働ける人には平等に機会を与えたい
- 事業所名
- 株式会社 琉球デリカサービス
- 所在地
- 沖縄県浦添市
- 事業内容
- 弁当・おにぎり等の製造・販売
- 従業員数
- 240名
- うち障害者数
- 13名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 3 盛付 肢体不自由 1 開発 内部障害 1 資材 知的障害 7 衛生・洗浄 精神障害 1 仕分け - 目次

1.事業所の概要等
(1)事業所の概要
① 事業内容
株式会社琉球デリカサービスは、日本水産株式会社のグループ会社で、平成10(1998)年に設立された会社である。『私達は、お客様に「安心・安全」な商品を提供し、おいしさだけではない価値をお届します。』を経営理念に据え、大手コンビニエンスストア店舗向けに、弁当・惣菜などの食品を製造・提供している。
現在、県内190店舗を超えるコンビニエンスストア・スーパー及びホテルに弁当・おにぎり等の食品を提供するため、約240名の従業員やパートが、昼夜3交代で製造・品質管理にあたっている。
指定されたメニューを効率的に作る業務に加え、食の安全、健康、環境に配慮した新商品を提案できるよう、ソフト・ハード両面に亘る技術開発力を高めることを目的に商品開発部も設置されている。また、3年後の会社ビジョンに以下の3つを据えている。
- 重大クレームゼロ・点頭収去検質100%合格・その他クレームや返品率の低減
- 増収増益・全月黒字化
- 現在の雇用関係の維持安定・待遇改善・ワークライフバランス(WLB)の追求
さらに、それを実現するために、会社の経営方針を「オカネ」「モノ」「ヒト」「マネジメント」の4つを軸としている。
従業員約240名のうち、障害者13名を採用しているが、「働くことは一人の人間としての義務であるのだから、働けるのであれば、健常者も障害者も同じことである。働ける人には平等に機会を与えるべきである」という障害者雇用における理念をもとに、現在は法定雇用率の4倍を超える8.57%の障害者を雇用している。

② 障害者雇用の経緯・背景
当初は150名くらいの社員に対して雇用していた障害者は2〜3名であった。当時は入社試験が社長との面接だったため、そこで社長の心をつかんだ社員がいたと推測される。現在も設立当時から働いている障害のある社員が1名いる。
(2)障害者の雇用状況
聴覚障害3名、肢体不自由1名、内部障害1名、知的障害7名、精神障害1名の計13名を雇用している(表1)。そのうち正社員は2名、契約社員11名となっている。ほとんどが、6時間〜8時間勤務であり、日中の勤務を基本としている。その通勤方法は様々であり、自家用車通勤が5名、バス通勤が5名、自転車通勤が2名、原動機付自転車通勤が1名である。
障害者種類 | 人数 | (部署)従事業務 |
聴覚障害 | 3 | (盛付) ベルトコンベアーで流れている弁当への盛付 |
肢体不自由 | 1 | (開発) 弁当のメニュー作り、営業開発として、取引先の要望を受ける業務 |
内部障害 | 1 | (資材)材料の調達 |
知的障害 | 7 | (衛生) 腕カバーや布巾等の洗い物やごみの回収 定期的にローラーで細かいほこりを取る等の掃除 (洗浄) バッカン(材料を一時的に入れる大きな箱)洗浄や機械洗浄 |
精神障害 | 1 | (仕分け) 出来上がった商品を各店舗に仕分ける等の最終チェック |
2.取り組みの内容
(1)障害者雇用の具体的な内容
トライアル雇用制度や職場適応訓練、ジョブコーチによる支援事業など多くの制度を活用している。採用された障害者の多くは沖縄障害者職業センターや就労移行支援事業所等で訓練を受けた人である。
① 工夫や配慮している点
- 発達障害Aさんの場合
沖縄障害者職業センターの障害者職業カウンセラーの提案によって日誌のやりとりを始めた。Aさんは表情などで相手の感情を読みとることは苦手だが、文章にすると相手の気持ちを理解し、さらに自分の気持ちを整理することができる。そのため、良かった点や困った点などを交換日記でやり取りすることでコミュニケーションを取りやすくなった。また、Aさんは対人関係でのトラブルもあることから、一人で作業ができるよう他の部署との接点が少ない部署(仕分け)に配置された。部署のリーダーには注意事項を伝え配慮をしてもらっている。なお、Aさんは精神障害者保健福祉手帳を所持している。 - 内部障害Bさんの場合
腎臓機能障害で人工透析が必要な方である。人工透析については自己管理を基本としながらも週3回行う透析の時間を確保するために勤務時間を変更し、30分早く退勤している。
② 障害者向けの職域の開発
知的障害者が多く従事している衛生関係の業務は障害者向けの職域である。掃除や洗濯、多くの洗い物など単純反復作業が多い。衛生関係業務に従事する障害者は一つの部署に配置され、他部署の作業をすることはほとんどないが、個人の能力によって他部署の作業を行う場合もある。その判断にあたっては評価を行った上で決定している。評価は半年に1回行われ、障害の有る無しに関係なく、部署の社員同士での評価を行った後、管理職が評価する360度評価を取り入れている。そのため、できる仕事が増えれば評価の対象となる。
③ 工夫している取り組み
- 白衣で帽子・マスクという目しか出ないユニフォームと、約240名が働いている現場なので、個人の識別が難しい。そのため、周囲が雇用管理上の配慮を的確に行うため。頭に色違い(障害者はオレンジ色)のバンドをつけてもらい、障害者へ新しい指示がある際はリーダーを通して行うことで障害者が戸惑いを感じない工夫をしている。
- 聴覚障害者3名は口話でのコミュニケーションが可能であるが、いたる場所にホワイトボードを設置し、事務的内容(口話での伝達が難しいとき)は、ホワイトボードに筆記し確実に理解できるように工夫している。

