つながる喜び、生きがいと希望が膨らむ職場
~ めざしたのは、一人でも暮らせる賃金のルール ~
- 事業所名
- 株式会社 PCプラス
- 所在地
- 福島県郡山市
- 事業内容
- 生鮮食品類の加工・パッケージング、発送品の梱包・包装
- 従業員数
- 47名
- うち障害者数
- 27名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 2 野菜の加工、袋詰め・ネット詰め
惣菜の盛付け、食肉のラッピング内部障害 知的障害 21 「肢体不自由」に同じ 精神障害 4 「肢体不自由」に同じ 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次

1. 事業所の沿革と事業内容、障害者雇用の概況
(1)事業所の沿革と事業内容
株式会社PCプラス(代表取締役 遠藤 久、以下「PCプラス」という。)は、生鮮食料品(青果物・野菜・惣菜・鮮魚・精肉)業務用卸、仲卸、小売を主たる業務とする(株)鮮味(同代表)のグループ会社として平成21(2009)年7月に設立し、事業所規模は資本金300万円、売上高2億5000万円の実績をもつ。
同社は「鮮味グループ」傘下において、(株)鮮味が扱う主に小売業(スーパーや量販店など)向け生鮮食品類の加工・パッケージングを業務とする。このパッケージ業務をする会社として「パッケージセンター(PC)」を会社の名称に据えた。平成25(2013)年6月1日現在、従業員数47名(うち障害者27名、常用雇用)が働いている。
同社は、「鮮味グループ」の事業展開と企業の社会的責任の具現化、福祉的事業の創出を目的に設立された。「鮮味グループ」は、平成16(2004)年6月に小売業「鮮味」が創業、平成18(2006)年5月には(株)鮮味が設立され、このグループ傘下で同社が誕生した。
続いて、平成22(2010)年12月には農業生産法人「(株)グリーンファームみらい」、更に平成24(2012)年6月には特定非営利活動法人「ミットレーベン」就労移行支援事業所の開所へ至った。また、これらの時系列の中で、飲食事業(レストラン、ベーカリー)、生鮮・青果テナント店舗も県内外で展開してきた。
「鮮味グループ」は、遠藤久氏の起業ポリシーを横串に統合される。共通して大切にしているのは、"well-being"(健康、幸福、満足など)である。
遠藤氏は「生鮮食品へ特にコダワリを持ち、農業生産法人との連携の中で、安全・安心をモットーに消費者へ結びつけて行く」、「食品流通を通して、お客様満足(度)を重点に生産者も満足すること」と語る。
PCプラスは取引先等から「仕事が丁寧」と評判で、鮮味グループ全体の評価に貢献している。パッケージング業務を通じて商品と消費者とを結び付けるブリッジ役として、パッケージセンターの存在意義と企業価値は大きいと言える。
(2)障害者雇用の概況
- 障害者雇用の経緯と経営トップの姿勢
PCプラスの設立の目的は福祉的事業の創出である。遠藤氏の話は明確だ「長男が障害者で、障害者・児の就労が難しい現状があり、少しでも多くの障害者・児の雇用を促進して行こうと考えた。そうした家族を持つ"親代表"として会社を設立した」と、いわんや「法定雇用率」ではない、障害のある人の働ける職場を創ることが大義である。
遠藤氏は「親たちは、自分が健在なうちはまだいい、その後の生活を心配する。私は親が居なくなっても、一人で生きていけるシステム創りが大切だと思っている。しかし、親も教師も半ば諦めの状態だった」と言う。そうした折、食品流通業大手チェーンの特例子会社を見学する機会があった。その会社の精肉関係の職場では「障害者は"どこにいるのだろう?"と驚いた。更に驚いたのは、自信を持って話す障害のある社員の姿と、職場に溶け込む一体感」で、大いに手応えを得たという。そして懸命に障害者に「デキる」仕事を模索するなか、パッキング(袋詰め)作業を見出した。
遠藤氏は振り返って、次のように言う。
「敢えて、懸命になって『仕事』を創るために、そして、自分を戒めるために会社を立ち上げました。障害者・児を優先するか、会社を優先するかと言えば、障害者・児を優先すべきと思います。ただ、既存のNPОでも障害者・児を優先した会社はなかなかできないのが現状でした。だから、この会社を創りました。」
