職場実習における就業意欲向上により短期間で障害者雇用を実現
- 事業所名
- 株式会社 ホンダ四輪販売四国
- 所在地
- 香川県高松市
- 事業内容
- 自動車販売
- 従業員数
- 420名
- うち障害者数
- 11名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 2(内1人短時間) 洗車、納車引き取り 内部障害 2 洗車 知的障害 5(重度1人、中軽4人) 洗車 精神障害 2 中古車のアイドマ(商品化業務)、洗車 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
株式会社ホンダ四輪販売四国は、香川県と愛媛県に20店舗を展開している。活躍のフィールドは、四国の経済の中心である瀬戸内側エリア全域に広がっている。いわば、香川・愛媛におけるホンダの顔である。
また最近ユニバーサルデザインが注目されている中、車いすの人でも乗ることができる福祉車両の販売も積極的に行っている。
従業員数は約420人、うち障害者は11人で、雇用率も高い数字を誇っている。積極的に障害のある人の採用を継続し、現在(2013(平成25)年)では、社内全体で、障害のある人の働きやすい環境作りがされている。また各店舗の店長がサービス介助士(※)の資格をもっており、障害者雇用への意欲も伺われている。
(※)サービス介助士とは、高齢の人や障がいがある人を手伝うときの「おもてなしの心」と「介助技術」を学び、相手に安心していただきながら手伝いができる人のこと(内閣府認証特定非営利活動法人日本ケアフィットサービス協会(サービス介助士の資格取得講座を開催し、養成研修や資格認定を行っている。同協会ホームページより引用))。
(2)障害者雇用の経緯
まず当社が障害者雇用について意識をし始めたのは、2008(平成20)年の合併により、会社の社員が増えたことにより、企業として積極的に社会的責任を果たす必要性を認識したことがきっかけである。障害者雇用促進法により、企業は法定雇用率に応じた障害者を雇用しなければならない。このため当社は特別支援学校からの実習の受入れ、またハローワークなどへの求人を行うことにより、障害者雇用を図っていった。
障害者雇用を開始した当時は、社内において、障害者を雇用するよりも障害者雇用納付金を納付する方が仕事効率的にもよいのではないかという考えがあったが、実際に障害者を雇用し、洗車などの仕事を任せていくと仕事効率が上がっていった。そのことにより、社内での障害者雇用への意欲が高まり、積極的に障害のある人の雇用を進めていくようになっていった。
法定雇用率達成には8名の障害者を雇用する必要があったが、そのスピードは大変速く、達成した後も雇用のスピードを緩めることなく、現在雇用者は11名、雇用率も3%を超えている。
当社の障害者雇用の考え方として、仕事ができるということは当然重要な要素であるが、本人の働きたいという気持ちを尊重することと、障害者受入れの環境構築を最重要視している。
2. 取り組みの内容と効果
(1)取り組みの内容
障害者雇用にあたり、当初はハローワークや特別支援学校等から話を聞き、どのような障害がある人がどのような仕事ができるのかといった一般論から手探りの状況でスタートした。
詳細な検討及び調整の結果、障害のある人の業務として、まずは、洗車の業務を行うということにした。洗車業務は、車の点検後、お客様に納車する時に必ず行っていることであり、どのディーラーでも行う作業であるが、この洗車の良し悪しによってお客様の満足度が左右される大変重要な仕事である。洗車機やガソリンスタンドへの洗車外注もあるが、満足度を高めるために細部まで極め細やかにするには自社で手作業により行うことが必要との判断であり、障害がある彼らにとってこの作業はひとつのことを粘り強くやっていくという特性にマッチした仕事でもあると考えた。最初の取組みとして、職場実習の受入れを洗車業務とすることから始めた。
- 最初の職場実習経験者であるAさんの事例
当社では現在でも、特別支援学校からの実習の受入れを積極的に行っている。高松中央インター店には、特別支援学校高等部での実習を終え、卒業後、同店に就職した障害者Aさんがいる。Aさんは当社において積極的に障害者雇用を始めた最初の雇用者であり、最初の実習経験者でもある。
