企業と障害者支援機関との連携・協力により雇用に繋がった事例
- 事業所名
- 株式会社図書館流通センター(指定管理事業所・高根沢町図書館)
- 所在地
- 東京都文京区(本社)、栃木県塩谷郡高根沢町(高根沢町図書館)
- 事業内容
- 書誌データベース(TRC MARC)の作成及び販売
公共図書館・学校図書館等への装備付図書等の販売
図書館運営業務(業務委託・指定管理者等による図書館の運営・管理) - 従業員数
- 高根沢町図書館:24名
株式会社図書館流通センター:5,418名(2013(平成25)年1月期) - うち障害者数
- 高根沢町図書館:1名
株式会社図書館流通センター:85名 - (高根沢図書館の内訳)
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 1 配架・書架整理・備品準備・視聴覚資料検査 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次

1. 事業者の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
図書館は「知識と情報の巨大な集積」だ。日本の公共図書館には、4億点余の資料があり、図書館はそれらを整理し、保存し、いつでも・だれでも・どこからでも取り出せる仕組みそのものである。知識と情報を組み合わせ、必要な時にスムーズに取り出す。これが図書館に求められる根本的な機能であり、図書館が地域に提供できる最大のサービスである。
株式会社図書館流通センター(以下「TRC」という。)は、1979(昭和54)年の創業以来、図書館を効率よく運営するために、図書館の日常業務全般にわたって、さまざまなサービスを提供している。1996(平成8)年からは福岡市総合図書館のご要望によって、TRCの館内業務受託がスタートしている。以来、2013(平成25)年1月期で、受託している図書館は、指定管理者制度による受託館を含め380館、図書館で働くスタッフの数は5000人を超えるまでに至った。
TRCはこれまで、専門スタッフの長期雇用と研修・教育、図書館専門企業としての提案、地域に根ざしたサービスメニュー、そしてなにより図書館利用者へ満足度の高いサービスを提供してきた。図書館を支えることを通じて、地域社会の発展に貢献してきた。今後もPFI(民間資金等活用事業)、指定管理者制度といった新しい形の図書館運営に積極的に参加していきながら、新たなサービスを生み出していこうと考えている。
・図書館運営理念
私たちは、図書館を「人類の英知を未来へと生かす知識と情報の宝庫」と考えている。その図書館を利用するすべての人々が、教養を深め、自らの課題を解決し、心身ともに健康な市民として自立し、働き、暮らすことで地域が活性化していく。私たちの使命は、その人々のお手伝いをすることによって、地域社会に貢献することである。これからもすべての人々が喜び、しあわせになる図書館づくりを目指していきたい。
・障害者雇用の理念
ATARIMAEプロジェクト「ATARIMAE企業サポーター」宣言図書館が地域の人々の自立を支援するように、私たちも障害者の自立を支援する。TRCは障害者と障害のない者が分け隔てなく「ATARIMAE(当たり前)」に働ける職場環境作りを追求していく。
(2)障害者雇用の経緯
栃木県内の同じTRC指定管理館である真岡市立図書館が、平成24(2012)年4月より障害者雇用を進めたのをきっかけに、高根沢町図書館での障害者雇用に対しての意識が高まった。TRCにおいても、障害者雇用について積極的に取り組みを進めていることもあり、平成24(2012)年6月に町内の高根沢町障害児者生活支援センターすまいるに相談したところ、町内在住の宇都宮大学教育学部附属特別支援学校(3年)に通っているOさんの推薦を受け、ハローワーク・栃木障害者職業センターや県北圏域障害者就業・生活支援センターふれあい、高根沢町障害児者生活支援センターすまいる、宇都宮大学教育学部特別支援学校、家族と当図書館とで連携を取り合いながらOさんの雇用を目指すこととなった。
雇用へ向けて、まずはじめに図書館での業務に対しOさんの理解を得て、実習を進める運びとなった。Oさんの通う特別支援学校では、図書館での特設実習を「将来の社会生活や職業生活に必要な知識、態度及び技能を、実際の現場での実習を通して身に着けること」を目的としている。Oさんの特設実習は平成24(2012)年9月から平成25(2013)年3月まで、計5回、44日間行われた。各月の実施は9月:3日間、10月:4日間、11月:18日間、1月:12日間、3月:7日間であった。
実習中にはOさんの業務状況などや課題などを関係機関と共通認識を持つ話し合いを繰り返し行った。平成25(2013)年3月の特設実習による最終確認後、採用を決定し雇用に至っている。
下の写真は、Oさんの特設実習時の様子である。
![]() リサイクル本シール貼付作業
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![]() 保育園絵本貸出作業
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![]() 図書館カウンター作業
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2. 取り組みについて
(1)障害者雇用に対する図書館スタッフの準備
図書館スタッフとしても知的障害者の雇用は初めての経験であり、Oさんに対してどのように接するかが大きな課題であった。知的障害についてスタッフ全員が理解するために、平成25(2013)年1月に県北圏域障害者就業・生活支援センターふれあいの黒澤さん、宇都宮大学教育学部附属特別支援学校の松本さんに、それぞれ「障害者の雇用について」「Oさんへの日常の対応について」のテーマで講義を受けた。すべての不安がとりのぞかれたわけではなかったが、Oさんが実習している最中でもあり、障害者の雇用・学校での日常的な生活などの話を直接聞くことで、図書館スタッフも障害者雇用に対しての認識・理解を示したため、雇用に向けて準備を進めていくことができた。

