50年以上の障害者雇用の実績から生まれた事業所
「障害者の幸せを願う」経営者のその強い気持ちから
- 事業所名
- 社会福祉法人 弘心園
- 所在地
- 大分県宇佐市
- 事業内容
- 多機能型事業所「心里」(就労継続支援A型事業・就労移行支援事業)
共同生活援助(グループホーム)の運営 - 従業員数
- 法人全体 65名
- うち障害者数
- 法人全体 45名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 2 裁断、印刷、縫製、検査、内袋挿入折りたたみ、製品梱包など 肢体不自由 内部障害 知的障害 38 裁断、印刷、縫製、検査、内袋挿入折りたたみ、製品梱包など 精神障害 5 裁断、印刷、縫製、検査、内袋挿入折りたたみ、製品梱包など - 目次


1.事業所の概要、障害者雇用の経緯等
(1)事業所の概要
2012(平成24)年4月2日に設立された社会福祉法人弘心園は、大分県宇佐市にある障害者の就労支援を行う多機能型事業所「心里(こころり)」(就労継続支援A型事業・就労移行支援事業)を運営する。
主な就労支援事業にあたる特殊な産業用袋の製造では、他社には真似ができない技術をもっている。そこでは、製造工程のほとんどの箇所でマンツーマンで教育された障害者が仕事を行う。そのため、クレームがなく取引先からの信頼もあつい。この製造の仕事が安定していることにより、障害者の「雇用」が守られ、「生活」の支援の両面がなされている。
2012(平成24)年、理事長の友松研二氏は障害者の雇用促進と職業の安定に永年貢献したとして、厚生労働大臣賞を受賞した。大分県の同趣旨での受賞は、1968(昭和43)年に他の社会福祉法人が団体として受賞して以来、44年ぶりである。この功績は、友松研二氏が社長を務めていた日豊製袋工業株式会社での50年以上にもわたる障害者雇用の経験から、「自主自立」を理念に掲げ、「やれば出来る。やったら出来た」を合言葉に、利用者の最低賃金を保障しながら、職員一丸となって利用者1人ひとりの夢の実現に努めてきたことからであると思われる。
本事例に挙げる多機能事業所「心里」は就労継続支援A型事業と就労移行支援事業を行う多機能型事業所である。また、グループホームも運営される。事業所の概要は次のとおりである。
○多機能型事業所「心里」:就労継続支援A型事業所
【定員】 | 30人 | |
【作業内容・取引商品】 | 茶園用遮蔽幕等・保冷パック・コンバイン袋・フレキシブルコンテナバッグ品質検査、及び内袋挿入作業・JT葉タバコ収納袋・大型パイプ・カバー等・鳥獣防御幕等・エコバッグ各種 |
○多機能型事業所「心里」:就労移行支援事業所
【定員】6人
【就労先】日豊製袋工業株式会社(施設外就労)
【内 容】フレキシブルコンテナバッグ品質検査、及び縫製補助作業等
○共同生活援助(グループホーム)「安心ホーム1」:6人、「安心ホーム2」:6人
(2)障害者雇用の経緯
日豊製袋工業株式会社の障害者雇用のきっかけは、50年前にさかのぼる。友松研二氏が終戦直後の何もない時代に知的障害者と出会ったことからである。新工場を建設している時に、従業員が寒いからと焚火にあたっていると、知的障害がある少年がやってきた。「毎日あたりにくるなら、海岸に行って薪を集めてこいや」と言うと、ちゃんと集めてくる。「帰るときは火を消せよ」と言えば、消してくれる。この様子から障がいがあっても働けると確信し、「戦後の日本は障がいのある人とともに復活せねばならない、その気持ちが障害者雇用の始まりでした」と、当時を振り返られる。
以来、日豊製袋工業株式会社の社長として障害者を雇用した。徐々に雇用する障害者の人数も増えていくにつれ、障害のない従業員との問題も発生してきた。従業員に障害の理解を求めながらも、重たい障害のある人も自分らしく働ける場所、障害のない人が中心となる職場だけでなく、障害者が中心に働くことができて、かつ最低賃金も保障される職場も必要であると思うようになった。
