各支援機関との連携・協力により一般就労が進んだ事例
- 事業所名
- 株式会社WSBバイオ
- 所在地
- 岐阜県山県市
- 事業内容
- 就労継続支援事業A型・就労移行支援事業
(収益事業:菌床椎茸生産販売、わさび栽培、バイオ苗生産) - 従業員数
- 27名
- うち障害者数
- 22名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 1 農林産物栽培(ワサビ) 肢体不自由 内部障害 2 農林産物栽培(シイタケ) 知的障害 14 農林産物栽培(シイタケ)
わさびバイオ苗生産
農林産物栽培(仙寿菜)精神障害 4 農林産物栽培(シイタケ)
農林産物選別出荷(シイタケ・ワサビ)
農林産物栽培(仙寿菜)発達障害 1 農林産物栽培(ワサビ) 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次


事業所外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
当社は、平成20(2008)年4月4日、平成19(2007)年に施行された「障害者自立支援法(現 障害者総合支援法)」の事業を実施することを目的に設立した会社である。平成20(2008)年8月に岐阜県の指導を受けて就労継続支援事業A型事業所の指定を受け、平成23(2011)年6月には就労移行支援事業を追加した。
収益事業は菌床椎茸、仙寿菜(せんじゅさい)の生産および加工品製造販売を主力とし、個々の能力に応じ、本わさびのバイオ苗の生産も同時に行っている。菌床椎茸は年間10tの生産量であるが、品質重視の栽培方法および限定された種菌により、エンドユーザーからの評判も良くなり、現在では岐阜都ホテル、東海生協(東海コープ事業連合)をはじめ地元有名飲食店へ高価格での直接販売を確立した。
一方、平成23(2011)年12月より岐阜大学応用生物科学部(旧農学部)、岐阜都ホテルおよび当社との「農業と障がい福祉の連携」(産学連携覚書)がスタートした。栽培技術、農産物加工品技術の取得を計り、障がいを持つひとのモチベーションの向上に努めている。また、平成25(2013)年4月からは岐阜大学応用生物科学部、大手コンピュータメーカーおよび当社との間で、岐阜大学ブランド野菜である「仙寿菜」の通年実証試験および加工品開発をスタートさせた。今年度は大手コンピュータメーカーの敷地内(沼津市)での実証ハウス(約350㎡の広さで水質・水温・養分・室内温度等のコンピュータ管理施設)をメインとし、岐阜大学農場および当社農場等の栽培データの取得、確立を行い、そのデータを基に平成26(2014)年度から農業を収益事業とする全国の就労継続支援事業所に伝授し、全国ベースの特産品創設と福祉関連事業所の収益事業の確立を目指している。
(2)障害者雇用の経緯
障がい者雇用は当社の前身会社において平成12(2000)年より開始されていた。岐阜県立岐阜聾学校より通算3名の聴覚障がい者を雇用した実績がある。その障がい者も常勤者として新会社へ移籍した。
現在、障がい者は総勢22名の在籍である。
2. 取り組みの内容と効果
(1)取り組みの内容
- 募集・採用
募集はすべてハローワーク又は就労支援機関を通じての紹介であるが、障害者自立支援法の就労継続支援A型事業の目的は、雇用契約に基づく就労が「可能」であるが、通常の事業所に雇用されることが困難である者が通常の事業所での一般就労を目指すことであるので、採用にあたっては一般就労への意欲および継続的作業能力を重視し採用を行っている。また将来の雇用創出も含め、特別支援学校の実習として在校生の職場実習の機会も設けている。特に岐阜市立特別支援学校とは3年前(平成22(2010)年)より、毎週1回(火曜日9:30~12:00)10名の生徒の実習を行ってきた。今後とも引き続き実施していく予定である。
- 障害者の業務・職場配置
a | 菌床椎茸生産作業(12名:身体1名、知的8名、精神3名) 2名の指導員で運営し、年間約10tの生産量を挙げている。 作業内容としては、「ほだぎ(注)への給水」、「ほだぎの浸水」、「収穫」、「簡易選別」が日常作業として365日行われる。また、栽培ハウス(2棟520㎡)および周辺環境の管理も定期的な作業内容である。 (注)ほだぎとは椎茸を発生させる固体で、原木を利用するものが「原木ほだぎ」で、広葉樹のチップを固めたものが「菌床ほだぎ」である。 |
b | 菌床椎茸選別出荷作業(6名:知的5名、精神1名) 2名の指導員のもと、収穫された椎茸の品質・形状・大きさ・顧客別等の選別及びパック詰めの作業である。当該作業工程の障がい者は一般就労を本格的に目指す者で、作業と同時に一般企業への就労実習や就労マナー研修(月2回)を行っている。 |
c | わさび生産作業(2名:身体(聴覚障がい)1名、発達障害1名) わさび田の管理全般で、2名の障がい者のみで作業を行っている。2名とも当社常勤者であり、栽培の専門的知識も兼ね備えている。作業内容は苗植えから収穫・出荷まですべてである。 |
