パート雇用にも法定雇用率適用! ‥を契機に
「現場裁量、強制6割」で障害者雇用に拍車を駆ける
- 事業所名
- 株式会社 せんどう 五井金杉店
- 所在地
- 千葉県市原市
- 事業内容
- 食品スーパーマーケット
- 従業員数
- 全社:2,218名(当該事業所:110名)
- うち障害者数
- 全社:26名(当該事業所:3名)
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 1 レジ業務全般 知的障害 2 青果及び鮮魚のバックヤード業務全般 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
当社は千葉県市原市を中心として、周辺市町村に19店舗の営業ネットワークを持つ食品ス-パーマーケットである。創業は昭和44(1969)年と古いが、"我が社の誇る若い社員のバイタリティと強靭な競争力で、地域のお客様のより豊かな食生活に貢献する!"を旗印に、清潔で親しみやすい大型店舗を平成元(1989)年以降毎年のようにオープンし、そのテリトリーを拡げている伸び盛りの会社である。
平成17(2005)年にはドラッグストアにも進出し、現在2店舗を有している。年商345億円(平成23(2011)年度)で、従業員数は2,218名(平成24(2012)年5月現在)、その86%をパートタイマーとアルバイトが占めている。当社における食品スーパーマーケットの店舗は、その多くが売場面積1,000㎡~2,500㎡で、いずれも「青果」「精肉」「鮮魚」「ベーカリー」「寿司・惣菜」「その他食品」「レジ」「事務」の各部門に別れ、1店舗平均15.3名の正社員/契約社員が111名のパートタイマー/アルバイトを指揮・統率している図式になる。
営業時間は9:30~21:00であり、正社員を含む多くの従業員の就業時間は休憩時間を含め7:30~17:00、13:00~22:30の2交代勤務となる。また、各店舗で現在平均1~2名の障害者をパートタイマー/アルバイトとして雇用しており、彼等の職種や所属部門は店舗ごとにマチマチであり固定していない。しかし勤務時間は彼等の多くが朝から夕刻にかけての時間帯である。したがって、その場合、多くの障害者が午前と午後で異なる正社員/契約社員の指示を受けることになる。
(2)障害者雇用の経緯
- 障害者雇用の経緯
当社が意識して障害者雇用に取り組み始めたのは、ほんの2年ほど前、平成23(2011)年頃からである。理由は、平成20(2008)年の雇用促進法改正により、平成22(2010)年7月から法定雇用率の計算方式が変更されることになったためだ。それまでは、法定雇用率を算定する計算式の分母(総常用労働者数)から短時間労働者(パート従業員等)が除外されていたので、スーパーマーケットの場合、法定雇用障害者数は全社でも極めて限られたものであった。また当社の場合、以前から客先等の要請もあって全社で5人の障害者を縁故採用していたため、その当時には法定雇用障害者数は満たしていたのであるが、平成22(2010)年7月から計算式の分母に短時間労働者を含めることになった途端、法定雇用障害者数は20名に跳ね上がった。一挙に15名の不足である。
当社人事部としては、「来るべきものが来た」という思いであった。管轄の千葉労働局からは、「今のままだと納付金は750万円、近いうちに1,000万円を超えるでしょう」と言われ、即座に障害者の受け入れを決断した。そして早速、管轄である千葉南公共職業安定所の紹介で、各店舗周辺にある複数の障害者就業・生活支援センターから当社に適した障害者を推薦してもらうことにした。また、障害者に係る人件費は本部の負担とすることを決め、障害者を受け入れるか否かの判断を各店舗の店長に一任することにした。本社としては"6割強制、4割自由"の指示で各店舗の取組みに期待を掛けたのである。 - 各店舗を会場にした見学会と職場実習の受け入れの取り組み
まず、障害者受け入れのために始めたのが"当社の各店舗を会場にした見学会"である。各店舗周辺の障害者就業・生活支援センターに現場の実態を理解して貰い、"就業実態に適した候補者を選別して送り込んでいただく"狙いがあったからである。また、通勤が可能な地域の市町村に居住する障害者が応募して欲しいので、声を掛けた障害者就業・生活支援センターは各店舗ごとに異なり必ずしも一定していない。
第1回目の見学会は、平成23(2011)年11月に五井金杉店で実施した。このときは、障害者就業・生活支援センター「ふる里学舎地域生活支援センター」(市原市)、同「千葉障害者キャリアセンター」(千葉市)、同「山武ブリオ」(大網白里市)から計15名の見学者が集まり、全社で9名を採用して通勤可能な店舗に配属した。幸いこの方達のうち7名は現在も働いていただいている。
