地域に根差した企業における障害者雇用への取り組み
- 事業所名
- 株式会社 ト一屋
- 所在地
- 山形県酒田市
- 事業内容
- 小売業(スーパーマーケット)
- 従業員数
- 362名
- うち障害者数
- 6名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 2 青果部門 知的障害 3 青果部門、精肉部門、惣菜部門 精神障害 1 青果部門 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
株式会社ト一屋は、山形県の酒田市内で9店舗を展開するスーパーマーケットのチェーンストアである。昭和23(1948)年の創業以来『店は客のためにある』を経営の理念として、地元に密着したお店づくりを行なってきた。店内を覗くと、地元産の食材が非常に多く、地産地消の精神が根付いている。また、当社のホームページを見ると地元の農産品の通信販売も行っている。通信販売のサイトでは、さくらんぼ、ラフランス、だだちゃ豆、庄内梨などの、地元山形産の食材を数多く取り扱っており、全国へ向けての地元商品のPRや、地域の農業、関連産業の活性化にも一役買っている。
ト一屋には、店舗、本部、配送センター、第二センターといった部署がある。障害者が勤務しているのは、このうちの配送センターと第二センターである。配送センターでは青果、精肉、雑貨、グロサリー、第二センターでは惣菜、鮮魚を扱っており、発注、仕入れ、検品、仕分け、パッキング、配送を行っている。他のスーパーマーケットの多くは店内のバックヤードでこれらの作業を行っているが、ト一屋では二つのセンターでこれらの業務を一括して行うことによって、業務の効率化を図っている。このことは、店舗展開が酒田市内のみであるので、短時間で全店舗に配送することが可能であることによるが、作りたての惣菜や採れたての食材を、新鮮なうちにお客様に提供できるようになっているのである。
![]() ト一屋 みずほ通り店 外観
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![]() 野菜売り場
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(2)障害者雇用の経緯
トー屋の障害者雇用は、当初は雇用を行っても短期間で離職するなどで、障害者雇用率は未達成であったが、ハローワークに紹介してもらった障害者が熱心に仕事を頑張ってくれて評価が高かったため、社を上げて『障害者雇用を進めていこう』となり、これを契機に障害者雇用に取り組み、現在の障害者雇用数に至っているが、現在はまだ過渡期であり、雇用を進めている最中である。
また、県内にある特別支援学校の就業前の職場実習に対しても大変協力的で、各店舗や配送センターでの実習受け入れを積極的に行なっている。
2. 取り組みの内容
現在、障害者が働いている部署は配送センターまたは第二センターの青果部門、惣菜部門、精肉部門である。各部署の実際の仕事内容としては、青果部門が野菜の袋詰め、総菜部門は惣菜、弁当の製造、精肉部門は肉を入れるコンテナの回収や清掃がメインである。
ここでは青果部門で働いているEさんの業務内容や支援方法について紹介する。
(1)Eさんへの雇用支援の取り組み
Eさんは50歳の男性。知的障害があり、療育手帳を所持している。中学校は当時の特殊学級(現:特別支援学級)を卒業、中学卒業後は仕事を数か所転々とした後、当社に雇用される直前は、製材会社に勤務していた。製材会社では24年勤務したが、仕事中のけがにより離職。そののち仕事を探しているEさんが「庄内障害者就業・生活支援センター」に来所したのが当センターによる支援のきっかけだった。
- 採用までの支援
Eさんは両親の死去後、酒田市の郊外で独り暮らしをしていた。ト一屋の求人の話が進んでいた時に、最初に求められたことが「安全、確実に通勤できる手段」であった。Eさんの自宅から職場まではおよそ13㎞の道のりだが、Eさんは自動車免許を持っていないため、自動車を使っての通勤は不可能だった。また地方都市の郊外に居住しているため、バスや電車などの公共交通機関を利用するのは難しい。Eさんは今まで、市内のどこに行くのにも自転車を利用していたが、交通量の多い道路もあるし、冬期間は降雪のため自転車での通勤には危険が伴う。それまで居住していた家が古くなっていたこともあって、Eさんは職場に近い市内でのアパート暮らしを決意した。しかし、それまでEさんは不動産屋に行ったことが無かったため、庄内障害者就業・生活支援センターの担当者が不動産屋に同行してアパート探しの支援を行った。
- 採用後の定着支援
アパートが決まり、転居に伴う各種手続きの支援を行った後、ト一屋の採用が正式に決定した。採用直後に任された主な仕事内容は箱から出した野菜(にんじん、たまねぎ、じゃがいもなど)の袋詰めである。この仕事は袋に決められた個数の野菜を入れ、自動袋詰めの機械に袋をセットするというものであるが、
