治療院が併設され、実技を学ぶことができるのも特筆すべき点である。この治療院は地域一般にも開放されている。
開学以来、医療福祉分野で即戦力となる多くの人材を社会に送り出し、また、超高齢社会という時代の要請に応えてカリキュラムや講師陣の充実にも力を注いでいる。特に注目すべきは、国家試験合格率100%を推進、進路決定率も100%を達成していることである。次代を担うスペシャリストとして、多くの卒業生が当学園から社会に大きくはばたき、第一線で活躍している。
(2)障害者雇用の経緯
現在、2名の重度の腎臓機能障害がある人(A氏、B氏)が雇用されており、平成24(2013)年度の障害者雇用率は6.35%である。しかし、2名とも障害者に特定した採用で雇用となったわけではない。
A氏は九州医療専門学校の職員で、当校に勤務して14年になる。発症したのは5年前とのことであるが、発症後も学校の重責を担いながら、以前とほとんど変わらず勤務している。
もう1名のB氏は、A氏と同じ当校の鍼灸科の教員として勤務して7年目で、3年前からは責任ある職位に就き、教員としての仕事はもちろんのこと、それ以外の重責も担っている。当校に勤務する前は障害者支援学校で8年間ほど教員として勤務していたが、当校に転職されてきた人である。
B氏の採用に当たっては、A氏の場合とは違い、面接の際にすでに腎臓機能障害を発症していたが、障害者であることが特に問題になることはなかった。当法人では、障害の有無を採用の基準としておらず、また従来から障害者に特定した採用も行っていないからである。職員としてその職務が全うできれば、障害の有無は全く問題視していない。
2.取り組みの内容
障害者雇用について、法人(学園)として取り組んでいる内容について聞いてみたところ、就業規則に雇用する障害者のための規定を設ける等といった特別なことは何もしていないとのことである。2名とも週に3回は人工透析のために通院が必要であり、その日に限っては、通常より早い16時までの勤務となっているが、これらについては現行の就業規則に則って対応している。これらは労働時間に対する対応で、昇給、昇格といった待遇や人事評価等の雇用管理面においては他の職員となんら違いはない。これは、前述したように、障害者であるなしに関わらず期待される能力により雇用されているからであり、障害者であることを特別視するわけではなくその職責を果たせるかどうかである。A氏は中途で障害者となっても変わらず責任ある地位のまま勤務を続けており、またB氏は教員として採用され、4年目からは役職者としての重責を果たしながら現在も毎日講義を受け持っている。多い日には補習等も含めて一日6時間の講義があるらしく、「6時間の講義はけっこう大変です」とのことである。移動などを含め体力的な面を考慮して実技の講師はしていないが、そのぶん他の講義や役職者としての仕事を担っている。
障害に対する配慮ということでは、前述のように2名とも週に3回は人工透析のために通院が必要であり、その日に限っては、通常より早い16時までの勤務となっていることだろう。ただこれも、当校としては特別な配慮と考えているわけではなく、ごく自然に、会議等もその日やその時間帯を外して設定されているとのことである。平日以外の学校行事についても、人工透析の日と重なったときはやむなく欠席しているが、それ以外は参加している。
職員や学生の健康診断等のための嘱託医は決まっているが、2名とも人工透析のために通院するのは自宅に近い病院である。B氏は、当学校まで高速道路を利用しても相当な時間を要する距離を自家用車通勤しているが、病院は自宅から数百メートルのところにある。やはり日頃の体調管理が一番肝心であるために、何事も病院を中心に考えざるを得ないとのことである。内部障害者が仕事を続けていくうえで大切なことは、まずなにより自分自身の健康管理が一番であるが、それとともに体調管理ができる職場環境も必要とのことである。
A氏にもB氏にとっても、障害は自身の体調管理に気を配って職場の理解がある限り仕事をするうえでの支障は何もなく、今の恵まれた環境で、通院をしながら体力の続く限り仕事を続けたいとのことである。
3.取り組みの効果と課題・今後の展望
(1)取り組みの効果
当法人では、前述したように、雇用管理上障害の有無による差はまったくなく、また就業規則等に障害者用の特別な規定も設けていない。A氏もB氏も、通院のために職場での配慮はしてもらっているが、特別待遇は受けていないし必要ともしていない。結果的に「当法人が必要とする人材にかなう応募者がたまたま障害者であっただけ」ということであろうが、本来の意味での共生社会の縮図ではないかといえる。
A氏はすでに定年年齢を超えているが、再雇用されて69歳の現在も元気に勤務している。このことは、たとえ障害者であったとしても、仕事を続ける意欲と健康を維持することができれば現役であり続けられることの証しであり、後に続く障害者にとっても希望となるはずである。
(2)課題・今後の展望
① 課題
当学園において、内部障害者以外の障害者が雇用されたことは現在までに例が無いということである。施設の構造上の問題や職域上の制限から、雇用の対象となる障害者が限定されるからである。現状のままでは、これから退職などにより代わりの障害者雇用が必要となった場合、採用そのものが難しくなってくるであろう。
雇用対象となる障害者の範囲を広げるためには、施設の改造等が難しければ、新たな職域を開発する等の発想が必要となる。
② 今後の展望
定年は現在60歳定年制で、希望すれば継続雇用制度もあり、継続雇用に際しても障害者であることがネックになることはない。前述のように、A氏は69歳になる現在も、当校に不可欠な存在として勤務を続けている。
現在、国が中心となって、「70歳まで働ける企業の実現」に向けてさまざまな施策を行っているところであるが、当法人の定年後の働き方(65歳を超える雇用継続)についての考えは、本人に引き続き就労意欲があって健康(体力)であるかどうかであり、個々に違うというものである。
障害を持つ学生も在籍する医療・福祉関係の学習支援事業を行っているからこそ、障害者雇用率を達成するための雇用だけではなく、障害者にも高年齢者にも優しい、同業種のモデルとなるような障害者雇用を期待したいものである。
③ まとめ
今回の取材を通して、障害者が仕事をするための「ジョブマッチング」の重要性を強く感じた。支援する側として、事業主に障害者を雇用するための配慮や努力をお願いするばかりではなく、エンプロイアビリティを高め「ぜひ雇用してみたい」と思われる障害者が増えるような支援をしていくことも大切なことだと考える。
執筆者: | 社会福祉法人 若楠 |
障害者就業・生活支援センター もしもしネット | |
主任就業支援員 執行 めぐみ |
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