また、当社では10年程前(平成15(2003)年頃)から特別支援学校の体験学習者を毎年5~6名職場実習生として受け入れており、その中から新卒採用に至るケースも出てきていた。そのような経緯で採用した障害者は、幸いいずれの方も辞めずに頑張っていただいているので、見学会の取り組みによる採用と並行することにより、比較的短期間のうちに2.0%の法定雇用率を達成し、現在に至っている。
2. 取組みの内容と効果
(1)取り組みの内容
- 五井金杉店の雇用状況
今回の雇用事例に紹介する「五井金杉店」は、JR五井駅から2㎞離れた臨海工業地帯に近い工場跡地に平成19(2007)年11月オープンの当社では14店目に該当する「第14号店」で、売場面積2,031㎡、駐車台数160台の新鋭大型店である。
五井金杉店は、正社員13名とパート・アルバイト97名、併せて110名で運営している。ここに現在パート従業員として障害者3名が雇用されており、それぞれ青果、鮮魚、レジストリーの各部門に所属している。なおレジストリーの1名は内部障害者で、以前から当店にパートとして同じ業務に従事していたが、少しでも実雇用率を上げるため、会社内で行った障害の有無や手帳の所持についての確認の呼び掛けに応じ障害者であることを宣言していただいた方である。 - T君とKさんの就業状況
ここでは、青果および鮮魚の業務に従事する2名の知的障害者に絞って紹介したい。まず青果部門に所属するT君は、37歳、平成23(2011)年11月の見学会に参加し、同年12月に正式採用となった。当社が意識して障害者雇用に取り組んだ「第1期生」である。T君は、チーフ(正社員)の指示に従って、果物・野菜の「ラップ」、「袋詰め」、「品出し(陳列)」までを行うほか、倉庫の片付けや力仕事もこなしている。したがって、もっぱら正社員の仕事である「値札」を除く殆ど全てのバックヤードの仕事を担当していることになる。T君は元々普通高校の卒業で、物流センターに就職し、フォークリフトの資格も取得している。その物流センターを退職した後改めて「障害者就業・生活支援センターふる里学舎地域生活支援センター」に入って訓練を受けていたが、過去の職歴と業種が異なるのを承知で当店への就職を希望したのである。
T君は快く筆者の面談取材にも応じてくれた。本人によれば、「一時、担当チーフからよく怒られて、落ち込むこともありましたが、今では店長や他のチーフがフォローを入れてくれたり、優しく接してくれているので問題はありません。今までやったことの無い新たな仕事にも挑戦したいです」と語ってくれた。仕事場の清掃や倉庫の片付け、商品の運搬など、力仕事も進んでやってくれるので周囲の仲間からも重宝がられているようである。
一方、鮮魚部門のKさんは今年(平成25(2013)年)に特別支援学校を卒業し、6月に正式採用になったばかりの、口数の少ない18歳である。T君と同様、チーフの指示に従ってバックヤードの仕事を担当している。「包丁」と「値札」は専ら正社員の仕事であり、それ以外の「魚のパック詰めとラッッピング」および「品出し(陳列)」が主な作業内容なのであるが、今は「仕事を覚えるのに精一杯」といったところである。特に鮮魚部門はセンスとスピードが問われる仕事であり、正社員の上司の話では、「目を離さないように仕事ぶりをみているが、今はまだ指示がないと動けない状態なので、少しでも自分で判断できるようになることが今後の課題です」とのことであった。 - 障害者雇用の位置付け
上記のように、当社では障害者雇用に関する責任と権限の全ては、採用・育成を含めて各店舗の店長に任されている。すなわち、各店舗の店長は所管する店舗に関しては経営管理者であり、パート従業員の人事管理についても、部下である正社員に対する店長の教育方針が重要な意味を持つことになる。
この点、当社は、障害者雇用を通常のパート雇用の延長線上に位置付けており、またその範囲内においての障害者活用を目標に置いているように見受けられる。つまり「パート従業員を雇用する場合にも様々な問題が生じることがあり、それぞれ個別に対応していくべきなのと同様、障害のあるパート従業員の雇用に伴う問題に対しても個別に対応していけば良いのであって、個々の障害は乗り越えられないことはない」とどちらかと言えば楽観的な方針で臨んでいる。このような方針は、障害者と障害のないパート従業員に賃率の差を設けていないのもその表れであり、両者に求める仕事の範囲や内容、その達成目標に一切差をつけていないのは、「障害者であっても障害のない人と変らない成果を挙げることが可能である」と考えているからにほかならない。
ただし、障害者の場合、『障害のない人に比べて職場適応に時間が掛かり、仕事を覚え込むまでの過程や教育訓練の方法に特別な配慮が必要である』と考えている。たとえば、障害者が職場に溶け込むには少なくとも1ヶ月間は必要とみており、その間正社員が殆ど付きっきりの指導をするほか、障害者の出身母体である障害者就業・生活支援センターに対してもほぼ完全なフォローアップを求めている。 - 障害者就業・生活支援センターとの連携が重要
