農業と障害者雇用システムとの新たな関わりをめざして
- 事業所名
- 内山オーガニックファーム
- 所在地
- 熊本県球磨郡
- 事業内容
- 有機農産物生産、農園・農産物販売所運営
- 従業員数
- 6名(代表者含む)
- うち障害者数
- 3名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 1 農作業 内部障害 知的障害 2 農作業 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次

1. 事業所の概要
(1)事業の概要
内山オーガニックファーム(以下、「内山ファーム」という。)は熊本市から九州自動車道を南下し1時間超、球磨郡にある有機野菜を栽培する農園である。内山農園から内山ファームへと名称変更して5~6年が経つ。
主たる事業内容は有機野菜の生産であり、有機JAS(日本農林規格)認定事業所である。JAS認定事業所は全国に1484件、そのうち熊本県に49件である。作物を組み合わせることで、年間を通じて有機野菜が栽培できる生産計画を立てている。その季節にできる作物を生産する従来の農家感覚では何も生産できない時期が生じるが、内山ファームでは年間通して生産する。つまり、内山ファームは従来の農家経営から農業経営としての効率的な農業に取組んでいるのだ。有機野菜販売の中心は関東で、関東地方で生産ができない時期をターゲットに生産計画を立てる。
耕地面積は、畑が7町、田が1町程である。自身で保有している土地の他、近隣の農家から借り受けている土地である。ただし、これらの田畑は1ヶ所にまとまっていない。当地域は畜産農家が多いので、牧草地が多く耕作用の田畑は少ない。その為、内山ファームが耕作している田畑も細かく分散しており、効率的な管理や耕作を困難にしている。
今後は、加工にも取り組みたいと考えており、法人化も現在検討中である。
また、障害者就労支援センターを2013(平成25)年4月に開設した。
(2)有機農業の取り組みと経営的課題
取引先はJA(農業協同組合)ではなく、有機野菜を専門的に取り扱う流通業者である。有機野菜は、例えばキャベツを10個箱詰めし出荷した場合、箱に有機JASシールを貼る。そうすると、その箱全体が有機農産物という格付けを得て出荷ができる。
しかし、その有機JASシールが貼られた箱をスーパー等に販売すると、スーパーはその箱から野菜を取り出して販売する。すると、取り出した瞬間にその野菜は「有機野菜」ではなくなる。それらの野菜を「有機野菜」として販売するには、野菜を袋詰め又は帯で結束した上でJASマークを貼付する必要がある。そのため「小分け」の免許が必要だが、個々のスーパー等では専門の人材がいないため対応ができない。そこで、専門の業者が請負う流通の仕組みができた。
内山ファームの取引先はそのような流通業者である。例えば「大地を守る会」や「MOA」といった組織は、生活協同組合より厳しい審査基準を設け、非常に厳格に検査を行なっている。「有機野菜」と認定された作物はすでにそれらの検査をクリアしているため販売先には困らない。それらの専門流通業者は宅配システムや全国的な会員組織を持っていたりと常に大きな需要を持っている。
JASマークを取得できれば、売り先は確保できる。しかし、JASマークを取得するのは簡単ではない。農林水産省の第三者機関の審査を毎年受ける為、料金の負担、事務処理量も少なくない。また、現場検査があり、書類作成が大変である。シールの購入量と使用量、破棄した枚数。販売先のリスト。品目毎の栽培記録。さらに特定の資材を使用するには認定機関の事前検査を受けなければならない。
つまり、有機野菜を栽培する努力と同時にこのような検査をクリアする処理能力が必要になる。販売力が高まるとわかっていても認定農家数がさほど増加しない理由のひとつにはこのような要件がある。
もちろん、大変なのは「有機野菜の栽培」そのものである。まず、最低2年間は化学肥料及び農薬を使用していない田畑で栽培しなければならない。それをスタートの条件とし、その後の栽培にあたっても化学肥料及び農薬の使用は禁止されている。除草剤を使えなければ、人の力でカバーしなければならない。これが普通の農家ではなかなかクリアできない。例えば、キャベツで有名な嬬恋という地域があるが、農薬を3割程度減らしただけで虫と病気が広がり、結局、特別栽培への取り組みを断念した。
