障害や年齢に関係なく活躍できる職場を目指して
〜障害者から学ぶこと〜
- 事業所名
- 社会福祉法人安岐の郷 特別養護老人ホーム 鈴鳴荘(れいめいそう)
- 所在地
- 大分県国東市
- 事業内容
- 特別養護老人ホーム、ショートステイ・デイサービス、グループホーム、ホームヘルプサービス、居宅介護支援事業、介護タクシー、障害福祉サービス、事業所内託児所
- 従業員数
- 230名
- うち障害者数
- 10名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 1 肢体不自由 6 介護・調理・清掃 内部障害 知的障害 1 洗濯・清掃 精神障害 2 事務職・農業 - 目次

1.事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
社会福祉法人安岐の郷は平成7(1995)年4月27日に設立され、翌年10月には「特別養護老人ホーム鈴鳴荘」が事業開始された。その後、国東市の「特別養護老人ホームむさし苑」「養護老人ホーム松寿園」の移譲をうけて同苑(園)の事業を開始するとともに、統廃合により利用しなくなった小学校校舎を活用し「小規模多機能型居宅介護事業」と「交流型デイサービス」の2種類の事業を行う「朝来サポートセンター鈴鳴荘」を開設し、着実に地域の高齢者福祉の拠点となっている。
平成23(2011)年には、職員のライフスタイルに応じた育休制度や365日受け入れができる事業所内託児所の設置など、家庭と仕事の両立支援の積極的な取り組みが高く評価され、内閣府の「子ども若者育成・子育て支援功労者表彰」で最高賞の内閣総理大臣表彰を受賞した。この受賞にあたっては、廃校校舎を住民の交流の場にする「100円居酒屋」を開設。地域のコミュニティーに寄与したことも評価された。
この「100円居酒屋」は「朝来サポートセンター鈴鳴荘」事業を開始する際、朝来地区の354戸(入院中以外全戸訪問)を訪問し、述べ500人以上の方に聞き取り調査を実施し、その聞き取り調査に基づいて何が地域の福祉に求められているのかを分析して始めたものである。その後の運営は地域との連携を基本とし、現在では地域の運営サポーターは50人を超えている。また、この100円居酒屋は平成21(2009)年5月の開始から現在まで一度も中止されたことがない。
東日本大震災発生直後には、被災地の福祉施設に同法人の介護の専門家を述べ6人を被災地の要請に応じて7ヶ月間の長期派遣を行った。
(2)障害者雇用の経緯
障害者雇用については10年程前(平成14(2002)年)から取り組んでいる。取り組みのきっかけは地域の障害者作業所の紹介により、障害者を雇用したことからであった。特に障害者を意識することなく雇用してみたが、短期間で退職してしまった。その理由は、「蛇が怖い」との理由であった。確かに蛇が現れてもおかしくない自然環境ではあるが、なぜ退職するまでに思い悩んだのかは理解できなかった。
また、別の機関からの紹介で身体障害者も雇用した。利用者へのあん摩、マッサージを主たる業務として雇用したが、支援する職員と本人ともに業務に無理が生じて長く続かなかった。
これらの経験から障害者を雇用することについて難しいと感じてはいたものの、特に支援する職員に過重な負担にならない限り、その後も障害者を区別することなく採用し続けた。そして、現在(平成25(2013)年1月)では10人の障害者を本人の特性に応じて様々な部署で雇用するまでに至った。
2.取り組みの例(精神障害者と高次脳機能障害者の雇用事例)
(1)精神障害者Aさんの事例
6年前(平成19(2007)年)から働くことになったAさんは、障害福祉サービス事業所からの推薦で、職場実習を経て雇用された。当初のAさんの業務は、車両の洗車や管理(メンテナンス)、施設内で使う物品の在庫管理、車イスやベッドの点検とメンテナンスなどであったが、徐々に業務内容も増えて、経験のなかった農業事業までも任されることになった。農業事業はこの地域性を考慮すると必要な事業であり、Aさんもその期待通りに精力的に働いていた。