障害のある人の雇用義務に関しても、事業者側には雇用の継続性が求められるのは言うまでもない。しかしながら、障害者自立支援法(障害者総合支援法)の就労継続支援事業のなかで、多くの事業者が行う単に請負に頼った作業のみでは、雇用の継続性になると、ギャランティと言うのは難しいのではないか…と悲観的になった。仮に、大会社なら特例子会社を設立するという選択肢もあるのだろうが。筆者は意を得た。果たして、算盤勘定を優先するのではなく、障害者・児の"生きやすさ"を支えて行く…である。 - 障害者雇用の現状
PCプラスは、ハローワークから「重度障害者多数雇用事業所」の証明を受けている。同社は、鮮味グループの受注支援を要するも、「特例子会社」の配置ではなく、このような形態の事業所は福島県内では例を見ない。
設立時は、従業員数42名(うち障害者30名)で稼働した。平成25年(2013年)6月1日時点では、障害のある人の被用者数は27名(男女比≒3:2)である。障害種別では肢体不自由が2名(重度)、知的障害21名(重度12名、重度以外9名)、精神障害4名で、年齢構成は20歳台から50歳台までに及んでおり、平均年齢は30.3歳である。また、会社設立から4年目を迎えて、勤続年数の平均値は3.3年になる。同社の従業員数は47名(平均年齢41.5歳)になったと伺ったが、雇用する障害者27名は第一線のプレイヤーとして、コーチ役の社員と協働のユニットを組んで、パッケージセンター業務を担っている。
同社の雇用形態は正社員とパートタイム労働者に大別される。障害者の場合はパートタイマーで、標準的な労働時間は5時間/日である。前記で"第一線のプレイヤー"と称したが、当初からプレイヤーとしての働いていく準備(レディネス)があったわけではない。
同社の職場における基本姿勢を伺った。
a.障害のある社員にとって働きやすい環境を整えること
b.障害のある社員もできる仕事で、やる気を起こさせるようにすること
c.障害ラベルで視ない、あえて予測性を持たないこと(誠実に向き合う)
d.「仕事」はきちんとできるようにすること
以上のような基本姿勢の下、会社設立から4年目を迎え、「働くこと」についての準備性(レディネス)も立ち上がり、取り組みの成果が見え始めた。障害があっても「自分の仕事である」との意識があり、作業も障害のない社員と同様にこなすまでになった。各人が自らの持ち場を考え、自信を持って働いている。
2. 取り組みの内容
(1)雇用管理と適正化
PCプラスの雇用ルートは、ハローワークを介した募集が中心で、他に障害者職業センターなどからの支援も就労に繋がっている。障害者の職域は確立化され、「採用時配置」の後も、各人の観察などから「配置後の調整」を行うことで、マッチングと作業の習熟を図っている。
就労形態には、卸業・サービス業の性質から夜勤のシフト勤務もあるが、障害のある人は夜勤の適用外とした。現在、障害のある人の標準的な勤務体系は、5時間/日、6日/週制で、週に1日の定休日以外に月2回の定休日を設定している。全員が雇用保険の一般被保険者である。また、スキル面や本人の意欲なども尊重しながら、作業の集中期には時間外労働をしてもらうこともある。
全員が職場のプレイヤーだが、各人の障害特性はまちまちなこともあり、日常のルーティンワークも「デキる」範囲はそれぞれ異なる。このことに対する「合理的配慮」は、障害のない社員を含む小グループ(ユニット)の編成で業務を行うことである。各人の障害特性を「比較優位」と捉えて、互いにできること、できないことを補完し合うことで、惣菜製造や青果などのパッキングをこなしている。ポイントは、各工程・各担当に求められた作業が、必ず「デキる」ようにする、それを丹念に実地指導(OJT)することである。全員とは言えないが、この4年間で「自己効力感」の高まりと、職場での汎化能力もついて、言わば「デキる人」に成長している。
