障害者雇用に適材適所はあっても、障害を理由にした雇用の制限はしない
- 事業所名
- 株式会社ジオテックホールディングス
- 所在地
- 宮崎県宮崎市
- 事業内容
- 土木建設資材卸業、戸建住宅販売、墓石販売
- 従業員数
- 35名
- うち障害者数
- 3名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 1 事務職補助及び一般社員の心的ケア 内部障害 知的障害 1 事務作業補助 精神障害 発達障害 1 住宅工事現場の整理整頓及び清掃 - 目次

1.事業所の概要、障害者雇用の背景と経緯
(1)事業所の概要
株式会社ジオテックホールディングスは、平成4(1992)年8月に土木建設資材の卸売業として宮崎市内で創業した。主力商品は、コンクリートを使わずに河川や道路等の構造物を構築する特殊な製品である。
例えば、電化製品の保護材に使用されている発泡スチロールで作った道路の路盤材料や土を垂直に積み上げることができる樹脂製のグリッド(網)製品などがある。使用されている場所は、高速道路や国道・地方道であったり、河川、池、沼などの護岸であったりする。土木建設資材の卸売業でありながら、土木構造物の設計技術サービスができる体制を敷いているところが大きな特徴と言える。
平成12(2000)年から戸建住宅の販売、平成20(2008)年から墓石販売に進出し事業を拡大している。住宅と墓石の販売は、価格競争と一線を画した高品質・高規格商品に特化したビジネスを展開しており、「住まいとインフラ整備を中心としたトータルのサービスをお届けする。」をモットーに事業を展開している。
従業員は、20代から60代の各年代層の社員で構成され、平均年齢が30代後半と比較的若く明るくて活気のある社風である。
《経営理念》
経営理念は、「創意と工夫によって、お客様と社会に貢献出来る企業を実現し、社員皆で幸せになろう。」である。
そして、次の3つの基本理念を掲げている。
① | 安心・安全・豊かさの視点で、お客様と社会に喜ばれるインフラ整備と住まい作りに取り組みます。 |
② | 仕入れ先や協力会社を大切にして共に繁栄します。 |
③ | 社員が幸せを実現出来る経営をします。 |
《会社経営の考え方》
また、会社経営は次の2つの考えに立って、経営指針を作成し、活動している。
① | 会社は、生まれも、育った環境も、年齢も、性格も、能力も、夢や、目的や、価値観の違う人たちが集まった集団であり、経営者や社員の立場に関係なく全ての人が、自己実現でき、楽しくて充実した人生を得ることができる環境やチャンスを提供できることに存在価値がある。 |
② | 仕事とは、社会や周りの人々のために役立つ行為であり、社会や周りの人々とは社員・経営者、部下・上司・お客様・取引先・会社に出入りする全ての人や地域を指す。 |
(2)障害者雇用の背景・経緯
以前、自社は社員の楽しそうな笑い声が聞こえる活気のある楽しい会社であると思っていた。ところが数年前のある日、外出先から事務所に帰った折りに、いつもと変わらぬ社員の楽しそうな笑い声がなぜか「異常」に思えた。
会社は地域に根ざし地域と共に発展していかなければいけないと思っており、そんな会社であると自信を持って経営していたのだが、この日はそうでないことに気付いたのである。地域社会には、障害のない人や何らかの障害がある人がいて、優位的立場や弱者的立場の人たちが共に助け合いながら暮らしている。
ところが、自社は若くて元気な障害のない人だけが働いている。障害のない人だけの組織で仕事をしているこの社員が、地域で、お互いの違いを理解し、認め合い、共に生きることができる社会性を身につけることができるだろうか、真の地域貢献ができるだろうかと考えたら背筋がぞっとする思いがした。
