「介護現場で働く知的障害のある方の可能性を広げよう」
- 事業所名
- 社会福祉法人 上越市社会福祉協議会
- 所在地
- 新潟県上越市
- 事業内容
- 地域福祉事業、介護・障害福祉サービス事業、相談支援事業
- 従業員数
- 725名(内訳:正規職員475名、嘱託・パート職員250名)
- うち障害者数
- 14名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 聴覚・言語障害 肢体不自由 5 内部障害 1 知的障害 6 精神障害 1 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
- ホームページアドレス
- http://www.jouetushisyakyo.jp
1. 法人の概要、障害者雇用への取り組み
(1)法人の概要
社会福祉協議会は略称「社協」と呼ばれ、誰もが住み慣れた家庭や地域社会で生きがいを持ち、安心して生活が送れるよう、福祉の向上を図ることを目的とする「社会福祉法人」という法人格を持つ公共性の高い民間の社会福祉団体である。
当上越市社会福祉協議会は、上越市民・福祉関係団体・社会福祉施設等を基盤として組織され、運営にあたる役員は、地域住民、地域・福祉団体、ボランティア、福祉施設、行政や学識経験者等で構成されている。また、平成17(2005)年1月1日に上越市、安塚町、浦川原村、大島村、牧村、柿崎町、大潟町、頸城村、吉川町、中郷村、板倉町、清里村、三和村、名立町の1 市6 町7 村(14市町村)の合併により、新しい上越市が誕生したのと併せて、上越地域13町村の社会福祉協議会を編入合併し、現在では、本所及び15支所を配し①地域福祉事業②介護・障害福祉サービス事業③相談支援事業の3つを大きな柱として事業を展開し、上越市全域の福祉の推進を図っている。
(2)障害者雇用への取り組み
- 障害者雇用の経過
上越市社会福祉協議会として合併した平成16(2004)年12月以前より、旧各14市町村の社会福祉協議会で、親族などからの依頼より知的障害のある人を介護現場で雇用していたが、現場に全て任せきりであった。
合併後、平成19(2007)年4月に「業務に制限が必要な障がいを持つ職員雇用要綱」を規定したが、引き続き現場任せの状態が続いていた。
そうした中で、現場の職員から障害のある職員の対応に困ると、障害のある市民の相談支援を担当する相談支援課にSOSが寄せられるようになった。 - 課題解決のための取り組み
平成21(2009)年、当会が運営するあるデイサービスセンターで問題が発生したのを契機に、相談支援課で「社会福祉法人さくら園・障害者就業・生活支援センターさくら」の協力も得て、「社協デイサービスに働く仲間の集い(当事者グループ)」を立ち上げた。翌年「スマイルの会」と命名し、2か月毎に障害のある職員同士の交流を図ることとなった。 しかし、それだけでは不十分であり、受け入れている事業所側のサポートや一緒に働く他の職員への教育の必要性も感じた。
平成22(2010)年、当会の重点目標のひとつに「障害者の雇用促進」が掲げられ、同年7月、全社的横断チーム「障がいのある方の雇用を考える委員会」を立ち上げた。その中ではっきりしたことは、障害のある人を試行錯誤しながら受け入れをしてきた現場と、それ以外の雇用経験のない部署では、"障害"に対して、かなり温度差があるということだった。委員会としては、この機会に当会として、障害のある人の雇用全般に対して真剣に取り組んでいくことが必要との意見で一致した。 - 現在の支援体制
a.要綱の改正と委員会活動
平成23(2011)年4月、前述の要綱を「障がいのために支援が必要な職員雇用要綱」に改め、ワーキングチーム的であった前述の委員会を「障がい者雇用推進委員会」として位置づけし直して、不定期ながら開催し障害のある人の雇用全般について様々な角度から検討を進めることとした。
b.研修会の開催
障害のある人を受け入れる現場職員への研修と同時に、職員全体への研修も必須である。前者については、受け入れている事業所の障害のある職員の指導等を担当する生活相談員と委員会とで現状把握のための情報交換や検討を随時行っており、後者については、最低年1回は全職員を対象に、当会としての取り組みの報告や知的障害のある職員の理解を深める研修を開催するよう努めている。
c.社協デイサービスに働く仲間の集い〝スマイルの会〟の開催
