複合型介護施設群としての多様な職場環境の提供における適材適所での勤務による障害者雇用
- 事業所名
- ヤナセメディケアグループ
医療法人碧会 社会福祉法人寿泉会
複合型介護施設群 しおりの里 - 所在地
- 三重県津市
- 事業内容
- 高齢者福祉施設
- 従業員数
- 144名（「しおりの里」の施設群にある事業所の合計）
- うち障害者数
- 4名（「しおりの里」の施設群にある事業所の合計）
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 1 清掃および洗濯業務 内部障害 2 清掃および洗濯業務、介護業務 知的障害 1 清掃および洗濯業務、介護業務 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
事業所外観
事業所正面玄関
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
（1）事業所の概要
- あらまし
しおりの里は、介護の実績と医療の豊富なノウハウを集めてヤナセメディケアグループ（医療法人碧会、社会福祉法人寿泉会）が平成18(2006)年9月にオープンした同グループで一番新しい複合型の介護施設群である。津市中心部から、また久居地域からも至便な場所にあり、入居施設は全室個室で9名～10名のユニットになっている。時代のニーズに適合する複合型施設群として、医療法人と社会福祉法人の共同事業ならではの細やかな心づかいと、ワンランク上のサービス・最新のシステムを融合させた施設群として注目を浴びている。
きめ細やかなサービスで入居者、利用者の「生きがい」をサポートすること、あるいは医療機関と密接に連携し、安心の医療で「健やかな暮らし」をサポートすることなど、居宅介護から入居までの多彩なサービスメニューを提供し、生涯にわたる介護サービスを追い求めている施設として、その評価も高い。 - 理念
ヤナセメディケアグループの理念は「安全から安心に…安心からゆとり（幸せ）に」として「安心実現に満たされた暮らしを実現する」「今後の少子高齢社会で、医療支援・生活支援を基軸としたサービスを実践し、人生の質を高める暮らしを提案していく」とする。 - 事業の内容（しおりの里複合型施設群）
・ケアハウス（特定施設入所者生活介護事業）
・グループホーム（認知症対応型共同生活介護事業）
・デイケアセンター（通所リハビリ事業）
・訪問リハビリテーション
・しおりの里クリニック
・地域密着型特別養護老人ホーム
・広域型特別養護老人ホーム
・第1ショートステイ（短期入所生活介護施設）
・第2ショートステイ（短期入所生活介護施設）
・一般型デイサービスセンター
・認知症対応型デイサービスセンター
・居宅介護支援事業所
（2）障害者雇用の経緯
ヤナセメディケアグループでは、職員の雇用に際して職業生活上不利な条件のある人にも進んで仕事を提供し、その人の職業生活・社会生活を支援していこうという考えのもと、様々な条件を有する人にも積極的に雇用の場を提供してきている。
また、しおりの里としても、さまざまな複合型施設群としての事業を展開している特性を活かし、それぞれの働く人の条件や状況に応じた職務内容を工夫するなど、一人ひとりの職員の状況に応じて、柔軟に対応し、適材適所での雇用を行ってきている。
障害者雇用についても、同じように、職業生活上不利な条件のある人に進んで仕事を提供し、職業生活・社会生活を支援するという考えから、積極的に取り組んできている。その結果が高い雇用率の維持となってあらわれている。
なお、このような取り組みが評価され、社会福祉法人寿泉会は、平成24(2012)年度社団法人三重県雇用開発協会長表彰事業所に選ばれ、表彰を受けている。
2. 雇用に向けた取り組み
（1）雇用に至る状況
- 肢体不自由・内部障害のある人
肢体不自由・内部障害がある3名のうち、1名はハローワークからの紹介により雇用し、もう1名はハローワーク主催の障害者面接会を経て雇用した。後の1名は職員の紹介をもとに雇用した。 - 知的障害のある人
知的障害のある人については、特別支援学校の高等部第3学年在学時に、学校の進路担当者の訪問を受け、依頼によって現場実習を実施したことが、雇用のきっかけとなった。
