自立するための訓練、できるポジションを提供する
- 事業所名
- 株式会社綾・野菜加工館
- 所在地
- 宮崎県東諸県郡
- 事業内容
- 冷凍野菜加工製造
- 従業員数
- 73名
- うち障害者数
- 6名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 6 野菜加工(選別、袋詰め) 精神障害 - 目次

1.事業所の概要、障害者雇用について
(1)事業所の概要
株式会社綾・野菜加工館は、宮崎県のほぼ中央の綾町にあり、宮崎市から西方約20kmの大淀川の支流・本庄川をさかのぼったところに位置する。平成18(2006)年12月に設立し、翌年の2月より操業を開始した。
生産から加工まで一貫して手掛ける企業グループで、農作物の生産は有限会社丸忠園芸組合、加工を当社が担う。農工の垣根を越えた事業を展開し、地域循環型の農業を追求する。安全・安心・美味しい野菜の安定供給を目指し、トレーサビリティなどに対応する統一的な管理を実施している。
「作物は"よい水"と"よい土"で育つ」をモットーに、宮崎県小林市周辺の霧島連山麓の豊富な名水を使い、ほうれん草、小松菜、ごぼう、人参、大根、里芋など契約農家によって収穫される。収穫された農作物は、綾町の名水と最新の設備、万全の管理システムで洗浄・スチーム処理、そして冷凍加工が行われる。年間を通して旬の時期に農作物は収穫され、旬のおいしさと鮮度を逃さない「スチームブランチング」という特徴ある処理を行い、全国へ届けられている。
当社では、障害者が自立するための訓練の場と考え、近くにある知的障害者支援施設「向陽の里」と連携して積極的に実習生を受け入れてきた。「向陽の里」からの実習生の受け入れは、彼らを自立に近づける、または半自立できるところまでやってあげたいという目的で行っている。皆が皆やれるわけではないが、できると信じ、やってみることが大切と考え、取り組んでいる。仕事を覚え、社会参加、自立、もしくは自立に近い状態になることを願う。障害者だけでなく、企業としても「できることをやっていく」ことが社会的使命と考え、実践している。
(2)障害者雇用について
株式会社綾・野菜加工館での障害者の雇用は、「向陽の里」からの実習生の受け入れから始め、平成20(2008)年から本格的に雇用契約を結ぶようになった。
当社の障害者雇用の目的は、仕事を持ち、社会に参加する障害者自身の自立、または自立に近い状態を支援することとしている。
障害者の受け入れについては、当初、工場長や社員を含め、障害者に対する先入観からどう対応すればよいのか心配していたのが実際のところだったようだ。しかし、実習生として受け入れた自閉症の障害者が一つのことを一生懸命に取り組み、繰り返し作業をする姿から、健常者以上に真面目で忍耐力があることを理解できた。そのため、現在では6名と雇用契約、毎年3〜5名程の実習生を受け入れている。実習の中で一定の能力のある人を雇用し雇用契約を結ぶと、町外の出身者も多いことから近くのグループホーム等に入り、自転車やバスで通勤することになる。
雇用契約は年間を通して結ぶ場合(現在4名)と半年間の場合(現在2名)がある。これは、年間を通して取り扱う農作物が異なり、作業内容が時期により変化することに起因している。11月から5月はほうれん草を主に取り扱い同じ作業を繰り返す期間、6月から10月はピーマンやゴボウなど様々な農作物を取り扱い、短い間隔で作業内容が変化する期間である。長期間同じ作業を繰り返す時期は指導や学習する時間もあり作業内容を習得できるが、農作物の入れ替わりの激しい時期は指導、学習の時間がなく、変化に対応できる能力が必要となる。そのため、それぞれの障害者の特性に応じて、年間契約する場合と半年間の契約をする場合がある。
障害者の給与は、パート従業員と同額の時間給で、残業代を含めると月に16万円ほどになる。半年間の雇用の場合は年収100万円ほどとなるが、ある程度の生活は維持できている。
2.取り組み内容
野菜加工では洗浄、蒸す、冷却、冷凍、袋詰め、箱詰めの一連の流れがあり、それぞれの過程の前で異物など取り除く選別を人の目視で行っている。そのため、非常に多くの人手がかかり、ほうれん草の冷凍野菜加工では約65名が作業を行っている。それぞれの作業は写真に示すように、洗浄、選別、袋詰め、箱詰めと基本的に立ち仕事になる。向陽の里からの実習生、雇用する障害者は、身体の障害ではないため、施設面での特別な取組みは行っていない。




障害者の業務習得には、生産ラインの変更があった場合など、その変化に対応できず苦労することがあるため、一定の仕事に慣れるまで時間をかけて指導している。しかし、業務習得までの時間は一時のことで、採算に合うだけの仕事が必ずできるようになるという。今日の作業、明日の作業と自分自身で考えることができるようになると経営者としても非常に嬉しく、最近では与えられたものだけでなく、先を読んで作業する人もいるとのことだった。