各職場では、知的障害のある職員が1人であることも多いため、ともすれば孤立しがちである。その職員が2か月に1回集まり、みんなで決めた年間計画に添って、職場での悩みを語り合ったり、学習会をしたり、レクリエーションを通じて親交を深めている。
2. 障害者雇用の事例(知的障害のあるAさんの場合)
(1)Aさんについて
- プロフィール
配属事業所:通所老人介護事業所(デイサービスセンター)
20代、女性、療育手帳B、自宅からマイカー通勤 - 採用の経緯
養護学校(現在の特別支援学校)高等部在籍中に当デイサービスを見学し、就職を希望。
平成20(2008)年3月に養護学校高等部卒業後、職場実習(4か月間)を経て、平成20(2008)年8月に介護補助員として採用(ハローワークのトライアル雇用制度を3か月間利用)。 - 雇用形態等
勤務は6時間勤務。賃金形態は、時間給。
なお、本人の疲労度合や業務への集中力を考慮し、月15~20日の実働日数内で勤務調整を行っている。 - 業務内容
平成24(2012)年3月迄は、リネン交換の補助、ゴミ箱作り、整容作業等、利用者とあまり会話することのない単調な作業を4年間続ける。
平成24(2012)年4月から利用者受け入れ準備(設営、浴室の準備)、入浴・排泄介助、整容、移動・不穏者見守り、レクリエーション補助などの利用者と関わりがある業務へ移行した。その他、定例職員会議や研修会にも参加をしてもらっている。




(2)Aさんの雇用における具体的な取り組み
- 職員向け研修会の実施
Aさんと一緒に働く職員に対して障害のある人の特性や能力、配慮すべき点などについての勉強会の開催、定例職員会議においてAさんが行う作業内容の確認、Aさんの担当者が行う補足作業の確認等を行う。
また、事業所において障害のある人が持つ能力、存在意義の必要性を訴えた。職場の仲間である職員同士の理解が深まることで障害のある人が精神的にも安心できる職場環境の整備を行った。 - 主担当(当デイサービスの生活相談員)の役割と活用
Aさんの指導などは、配属事業所の生活相談を職務とする職員(生活相談員)が主担当となり、Aさんの業務の確認や介護業務面の指導、Aさん本人とその家族との相談及び他の職員との調整を行った。
主担当の生活相談員は、Aさんと定期的に話し合いの場を設け、体調や疲労具合、業務の希望と習得具合を確認し、業務を段階的に進め介護技術の習得内容を増やしていった。
また、次の内容を毎月の定例会議内において他の職員と情報共有を図り、介護業務面での細やかな配慮(温度調節、消毒管理等)と利用者個々の対応において配慮すべき点を、他の職員からAさんに伝えてもらうよう指示をした。
ただし、重度介護や体調が不安定である利用者、暴言暴行等の恐れがある利用者への直接対応は、Aさん以外の職員が行うよう配慮した。
a 前月の業務目標に対しての振り返りと改善の相談
・業務における心配事はないか、どのように行うのか
b 本人と業務希望も含め業務内容の確認(月1回開催の定例会議前)
・やりたい業務はあるか
・習得状況を踏まえた上で加減を行う
・他の職員へ情報を共有し、Aさんへのサポート態勢作りを行う
c 次月目標の設定
・業務内容を明確にしながら、他の職員へ業務内容の周知と援助を促す
(3)取り組みによる効果
Aさんは、前述のように平成24(2012)年4月から利用者受け入れ準備(設営、浴室の準備)、入浴・排泄介助、整容、移動・不穏者見守り、レクリエーション補助などの利用者と関わりがある業務へ移行した。これまでになったのは、上記(2)の取り組みの効果でもあり、次のような経過による効果でもある。
- Aさん自身の不安解消
平成24(2012)年春頃迄は、Aさんは同じ業務を黙々とこなすのみで他の職員から話しかけられることも少なかった。その後、Aさんは業務中に生活相談員や看護師を呼び止め、自身の悩み事をとりとめなく話したり、生活相談員の携帯電話にメールを何通も送るなどの精神的に不安定な状態に陥った。
これを契機に、生活相談員はAさんと面談を重ね、心配・不安の解消を図った。同時に、業務目標を設定し、業務と向き合う姿勢の確立を目指した。 - コミュニケーション力の向上
主担当の生活相談員は、Aさんから「会話が苦手であるため他者と会話することができない」との発言を受けて、Aさんと業務を一緒に行なう機会を作りながら、Aさんへの声かけの回数を増やしていった。そうしたところ、Aさんは会話する機会が増え、会話に対する自信を身につけたことで、自然と言葉も増え、笑顔で他の職員へ報告・連絡ができるようになった。