PCプラスでは、プレイヤーの時給は全員同一となっているが、作業にも馴れてきて、「成果と対価」に納得性を問う人もいた。「なぜ、みんな同じ時給なのですか?」と訊かれた遠藤氏は、大切なことは、自分たちの職場を守って行くことであり、「PCプラスはお互いが助け合って、やって来た会社だから」と、その問いに向き合ったと言う。「働くこと」の価値観はライフキャリアだと言っても、正直、「対価」への拘りも察せられる。ここで働く人の「キャリアアンカー」(最大価値)は何かと考えたとき筆者は、今ここでの「つながり」だと考える。職場は、まさにグループダイナミックスの実践の場になって、そこに「ともに在る」ことの価値が内在化して各自の納得感になっているのである。
(2)職務能力の把握と雇用の安定化
PCプラスは、「ともに在る」理念を展開すべく、障害の程度で不利益のないよう賃金制度にルールを課す。ただ、仕事との関係性がポジティブで、経験を積み自信がついて来れば、もっと、「前に行きたい」「一人前と言われたい」と志向するのは必然である。これを人財開発の好機と捉え、正社員へ転換する用意がある。実際の登用に際しては、8時間のフルタイム労働や通勤時間、健康面なども考慮しながら、本人の選択を尊重して決定される。善いロールモデルは職場の励みだが、競争を煽ることではない。共創を活性化することである。今後の検討は、ワーク&ライフ・バランス、短時間正社員制度(限定正社員制度)の導入である。
なお、PCプラスでは雇用の安定を機能的に行うため、以下の「障害者雇用助成金」を活用している。
- 重度障害者等通勤対策助成金のうち通勤用バス購入及びバス運転従事者の委嘱
- 障害者介助等助成金のうち業務遂行援助者の配置
- 障害者作業施設設置等助成金(第1種)
通勤用バスの活用は、通勤路の安全確保の他に、各人の生活リズムと就労を促す意図もある。
また、同社は平成24年度障害者雇用優良事業所として、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長努力賞の表彰を受けている。
遠藤氏は「利益を出せなければ、雇用も維持できなくなる」と姿勢を正す。特に、原発事故後の地場産業は奈落の底だった。それでも「地元の農業を守り、社員の生活を確保して行くためにも、安全・安心を第一番に、新鮮でおいしい農産物を全国の消費者へ届けたい」という思いがあった。「風評被害」にふん張り、タフに自分のできることをやって来た。今は、関東圏での営業活動も進展しているという。こうした経営者の姿は、被用者の心理的バリアフリーや働く意思を動機づける。
知的障害のある2人にインタビューした。
Aさんは「仕事は皮むきとカットです。グループホームにいるので、お金を溜めて車の免許を取りたい。腰が悪いので、少しつらいけど、みんなといるので頑張れます。仕事は楽しい」と笑顔で話す。
同僚のBさんは「仕事で注意されることも多いけど、仲間と働けて嬉しいです。お金を溜めて、来年は運転免許をとって車を買いたい。夢はひとり暮らしです。早く自立したい」と話す。
所属感の充足か、表情も明るい。いみじくも"免許証"とは、自尊要求の表れであろう。
3. 取り組みの効果と期待
昨年(2012年)11月に発表された「福島県における障害者雇用状況の集計結果」(厚生労働省福島労働局、同年6月1日現在)によると、対象民間企業の雇用障害者数は3,458人に達し、実雇用率1.64%、達成企業は48.4%。産業別達成率は、製造業56.5%に対し、卸売業・小売業等37.1%であった。概観してPCプラスの先進さが窺われる。
同社の経営に鮮味グループの応援は欠かせないが、遠藤氏は次のような夢があると言う。
- 5年間で、100名の障害者・児を雇用すること。
- それを鮮味グループの目標に掲げて現業の拡大をめざすこと。
- (親代表に)ついて来た子どもらのためにもさらに事業を拡げて行きたいこと。
以上の3点だが容易なことではない。この羅針盤は、未開拓市場「ブルーオーシャン」を指し示すが、フィクションとみる筋もあろう。かつては、宇宙ステーションもスマホもSFであった、故本田宗一郎の言葉を借りて「夢に力を」と敢えて言いたい。
結びは、論語の「今、汝は画(かぎ)れり」としたい。障害のある人も、自身の成長をキーワードに自己実現をかけてチャレンジする。雇用側は障害に囚われ過ぎてはいないか。日本の労働力人口が減少を辿るなか、隠れたヒューマンキャピタルを発見し、出る芽を育て個性を活かす。そんな、社会的公器に期待したい。
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