(2)障害者雇用の取り組みによる効果やメリット
障害者と仕事をする機会が多い為、障害者と仕事をする中で、接し方や障害に対する理解が深まり、障害者の持つ能力に対する社員の意識が高くなっている。職場では、挨拶がきちんとしていることなどから周りを明るくし雰囲気を和らげる面がある。また、仕事に定着すると、粘り強く仕事に取組み、長期継続雇用となる場合が多く安定した人材の確保もできる。障害の有無に関わらず働ける人間は働くべきである、という理念によって障害者雇用が拡大している。
3.雇用障害者へのインタビュー、今後の展望
(1)雇用障害者へのインタビュー
① Cさん:20歳男性、知的障害
普通高校を卒業後、就労移行支援事業所で1年4カ月の訓練を受けた後、ハローワークの職業紹介で採用。半年間の職場適応訓練後、契約社員となる。Cさんの主な作業内容はバッカンの洗浄作業である。8:00〜16:00(実労時間7時間)の勤務で、次から次へバッカンを洗浄機械にかけている。
入社後は洗浄後のバッカンの置き場など覚えることが多くて大変だったが、工場の先輩が繰り返し丁寧に教えてくれたとのことで、覚えること自体が楽しかったそうだ。半年後には仕事を覚えられたことや会社の雰囲気が良いこともあり、出社することが楽しくなったという。
食品を扱う工場の為、体調管理が大切であるため、「手洗い」、「うがい」はしっかり行い、睡眠も十分とるように気を付けている。休日は高校時代から好きな音楽(洋楽・邦楽ポップス)を聴いたり、ウィンドウショッピングをすることが、ストレス発散となっている。旅行が好きなため、将来は働いて貯金したお金で家族と出雲へ旅行がしたいという。

② Dさん:25歳女性、知的障害
特別支援学校を卒業後、知的障害者授産施設等で6年間の訓練を受けた後に、沖縄障害者職業センターで2ヵ月間の職業準備支援を受けた後、当社に就職し2年9カ月目に当たる。Dさんは、特別支援学校高等部時代は、特に希望する職種はなく作業所に行くつもりでいた。現在は衛生担当をしており、毎日9:00〜16:00の間、ローラーを使った清掃や腕カバーの洗濯、布巾やゴミの回収を行っている。
困ったことがあると、一緒に働いている同じ部署の人に相談する。Cさんと同様に体調管理をするために「手洗い」、「うがい」はこまめにしている。特に、インフルエンザやノロウイルスには気を遣っているという。
ストレスが溜まったら、高校時代の友達と会って話したり遊んだり、自宅で音楽を聞きながら軽い運動をするなど心がけて解消している。今後の目標は貯金をして一人暮らしをすること。また、人に教えることが好きだから、高校や施設の後輩の面倒を見たり、職場の後輩ができないことがあればそれを教えられるようになりたいという。