(3)弘心園設立に至るまで
弘心園は「NPO法人心里」から事業を開始して、社会福祉法人の認可を受けた。現在は、多くの仕事を受注できる態勢が整っているが、NPO法人を開設してからの2年間は大変に苦労している。
最初は利用者への教育がなされていなかった為に、現在行っているような仕事を受けることができなかった。まずは利用者を集めるよりも最低賃金を保障できる仕事を探し、利用者を教育することに奔走したと言われる。今の体制ができ上がると、徐々にあらゆる機関から利用希望者が集まってきた。
2.取り組みの内容
(1)取り組みの基本
弘心園で行う多機能事業所「心里」(特に就労継続支援A型事業)の運営に当たっての基本原則は、次のようなことであるとする。
① 経営者の理念が大切
第一に「障害者の幸せ」を目的とすること。
経営者は、奉仕の精神を持ち、どうすれば障害者が幸せになれるのかを限りなく追求することにより、そこに知恵や発想が出てきて、人材が集まってくる。
② 生活と就労の両面からの支援
障害者の就労支援を考える前に、まず生活支援を考える必要がある。
弘心園では、工場内のトイレ清掃当番や月間作業班長を自主的に決め、月間スローガンや目標ノルマ等も設定している。休憩室も充実しているために、仕事中に体調不良になった場合も休むことができる。生活を支援する職員も配置されているため、安心して就労できる体制を作っている。
③ 高付加価値の商材を扱う
障害者に最低賃金以上の賃金を支払うためには、付加価値の高い仕事を得ることが必要である。そのための事業アイデアは、あらゆる所にあると考える。また、付加価値の高い仕事は、他の競争者からの参入を防ぐ手段ともなり、安定的な仕事の確保につながる。
④ 他社の事例からヒントをつかむ
付加価値の高い仕事の事業アイデアは、さまざまな所にある。いろんな企業の事例からヒントをつかめば、それを膨らませ、地域の特性を加味すること等で新たな事業アイデアが浮かんでくる。
⑤ 企業経営者に学ぶ
事業を運営する上で発生する各種の課題については、経営を実践している経営者に学ぶことが重要である。商売のことは商売のプロに聞くことが大切な姿勢である。
⑥ わからないことはわかる人に聞く
福祉事業を運営していく上で、わらないことが出てきた場合、それをわかる人に聞くこと、求めることが重要である。経営者が当事者に教えてもらう。そんな姿勢が重要である。
⑦ 指導員の養成
利益を追求する企業を相手に商売するためには、責任感のある指導員の養成・指導が重要課題となる。
発注先の要求する仕様を完全に把握して、それを利用者に正確に伝える能力が求められる。同時に、利用者の健康状態等を把握して、その状況に応じた作業の割振りを行うことが必要である。弘心園では、支援員の新規採用については、福祉事業所での経験や、主要商品に関する知識の有無は求めない。すべて採用後の教育、実践により身につけていく。その原動力は、友松理事長の理念である「障害者の幸せ」への共感である。実際に利用者を支援する指導員の意識の高さが、この組織を支えている。
(2)取り組みの内容
① 作業面
Ⅰ.日課
- 毎朝のラジオ体操による様子観察
毎朝、同じ時間、同じ場所でラジオ体操を行う。変化があるとすれば利用者の体調や精神面である。職員はその様子をみて、不調ではないかと思われる利用者に対して声かけをおこない、横になるように促すなどして無理をさせないようにしている。 - ミーティングの実施
声を出すことを習慣にすることにより、声が小さくて自分の意見を言葉にできなかった利用者も、あらゆることに自信がついて自分の意見を話せるようになっている
Ⅱ.製造工程
原料入荷→倉庫→裁断→印刷→縫製→検査→内袋挿入折りたたみ→製品梱包ほとんどの工程に障害者が関わっており、本人の適性に合った部署を任せるようにしている。また、障害者の雇用を促進安定させるために大学と連携して機械の改善・開発を行っており、日本で唯一の機械も導入されている。倉庫には、多くの製造前の原料が積まれており、数ヶ月先までの仕事が保障されている。製造現場には程よい緊張感があり、そこで働く利用者が責任を持って自らの仕事に取り組んでいる姿があった。