そこで、地域と同じように、いろんな違いを持った人が働く職場にしよう。職場を通じてもっと地域との関わりを深めて行こうと考えるようになり、障害者雇用に取り組むことになった。障害者雇用に取り組んで3年、現在は社員35名の中に3名の何らかの障害がある人が一緒に働いている。
では、この3名の雇い入れまでの経緯を紹介する。
① Aさんの雇用
最初に入社したのは38歳の知的障害者で、社会人になってから初めて会社に勤めることになった女性である(以下「Aさん」という。)。
Aさんを雇用することとなったきっかけは、当社が加盟している事業主団体の事務局から障害者雇用の話を持ちかけられ、市内の障害者福祉施設を紹介されたことからである。それから障害者福祉施設を訪問した後に施設の園外実習として3名の障害者を1週間から2週間受入れ、その3名のうち実際に採用することとなったのがAさんである。Aさんの採用にあたり、ハローワークの指導も受けトライアル雇用制度を活用することとなった。
正式な雇用となってからも、障害者福祉施設と本人との関係は継続され、施設の職員が定期的に訪問し、面談を行い、指導に当たってくれた。また、会社の相談にも応じて頂いたので、トラブルもなく社員の受け入れもスムーズにいった。このことが二人目・三人目の雇用に取り組む自信と安心感につながったように思う。また、Aさんに対しては、細かな状況把握に努め、できる仕事を徐々に増やしていき、本人に過大な負荷がかからないよう仕事の内容と量を調整していった。
② Bさんの雇用
二人目は、Aさんを雇用してからしばらく経って、知人から採用をお願いされた女性である(以下「Bさん」という)。一人目の雇用の経験もありすぐに採用を決めた。
Bさんは60代の人で、脳梗塞で倒れたが、早期発見、早期治療により一命は取り留めた。しかし足と手に障害が残った。スムーズに歩けないことと、手が麻痺して文字をスムーズに書けなくなった。手足に障害が残った彼女に対し家族は一緒に暮らそうと申し出たが、彼女は「まだ自分一人で生きていきたい」と申し出を断り、働き口を探していた。
彼女の「障害があっても働きたい」という思いが強かったので、その思いに動かされるように採用を決断した。何事にもスローな彼女の言動は、厳しい経済環境の中で働いている社員達の心のオアシスになる役割を果たしてもらっている。
③ Cさんの雇用
三人目の雇用は、宮崎市の自立支援協議会が開催した「障がいのある方の「働きたい」を考え合う会」に参加した時に発達障害がある人に出会ったことがきっかけとなった。
見た目には障害があるように見えない人も、雇用する企業が少なく、働きたくても働けない人がほとんどであると知ったのである。また、発達障害がある人の雇用は難しい選択であるとも聞いた。
そこで、みやざき障害者就業・生活支援センターに発達障害者の採用について相談したところ、宮崎障害者職業センターのジョブコーチ支援を紹介され、職業センターを訪問することなった。そして、職業センターの発達障害者支援カリキュラム受講中のCさんの面接を行い、4日間の職場体験実習を経て採用に至っている。採用後は、職業センターのジョブコーチの細かな支援指導を受けることができた。
Cさんの従事する作業は、新築住宅現場の清掃と整理である。作業場所がその都度変わるが、現場担当者には障害の知識のある者を配置し、ほぼマンツーマンで作業を行うなど、具体的な指示が出しやすい状況をつくりCさんの不安を払拭している。その他、毎日作業日誌を作って、現場担当者だけでなく社長である私もCさんの仕事の状況を確認できるようにしている。また、社員全員にiPadを配付しており、各社員からの状況報告にはiPadを利用している。このことはパソコン操作を得意とするCさんにとってモチベーションを高く持って仕事に取り組む要因となっている。
2.取り組みの内容と効果
(1)仕事の内容
① Aさん(知的障害)
仕事内容: | 朝夕の室内の清掃、来客のお茶出し接客、封筒の宛名書き、チラシ折り、シュレッダーかけ等 |
就労時間: | 月・火・木・金の9時〜16時 |