当社における障害者雇用がこれまで100%うまく行き、全く問題が無かったかというと必ずしもそうではなく、なかにはこんなことがあった。
ある障害者を採用した直後、当社としては店長を中心に万全の受け入れ対制をとっていたと思っていたが、採用して間もなく突然出社してこなくなったのである。主な原因は、その障害者が配属された職場に馴染めなかったことにあるが、その状況の把握において、出身母体の障害者就業・生活支援センターの担当者と配属職場の上司との間に意識のずれが生じてしまったことも原因といえる。支援センターの担当者が配属職場の状況をよく把握する前に、障害者本人の言葉のみを信じてしまわれていたことや、配属職場の上司はまだ当該障害者との信頼関係ができていないこともあり、職場に馴染めない問題を把握し対策を組むことができない状況にあったこと等により、それぞれに一種の偏見のような「ずれ」ができてしまったことであった。
結果的には店長の判断で配属先の職場を変えることにより事無きを得たが、障害者の採用直後において、障害者が就業職場に溶け込めるようになるには、"障害者本人が信頼を置いている人物による精神的な支援"が不可欠であり、この段階においては、障害者就業・生活支援センターによるフォロー・アップと支援センターとの的確な連携の重要性を改めて認識した次第である。
(2)取組みの効果
障害者雇用に取り組んで日が浅いため、未だ効果を確認できる段階には無い。しかし、これまでのところ採用率・定着率共に極めて良好であり、短期間で目標の法定雇用率を達し得たので、"少なくとも第一段階は成功"と評価している。
当初「障害者が配属された職場においてチームワークが乱れたり、障害者を含めたパート社員同士の人間関係が悪化するのでは?」との心配もあったが、幸い他のパート社員が障害者を排除するようなこともなく、むしろ支援する側に回ってくれているように見受けられる。取組み前の心配が杞憂に終わったことに関しては、当社の業種・業態や職場風土に合った人材を候補として送り込んでいただいた障害者就業・生活支援センターの方々に深く感謝している。
また、当社としては、正社員に"人を育てることの重要さ"を植え付け、"パート従業員に対して教育訓練を行う"良い契機になったのではないかと思っている。
スーパーマーケットという業態はパート従業員の自発性に依存するところが大きいが、当社では、特に若い正社員にとっては、これまで配下のパート従業員に対して自らが教育訓練を行う必要性や、そのような場面も少なかったようである。
それに対し、障害者に対しては、「当人の特性を見抜き」、「実際にやって見せる」と共に、「的確な指示を与え」、「当人ができるようになるまで辛抱して待つ」というステップがどうしても必要になる。正社員がそうした指導能力を身に付けるならば、障害のないパート従業員に対しても大きな効果が期待できそうである。
なぜなら、個々のパート従業員とのコミュニケーション能力やリーダー・シップ能力の向上を図ることで、自分の担当職場において"適材適所の配置"を行ったり、"改善提案を吸い上げて業務効率を上げる"といったことが可能になるからである。正社員が教育訓練の能力を身に付ければ、個々のパート従業員との人間関係を悪化させたり、上司としてのリーダーシップの拙さから職場の雰囲気を気まずくさせるといったことは皆無になるのではないかと期待している。
3. 今後の展望と課題
当社としては"取りあえず法定雇用率を充足する"という当初の目的を達成し得たので、今後更に雇用率を向上させるかどうかは各店舗に任せる方針である。しかし、雇用率の引き上げができるかどうかは"各店舗の店長が今後、前項に述べた取組みの効果を継続して挙げられるかどうか"にかかっているとみている。まずは雇用した障害者の職場定着である。
そのためには、障害者自身の能力開発と配属職場における彼等の職務拡大を図る必要があり、それらは各店舗における店長と正社員の各障害者に対する教育訓練の成果次第ということになる。
この点、障害のない従業員に対する場合も障害のある従業員に対する場合も大きな差は無く、"障害者にも障害のない人にも等しく積極的な働き掛けを行うことで店の業績を挙げていく"ことがこれからの課題である。特に、将来若年層の労働力不足が益々深刻になることが予想される中、障害者についてはまだまだ採用の余地が残されている。幸いスーパー・マーケットは障害者雇用にとって比較的垣根の低い業種・業態であると思うので、こうした社会的環境の変化に対し前向きに取り組んでいけば、まだまだ実雇用率向上の可能性は高いと考えている。
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