障害者が毎日の快適な生活環境を支える仕組み作り
- 事業所名
- 株式会社聖英 グループホームむつわ
- 所在地
- 佐賀県佐賀市
- 事業内容
- 認知症高齢者の介護サービス事業(認知症対応型共同生活介護)
- 従業員数
- 20名
- うち障害者数
- 2名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 1 清掃、洗濯業務等 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 1 清掃、洗濯業務等 難病等その他の障害 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
有限会社睦和協力社が平成13(2001)年11月1日、佐賀市田代に認知症高齢者のためのグループホーム「グループホームむつわ」を開設。その後、平成17(2005)年5月に、旧市街地郊外の有明海に通じる幹線道路に面した住宅地である現在地に新築移転した。平成18(2006)年5月に法人名を「株式会社 聖英」に改称。事業所の規模は2ユニット(入居定員18名、1ユニット9名ずつ)で、認知症対応型のグループホームである。
(2)事業所の特徴
当事業所では、健全な事業を指標とし「常に利用者の尊厳を維持し"楽しく、明るく、安心"」の理念のもと、地域に密着した介護サービスを提供し、地域福祉の核としての事業展開を実践している。
入居者に対しては、コミュニケーション作りを最重点に、入居者の希望に沿った食事の提供、共同での軽作業、月2回の「健康の日」に協力病院からの健康診断の実施等を行っている。
地域と共生した小規模福祉施設としての機能を十分に果たすため、事業所の運営推進会議には自治会代表、民生委員、家族代表や地域包括支援センター職員の参加を依頼し、会議の結果は職員に周知してサービスの向上に活かしている。また、事業所内の菜園と花壇を開放して地域との繋がりを持つようにしている。
玄関から花壇、菜園周りに遊歩道が設置され、入居者が散策できる環境を整備しているが、これは利用者家族からの意見が反映されたものである。
(3)障害者雇用の経緯と背景
当事業所の関係会社である岡本建設株式会社では、早くから更生就労や障害者就労に取り組み、30年で300人の刑務所出所者の就労支援を行ったとして先に法務大臣感謝状を授与される等、就労困難者の雇用を積極的に行っていた。
岡本建設株式会社の経営者であり、当事業所を運営している株式会社聖英の代表者でもある岡本秀実氏は、その契機となった当時のことを「高度経済成長期の頃で、とにかく人手が足りず、(刑務所出所者でも障害者でも)やる気のある人に働いてもらった」「障害者だから雇ったのではなく働く意欲の高い人を雇っただけで、障害を特別に意識したことはない」と振り返る。
当事業所での障害者雇用は、岡本建設株式会社に佐賀県障害福祉課就労支援室(佐賀県では全国で唯一、障害者の就労支援に関わる専門部署を設置している。)の就労支援コーディネーターが障害者雇用の勧奨のために事業所訪問をした。この時に対応したのが、当事業所と岡本建設株式会社の双方の相談役である久保田満氏であったことに端を発する。
その当時、当事業所では、施設内の清掃や洗濯等も介護職員が行っていたため、入居者とコミュニケーションを取る時間が十分に確保できないというジレンマを抱えていたが、相談役の久保田氏が他で既に障害者雇用に携わった経験があったこともあり、介護職員の負担を軽減し、入居者へのサービス向上のために、当事業所でも障害者雇用を行うことになった。

相談役 久保田 満氏
2. 障害者雇用の取り組み内容
(1)募集・採用
障害者に担当してもらう主な業務は、グループホーム内外の清掃である。快適な生活環境を毎日提供するのは基本的なことであり、「清掃業務を担う人に毎日出勤して欲しい」というのが当事業所側の要望であった。「そのためには2名の障害者を同時に雇用して、ローテーションという形をとっても良い」とのことであり、まず希望者を募って、事業所見学を行うことになった。
事業所見学についてハローワークと障害者就業・生活支援センターが当事業所の地域を管轄する就労移行支援事業所等に情報提供を行った。その結果、就労移行支援事業所等を利用している4人が、ハローワークの同行で事業所見学に参加した。その4人の中から、当事業所で2人を選び、本人の「実習したい」との意向を確認し、職場実習の運びとなった。
実習は3日間であったが、真面目に仕事に取り組む姿勢が評価されて、2人共にトライアル雇用となり、トライアル雇用期間終了と同時に常用雇用へと移行した。
(2)業務内容と勤務状況
当事業所は、2ユニット(北棟・南棟)になっており、両ユニットの廊下と全居室(18部屋)の掃除機かけ、トイレ掃除、居室と各棟に置いてあるゴミ箱のゴミ集め、風呂掃除、洗濯物干し、廊下の手すり拭きが毎日の業務である。入居者の状態や施設の行事等で入浴の時間が通常より早く終わったり、なかったりする日もあるため、風呂掃除に係る時間が空くことがあり、その時には、玄関や施設周辺・遊歩道の掃除、花壇の水やり、床拭き等を行う。
2人共に、8:00~13:00の週4日(週20時間)勤務である。1人を月・火・木・土、もう1人を月・水・金・日の勤務とした。2人が重なる月曜日には、北棟と南棟の担当を決め、通常の業務を行った後に、台所周りやエアコンのフィルター洗い、洗濯物たたみ等、普段できない業務を行うようにした。
このようにローテーションを工夫することで、当事業所が望んでいた通り、清掃業務が毎日行われる状況が実現した。短時間勤務での組み合わせは、ハローワークとも話し合いながら進めた。
2人が採用されてから1年半以上になるが、今のところ、どちらかが必ず出勤するという状況は保たれている。家庭の事情等により、決まっている曜日での出勤が難しい時は、事前に2人で勤務変更を相談し、事務長に報告するという形をとっている。
(3)働く障害者の様子
- 全体的にそつなく作業をこなすMさん(高次脳機能障害:30代女性)