Aさんの待遇は入職当時の時給650円から150円上がった800円になったことからも、Aさんの仕事が評価されているのが理解できる。ただし、Aさんの労働時間は入職当時は1日4時間と短かった。それは、「無理をすると体調を崩すから短時間にしてほしい」と、Aさんからの希望であった。しかし、徐々に業務が多忙となり、1日6時間の労働時間までは応じてくれた。
その後もAさんの業務は忙しくなり、人手が足りなくなってくる中で高橋総合施設長は1日8時間に勤務時間を延長できないかと打診してみたが、Aさんは「仕事を無理して再発した結果、再入院に至るのが一番辛いことだ。もうあんなに長く入院したくない」と断り、「他に人を雇ってくれ」と言い続けていた。
Aさんに打診をしてから数ヶ月後、Aさんから突然に「8時間働いても良いよ」と返事があった。Aさんがこの結論に至るまでには多くの葛藤があったと思われる。現在のAさんは週40時間勤務となり、社会保険にも加入している。その後も再発することなく、仕事を真面目にこなしている。
Aさんの主な仕事内容
- 車両20台の洗車や管理(メンテナンス)
- 施設内で使う物品の在庫管理
- 車イスやベッドの点検とメンテナンス
- お米の精米
- 植木や花の手入れ
- 施設内の蛍光灯の交換や環境整備
- 鈴鳴荘の畑の管理
- 配食サービス
その他の仕事内容
- 各施設間の配達(書類や備品)
- 朝来サポートセンター鈴鳴荘100円居酒屋の準備(毎月第2土曜日)
- 別府市のホテルと共同開発の『魚の地獄蒸し』を各施設へ配達して、その帰りに施設のゴミの回収も行う。
- 看護師から杵築市、国東市の病院へ薬を取りに行くように依頼されることがある。
Aさんの事例のポイントと補足を以下のとおりにまとめてみた。
- 雇用までに3ケ月の実習期間を設けた事で、本人と雇用主がお互いに納得した上での雇用契約となった。
- 障害者フォーラムで自らの病気や障害、そして仕事についての想いを率直に発表した。
- 他の職員がAさんの仕事の大変さを体験してもらう取り組みを行った。
- Aさんについて、多くの職員があらゆる面で評価をしている。
(2)高次脳機能障害Bさんの事例
5年前(平成20(2008)年)に契約職員として雇用したBさんの主な業務は、法人内10部署の勤務表やデータを入力する仕事である。
しかし、Bさんの業務のやり方には問題があった。例えば、データを指定されたフォーマットに入力する作業について、Bさんは独自にフォーマットを作成して入力することがあり、事務所内を混乱させたことがあった。また、Bさんは当日の朝に「10日ほど休みます」と連絡をして欠勤することがある。欠勤後に出勤しても、何もなかったような顔で仕事をするため、Bさんの仕事をフォローした同僚や上司の理解を得るのは難しい。
Bさんの障害を理解するためにBさんを紹介した専門機関に相談することにした。しかし、相談する度に高次脳機能障害について理解を深めることにはなったが、具体的にどうしたらよいのかと感じることもあった。
高橋総合施設長はこのままの状況が続くと、Bさんは障害のために社会性が備わらないのではと心配となり、Bさんと面接を行うことにした。まず、今の状況のままでは雇用期間の更新は難しいと伝え、雇用期間を更新するためには以下の3点を努力してほしいと伝えた。しかし、この面接はBさんの自信を喪失させるものではなく、Bさんが気づいていない面を支援することに配慮したものであった。
(Bさんとの面接の内容)
① 報告の必要性について。
(Bさんにとって報告する必要があるのは部長以上の役職者であり、同僚などに報告をする必要がないと認識していた。)
② 自己判断は許可を得て行うこと。
(仕事に集中すると視野が狭くなり、自己判断につながり易いことを思い返してもらった。)