また、有機野菜の栽培に取り組み始めても、最初のうちは採算が合わず、やる気を失っていく農家も多い。障害者雇用の前に、農業経営そのものの難しさをよく理解しておく必要がある。
2. 障害者雇用の現状と経緯
(1)障害者の配置と従事業務
常時勤務している従業員は6名(代表含む)。うち障害者は3名で、2名が知的障害、1名が身体障害(下肢および手指の障害)である。知的障害の1名が3年目、もう1名が7年目、身体障害者が2年目となっている。3名とも農作業及びその補佐的な業務に従事している。
その他、施設外就労の受入れを行なっている。地域生活支援センター「翠(みどり)」にインゲンなど一部の作物の栽培について業務委託を行っており、繁忙期には当センターの障害者と職員合わせて10名程が内山ファームの農作業を行なう。
また、特に人手の要る時期にはシルバー人材センターにも委託している。ニンジン畑の草取りや間引き等の作業の時期には、高齢の農業経験者達7~8名で作業してもらい、大きな力となっている。
なお、農作業には機械を使う作業もある。その作業は代表者(内山幸一)ともう1名の習熟した障害がない従業員が担当している。

(2)障害者雇用の経緯
内山ファームの障害者雇用は11年前(2002(平成14)年頃)に遡る。最初に雇用したのは精神障害をもつ人(男性)だった。以来、4名まではいずれも精神障害者である。
最初に雇用した1名は長く働いていたが、運転免許証の有効期限が切れ通勤できなくなった。現在は直接雇用していないが、地域生活支援センター「翠」に登録し、「翠」の施設外就労の一環として今でもセンターの送迎で働きに来ている。
最初の雇用のきっかけは、社会福祉法人「友愛苑」という通所の精神障害者施設に内山夫人が勤めていた関係で、「一度働かせてみてくれないか」という相談があったからである。
「最初は、精神障害ということで偏見がありました」と内山代表は振り返る。ところが「実際に働くと、真面目に働いてくれるし、きちんとしている。それが2人目、3人目と雇用するきっかけになりました。ただし、時期や季節によっては精神状態が不安定になることもあります。怒りっぽくなったり、ひとりぶつぶつ言ったりすることもあります。しかし、そのようなことにも、だんだん慣れてきました」と言う。
1人目の時は、それほど期待していなかったので、「できることをしてもらえばいい」という感じだった。とりたてて仕事に注文をつけるわけでもなかった。仕事の内容としては、内山代表の補助が主だった。特定の作業(例えば除草作業)を与えても十分な作業量がこなせるわけではない。そこで、内山代表が田畑に行くのに同行させ、補助的な業務をしてもらった。
1人目を雇用した1~2ヶ月後、働きたいという精神障害をもつ人が紹介されてきて、2人目の雇用となった。やはり最初は手取り足取りという状態で、指示しないと何もできなかった。ところが働き始めて2~3ヶ月経つと表情が変わり、いきいきと働くようになってきた。様子を見に来た施設の担当者がその変化に驚いた。
この2人目の男性は働くことで目覚ましく回復し、その後、結婚した。昨年(2012(平成24)年)まで内山ファームに勤めていたが、腰を悪くして退社。現在は通所施設に通いながら軽作業を行なっている。
3. 取り組みの概要と効果
(1)障害者と農業の効能
「農業には精神障害を癒し、回復させる働きがあるのかもしれない」と内山代表は語る。
自然に親しむこともその要因の一つだろう。また、農業には多様で広範な作業があるという特徴もある。軽作業から力の必要な作業まで、あるいはこつこつとした細かい作業等、人の性格や得手不得手によって与える仕事を選ぶことができる。
近年、精神障害や知的障害をもつ人達が農業に従事することが多くなってきたのは、そのような効能と受入れの多様性があるからであろう。ニートや高齢者等を受け入れるソーシャルファームといった動きもあり、内山ファームとしても関心を寄せている。
