個人の特性と仕事のマッチングにより障害者雇用の推進を図る
- 事業所名
- 株式会社キョーエイ
- 所在地
- 徳島県徳島市
- 事業内容
- 総合小売業
- 従業員数
- 1,387名
- うち障害者数
- 22名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 京配検品、出荷 聴覚・言語障害 肢体不自由 1 店舗惣菜 内部障害 2 店舗青果、京配商品出し積込 知的障害 16 京配商品出し積込、店舗惣菜、カート整理、ラック洗浄、惣菜容器洗浄、惣菜、製品仕分け、精肉 精神障害 2 店舗カート整理、デイリー 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() キョーエイ本社
|
![]() キョーエイ川内プロセスセンター
|
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
株式会社キョーエイ(以下、「キョーエイ」という。)は、スーパーマーケット・専門店を経営する徳島県最大の流通グループである。2013(平成25)年現在、徳島県を拠点として、スーパーマーケット30店舗のほか、100円ショップ、衣料品店、ホームセンター、ドラックストアなどの専門店15店舗を展開している。キョーエイは、1958(昭和33)年の創業以来「市民生活を守る砦となれ」の社是のもと、商品やサービスの高質化、安くて新鮮な食品を提供し続けることをモットーにしてきた。地域密着を軸に、食品の地産地消を推進するとともに、食品の安心・安全に心がけ、地域貢献活動も積極的に行っている企業である。
(2)障害者雇用の経緯
1000人を超える従業員を雇用するキョーエイには、法律に従って一定数の障害者雇用が義務づけられている。しかし、以前から障害者雇用に取り組んできたものの、面接だけで採用に至らないケースも多くあり、職場定着をしている障害者はごく少数であった。林監査役は、当時を振り返り「正直言って、私たちは障害者の雇用の仕方をよく分かっていませんでした。個々に特性や障害に応じた能力があっても、面接だけでは分かりませんでした。本人の特性に合った仕事を任せないとうまくいきませんし、長続きしません」と語っている。
障害者雇用を一気に進めたきっかけは、「はっぴぃエコプラザ」の取り組みであった。2010(平成22)年12月にキョーエイ北島店ではじまった「はっぴぃエコプラザ」は、キョーエイと障害者の自立支援を行っている22の施設団体(以下、「施設団体」という。)、そしてリサイクル業者の協働による店頭リサイクル活動である。キョーエイは回収場所や設備等の全てを無償で提供し、障害者と施設団体のスタッフが資源ごみ回収の活動を行い、回収した資源ごみの売却益は、全額、運営をしている各施設団体の収益金となる。また、資源ごみを持ってきてくれたお客様には、グリーン券と呼ばれる店内1割引のクーポン券が引き換えに渡される。埴渕社長がいう"三方良し"(お客様、施設団体、キョーエイ)の取り組みは、現在、徳島県内26店舗で実施され、スーパー業界では大きな話題となって、全国各地に同様の活動が広がった。
キョーエイは「はっぴぃエコプラザ」の取り組みを通じて、コミュニケーションが苦手な知的障害や精神障害、発達障害のある人が、実際に働いてみるとまじめに仕事をコツコツこなすことを知った。つまり、面接でふるいにかけられてしまう障害者の真の姿を「はっぴぃエコプラザ」で垣間見ることになったのだ。さらに、施設団体を通じて、障害者雇用の前に、施設団体のスタッフが障害者にマンツーマンで付き添いながら企業内実習を行っていることを知った。