d | わさび苗生産作業(2名:知的2名) 1名の指導員のもと、本わさびの成長点バイオ苗生産を行っている。 0.2㎜の成長点を抽出し、二種の培養液にて約4ヶ月の工程での培養後、約2ヶ月の順化育成の作業を行っている。培養液は二種類あるが一種類あたり10種類の養分原液をmg単位で調合することも彼等自身で行っている。 |
![]() 菌床椎茸ほだぎ浸水作業
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![]() 菌床椎茸ハウス内
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![]() 菌床椎茸選別・パック作業
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![]() わさびバイオ苗作業
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![]() わさび栽培育成作業
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![]() 就業訓練研修
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- 一般就労への各関係機関との連携
当社勤務の後、一般就労に向けての活動は、まず一般企業での就労実習の実施である。ハローワークでの求人(一般枠および障害者枠)企業の情報をもとに、実習受入を申し込む。ハローワークからも実習受入のフォローをしてもらい具現化している。
平成23(2011)年4月に当社からハローワーク岐阜に障がいをもつ求職者への支援連携を要望したところ、ハローワーク岐阜の音頭取りで「就労支援連絡会議」が平成23(2011)年6月よりスタートした。各関係機関の情報交換および共有することにより、障がいをもつ求職者がスムースに雇用の機会を与えられるものになれば、本連携の主旨が生かされるのではないだろうか。本会議は2ヶ月に一回開催しており、今年3年目を迎える。主な構成組織は以下である。
・岐阜公共職業安定所
・岐阜障害者職業センター
・岐阜障がい者就業・生活支援センター
・岐阜圏域障がい者就労・雇用ネットワーク
・当社及び社会福祉施設等
(2)取り組みの効果
前述の通り、当社への就労希望者の募集と当社勤務の障がい者の一般就労は、各関連機関の協力がなければ、小組織一社では到底解決できるものではない。前述(1)での活動のほか、障がい者の求人企業への直接の雇用依頼も含め実施してきた。当社事業は開所5年を迎えるが、延40名の就労希望者を受入れ、14名の一般企業就労者を輩出した。業態別では運輸・ホテル・小売り・飲食・老人ホーム等千差万別ではあるが、各関係機関との連携と就労後のフォロー体制により継続就労に結び付いている。
また当社の一般就労希望者への1ヶ月2回の研修(マナー・面接・文書等)効果も企業実習に反映されつつある。昨年(平成24(2012)年)11月、企業実習先である当地有名ホテル支配人から、8月に研修に来た○○さんを雇用したいとの逆指名を受けた。本人にとっても当然うれしいことであるが、他のメンバーにも大変刺激になった実例である。
3. 今後の課題と展望
各関係機関の連携は机上の論理がまだ優先しているが、実務ベースで運用ができれば更なる彼らの雇用機会が増してくるのではないかと思われる。
一方当社では一般企業への就労を望まない障がい者が多いことも現実である。支援学校卒業者の多くは「頑張って一般就労を」と日夜励んでいるが、高年齢の障がい者のほとんどが当社入社前での一般就労において悪しき思いを持った人たちで、今までの職場での経験が彼らのトラウマとなっている。
当社勤務後の一般就労先は企業自体もしくはオーナー自身が障がい者の就労に理解をしている企業であり、職場の人および職場環境も受入に違和感を持っていない企業であるが、今後良き理解ある企業の発掘に努めるためにも、障がい者の関連機関との連携が重要になると予測している。
また就労継続支援A型事業については、障害者自立支援法の制定により、社会福祉法人のみならず、一般法人(NPOも含む)も当該事業を実施できるように門戸が広げられてから7年が経過している。
当該事業の経営者及びサービス管理責任者については、障がいに対する基礎知識を持ち備えなければならない。特にサービス管理責任者においては必然であるが、障がいを持つ人たちへの支援に対し、基礎知識も持たずただ単なる一ワーカーとしてのみ事業運営を行っている事業所が見受けられる。今後の障がい者の就労支援においては各関係機関の連携も当然必要ではあるが、就労支援事業所は障がいについての基礎知識を持った上での取り組みを行うことが重要であると感じている。
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