③ Eさん:33歳女性、知的障害
Eさんは中学校を卒業後、浦添市内にある職業能力開発校に1年ほど通った。その後、様々な職場に勤務したもののEさんは今までの経験から何かうまくいかないことが多く、違和感をもっていたため、市役所で相談して療育手帳を取得した。
その後、沖縄障害者職業センターで2カ月間の職場準備支援を受け、当社に就職した。現在、入社して5年半ほど経つが、入社後は盛付班としてベルトコンベアーで流れてくる弁当の盛付を行ったり、衛生班として工場清掃や、布巾の洗濯、消毒用アルコールの点検などを行ったりしている。
以前の職場は少人数のところが多かったため、入社当時は人の多さに驚いたようだ。始めは社員の輪の中に入りづらかったが、現在は社員同士の仲も良く職場も楽しいと感じている。手話サークルで手話を覚え、聴覚障害者とも手話でコミュニケーションをとれるようになりうれしいという。
辛い時は課長に相談しながら、ストレスが溜まると友達と遊んだり手話サークルに参加したりして楽しむことでストレス発散をしている。また、食事の摂り方の工夫をすることで体調管理をしている。将来は洋裁など趣味を活かしたり、色々な国の手話を習いたいという。
④ Fさん:44歳男性、知的障害
Fさんは、中学校の特別支援学級を卒業後、家業の手伝いとして10年以上水道工事をしていた。その後ハローワークの紹介で当社において職場適応訓練を受け就職した。現在入社2年5カ月目である。
洗浄部署に所属し、主に食品を加工する機械の洗浄を行い、その他にも掃除やゴミ捨て、バッカンを運ぶ作業を担当している。Fさんは働くことを楽しいと感じており、困ったことがあっても課長や社員に相談することによって解決している。特に、頭につけるバンドには助かっているという。
工場内では、全員が同じ格好で作業しているため、社員と派遣社員などを区別しづらい。そこで、頭につけるバンドの色を変えることで社員や派遣社員などわかりやすいよう工夫している。Fさんは、バンドの色を見て社員に相談できることが助かると感じている。
従業員も多くいろいろな人がいる職場だからこそ、ストレスを感じることもあるが、話をしながら思いを吐き出すことでストレス発散をしているとのこと。現在グループホームで暮らしているが、結婚して子どもがいる家庭で暮らすことが将来の夢である。琉球デリカサービスはとても楽しい職場なので、長く続けて働きたいという。


(2)今後の展望(管理課長のインタビューより)
当社は、共存共営を目指し今後も多くの障害者を雇用したいと考えている。しかし、営利企業でもあり会社の存続を考えなくてはならない部分もある。だからこそ、障害者雇用に関する国の助成金などを上手に活用しながら障害者雇用を促進していきたいと考えている。
生産性と障害者雇用と両方のバランスをとり、今後も「働くことは一人の人間としての義務であるのだから、一人の人間として働けるのであれば、障害のない人も障害者も同じことである。働ける人には機会を与えるべきである」という障害者雇用の理念を軸に障害のある人とない人がが一緒に働いていける環境づくり、仕事がしやすいように個人に合わせた体制を柔軟に作っていきたいと考えている。
(3)おわりに
障害者雇用については管理課長が中心となり、障害者職業生活相談員と2人3脚で熱心に取り組んでおられる。インタビューをするなかでは営利の追求を強調されつつも、「働ける障害者には機会を与えるべき」との強い信念を感じた。障害者職業センターやハローワークと継続的かつ安定的な連携を図るなかで結果的にうまく制度等を活用されており、持続可能な障害者雇用を展開している事業所であると感じた。
執筆者: | 琉球大学教育学部 准教授 田中 敦士 |
琉球大学教育学部 ティーチングアシスタント 小原 愛子 |
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。