Mさんは、中学生の時に交通事故に遭い、障害を発症した。短期記憶力の低下から作業が抜けることがあるため、初めは手順を書いたメモをポケットの中に入れて見ていたが、次第にメモに頼ることが減っていった。
Мさんは、日々の仕事をこなしながら身体で覚えていくタイプであり、今では、全体的に業務をこなすことができる。通常の業務が早く終わった時には、次に何をすれば良いのかを聞きに来て、「決められた以上の仕事をするようになった」と現場のキーパーソンでもある管理者の内田てい子氏に言ってもらえるまでになった。Mさん自身、「むつわで働けるようになって良かった。ずっと働けるように頑張りたい」と、採用当初と今も変わらない気持ちであることを伝えてくれた。
![]() Mさんと風呂掃除を確認する内田てい子氏
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![]() 遊歩道内に転がった小石を掃くMさん
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- 明るく一生懸命なYさん(知的障害:20代女性)
Yさんは、周囲に慣れて来ると徐々に冗談を言う明るい性格であり、挨拶も元気にできる。仕事ぶりは、全体をこなすというより、1ヵ所1ヵ所を一生懸命に丁寧に行うところが評価されている。
Yさん自身も「最初の頃は、時間がかかって迷惑をかけてしまった」と反省している。両ユニットで入浴が行われた日は、2ヵ所の風呂場の掃除を終えることができず、「終わらなかった時は、報告してもらうと現場のスタッフでカバーするから」と内田氏から助言があってからは、報告するようにした。
採用当初よりは作業のスピードは速くなってきている。本人も「今は、時計を見ながら作業をしている。これからも作業を終えられるように仕事に励みたい」と仕事への意欲を見せてくれた。
- 2人を見守る現場の体制
当事業所では、スタッフ全員の似顔絵を相談役の久保田氏が描き、施設内に貼り出している。2人もトライアル雇用が決まると早々に描いてもらい、当事業所のスタッフの一員として迎え入れてもらえた嬉しさと、頑張りたい気持ちが最高に高まった状態でスタートができた。
2人のキーパーソンである内田氏からは、仕事のはかどり方や丁寧さではタイプの違う2人だからこそ、「2人のバランスは良い」と言われている。2人の性格や障害特性の違いを受け止めたうえで指導に当たっており、「和やかな雰囲気を作るためには、2人に対して声をかけることが大事だ」とのことである。
2人が退勤する時間は早出職員の休憩時間と重なり、休憩室に戻った際に他の職員とのコミュニケーションも図られ、仕事以外の雑談もコミュニケーションを深める要素となっている。現場の他の職員からも、2人を同じ職員として見ていることが窺え、「全員で協力しながら楽しい雰囲気作りができている」と内田氏は語る。

(2人もスタッフの一員に)
3. 取り組みの効果、今後の展望と課題
(1)取り組みの効果
障害者を雇用するにあたって、現場では戸惑いや不安もあったようである。そのため、トライアル雇用が決まった翌月の職員会議で、地域障害者職業センターから、2人の障害特性と対応の仕方について説明してもらった。それでも最初のうちは、現場の職員は2人が取る行動(作業が抜ける、集中し過ぎて周りが見えなくなる等)に、どのように声をかけて良いか分からなかったが、時間が経つにつれて段々と理解し、対応できるようになった。
「今となっては、介護業務の傍らに掃除をしていたあの頃(2人の採用前)に戻るのは無理」と内田氏は話す。この言葉こそが2人の存在意義だと感じる。
2人の雇用による当事業所のメリットは、
- 入居者の介護に専念できるようになった
- 入居者の安全面に目が行き届くようになった
- 入居者とのコミュニケーションの時間が確保できるようになった
- 入居者の方からも掃除が行き届いていて気持ちが良いと言われる
と当事業所のメリットは大きい。
MさんとYさんにとっても、自然とお互いの障害特性をカバーし合いながら業務に従事している。それは、同時期に2人の雇用に踏み切った当事業所の決断力と、職員の団結力の賜と言える。
(2)今後の展望と課題
今回、2人の同時採用にあたり、ハローワーク(就業時間等についての相談)、地域障害者職業センター(事業所に対する障害の説明)それに障害者就業・生活支援センターが関わった。
当事業所への雇用支援は、当事業所の求めに応じて支援機関が一緒に考えるというスタンスでの支援であったが、職場実習における2人の適応状況と当事業所の支援体制から、ジョブコーチ等の密なる支援より、この支援が最適であったのだろうと感じられた。加えて、障害者就業・生活支援センターが、職場適応に向けて定期的に事業所訪問を行いながら、職場定着につながるような事業所の体制作りを支援していった。
「もし何らかの理由で2人が辞めたとしても、また障害者雇用を考えたい」と久保田氏も内田氏も口を揃えており、障害者雇用に取り組む姿勢は変わらない。ただ、2人とは違う障害を持つ人を雇用する時は、今とは違った受入れ体制作りが必要となり、それには、今回のように関係機関の密な連携が必要となる。
佐賀県における障害者雇用の推移を見ると、近年特に医療・介護分野への就労割合が高くなっている。この分野ではまだまだ人材不足の感があり、障害者を雇用する余地は大きい。しかし便利的な雇用や受け入れ態勢の不備があれば離職につながりやすい。当事業所のケースのように、短時間労働の組み合わせや職務の創出を行うことで職場定着を図ることができるものと考えられ、そのためには関係機関が積極的に事業所支援を行うことが重要となるだろう。
何よりも、障害者自身が、働く喜びや社会に求められていると感じられるような職場環境を作ることが肝心である。
障害者就業・生活支援センターワーカーズ・佐賀 生活支援員 船津丸 涼子
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