このようなコミュニケーション力が向上してきたことにより、障害があってもその人らしく、就労意欲を引き出しながら段階的に業務習得を進めることができるようになり、本人の業務習得の拡充と業務全体の作業効率を高めることに繋がった。
更に、Aさんが社会的ルールを身につけ、職場の一員としての責任を果たせるよう、Aさんと何度も話し合い、会議や研修会への参加を促した。 - Aさん自身の意欲向上
介護職員として、職員会議や研修会への参加もスムーズにできるようになると「より専門的な技術を習得したい」、「資格取得を目指したい」、「送迎バスへの車いすの固定やリフトバスの簡単な機械の操作を覚えたい」というAさんのスキルアップへの意欲がうかがえるようになった。
作業時の緊張や順序立てた理解が難しく習得するまでには至らなかったが、こうした挑戦により、Aさんの能力が明確になり、より適切な業務を設定し、Aさんが不要な心配等を持たなくてすむようになった。 - 他の職員への影響・変化
当初、他の職員はAさんに話しかけることも少なかったが、勉強会の開催等により、職員の障害に対する理解が徐々に浸透していった。職員はAさんについて、色々と気づくようになり、良い事も悪い事も主担当の生活相談員へ情報を提供するようになった。また、Aさんを一人の職場のパートナーとして受け入れたことによって、Aさんが業務をしやすくなるような配慮を職員自らが考えるようになった。更に、職員だけではなく、利用者からも温かい声をかけられるようになり、職場の全員から見守られるようになった。
このように紆余曲折があったが、現在Aさんはいきいきと意欲的に業務に向かい、他の職員とスムーズに連携できるようになってきている。そして「なくてはならない」職員に成長し、人財として他の職員からの厚い信頼を得ている。
<Aさんを担当した生活相談員の感想>
「Aさんを含め、通所介護事業所において知的障害のある職員を3名担当してきました。特別な学識がある訳でも、マニュアルがあった訳でもありません。障害があっても一人の職場の仲間であり、利用者から見ても「職員さん」です。仕事をもてば業務への責任や会社の規律、社会的ルールも発生します。障害のため達成できない業務もありましたが、それは障害の特性と捉えるよりは個人の特性と捉え、達成度を求めることを前提にしながらも、それ以上に工程を工夫してきました。本人の気持ちを大切にし、何度も話し合いを重ねながら、本人の意欲の向上と業務の調整をしてきました。私自身も、ささやかでも仕事を任せられれば意欲が湧き、上司に褒められればやる気もおきます。Aさんも同じだと思います。
福祉の現場は一日が目まぐるしくもあり、利用者の対応には柔軟性と年長者への配慮が要求されます。職員が手元の業務に追われ余裕がない中、素直さと真剣な姿勢で業務に向かうAさんに職員も触発され、障害のある人の就労に理解が及びました。更に、本人の素直さと温かい笑顔で利用者から名指しの依頼も多く見られるようになりました。障害があっても個人に合う業務は必ずあります。その人がその人らしくお互いに尊重し声をかけ合い、同じ目的に向かい就労を推進することで、職員の質の向上・業務効率は勿論、本人が「仕事にやりがい」を感じてくれたことが大きな成果と考えています。」
3. 課題 ~今後に向けて~
Aさんに限らず、知的障害のある方の生真面目さや真摯な姿には、心うたれるものがある。しかし、障害ゆえのできづらさがあるのも事実であり、そこをよく理解しないと、職場で力を発揮してもらうことは困難である。
今後、更に障害のある人の雇用を進めていくには、次の2点について検討していく必要があると考える。
1点目は、現在雇用している方たちのスキルアップをどう図っていくかということである。例えばAさんのように資格をとりたいという希望にどう応えていくのか。「障害のために支援が必要な職員」から卒業できる人もいるはずであり、むしろできればそれを目指してほしい。
2点目は、現在知的障害のある人の雇用が通所介護施設に限られているが、それをもっと広げられないかということである。例えば、お掃除隊を組織し、各事業所を回るなどというのはどうだろうか。いずれにしても、全社的にアイディアを募集して、知的障害のある方が働く場を広げていければと思う。
最後に、障害のある人もない人もみんなが元気に働くことのできる職場を目指して、ささやかな試みを続けていきたいと考える。
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