教育現場における障害者雇用の取り組み
- 事業所名
- 学校法人 済美学園 済美高等学校
- 所在地
- 愛媛県松山市
- 事業内容
- 学校教育
- 従業員数
- 221名
- うち障害者数
- 1名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 1 難病等その他の障害 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
本事業所は、明治34(1901)年4月澤田亀が松山裁縫傳習所を開設、同年9月に開校した。その後合併を繰り返し、明治44(1911)年4月に済美高等女学校及び済美女学校として開校する。昭和28(1953)年3月に愛媛県指令「学第1435号」をもって、済美高等学校設置認可を受ける。長きにわたり女学校であったが、平成14(2002)年4月には男女共学となった。
「やればできる」という校訓のもと、「教育新時代」を具現する教育の実践「—自己を鍛え「確かな学力」と「生きる力」を育てること—」という教育目標を掲げている。進学コースでは毎年多くの大学進学者を輩出している。進学コース以外にもスポーツ科学、情報、食物科学、美術などコースの内容も多岐にわたる。近年では部活動での活躍が目覚ましく、特に野球部の全国高校野球選手権大会への出場、活躍は有名である。
障害者に関する支援活動としては学業育英奨学生制度というものがあり、家族の中に障害者がいる場合に奨学金を支給する制度がある。

(2)障害者雇用の経緯
平成20(2008)年に改正された障害者雇用促進法により、障害者雇用率制度の「除外率」が見直されたことを受けて、学校現場でも障害者の雇用を進めることとなった。済美高等学校でもそれまで勤めていた障害者が退職し、新しく障害者を雇うこととなった。しかし、学校現場において類型化された仕事というものはあまりなく、千差万別でケースバイケースでの仕事がほとんどである。教員免許を持たない一般職員の仕事でもかなり限られたものとなる。生徒の成績管理やダイレクトメールの整理なども個人情報が関わるものであり、なかなか障害者の仕事として確立することが難しかった。また仕事の忙しさも時期によって大きく異なり、日々の作業というものがあまりなかった。
そういった状況の中でも、障害者を雇用するにあたって学校現場においてどのような職種が用意できるかというところから職場の上長と検討をしていくとともに、障害者職業センターにて、学校現場においてどういった仕事ができるか担当カウンセラーに相談を行った。
障害者にとってもやりがいを感じながら仕事をすることができるようにということを念頭におき、学校での仕事の類型化を行ったところ、校務員という学校の用務の手伝いをする仕事が良いのではということになった。済美高等学校は生徒の人数も約1700人と多く、施設も大きな学校である。日々のルーティーン作業は少ないものの、施設の営繕や破損した物品の修繕、学校行事の準備などの人手が必要な仕事は多くある。その点に着目して、障害者にもやりがいをもって仕事ができるよう計画立案を行った。
障害者職業センターに相談していたところ、その時、センターで就業支援を受けていたYさん(高次脳機能障害)の推薦を受け、それまでの経歴や障害の程度などを本人およびセンターと相談し、計画と照らし合わせ、雇用するに至った。
2. 取組みの内容と効果
(1)取組みの内容
- 仕事内容
・学校内の廃棄物、ゴミ回収、分別、処理
・学校内の設備・備品の整備、修理及びその補助
・学校内の消耗品の管理、処理及びその補助
・学校内及び学校周辺の清掃業務
・学校行事に関わる諸準備及びその補助
以上が、Yさんの職務内容の主なものである。他の業務は曜日や時間によって固定化・定型化されたものではなく、その都度柔軟に対応する。基本的には学校の校務員(現在6名在籍)の業務の補助的立場とするものであり、校務員の指示に従い、補助的業務を担当すること(例えば高所での設備の営繕の際に下で必要な道具を渡したり梯子を支えたりする)が多い。 - 配慮事項
a コミュニケーションの取り方への工夫
もともと校務員はチームとして仕事をすることが多かった。今回高次脳機能障害があるYさんを雇用するにあたり、特別にチーム構成を変更したり、専門の支援員を用意したりといったことはしなかった。特別な配慮をあえて行わず、校務員チームに既有のきまりごとやチームの風土に自然にゆっくり溶け込んで勤務してもらえるようにした。