〇単純作業で、毎日かなりの量がある
〇皮をむいて調理する野菜であるため、多少汚れが残っていても問題ない
〇自動袋詰めの機械を、新しいものに更新した直後
といった理由から、採用されたばかりのEさんには任せやすい仕事だった。
![]() 野菜(とうもろこし)を箱から出し、皮や泥を取りのぞく作業
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![]() 自動袋詰めの機械
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Eさんは中学卒業後は前出の製材会社や塗装会社、警備会社などで働いていたが、流通業界での勤務は今回が初めてである。そのため、当初はこれまで行なってきた職場の仕事との違いに戸惑ったが、すぐに仕事にも慣れ、手際よく作業を行えるようになった。筆者が取材に訪れた日には、とうもろこしを箱から出し皮や泥を取りのぞく作業を行なっていたが、手早く作業をしていた。定期的に定着支援を行なっているが、仕事の正確さ、スピードも徐々に上がってきている。
なお、余談ではあるがEさんは休日には近所の飲食店や商店で食事や買い物を楽しみ、毎朝通勤途中にあるコーヒーショップでコーヒーとパンの朝食を楽しむなど、新しい住まいでの生活をエンジョイしているようである。友人と食事に出かける機会も増えたとのこと。こういった「余暇を楽しむ」ということがト一屋に就職するまではほとんどなかったようである。しかし、Eさんは仕事の充実とともに、地域生活も楽しめるようになってきているようだ。
(2)育成、指導について
当社が雇用する障害者が行なっている仕事は障害種別によって、それぞれ異なるが、基本的には最初は簡単な仕事を任せている。正確さ、スピードが上昇するにつれ、少しずつ難しい仕事を任せている。また、委縮しないように強く言い過ぎないようにしたり、成長を促すために他の仕事を任せてみる、などといった工夫も行っている。
また、配慮している点も障害種別や仕事ごとに合わせてそれぞれで異なる。
例えば、前出のEさんの場合は、人間関係を良好に保てるように周囲で配慮している。同じ知的障害で、惣菜部門で働いている人には、お弁当のレイアウトを言葉で説明するだけではなく、図や写真で表し、理解しやすいように工夫している。
その他、人工透析を受けている内部障害がある人の場合は、出血すると血液が凝固しづらくなるため包丁などの刃物を扱う仕事はさせない、透析がある日は15時で退社し体への負担も考慮し翌日のシフトは休みにする、体調が悪い場合はすぐに責任者に申し出るようにするなど、それぞれの仕事や障害に合わせた配慮を行なっている。
また、Eさんを含めた障害がある人に対しての育成、指導に関しては、他の多くの事業所も同様であるようだが、「特別扱いはしないが配慮は行う」といった方針である。基本的には障害者も障害のない社員と同様の仕事を行なっており、仕事に対して注意を受けることもある。そのような時には特別扱いせず、それぞれの方に合わせた配慮を行ないながら、適切な指導を行っている。
≪Eさんの談話≫
「自分はこのような(障害のある)人間であり、できない事もある。今までの職場ではそのせいでつらい経験もしてきた。年齢を重ねて、自分に何が足りないか、何ができないかということについても理解できるようになってきた。足りない部分、できない部分は改善するように頑張って、経験を積み、少しでもレベルアップしていけるようにしていきたい。」
3. 取り組みの効果、今後の課題と展望
(1)取り組みの効果
先述したとおり、ト一屋では店舗でのバックヤード作業がほとんど存在しない。他の多くのスーパーマーケットではバックヤードで行なっている作業のほとんどを、配送センターや第二センターで行なっているが、酒田市でも核家族化が進行しており、家族の構成人数が減少しているため野菜なども1/2、1/4にカットして販売するケースが非常に増えている。そういった場合、「泥や汚れを取る」→「カットする」→「ラッピングする」→「値段をつける」、といった複雑な作業が発生するのだが、障害者が単純作業である野菜の袋詰めを専門に行うことによって、一般のパートが、複雑な作業をする時間を確保できるようになった。
(2)今後の展望
現在、障害者が働いている職場は配送センターや第二センターで、店舗に出ない裏方の仕事を行なっている。今後障害者雇用を進めていくうえで、いずれは店舗でも働いてほしいという希望がある。接客対応に必要な「笑顔とあいさつ」といったお客様への対応が身についていけば、今後店舗での勤務も考えているとのことであった。
執筆者: | 庄内障害者就業・生活支援センター |
主任就業・生活支援ワーカー 土門 敦 |
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