本人の卒業にあたって、本人が「しおりの里」での就労希望をもっていることをもとに、雇用する場合の配慮事項も考慮し、またあわせて現場実習における実習の状況も判断材料にして、職業生活上不利な条件のある人に進んで仕事を提供していこうという考えにもとづき、最終的に卒業後の雇用を決定した。
（2）現在の状況
- 肢体不自由のある人
肢体不自由のある人は、右下肢に機能障害を有される。下肢の可動域に制限はみられるものの、業務上大きな制限となることはなく、清掃及び洗濯業務を担当している。本人にとって困難な状況があれば、周りの職員がすぐに協力して対応し、業務は円滑に遂行できている。 - 内部障害のある人
両名とも心機能障害を有する。心臓への負担となる業務がないよう、その職務内容・勤務条件を吟味し、調整したうえで、職務を担当させるように配慮している。1名は清掃及び洗濯業務を担当している。もう1名は介護業務を担当している。 - 知的障害のある人
雇用当初は寮（障害者共同生活介護事業によるケアホーム）に入居することとなった。そこで、毎日の通勤が確実にできることが安定就労の一番の基本と考え、「しおりの里」として、寮の担当者、卒業学校進路担当者、市の福祉担当者との連絡、連携を欠かさない連絡体制をつくった。そのために、本人、「しおりの里」、寮の担当者の間で「連絡帳」を作成し、その日の出来事を情報交換するなど、日常的な連絡を欠かさないようにした。また、通勤あるいは勤務上の課題が生じるたびに連絡・協議を行い、本人が毎日確実に、意欲的に通勤することのできる条件づくりにつとめた。
その後、本人は家庭に戻り、自宅から通勤することとなったため、卒業学校進路担当者と家庭との連絡・連携をとることに力をいれ、そのような協力関係をはかる中で、本人の安定就労を目指して取り組んできた。
また、雇用に当たっては、知的障害の特性を考慮しつつ、一人の新人として育成する方針で臨んだ。現在、就労状況も安定し、勤務日にはきちんと通勤し、また仕事にも意欲的に取り組んでいる。「連絡帳」については、就労状況が安定した段階で使用しなくてもよくなった。
雇用の当初は、本人の適性あるいは事業所としてどの職務を担当させるのがよいのかを探るため、施設群の特性を活かして色々な事業部門における職務を体験させたが、その結果をみて現在では、本人の特性を考慮し、高齢者の介護と、洗濯・清掃業務を担当させている。現在の部署は面倒見のよい、比較的年齢が高い方々の多いところで、またその方々が熱心に、丁寧に指導を心がけて、暖かく接してくれており、本人もその方々に親しみ、よく協調し、進んで仕事に取り組むことができている。
3. 知的障害のある人の雇用の成果・課題、その他
（1）雇用の成果・課題
知的障害のある人の特性を考慮した指導については、本人にあわせて粘り強く試行錯誤を繰り返す中で行われ、本人も成長し周りの人々も成長した。このことを通じて人を教えることの基本を学ぶことができ、教えることの大切さを再認識することができた。
雇用1年目には、卒業学校の進路担当者、寮、市の福祉担当者、しおりの里職員が勤務状況や今後の対応について一同に会して話し合う機会をもって連携を図った。このことにより本人への理解を深め、本人の課題により一層丁寧に対応することができるようになり、本人の安定就労につなげることができたのではないかと考えられる。
また、勤務のない休日等に余暇を充実させることが安定した就労につがるのではないかと指摘されることが多い。現在、本人はフライングディスクなどの社会スポーツに年間何日か参加しているようであるが、余暇が充実しているとはいえない。今後どのように余暇の活用をはからせることができるのかが課題であるように感じる。
（2）その他
- 雇用に当たって利用した制度等
知的障害のある人の雇用に当たってはトライアル雇用を実施し、トライアル雇用終了後に常用雇用に移行し、「特定求職者雇用開発助成金」の支給を受けた。 - 雇用形態
知的障害のある人の雇用形態等は次のとおりである。
雇用形態：パート雇用
勤務時間：午前9時から午後5時30分までの7時間30分勤務
（昼食休憩1時間）
自宅からのバス通勤をしているため、バスの運行時間にあわせて勤務開始時間を調整し、始業を9時としている。
鳥羽商船高等専門学校 講師 西世古 悌治
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