② Bさん(肢体不自由・高次脳機能障害)
仕事内容: | 知的障害者(Aさん)の世話、パソコンからの情報取出し、社内新聞の作成、社内の生け花教室、毎月の女子会開催等 |
就労時間: | 月・木・金の9時〜16時 |


③ Cさん(発達障害)
仕事内容: | 新築住宅現場の清掃と整理 |
就労時間: | 月・火・木・金の9時〜15時 |


(2)障害者雇用の理念及び基本的スタンス
障害者雇用は、企業が取り組むべき当たり前のことであると位置づけている。私たちは、誰もが、何らかの劣る能力と優れている能力を持ってこの世に生を受けて生きている。その全ての人が、「生きる価値」、「生かされる価値」を等しく持っている。
もし、この世に障害者と言われる人や弱者と言われる人が存在しなかったら、私たち人類は太古の昔に滅亡していたのではないだろうか。
「弱者と言われる人々」、「不自由な生活を強いられている人々」、「技能的能力が低い人々」がいたから、思いやりや優しさや相互扶助の精神が育まれ、知恵や工夫をする。そして文化・宗教・伝統を育み、繁栄を謳歌できているのではないだろうか。
まして現代のように、食生活の変化・生活の多様性がもたらす環境の中では、いつ、誰が、障害者になってもおかしくないし、どこの家庭でも、障害のあるお子さんが生まれてもおかしくないそんな時代である。
障害がないと言われている人でも、本人が気づいていないだけで様々な障害を持っている。障害とは人と人を区別・比較・するために便宜上使っている言葉であり、あってはならない言葉だと思う。
そのようなことを考えたとき、企業経営における障害者雇用と言う発想そのものが捨てなければならない考え方であると考える。私たちの会社では、雇用に当たって適材適所はあっても、障害を理由にした雇用の制限はしない方針である。
わずか3年、そして3名の雇用経験しかない会社ではあるが、このことは自信と信念を持って伝える事ができる力をその3名から頂いた。共に働くことに楽しみと喜びを感じている。
(3)障害者雇用の取組の効果
障害者雇用に取り組むまでは、我が社の仕事は障害者雇用には向いていないと思っていた。例えば、「障害者雇用は福祉施設の仕事である」、「障害者には、我が社の仕事はできない」、「障害者雇用では生産性が上がらないのではないか」、「障害者にどんな仕事をさせたら良いのか分からない」、「障害者雇用に取り組み、何か問題が起きたらどうしよう」など、消極的で否定的な考え方であった。
しかし、障害者雇用に取り組みすぐに「これまでの考え方が根本的に間違っている」、「障害者雇用は生産性向上に繋がる」、「社員皆が楽しくて心豊かに仕事が出来る環境になる」ということに気が付いた。
そして、障害者雇用に取り組んで良かったことは、社長である私自身が逆境に強くなったこと、『地域と共に生きる』ことを意識した経営をするようになったこと、地域の人々の暖かい視線を感じるようになったこと、これまで『能力が劣っている人』と思っていた仲間が、会社のあるべき姿を教えてくれ、社員の行動を変え、皆の協調性を高め、スローな雰囲気を作ってくれたことである。
その結果、3つの大きな変化があった。それは、「1.仕事を組織でするようになった」、「2.優しさのある組織になった」、「3.収益が向上した」である。
3.障害者との共生、今後の展望
(1)障害者との共生
人は誰もが楽しくて充実した人生を送りたいと願っている。
しかし、一般的に五体満足と評される人でも、多くの人々が満たされず悶々とした人生を送っているのも事実である。
近年、自殺者が増加傾向にあると言われる。そして、自殺するほとんどが障害を持たないで生まれた人達であるとも言われている。なぜ、心身に病気や障害のない人に自殺者が多いのだろうか。
私は学者ではないから詳しいことは分らないが、思うに、「強くありたい」、「優れていたい」、「裕福でありたい」、「愛がほしい」、「一人でいるのがつらい」、「借金が返せない」そんな理由ではないだろうか。
これらの文字の主語は全て「私は」となる。
一方、傍から見ると不自由に見える人達が、実際には楽しくて充実した人生を送っているように思える。
「仕事の価値」、「仕事をする人の価値」を考えるとき、仕事とは社会や周りの人々の役に立つ行為であるとも言える。障害者との共生は、地域社会の一員として、当たり前のことであると思う。自己の経済的メリットで選択した経済活動や、周りの人を思いやらない地域活動によって弱者的立場の人が様々な制約を受けるとしたら、それを排除しないといけないし、改善していかないといけない。
私は、責務として、最も幸せな道の選択である「障害者雇用」を人を活かす経営の視点で取り組んでいきたい。また、障害者との共生に関する取組みは社内だけにとどめず、地域にも広げていきたい。
当社が関係する事業所の従業員を対象に障害者に関する理解を深め、発達障害者の働く場を広げるため「発達障害者に関する勉強会」を開催している。この勉強会には、発達障害者支援センターや特別支援学校から講師を招き様々なテーマで情報を発信している。これまで2回開催しており、50名程度の参加者が集まってくれた。この勉強会は今後も継続していきたい。

(2)今後の展望
私の息子は難聴で知的障害者である。更に15歳の時に筋ジストロフィーの診断を受けた。その時は、信じられず頭が真っ白になったのを覚えている。その後、現実を受け入れてからは、気持ちが楽になり楽しみも増えた。
平成24(2012)年で30歳になるが、筋ジストロフィーの進行が遅くなってきており、まだ歩けることを神様に感謝している。この子が私と家内が亡くなった後でも、安心して生活できる社会ができることを期待している。
今後求人の際には、一般雇用と障害者雇用の両方を同時に行っていこうと考えている。10年後には、我が社の社員の1/3は障害者になっていると思う。
「意図は一つ、方法は無限」と言われるので、楽しみながら頑張りたい。
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