障害者の方の働き甲斐のある職場を目指して
- 事業所名
- トンボソーイング株式会社
- 所在地
- 徳島県三好市
- 事業内容
- 学生服スラックス製造
- 従業員数
- 96名
- うち障害者数
- 9名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 3 検反、脇ポケット付け、内股合わせ 肢体不自由 3 前ファスナー付け、脇向当付け、前立てプレス 内部障害 知的障害 2 ピスポケットアイロン、忍びポケット付け 精神障害 1 天狗穴明け 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次


事業所外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
昭和48(1973)年に株式会社トンボ(旧社名:帝国工業株式会社)の徳島工場として新設され、スラックス製造の専門工場としてスタートする。
昭和49(1974)年7月に株式会社トンボより独立し、現在の社名、トンボソーイング株式会社となる。当初は、スラックスのみの製造だったが、多能化工場の流れから平成3(1991)年より、ジャンパースカートの製造も手掛ける。
翌、平成4(1992)年には、当社の子会社として、株式会社トンボのグループ工場となるトンボブラザーズ株式会社を立ち上げ、スラックス、スカートの製造を主力とする縫製工場を設立する。
縫製業の時代の流れが、少品種大ロットから変種変量時代となっていく中、脱技能に向けた自動化設備の導入が不可欠となり、自動裁断機(CAD/CAM)や、自動ポケット付け機、自動脇割りプレスアイロン等、機械の導入を進めている。
また、機械の自動化を進めると共に、社員の人材育成、縫製技術等に関する個人の技術向上を目的に「人材育成研修」等を設置して、会社として取り組んでいる。
(2)障害者雇用の経緯
障害者を初めて雇用したのは、昭和53(1978)年である。聴覚障害者を1名雇用し、縫製工程では何不自由なく業務を遂行していたこともあり、その後も、聴覚障害者、肢体不自由者の雇用を進めてきた。現在では聴覚障害者3名、肢体不自由者3名を雇用している。
一方、平成24(2012)年12月には、美馬・三好公共職業安定所合同の「ふれあい就職面接会」に参加し、初めて知的障害・精神障害がある人の面接を行い、その後1週間の職場実習の受入れを行った。職場実習を行うことにより、職場環境の見直しを図り、障害者一人ひとりの障害に応じた職種・作業を見出すことにより、障害種別にとらわれない雇用に乗り出した。
はじめは従業員に戸惑い等があったが、事業所として、障害の有り無しにとらわれず、「その人ができることを」という考え方を企業理念として取り組むことにより、障害者雇用を進めている。また、公共職業安定所、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターの協力により、一人ひとりの障害特性を見極めながら、適材適所での配置を行い、雇用に繋げている。
2. 取組みの内容と効果について(知的障害者、精神障害者の雇用)
(1)取組みの内容
- 支援機関との連携
地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター等の支援機関との連携により、ジョブコーチ等の支援制度を活用しながら、職場定着を図っている。
職場での技術指導に関しては、主に会社で行うが、障害のある人の指導の仕方、接し方及びその他相談等はそれぞれの支援機関を活用するようにしており、役割を明確にしていることで、結果効率のよい指導・教育ができる体制になっている。
障害者就業・生活支援センターからは担当者の定期的な訪問により、対象障害者の様子等の確認を行い、現在の状況の把握に努め、日々問題点に対する対応等のアドバイスをもらっている。その中で、対応困難な事案が発生した場合などは、事業所と各関係機関同士で相談も行い、問題解決に向けて、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター等の支援機関との連携を図っている。
問題解決のために担当ジョブコーチから支援を受けるときは、特に、事業所としての日々の支援と、地域障害者職業センター、担当ジョブコーチの支援とが密接に連携を行えるよう、「支援日誌」を作成している。「支援日誌」には、ジョブコーチがその日に行った作業面に対する指導内容や、対象者の生活面、悩み等の内容を記載し、事業所に記載した内容の説明を行うことで、現場での指導にフィ-ドバックを行うことが可能となっている。また、本人が職場では話せない悩み等の情報を、事業所と支援者間で共有することにより、統一した支援、本人へのアドバイス等が、実施できるツールとなっている。

- 職場配置
職場配置に当たっては、職場実習を通じて一人ひとりにできること、障害の適性を見極めながら、一人ひとりに目標を設定することとし、その目標に沿った職場配置を進めている。
また、積極的に話しかける、仕事内容について聞き取る、日常生活に関することなどの全般的な相談を行うことで、不安に思っていること、悩み等の聴き取りを積極的に行うことにより、障害者が安心して働ける職場環境づくりの構築に向けて積極的に取り組んでいる。