TRC高根沢町図書館スタッフ

「障害者雇用について」研修風景
≪研修内容≫
①知的障害者の雇用のポイント
・知的障害者の特性を理解する
・一人一人の特性を据える
・仕事の中で能力を開発する
・全人的な発達を促す
・社会的な支援を得る(ジョブコーチ支援、トライアル雇用、各種助成金制度)
・抽象的な内容の理解、苦手、個人差、新しい環境づくり
②知的障害者雇用のノウハウ
- 職務内容の検討
・雇用する障害者の得意、不得意
・本人の特性に合わせた職務を検討
・作業工程に単純化・細分化 - 作業条件の検討
・単純作業、グループ作業、ライン作業の見極め
・現場の従業員の関わり方
・作業能率の管理 - 作業指示の方法
・「あれ」「それ」などの言い方、抽象的な表現は避ける
・簡潔で具体的な表現
・言葉よりも書いて見せる
・絵や図を活用 - 教え方の方法
・やってみせる、一緒にやる、ひとりでやらせることを繰り返す
・本人に合ったやり方を探る
(2)Oさんの業務内容
以上のような活動の結果、Oさんは、平成25(2013)年4月2日付で正式に株式会社図書館流通センターの契約社員となった。就業時間は、午前9時30分~午後4時30分(6時間)のシェア勤務、完全週休2日制(日曜日・月曜日休み)で勤務している。
業務内容は、業務責任者が作成するOさん独自のタイムテーブルに沿って業務を遂行している。現状では、同じ業務を長時間行うことは、集中力に欠け、注意力も緩慢になることから、30分~1時間のサイクルで業務を設定している。タイムテーブルの一例を下記に紹介する。
番号 | 勤務時間帯 | 業務内容 |
① | 午前9時30分~45分 | 朝礼・翌日の期限票づくり |
② | 午前9時45分~11時 | 配架・書架整理 |
③ | 午前11時~午前12時 | 新刊なぞり |
④ | 午前12時~午後1時 | 昼休み |
⑤ | 午後1時~午後1時30分 | 配架・書架整理 |
⑥ | 午後1時30分~午後2時 | 新刊なぞり |
⑦ | 午後2時~午後2時30分 | 装備用テープなど備品作成 |
⑧ | 午後2時30分~午後3時30分 | 視聴覚資料検査・修理 |
⑨ | 午後3時30分~午後4時 | 除籍資料シール貼り |
⑩ | 午後4時~午後4時30分 | 配架・書架整理 |
上記、①~⑩まで日常業務として毎日行っている。それぞれの業務内容を紹介しよう。以下、次のような作業となる。
①の「朝礼・翌日の期限票づくり作業」
- 朝礼
Oさんは毎日、朝9時30分からの朝礼に参加している。

- 翌日の期限票づくり作業
期限票とは、資料の返却日を表記した紙のこと。通常はレシートプリンターがあり、そのレシートの一部分に返却期限日が表記されるが、返却期限日だけが記される「期限票」を要望するお客様がいるので作成している。
期限票の作成は本人も得意な作業だ。事前にスタッフがスタンプ日付の設定と期限票の用紙(30枚程度)を用意して、セットしておくと、Oさんは用意された期限票のセットを自分の席に持ってきて、スタンプを押し、終了後はもとの位置に戻しておいてくれる。その後スタッフが、Oさんが押したスタンプの黒インクと赤インクが間違えていないかの確認を行うようにしている。