(2)障害者雇用と管理者の負担
2人目の雇用までは内山代表が直接指導していた。しかし、3人目、4人目の雇用になると、そうはいかなくなった。
そこで、冒頭に記した就労支援センターの開設を決意することに至った。なお、就労支援センターでは農業だけではなく、すでに農業以外の企業への就労も進んでいる。
特に、今働いている知的障害の2名は学校を卒業してすぐに雇用したのだが、指導しなければならない人数が多かった時であったために、細かな作業指導ができなかった。そのこともあってか、今でも作業の得手不得手が著しく、作業を選んであげなければならない。
また重度の知的障害であるため、考える作業や紐を結ぶといった細かな作業が苦手である。1名は体力があり、力がいる肉体労働もこなせるのだが、もう1名は単純作業はできるがこれは得意だという作業は見つかっていない。
余裕があれば一人ひとりについて適性をもっと深く考えたり、作業のやり方や仕組みを考え出していければよいのだが、そのような余裕も人材もないのが現状である。単純作業をとりあえず与えるという対処にとどまっているのも現実である。
(3)障害者雇用によって見えてくること
「障害のある人達と一緒に働くようになって長いので慣れました。今は、特別扱いもしない。特に『障害者だから』という意識も持っていないような気がします」と、内山代表は言う。
それでも、振り返るといろいろ気づくことはある。
- 後輩が入ってくると意識が変わる。
今雇用している知的障害者の後輩達が研修にくるようになった。それで、本人に「お前が指導してやらんといかんぞ」とアドバイスし、逆に後輩達には「先輩と呼べよ」と声を掛けてあげた。すると、自覚するところがあったのだろう、最近は率先して作業に取り組む等仕事への意欲向上が見られるようになった。 - 周囲の見る目、地域の人達の見る目が変わってきた。
以前は地域の人々にも偏見があった。本人達には「地域の人達に挨拶をするように」と指導した。また、彼らが歌いながら通勤してくる。そのようなことから、最近では地域の人からは「この地域が、最近明るくなった」と言ってくれるようになった。高齢者ばかりの地域にとってはこれも活性化のひとつなのかもしれない。
4. 障害者雇用で得たもの、そしてこれから
「障害者雇用をやってきてよかったと思うのは、やはり社会に貢献できているという手応えです。自分と同期のJA部会員達は役職に就くようになり、それぞれ社会的な役割を果たしています。自分も何らかの社会貢献をしたいと思って、社会貢献と仕事の両立を考えた時、それが自分の場合は障害者雇用であると考えました。11年間障害者雇用をやってきて、振り返って、方向性としては間違っていないと思います。有機農業という事業も間違っていないし、障害者雇用という取り組みも間違っていないと思います。しかし、経営的な苦労はとても大きかったですね・・」と内山代表は語る。
内山ファームの今後の課題として、第一に内山代表の業務負担を軽くすることがある。生産計画はもちろん、蒔付け・植付け・収穫時の機械作業を行なっているのは内山代表で、作付面積を拡大し、作物を多品種化する為、こと細かな目配りができなくなってきている。そのため、機械の不具合や天候不順等の不測の事態が起きた時、対処作業に手間取って、ファーム全体の運営に支障が生じる。
このことは一見、農業の課題であって「障害者雇用」直接の問題ではないように見えるが、農業での障害者雇用の可能性に期待するのであれば、この農業経営の課題を解決することが、障害者雇用の大きな障壁を取り除くことになる。事実、障害者雇用に取組む農業者においては普遍的に存在する大きな課題ではないかと思われる。
だが、内山ファームはそこで立ち尽くしたりはしない。内山代表のサブとなる人材の育成に力を入れている。内山代表は次のように締めくくる。
「今後、今の形で運営を継続できるかと考えれば、今のうちにA型事業所を立ち上げる等持続可能な仕組みを作っておきたいとも考えるのです。」
内山代表の目はすでに未来へと向けられている。
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