- 職場内でのコミュニケーションについて
職場におけるコミュニケーションについては、知的障害者、精神障害者とどう接するべきか、会話における表現方法はどうあるべきか、指導している方々に多くの不安があった。
そのため、障害者と一緒に働く社員への教育を実施する必要を感じ、森谷前社長は自ら『障害者職業生活相談員資格認定講習』を受講し、資格を取るなどして、積極的に障害者雇用や障害者との接し方等について学んでいる。
森谷前社長は『朝のラウンド』という名で、障害のない従業員と障害者とを区別なく、社員全員へ声かけを行っている。
『朝のラウンド』の際、森谷前社長は、前日の仕事の出来高や、障害者の一人ひとりの体調確認を行ない、出来高の目標に達成していれば必ず誉めることと、目標に達成していない場合は、今後の目標達成への励ましの言葉を掛けるように心がけている。
- 取り組み事例
a 知的障害Aさんへの取り組み事例
1週間の職場実習後、採用となったAさんは、ポケットのアイロンかけの仕事からはじめたが、1ヵ月たってもアイロンかけの作業効率が上がらなかった。
そこで、作業効率向上の取り組みとして、励ましの言葉だけで伝えるのではなく、具体的に1日の目標を数値化することとし、カウンターを準備して、自分の出来高が目で見て分かるようにした。
また、日々の声掛けで、仕事の進み具合はもちろん、体調の事、日常の悩み事等を積極的に聞くことで、Aさんにいつも気にかけていることを伝え、本人のモチベーションの向上と作業への意識の向上に取り組んだ。その結果、具体的に作業内容の手順や分からないところの相談などをすることにより、Aさんの仕事へのモチベーションも上がり、作業効率の向上につなげることができた。
![]() Aさんの作業風景
スラックスの後ろポケット部分のアイロンかけ |
![]() カウンター
1日の目標値を設定して自分で測定する。 |
b 知的障害Bさんへの取り組み事例
Aさんと同じく、Bさんも職場実習を経て採用となった。
ミシン(忍びポケット)担当で、仕事態度はまじめでコツコツするタイプだが、コミュニケーションが苦手で、他の従業員とのコミュニケーションや業務中の仕事のやり取りに問題があった。
Bさんの対応に苦慮していた森谷前社長から、「障害者就業・生活支援センターはくあい」のジョブコーチ支援員に相談があり、Bさんの障害特性についてもう一度確認し、Bさんとの接し方や、仕事への指示の出し方等について共通した認識のもと、ジョブコーチによる指導・支援を実施することにした。その結果、話をするときや、仕事の指示をするときには、できるだけわかりやすく、具体的に指示することとなり、Bさんは作業内容についての理解ができ、仕事もスムーズに行えるようになった。
日々のコミュニケーションを積極的に行うことで、Bさんに対する他の従業員の理解も深まり、より良い関係性を築くことができるようになった
(2)取り組みの効果
障害の程度・障害の内容、個人の個性の違い、職場での業務内容の違いはあるが、障害のない従業員と障害者との『コミュニケーション』を充実させることにより、仕事の目標達成や、雇用継続が図れている。コミュニケーションの充実は、障害者だけでなく、全社員での取組・努力を続けることは、企業の発展につながっている。
入社当初は、お互い戸惑いも多々あったが、日常のコミュニケーションを続ければお互いの思いや、相互の理解ができ、徐々にだが、成果が現れはじめた。Aさんも、Bさんも、1ヶ月後には、目標の7割を達成することができた。
作業順番のわからない時、不良品を出した時、全く目標が消化できなかった時、体調が崩れた時、欠勤したい時、等々、その時その時に気軽に相談することができる環境づくりや、現場責任者を置くことで、従業員全員が働きやすい仕事環境を作ることがポイントだと思われる。
3. 今後の展望と課題
森谷前社長は「縫製業は、労働集約型で自動化が難しいのが現状だが、作業を要素作業に分け、簡単にできる作業なのか、また、人から機械に置き換えることができる作業なのか常に追求し、障害者の方にもできる作業にしていくことが必要である」と話す。
また、障害者雇用を進めるにあたり、「『障害者に、これ以上、できる仕事は無い』と言ってしまえば、企業自体、脱技能に向けての機械化も停滞し、発展はないと思います。今後も『作業効率を上げる脱技能化』を掲げ障害のある人と共に成長したいと思います」とも言っており、障害が有る、無しに関わらず、その人ができるその人らしい生き方についても応援してくれていることが伝わってきた。
平成25(2013)年6月30日で森谷社長から片岡社長に変わったが、森谷前社長の考え方が現在の片岡社長に引き継がれ、障害者雇用に理解があり、今後も障害者雇用について同じ姿勢で取り組むこととしている。
最後に、今回の事例を通して、障害のある人だから、障害がない人だからという考えではなく、「その人ができること」を考え、公共職業安定所、地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター等が協力して、企業に対して、雇用した障害者の雇用の継続のために個々の障害に応じた援助・支援をしていくネットワークを構築することこそが、障害者雇用の第一歩につながると感じている。
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