Yさんは事故により脳を損傷し高次脳機能障害となった。相手の言葉は理解できるが、自らが言葉を発してのコミュニケーションはできない。そこで、本人にできるコミュニケーション方法で、例えば挨拶は言葉でなく手をあげるといった身体で表現するように、周囲と関わるためのスキルを指導した。また、周囲の職員にもYさんが言葉を発することが難しい障害をもっていることを認識させ、障害を配慮した業務を行わせるよう指示をし、Yさんが疎外感を感じることなく居心地良く勤務できるよう配慮した。
Yさんが言葉でのコミュニケーションが苦手という自覚があったため、自らの行動を制約してしまったり、コミュニケーションの主体となることを嫌がったりすることがあった。そういったことが少しでも減るよう、言葉を用いない身振りでのコミュニケーションをとるよう指導した。また、コミュニケーションを強要するのではなく、Yさん自身が考え判断し返事をすることができる場を設け、Yさんの返答を待つ姿勢で対応し、Yさん自身がリラックスしてコミュニケーションがとれるよう配慮した。b 雇用形態の変更
チームで仕事をするため雇用形態も変えていった。最初はパートタイムでの勤務で半日だけの雇用であった。3か月経過し仕事にも慣れてきたころに、『仕事をする限りは責任をもって皆と同じように働きたい』という本人の強い希望もあり、フルタイムで働くように変更した。そしてさらに半年経ってから正規社員として雇用することを検討した。
チームで仕事をする場合、同じ雇用形態、勤務時間でなければいろいろと不都合が生じる。同じ立場であれば、障害のあるなしにかかわらず、本人も周りも気兼ねなく働くことができる。例えばパートタイムであれば、労働時間を考えながら働かなければならない。チームとして仕事をする場合、途中で一人抜けるのは気が引けるものである。学校現場では忙しい時期だと早出や残業といったことも起こってくる。その時、パートタイムでの労働であると時間給でしか支払われないが、正規社員であると、残業や早出にも対応が可能になり、手当も出すことができるなど、管理体制も雇用形態によって大きく異なる。チームの上司やYさんとも充分相談し、正規社員として雇用形態を変更するに至った。

3. 今後の課題と展望
Yさんは自らの障害について受容している。周りもYさんの障害について理解し、障害も含め職務遂行のために必要なことをフォローしている。そのせいか、本人の労働意欲は高く、居心地良く仕事に励んでいる。今後も長く勤務していくことを考え、個々の仕事のスキルアップと自分自身の障害をより把握することで、少しずつでも障害を改善していく努力が必要であろう。
今後の障害者雇用の展望として、パソコン作業のできる人を雇用し、成績管理などのデータ処理をするということができたらと考えているという。校務員は仕事内容と量から見て人数的に十分であり、これ以上の雇用は難しいようだ。一方で、業務上のパソコンによるデータ処理は膨大な量がある。特に、成績管理に関しては、生徒数が1700人もおり、データを入力するだけでなく、その分析資料も作成しなければならない。現在、それは教諭が行っており、教諭の負担も大きいものになっている。パソコンのデータ処理分析技術に長けた人であれば、コミュニケーション能力があまり得意でなくとも構わない。そういった分野で障害者を雇用できたらと考えられている。
しかし、一方では個人情報を守るためにどのようなシステムにするかが課題となる。もし、入力業務を障害者にやってもらうことができるようになっても、教諭にはパソコンで処理したものをチェックする余裕もないため、障害者自身が見通しをもって、確実にデータ処理をこなすことができるようなシステムを構築しなければならない。教諭の補佐として配置することを考えているが、職場環境や支援方法についてまだまだ多くのことを検討していく必要がある。
また過去に通学用自転車の整列整頓や生徒が使用した備品や施設の清掃等の業務も障害者の仕事として雇用できるのではないかと検討したが、「これらは教育の一環として生徒が自主的に行うべき」との結論となった。生徒が使用した物や施設は生徒自身で最後まできちんと行うことも教育の一環であるため、職員が担うべき作業とのバランスも重要になってくる。
前述のように他の業種であれば従業員の業務になることが、学校等の教育機関では設立目的や担うべき機能の観点から生徒が担うべき活動、個人情報保護の観点から教職員が担うべき職務となり、それらを置き換えられない場合がある。それゆえ、障害者を雇用する前に多種多様な業務を類型化し、さらに職務設計を行い、具体的に従事してもらう業務を検討して行かなければならない。そういった意味では障害者雇用が難しい分野ではあるが、Yさんのようにやりがいをもってできる仕事と支援体制、環境づくりを行うことが大切である。
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