期限票作成の様子
②及び⑤の「配架(CD,DVD,絵本、紙芝居)・書架整理作業」
- 配架
配架は、Oさんが不得意としている作業だ。図書館の資料には、「背ラベル」といって、資料の所在地を表す記号が背表紙に張り付いている。お客様が必要とする資料が探しやすいよう、所定の本棚(書架)に資料を戻す作業が「配架」である。これらは、NDC(日本十進分類表)で管理されており、図書館の本棚(書架)も分類別に設置されている。利用されるお客様のためにも間違いなく背ラベル通りに配架することが重要となるため、配架作業では正確性が求められる。当初は、図書館スタッフと共にすべての棚の配架を行っていたが、小説などわかりにくいところもあり、現在Oさんは、CD・DVD、紙芝居、絵本の配架を一人で行っている。


配架作業
CD・DVDの配架のために、Oさん用に背ラベルの記号別の見出しを作成し、その見出しのところに、返却されたCD・DVDを置くようにして、その後のOさんの配架作業を容易にしている。
※わからない背ラベルは、スタッフに聞くようにしている。
- 書架整理作業
書架整理は、資料を本棚(書架)の前面に合わせることで、本棚の資料を見やすく・わかりやすく・探しやすくする作業である。
※配架間違いもこの時にわかる。

③及び⑥の「新刊なぞり作業」
新刊なぞり作業は、Oさんが大好きな作業である。
図書館には、毎週新しい資料が届く。届いた資料は、新刊コーナーに2か月間置かれる。
「新刊なぞり」とは、カウンターの端末で2か月経過しているかしていないかを確認するため、バーコードスキャン(なぞり)する作業のことである。2か月を経過していない資料はまた新刊コーナーに戻し、経過した資料は、別にして通常の背ラベル通りの本棚(書架)に移す。
※新刊を元に戻す時に間違えないように、なぞり漏れがないように新刊コーナーの本棚1列ごとの資料をブックトラックに移し、本棚1列ごとに作業をするようにしている。


新刊なぞり作業をしているOさん
④「昼休み(休憩)」
12時からは、スタッフと一緒に昼休みを取る。Oさんは、よくスタッフと笑顔で話している。
⑦の「装備用テープなど備品作成作業」
図書館の資料を装備するためにはいろいろな大きさのテープが必要である。スタッフが用意した見本のテープに合わせてカットするほか、資料の修理個所がわかるようにするため修理票を作成する等、備品作成作業をしてもらっている。

⑧の視聴覚資料検査・修理作業
視聴覚の検査は、Oさんが得意とする作業である。
お客様から聞けなかった、見られなかったと申し出があった資料をTVにて確認し、音飛び・画像の乱れ・見られない箇所を発見したら、別紙にその箇所のカウント数を記入する。そのうえで修理(研磨)する。その後にもう一度同様の検査を行う。
※再度の検査に当たって、事前に記入したカウント数から検査することで、修理時間の短縮ができる。


作業の様子
⑨の「除籍資料シール貼り作業」
除籍資料とは、資料が入って一定期間が経過し、除籍基準に沿った資料を町へ確認後、除籍資料として処理することとなる資料をいう。Oさんの作業は、除籍資料であることを表示するシールを貼る作業で、シールの添付場所、背ラベルをマジックで消すことを教え、その作業をしてもらう。

以上が、Oさんの日常業務の紹介である。
障害者雇用については、関係機関との連携、事前準備、一緒に働くものの理解と協力が大変重要である。図書館スタッフ一同は、Oさんの得手不得手を把握し、こまめな対応を図っていくとともに、自立に向けて見守りつつ環境整備に取り組んでいる。
3. 課題と今後について
(1)課題
Oさんは、入社当時と比べると、作業効率は格段に進歩している。
私たちが目指しているのは、タイムテーブルを見て、自己完結ができるようになることであるが、Oさんの作業効率のアップとともに、作業に対して飽きる仕草も目に付くようになってきた。集中して作業を行っているときは、正確できちんとこなしているが、飽きてくると作業にむらがおこることがあり、その場合にはすぐに注意をするようにしている。
今後の課題として、Oさんに飽きさせないよう業務の見直しや組み立てを考えることが必要であると考えている。
(2)今後について
Oさんの場合、「あいさつ」・「わからないときは聞く」ことは家庭や学校での教育でできていた。Oさんを雇用してみて、「知的障害者は公共施設での就労は難しいのではないか」というような先入観に捉われず、障害者と実際に接することで理解できることが多いことと栃木障害者職業センターのジョブコーチ(職場適応援助者)支援は、障害者雇用にあたって企業としても心強いサポートを受けられる制度であることを実感した。
TRCでは、栃木県で真岡市立図書館1人、高根沢町図書館1人、九州・関西・首都圏等の図書館58人の障害者を雇用している。また、栃木市大平図書館では障害者の実習を受け入れている。栃木県には、TRCが受託する指定管理者導入図書館は10自治体あるので、今後もこれらの図書館で、障害者雇用を水平展開していきたいと考えている。
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