「仲間たち」とともに働く
- 事業所名
- 東海食膳協業組合
- 所在地
- 愛知県豊橋市
- 事業内容
- 料理品製造小売り
- 従業員数
- 188名(男性正職員15名、女性正職員12名、男性パート社員26名、女性パート社員135名)
- うち障害者数
- 19名(男性パート職員12名、女性パート職員7名)
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 19 弁当容器の洗浄、材料の下処理、弁当盛付け 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次

1. 組合概要、仲間たちとの出会いと取組み
(1)組合概要
当協業組合は、昭和51(1976)年に、豊橋市所在の料理品製造小売業者が相互扶助の精神に基づいて、共同で事業を行うことを目的として創立創業した。事業所用宅配弁当、事業所食堂業務委託運営、幼稚園給食弁当、在宅高齢者福祉給食、豊橋市学校給食運営事業を行っており37年の業務実績を有する。
(2)仲間たちとの出会いと取組み
昭和63(1988)年、精神病院で治療を受けた患者の院外作業(※)の場として受け入れたのが、最初の出会いである。院外作業が中止となるまでの間に、常時4名、延べ16名を受け入れた。現在は、諸般の事情から、受入れを中断している。
一方、知的障害者については、平成4(1992)年、愛知県の特別養護学校である豊川養護学校高等部の職場体験実習生の受入れを開始した。この時に受け入れた実習生は高等部卒業後に福祉関係の事業所で訓練を受け、この事業所からの推薦により元実習生8名を含め、現在9名を雇用している。
こうした障害者雇用の取組みが認められ、障害者雇用優良企業として平成17(2005)年度には愛知県雇用開発協会長、平成22(2010)年度には愛知県知事より、表彰していただいた。
※ 退院前に社会復帰に必要な職業訓練、作業習慣の習得、社会適応などを目的として行われる。
- 仲間たちの仕事状況
当事業所では、ともに働く障害者を親しみをこめて「仲間たち」と呼んでいる。現在の仲間たちは19名で、全員が知的障害者である。
仲間たちは、大型連続式洗浄機や手洗いによる弁当容器や器具類の洗浄、仕込み野菜の下処理、コンベアでの弁当盛り付け作業を担当している。
年齢構成は、最年長者は49歳(男性)で、平均年齢は29.4歳である。平均勤続年数は7年で、最長勤続者は19年(女性38歳)である。
勤務時間は、8時から15時までの実働6時間勤務で、昼食休憩は1時間である。事業所は、最寄りのJR駅より徒歩で約20分の位置に立地するが、通勤事情によっては始業時間をずらす配慮をしている。
事業内容からして、作業量は概ね一定している。障害者雇用人数を増やすこと、週休2日の維持を目的として、ワークキングシェアを採用している。休日は、日曜日、月曜日から土曜日のいずれかの指定日である。
最低賃金の適用除外の許可を受けてはいるが、能力に見合った賃金を支給することを原則としている。中には障害を有しない社員と同等の賃金を支給している者もいる。通勤手当ては実費を支給し、皆勤手当ての支給制度を設けている。