工場内の一連の作業の中で、障害者と障害のない人の区別はしていない。それは、どのような仕事でもこなすことができる人を10とした場合、工場での一連の作業の中には10の能力だけでなく、6か7あれば十分な作業もあり、それぞれの特徴を生かせばできると考えているからだ。すなわち、当社では野球チームの守備位置を決めるように、実習に来た障害者や雇用する障害者の作業の様子をしっかり観察し、一連の作業の中でその障害者の特徴を生かせるポジションを提供している。
工場での冷凍野菜加工は目視による選別が主となるため、一定の人手が必要であり、突発的な休みは困る。「ちょっと頭が痛い」「よだきい(だるい、気が向かないの意)」など、仕事についていけなくて言っているのか、甘えて言っているのか、よく判断し厳しく指導することもある。当社では、社会に参加する障害者自身の自立を目指していることもあって、言うがままではいつまでたっても自立できないと考えているからだ。また、このような指導の状況は、「向陽の里」の施設と共有するために、ノートでやり取りを行っている。
そういった指導もあってか、現在の障害者の勤務の様子は、障害のない人と変わらないかもしくはそれ以上に出勤率がよく、真面目であり、工場において重要な人材となっている。できないことをサポートすることは負担になることは当然あるが、生活面や工場内でも「できることは自分でやる」、そして「自分にもできるはずだ」とそれぞれに自信を持たせ自立を促す指導は、実習生や雇用している障害者からの信頼は厚い。
3.取り組みの効果、今後の展望
(1)取り組みの効果
綾・野菜加工館で、「向陽の里」から実習生を受け入れる際に気になっていたことは、従業員の中にどう接してよいかわからないなど負担に思う人がいるのではないかということであった。しかし、実際に受け入れるとどの従業員も気にすることなく、スムーズに受け入れることができた。加えて障害者を雇用することで、従業員のやさしさを示す場面が増え、従業員同士の関係もより円滑になった気がするという。
実習生は、向陽の里から当社に来て仕事をするという毎日の生活で、社会のルールを学ぶことになる。経営者として障害者だからと甘いことは言わず、公平に対処している。指導しても、もちろん分かってもらえないことはあるが、自分の役目をしっかり理解し、自分勝手な理由で休むこともなく、障害者が全社員の模範になっているケースもある。経営者としては指導の甲斐もあって様々な仕事が自分ででき、自立し、成長していく様子が見れることに感動するという。
一方、障害のない人と何ら変わりなく作業ができることで、障害があることを忘れ、障害のない人と同じように怒ってしまい、無理なものを求めてしまうこともあったという。障害は障害として受け入れることが大切であることがわかり、「障害のある人もいる、共生している」という意識を全従業員が持つようになった。
目に見える効果として測ることはできないが、綾・野菜加工館の様々な取り組みの中で行われる「人をしっかり見る」という過程は、障害者に対してだけでなく、従業員全体の士気を高めるよい効果を生んでいる。
(2)今後の展望
社長に、障害者を雇用することによるメリットはあったかと尋ねると「企業の命題は利益を追求することでその面でメリットがあるとは言えない」という答えが返ってきた。障害者雇用は企業としての社会的使命であること、ただし雇用することで負の部分があれば当然雇用しないという経営者としての考えを聞くことができた。当社の「障害者ができるポジションの提供」と「障害者の自立を目指した取り組み」は、その挑戦でもある。
これまで多くの実習生を受け入れ、実際に雇用されている人もいるが、雇用にたどり着いていない人も多い。しかし、当社の実習生受け入れの考え方は、障害者が働く、働きたいという意識の糸口、きっかけを作ることだった。自分でもできるという意識と自分の持っている能力を発揮できる体験をさせることを大切にしていた。こうした雇用前に実習生を受け入れることは、受け入れ側の企業の体制作りにも大いに役立つだろう。
今後の課題として、最近の傾向に施設から来る実習生の障害が重度化しているということだった。障害者を雇用することは、経営面から企業にとってそう容易なものではなく、これまで以上に難しくなっていくかもしれない。そうであれば、当社で行われているように、雇用を目的としたものだけでなく、働くことの楽しさなどを意識させることを目的とした取り組みもあって良いだろう。そのためには、これまで以上に企業と福祉施設等が強く連携し、それぞれの役割を担っていくことが必要になる。
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