ここで少しAさんの話に触れてみることにする。
Aさんは特別支援学校高等部を卒業し、現在当社の高松中央インター店で主に洗車の仕事をしている。特別支援学校在学中から、産業現場での実習(以下実習という。)で当社を訪れ、その後何度か実習を経験した。実習を重ねていくうちに、彼の中で「ここで働きたい」という気持ちが高まってきた。最初は他の社員とのコミュニケーションがうまくとれなかったり、自分の仕事がわからなかったりと、困ることもあったというが、店長をはじめとする社員の受け入れてくれる環境作りによって次第に仕事に慣れていった。
入社当時は、洗車作業の手順もなかなか覚えられず同じことを繰り返す日々が続いたが、指導担当の社員もあきらめることなく根気よく見守り、今では洗車では誰にも負けない社員となっている。洗車業務だけでなく、整備士から「あの工具を持って来て」、「オイル頼む」等頼られている面もある。整備士の補助的な業務も行えるまでになってきており、整備士の作業効率向上という効果も出てきている。
Aさんは次のように言う。
「正直にいうと、最初は車にあまり興味がありませんでした。でもまず、ここの社員さんや仕事場の雰囲気がよく、ここで働きたいという気持ちが強くなり、学校の先生とも相談し、ここでの仕事を希望しました。働くうちに車に興味をもつようになり、雑誌を見て車の種類を覚えたり、洗車や整備の詳しいことを知りたいと思っていきました。いつか国家資格も取りたいと考えています。」
実際本人は、入社後自動車運転免許を取得し、車(もちろんホンダ車)を購入し通勤するようになっている。また、朝礼の時の、当店全体の営業成績などを聞いて、Aさんの母校である学校の先生に車の営業に出向き、実際に購入に至ったという話もあり、自身の仕事だけでなく、会社自体への愛社心も生まれてきているようである。
当社にとっての初めての障害者雇用がAさんであり、Aさんのがんばりが次の職場実習の受入れ及び障害者雇用へのステップとなっていった。 - 2人目以降の実習の受入れ
当社では、2人目以降の障害者雇用に当たって実習の受入れを行う際には、高松中央インター店を再び実習先とした。高松中央インター店には特別支援学校の卒業生であり、かつ当社の最初の雇用障害者でもあり、また当社の期待以上の働きをしているAさんがいることがその理由であった。
基本的に実習生の受入指導はAさんが行うことにし、実習生が周りは誰も知らないという様な不安感を持たないように、安心して実習に集中できるようにすることで、実習内容を充実させ、実習生本人にここで働きたいと思ってもらうための措置であった。ただしAさんの指導は、障害のない社員がするより手厳しいとの評判もあるが、常に一生懸命に取り組む姿勢は、後輩に充分に伝わっているようである。
結果として、2人目以降も雇用に繋がるわけであるが、この職場実習の受入れ環境が当社の体制構築の基礎となり、以降の当店以外の障害者雇用に結びついている。職場実習において、働きたい意欲を持って貰い、雇用時も意欲を持って入社してくるといった流れができあがっているのが大きな特徴である。高松中央インター店の取組みが当社における障害者雇用の模範となり大きな役割を果たしたわけである。

- 障害者雇用に当たっての工夫(仕事の内容を明確にする)
当社では、比較的軽度の知的障害者、また精神障害者を一般就労として雇用している。彼らにとって最初に困惑することは、一度に多くの仕事をこなさなければならないこと、またその場に応じて自分が何をすればよいのかわからなくなることにあった。例えば、どの車を洗えばいいか、手洗いなのか、ワックスはかけるのか、洗車後どこに車を移動すれば良いか等、数台の車が同時に来ると手順が分からなくなる。
そこで当社では、勤務する障害者に合った指導担当(アドバイザー)をつけたわけであるが、教える側も最初は対象障害者が仕事を理解できているのか、いないのかが、見た目ではわからなかったが、対象障害者の障害特性について特別支援学校や支援機関の担当者と意見交換しながら、本人が何を理解し何を理解していないのかを把握し、毎日同じ作業を実施し、次の日には忘れているといったことの繰り返し指導を一つひとつ根気よく継続した。結果として仕事の内容が明確になり、仕事を任せられるようになったわけである。