② 教育面
弘心園を利用したいという希望者には、障害の程度については特に問わない。実際に現場で働きながら教育をするようにしている。福祉関係の人からは、弘心園で働く利用者の状況をみて、働くことが可能な障害者を雇用しているのではと思われがちだそうである。確かに、作業をしている障害者の様子をみると、どこに障害があるのかわからないと筆者も感じた。そのあたりを事業部長の山内令子氏から話をお聞きすると、教育を受けないで仕事をこなせる利用者はいなく、弘心園の中で2〜3年を費やして教育をしていく。その上で働くことが困難な人に対しては、外部の専門機関と連携しながら対応を検討しいくことにしている。まず、できることを支援員と共にみつけていくことが大切であり、自信がつくような教育を行っていくことで、ほとんどの障害者が働けるようになると言われる。
弘心園は、障害者の最低賃金を守ることがポリシーであり、理事長をはじめ職員も経営について真剣に考えている。その考えは障害のある利用者にも伝わると話す。
利用者には、「強く指導すること」「愛情を持って接すること」の両面から指導していくため、仕事のスキルだけでなく社会人としての成長がみられる。利用者が成長するにあたり、以下のような目標が設定され、最終的には毎日の仕事が面白いと思える段階まで引き上げていくようにする。
- 第1段階の目標 … 夢と希望をもつこと。
個人の個性、特徴を発見して考慮しながら、会社の中の人との会話、社会人としての礼儀作法の指導を実施する。 - 第2段階の目標 … 皆と一緒に仕事ができた自信をつける。
同じ仕事を持続できる体力、精神力を養成、責任感をもたせること。個人に適した作業を検討していく。 - 第3段階の目標 … 毎日の仕事が面白いと思うこと。
仕事の能率や、掃除、点検の安全対策に重点をおき、協調性を重視していく。
③ 福利厚生
- 年2回の慰安旅行
旅行先については、旅費の収支等を話し合った上で利用者が決定する。一昨年(平成23(2011)年)は海外旅行にも行き、年々と参加者が増えている。
旅行に行くには、身だしなみや健康面、お金の管理を考えることになる。旅行は大きな自立につながるとのことである。慰安旅行での集合写真を見ると皆がとても楽しそうなのがよく分かる。 - 住まいの提供
グループホームを2棟提供している。 - 広い休憩室
休憩室では、カラオケやレクリエーションが行える。


3.取り組みの効果、今後の展望と課題
(1)取り組みの効果
- 最低賃金が保障されている仕事に従事できる。
- 障害があっても、仕事を通して社会人としての成長がみられる。
- 障害をもつ多くの仲間と出会えた。
- 障害者同士の結婚があった。
弘心園で出会った利用者が結婚をされた。現在は、市営住宅で新婚生活を送っている。事業部支援部長 恒遠樹人氏は、二人が結婚に至るまでには多くの課題があり、支援を行う必要があったと言われる。しかし、結婚式の幸せそうな二人の写真をみるとそのようなことは想像もつかない。
(2)今後の展望と課題
現在92歳になられる友松理事長は、今でも障害者たちの中に入り、他の職員たちと一緒に就労支援に取り組んでいる。そして次々に新たな事業アイデアを考え続けている。
その姿に大きく影響を受けて多くのことを任せられるまで育ったスタッフがいる。これほどまでに、献身的に障害者雇用に打ち込まれている経営者は他にいるのであろうかと思う。その原点は、「障害者を幸せにすること」であると話される。
これからは、利用者が高齢になっても生活できる施設や仕組みをつくりたいと意欲的であり、すでに利用者から利用についての相談を受けている。
今後も弘心園は障害者の幸せを追求し、その想いは着実に積み重なって実現されていくと思われる。
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