- 障害者雇用支援について(助成金等の利用)
障害者雇用納付金制度に基づく報奨金と業務遂行援助者助成金、公共職業安定所より紹介を受けて雇用した場合には特定就職困難者雇用開発助成金を受給し、障害者雇用に役立てている。 - 心を砕いていること
応募者と職務内容とのミスマッチによる離職を避けるために、雇入れ時には最低2週間の就労体験を課している。この体験は、職場環境・体力・通勤手段が適しているかを本人自身および保護者が判断する機会と位置づけている。一方、事業所側では作業能力を見極める機会であり、ジョブコーチ(職場適応援助者)のアドバイスを参考にして、無理のない雇入れにつなげている。雇用の基準は人柄であり、具体的には楽しく仕事ができることである。
雇入れ後は、保護者とのコミュニケーションを確保するため、連絡ノートを活用している。事業所からは作業日程・行事予定・作業中に発生した特筆すべき事項などを、保護者からは体調及び精神的な側面について、連絡・情報交換し、雇用管理や突然の予定変更による仲間たちの戸惑い防止に活用している。特に会話が不得手な仲間の場合には、有効な方法である。
ジョブコーチとの連絡は密に行っており、情報の共有化により予想される問題の先取りと、早期の対策の実施による問題発生の未然防止に役立てている。
もっとも心を砕いていることは、仲間たち一人ひとりの個性に配慮しつつ、すべての事柄で障害を有しない社員と別扱いをしないことである。たとえば、忘年会ではくじ引きを余興の一環として行うのが恒例だが、障害を有する社員が有利になるような配慮はしていない。くじが外れる場合に我慢することもこうした機会を利用して教育をしている。
2. 事例紹介
(1)30代のA君(離職の事例)
過去に勤務した事業所で、精神障害者の内面特性に見合った雇用管理が適切に行われなかったことが原因で離職を数度経験したA君を、保健所の精神保健担当課からの依頼で雇用した。保健所の担当者より引き継いだA君の就労・離職経験を参考にして、A君の内面特性の把握に努めたが、継続就労に繋がる対策を見出すことができず、約3ヶ月で離職するにいたった。
A君には就労に先立ち、仕事時間、仕事内容、ともに働く仲間たち、指導者は特定の人が行うことなどを、丁寧かつ負担にならないように説明をした。A君の勤務には、ムラがあり休みが多く、また被害妄想もあり、仲間たちに溶け込めなかったようだ。就労開始に先立ち、職業生活、社会生活、担当する仕事について、本人が理解、納得するまで時間をかけて研修する必要があったのではないかと振り返るが、当時は初めての精神障害者雇用ということで、そこまで考えが及ばなかった。保健所の担当者の助言を役立てるなどにより、精神障害を含め障害者の特性を把握すること、それを雇用管理に活かすことの重要さを知った事例である。
(2)30代のBさん
勤続10年を越える知的障害を有する仲間である。家庭での社会教育や障害者の養育を期待することができない家庭環境で育ち、本人の給与が本人のために使われていなかった。ジョブコーチに相談しグループホームのショートステイを利用して、Bさんが直接事業所へ通勤することを、保護者の意識改革を意図して提案したが、保護者から家庭がのぞかれると反対され、実現できなかった。保護者に対しては、Bさんの自立を第一とし、今何をすべきかを考えるように説得したが、家庭環境の改善はできなかった。障害者の自立のために良かれと思うことでも、踏み込めない領域があることを痛感した。こうした中にあっても、Bさんは、仲間たちと明るく仕事をしている。楽しく働ける職場環境づくりの重要性を学んだ事例である。
(3)20代のC君
家庭環境も良好であり勤続6年の、知的障害を有するが、知的レベルが高い仲間である。当初は、能力が他の仲間より高いことを意識し、他の仲間とどうして一緒に仕事をしなければならないのかとのジレンマに陥り、また、吃音を苦にしていたことも加わって、仲間たちと触れ合うことを避け、不平・不満も多く、作業に集中できない状態になった。保護者とは、転職も視野に入れた話し合いなどを行い、C君の就業継続を家庭面から支援をすることを要請した。C君には、日常の生活レベルまで踏み込んだ会話を継続した。この結果、徐々にではあるが心を開かせることができ、6年の勤続に繋がったと自負している。障害を持つ人の気持ちになって一緒に考えること、その中で課題を見つけ少しずつ社会の仕組みを理解させる方法を学ばせてくれたC君である。
3. 取組みの効果と課題
(1)ともに働いて(障害者雇用で生まれたメリット)
仲間たちの無邪気な言動が、障害を有しない社員も巻き込んで職場の雰囲気が明るくなった。知的障害者と話をするのを、楽しく感ずるようになったのは私だけではないと思う。
最初に精神障害者を受け入れてから25年が過ぎようとしている。当時には想像できなかったことだが、食器洗浄作業工程の約95%を、仲間たちだけで手際よく、清潔にできるようになったこと、保健所から清潔さに関する検査の結果が良好であったという評価をいただけたことは、食に対する安全、安心が当たり前の業界にあって大変名誉なことであり、障害者雇用の自信と社会貢献への満足感につながっている。
日ごろ一緒に仕事をする機会が多い100名を超える女性パート社員が、こうした明るい職場環境づくり、作業手順の教育の一翼を担っていることも、当事業所にとっては心強い限りであり、障害を有しない社員の教育にも効果を感ずることができたことが誇らしい。

(2)課題と対策
仲間たちが担当する作業内容が、本人の性格や特性(男女別、手先の器用さ、集中力の持続性など)から、自然発生的に固定化してしまう傾向になりがちである。仲間たちの自立を考えると、得意な仕事にいつまでも従事させることが、果たして仲間たちのためになるのかと思うようになった。苦労は伴うが、少しずついろいろな作業を経験し、担当する職域を増やすことが、職場でできる仲間たちの自立に向けた最大の支援ではないかと考えるようになってきた。課題は仲間たちの能力開発、職域の拡大を目指す人事システムの導入である。
しかし、共に働き指導する側にある社員は、手馴れた作業を担当する仲間たちに仕事を任せることに安心を感じ、自分が他の仕事に専念できる時間的余裕の確保、精神的負担からの開放という面でメリットがある。このようなことが仲間たちの能力開発、職域の拡大を目指す人事システムの導入に対して、もろ手をあげて賛成する状況には至っていない理由になっていると推測する。両者が共に仕事ができる、充実感を分かち合えるシステムを考えることが今後の課題である。仲間たちが能力を伸ばす手法と、障害を有しない社員の職務能力及び障害を有する社員に対する指導力の開発を模索し、両者が共に楽しく働ける職場づくりを推進していきたい。
我々経営者の一番大きな課題は、仲間たちに将来も働ける場を提供できる会社の安定経営であり、勤務時間の長短に関わらず障害を持った人を雇用する企業を増やす働きかけをすることである。このためには、当組合を取り巻く利害関係者に対し、安定経営の基盤となる仕事量の継続確保を要請し、我々自身も経営者としての責務を全うする必要がある。また、障害者雇用の推進に関わるセミナー等に積極的に参画し、障害者雇用を推進する企業が一社でも増える活動を継続していくことである。
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。