③ 職場のルールを理解すること。
(職場における常識や基本的なコミュニケ—ションを理解してもらい、業務内容や職場内のルールについては、Bさんにとって解りやすいマニュアルを作成した。)
Bさんの現状では、雇用継続は困難であったかもしれない。Bさんの障害を上司や同僚が理解しようとしたことで、雇用の継続に結びついたと思われる。また、上司や同僚はBさんの間違いを指摘してよいのか躊躇したことにより、フラストレーションを抱えていたことが分かった。そのため、このままではお互いに無理が生じると実感し、以下のような取り組みをおこなった。
高次脳機能障害を理解するための上司や同僚の取り組み
① 専門機関とのカンファレンスを実施した
② 上司や同僚も悩みを相談できる体制作りを行った。
③ 職員が障害についての研修を受講した。
この取り組みの結果、上司や同僚がBさんを理解しようと前向きな姿勢に変化し、Bさんの雇用期間は半年間、更新されることになった。ただし、欠勤が多いために現在の週5日の勤務には無理が生じているとお互いに判断し、週2日の勤務で様子をみることになった。
3.取り組みの効果、今後の展望と課題
(1)取り組みの効果
① 精神障害者Aさんの事例 〜他の部署の職員が農業事業を体験することで(職員の農業体験の実施)〜
農業事業が忙しくなると、高橋総合施設長をはじめ、事務職員や栄養課、福祉現場スタッフも農業を手伝うことになる。そこでの協働作業は、担当部署以外との人間関係の形成に役立つことになった。また、この体験で農業の大変さや大切さを職員自身が体で理解することでき、その作業を行っているAさんに対しては尊敬の念へと変わっていった。
事業所内託児所の園児に農業体験をしてもらう行事では、Aさんは先頭に立って優しく園児に指導していた。その姿はとても立派であった。
これらのことは、精神障害のために失ったAさんの自信を回復させる経験であったのではないだろうか。その結果、Aさんは勤務時間の延長を受け入れることになったのではないかと、筆者は推測する。
② 高次脳機能障害Bさんの事例 〜遠慮して我慢するより伝えることの大切さ〜
Bさんと一緒に働くことで、他のスタッフが高次脳機能障害者への理解を学ぶことになった。高橋総合施設長は、障害は個人個人でも異なるため、この障害の場合はこのように対応するといったマニュアル通りにはいかない。特に働く現場では、周囲が理解し支えていくことが必要であると思うが、限界があるのも現実である。Bさんの場合、スタッフはBさんを最大限まで理解をしようとしている。その姿勢には人を支援する『福祉の心』があるからではないかと言う。
(2)今後の展望と課題
今回は2人の事例を紹介した。1人目は精神障害者であり、もう1人は高次脳機能障害者である。2人とも障害特性や職業上課題となる面が異なり、職場としては各障害について柔軟に学び、支援を必要とした。
Aさんの事例では、地域の障害福祉サービス事業所の紹介から雇用に結びついた事例である。Aさんと同じ境遇の精神障害者は何万人もいると思われる。Aさんは病気や障害をオープンにし、周囲の人から必要とされることで自信の回復までに至った。精神科病院や障害福祉サービス事業所を利用している精神障害者にとって、Aさんの働き方は良いモデルになると思われる。
Bさんは生活面や職業面で課題はあるにしても、雇用期間は延長された。この期間は、Bさんにとっての働き方と、働き易い環境を模索する期間になるのではないかと期待できる。
最後に、今後も社会福祉法人安岐の郷は地域に求められる福祉事業を模索し続け、それに伴い障害者の雇用の場も拡大されると思われる。そして近い将来、地域の休耕田を活用して棚田が復活し、稲作が盛んであった頃のこの地域の見事な景観の中に、障害や年齢に関係なく共に汗をかいて働く人々がいることを想像し、実現されることを期待したい。
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