障害者は各店に配置されているが、各店長がそれぞれの障害者の特性や性格を理解して店内の運営に当たっている。勤務する障害者に合った指導担当をつけることで障害者とのコミュニケーションもよくなり、本人の能力をできるだけ引き出すようにしている。各店とも障害者という特別扱いでなく障害のない社員と同じように扱われている。障害のない後輩社員は先輩の障害者に対して、「○○さんお願いします。」と敬意を持って話しかけていることからもそのことを伺い知ることができる。
(2)取組みの効果
今回の取材で、当社で働いている精神障害がある社員に直接話を聞くことができた。
《精神障害があるBさん》
Bさんは「自分のやる仕事がわかるので、それを丁寧に行うことができます。また、自分の洗車した車を見て喜んでくれるお客様の姿や、自分のアイドマした車で売れることを知ると嬉しく思います」と言う。
Bさんは現在、当社の本店で、中古車のアイドマと洗車の仕事を行っている。
「アイドマ」とは、車内外の全体を洗浄する業務で、シートやエンジンルーム内、ボディの小さなキズの修理などを行い、できるだけ良い状態で中古車として販売する重要な仕事である。
今は、本店の作業場で1人で作業を行い、仕上がった車を中古車販売店まで納車している。本来、その中古車販売店でこの業務を行うのが理想であるが、彼の特性上、他人からいろいろ言われる、他の仕事も同時に言われると、作業ができなくなってしまうことに対して配慮しての配置となっている。彼の仕事ぶりはマイペースだが、本当に一台一台丁寧に仕上げている。しかし、一度に多くの仕事を与えられたり、他の仕事場での仕事を頼まれたりした時などに、平常心を失うことがあるという。当社では、Bさんに一つずつ仕事を頼むことで、自分の仕事を理解し、確実に仕事を行うことができるようにした。
会社としてのスタンスは、精神障害者に対しては、やれることをやらせてみよう、ゆっくり時間をかけてみていこうということである。
この事例からも感じられるように、当社での初めての障害者雇用から、社内では障害のある人を受け入れる環境作りがなされるようになった。役員や工場長も店に行けば障害者に声かけを行っている。当初従業員も障害者にきつい言葉をかけていたという話もあったが、今では障害者という意識ではなく、ごく普通に接しており、障害者も会社の戦力の一員と見るようになっている。
3. 今後の展望と課題
今後の課題として挙げられることとしては、整備資格のない人でも車の整備をできる制度作りである。車の整備をするにあたっては、国家資格が必要になってくる。知的障害のある人にとっては国家資格を取るということは大変難しいことである。しかし、他の社員と同じように働いていく中で、自分も車の整備をしてみたいという気持ちを持つ人も増えてくるのではないかと思われる。彼らの仕事の幅を広げるためにも重要なポイントであり、もちろんそこには特別な配慮も必要とされてくるとは思うが、彼らの働きたいという気持ちを尊重するための対策は必要なのではないだろうか。
当社においては、現在障害者は洗車を中心として各店に配置しているが、必要人員にも限度があり新たな職域を見出す必要が出てきている。先述の整備資格取得も課題であるが、例えば、自動車販売で年間多くのDMがあるがその発送業務などの事務作業で雇用につなげることができないか等の検討も進めていただきたいと考える。
当社はホンダ技研グループの中でも障害者雇用に関しては常に上位に入っているという。引き続き模範でいられるよう今後も障害者雇用を積極的に進めていただきたい。
取材に対応していただいた当社の方が「障害のある人を雇用し、仕事の効率が上がること、社内での雰囲気がよくなること、このことすべてが"HONDAファン"を増やすことに繋がっていけば良い」と言われる。障害者雇用をとおし、これからも素晴らしい環境のなかお客様への対応がされることを期待する。
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