「はっぴぃエコプラザ」
2. 取組みの内容と効果
(1)取組みの内容
2011(平成23)年2月、キョーエイは「はっぴぃエコプラザ」を共に取り組んでいる施設団体から2名の障害者を企業内実習生として受け入れた。以前なら、キョーエイの障害者雇用はスーパーの店舗内業務で雇用検討を行うことが当たり前であった。
しかし、今回は、キョーエイ本社と建物を同じにしているキョーエイ川内プロセスセンター(以下、「キョーエイ川内PC」という。)で雇用を検討した。
食品スーパーマーケット業界でいう「プロセスセンター」とは、スーパーマーケットの各店舗で行われてきた生鮮品の仕入れや加工、配送を一括して行う拠点のことで、手のかかる加工作業等の集約と店舗作業の軽減を通じて各店舗の人員を抑え、店舗コストの削減を目指した仕組みになっている。
キョーエイ川内PCは、生鮮品の仕入れや加工を行うため、衛生管理に気を使う職場環境である。その点で、以前ならキョーエイ川内PCは障害者の雇用の場として適当ではないと判断されたかもしれない。
しかし、実習の受け入れ前に、キョーエイ川内PCの業務内容を施設団体のスタッフに分析してもらい、障害者が従事する業務について、専門的な視点でアドバイスをもらい、業務内容の提案を受けたこと、キョーエイ川内PCは、本社から目が行き届く場所であることと、「はっぴぃエコプラザ」で活動を共にしている施設団体からマンツーマンのサポートを受けられることもあって、障害者雇用の環境が整っていると判断された。
企業内実習が開始され、施設団体から2名の障害者とスタッフが一緒に職場に入り、ラックケースの片づけや機械洗浄を行う業務に就いた。数カ月指導を続けた結果、2名とも雇用することが決まった。
施設団体のスタッフがサポートしてくれていたからかもしれないが、正直なところ、知的障害や発達障害のある人が、長時間の繰り返し作業をあれだけ集中してこなす姿に相当驚かされたという。個人の特性を活かせば、他の従業員以上に障害者は企業の戦力になるのではないかと考えるようになった。
その後、雇用の前には必ず職場実習を行うようになった。就職希望のある障害者には少しでも仕事に慣れてもらい、実習中に自分に仕事があっているかどうかを考えてもらった。キョーエイは、障害者個人の特性を把握した上で、その特性に応じてできる仕事を見極めた。
このように、社内で障害者雇用に向けた流れが作られると、社内業務が見直され、様々な部門で障害者個人の特性を活かすことが検討された。また、個人の特性と仕事のマッチングによる職域拡大を進めていく上で、地元の地域活動支援センターや就労移行支援事業所、障害者就業・生活支援センターとの連携をより一層密に図るようになった。
(2)キョーエイ川内PC内の障害者雇用業務
キョーエイ川内PC内の障害者雇用業務は、以下の通りである。
- 商品配送用ラックの整理・片づけ部門
トラックの配送に気を配りながら、臨機応変かつ繰り返し商品配送用ラックを整理する業務をコツコツ行う必要がある。発達障害や知的障害のある従業員が働いている。

- 商品配送用ラックの洗浄部門
洗浄機械の不具合にも対応しながら、商品配送用ラックを組み上げる手早さが必要である。発達障害や知的障害のある従業員が働いている。

- ライスBOX洗浄部門
炊きたてのお米が入っていた保温BOXを洗浄したり、お米を炊く準備をしたりするため、コツコツ丁寧な仕事ぶりが必要である。自閉的傾向や知的障害のある従業員が働いている。

- 惣菜部門
巻き寿司を巻く機械を使ったり、惣菜の製造を行ったりするため、食品の知識や器用さ、衛生管理の理解が必要である。知的障害のある従業員が働いている。

- パン粉部門
専用の機械を使いトンカツやチキンカツのパン粉つけを行うため、手早さと器用さ、衛生管理の理解が必要である。発達障害のある従業員が働いている。

- 配送商品仕分け部門
キョーエイ川内PCで加工された商品を店舗ごとに仕分けするため、確実性と商品理解が必要である。知的障害のある従業員が働いている。

(3)取り組みの効果
「法定雇用率を何とか達成している状況で恥ずかしいぐらいです」と林監査役は謙遜しながらも、「障害者が福祉機関から出向するかたちで、実際に職場で業務実習を行い、しばらく働きぶりを見た上で雇用を決められる制度があると説明して頂きました。さらに、業務実習中は福祉団体のスタッフがマンツーマンで障害者を指導してくれるのです。指導は障害者が仕事に慣れるまで行うため、障害者自身もこの仕事なら自分にもできると納得した上で働けます。私たちも障害のある方ができる仕事を見極めたうえで採用できるので、マッチングがうまくいきました」と障害者雇用の取り組みに手ごたえを感じている。
2006(平成18)年、徳島県の障害者雇用率は過去最低の1.33%となり、全国最下位であった。それ以来、徳島県では県をあげて障害者雇用に力を注いできた。
埴渕社長は「はっぴぃエコプラザで福祉団体とのネットワークができたことで、障害者に適した作業の組み立てや法律対応などについて相談できるようになり、定着率が高まりました。障害者個人の特性と仕事のマッチングにより障害者雇用のさらなる推進を図りたいと考えています」と意欲的に語っている。
実際、キョーエイ川内PCで障害者雇用の促進が図られたことによって、店舗での障害者雇用もさらに進められた。徳島県内で障害者雇用を積極的に取り組む企業として、県内全域に店舗を展開するキョーエイの果たす役割と影響は確実に大きくなっている。
3. 今後の課題と展望
徳島県内では、障害者雇用に積極的な企業同士が連携する流れが生まれ、障害者の雇用率は急速に改善されてきたが、障害者雇用の促進が長年の懸案事項となっている企業がまだまだ数多く存在している。
今後キョーエイは、障害のある従業員数が増えることに伴って、トータルな業務管理体制を作ることが課題になってくるかもしれない。しかしながら、これだけ多様な部門で障害者雇用を促進させたキョーエイの取り組みは、小売業の様々な部門で障害者雇用の可能性を想定できるモデル的な事例であることに間違いはない。地域密着に重点を置き、企業も、障害者も、支援機関も、双方納得の上で雇用を決定するキョーエイの取り組みは、関係する者全てにメリットがある。埴渕社長のいう"三方良し"の精神は、障害者雇用の促進を考える上でも重要なポイントになるであろう。
障害者就業・生活支援センターわーくわく 佐野 和明
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。