ユニークな再雇用制度と勤務形態の工夫で障害者を雇用
- 事業所名
- 株式会社竹之下
- 所在地
- 本社：鹿児島県鹿児島市
- 事業内容
- 総合食料品卸売・流通業
- 従業員数
- 212名
- うち障害者数
- 4名
-
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 1 事務職 知的障害 精神障害 2 ピッキング作業（1名は休職中） 発達障害 1 ピッキング作業 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
1. 事業所の概要、障害者雇用のきっかけ・背景
（1）事業所の概要
昭和31(1956)年、鹿児島市で創業。総合食料品卸売兼流通業である。鹿児島県、宮崎県、沖縄県を主たる商圏とし、卸店、スーパー、コンビニエンスストア、小売店や外食産業などに、一般加工食品・チルド／冷凍食品・生鮮品・デイリー食品・菓子・業務用食材などをフルラインアップで提供している。
特に、県内の離島及び沖縄県向けの食料品流通業としては、独自の高い技術力と豊富なノウハウを持ち、実績面でも他の追随を許さないトップ企業である。
（2）障害者雇用のきっかけ・経緯
今回、取材全般に応じてくださったのは、同社の白川勇一執行役員部長である。
以前は、障害者の雇用には全くと言ってよいほど興味を持たれなかったそうだが、障害者雇用に関するセミナーや勉強会へ参加するうちに、自然と興味を持つようになったとのことである。ハローワークからの紹介やトライアル雇用など制度面のサポートもあることがわかり、障害者の雇用に踏み切った。
他方、以前の部署で白川部長の下で働いていた部下のAさんが中途障害者となったことも障害者雇用に乗り出すきっかけとなったようである。
2. 取組の内容
（1）ユニークな再雇用制度
本論に入る前に、同社のユニークな再雇用制度について、その概略を紹介させていただく。
一般に再雇用というと、定年退職後のそれをさす場合がほとんどであろう。もちろん同社の再雇用制度においても、定年退職者が希望すれば最高65歳まで嘱託として引き続き働くことができるのであるが、2つの大きな特長がある。
一つは、あらかじめ定められている3つのコースから、労働者自身が再雇用後の働き方を選ぶことができること、もう一つは、定年退職者以外の退職者でも制度を利用できることである。特に後者は、世間一般の再雇用制度とは決定的に異なる点だ。後述(2)で紹介する障害者Aさんはこの制度を利用することで、雇用を継続したのである。
≪再雇用後のコースの概略≫
| 現役コース | いきいきコース | ゆとりコース | |
| 職務 内容 |
再雇用前と変わらず | 再雇用前とは必ず別の職務を担当 | 再雇用前とは必ず別の職務を担当 |
| 勤務 時間 |
再雇用前より、少しばかり短い | 1日＝8時間 休日がフレキシブル |
1日＝4、5時間 週＝5日 |
| 月例 | 基本給は月給 | 基本給は日給 | 基本給は時間給 |
| 賃金 | 支給総額○○万円を目安 | 支給総額□□万円を目安 | 支給総額△△万円を目安 |
| 賞与 | 有 | 有 | 有 |
| 社会 保険 |
法律どおりの適用 | 法律どおりの適用 | 法律どおりの適用 |
「いきいきコース」や「ゆとりコース」を選択した者にも、若手の教育や指導などを任せることがあり、その場合は指導手当を支給する
（2）障害者の従事業務と取組内容
- 内部障害を持つAさんの場合
Aさんは以前から障害のない従業員として同社に勤務していたが、3年ほど前(2010(平成22年)頃)から人工透析を必要とする障害者になったいわゆる中途障害者である。
透析開始後、1年程は正規の従業員として勤務していたAさんであったが、当時担当していた営業企画の仕事は、もともと非常に多忙な上、業務が立て込んでくると無理を強いられることも少なくなかった。
このままの状態が続けば、早晩、勤務の継続が困難となる恐れが出てきたことから、透析治療を続けながら何ができるか、Aさんの経験や優れた能力を活かすにはどうしたらよいか、会社とAさんは何度もよく話し合い、先述した再雇用制度を利用することを決定、『いきいきコース』を選択することとしたのである。
現在は、1日8時間で週5日の勤務を基本とし、透析を行う日は場合によっては始業・終業時刻を柔軟に変更することで仕事と治療を無理なく両立させている。
また、担当している職務は商品の発注業務であるが、これはAさんの優れた事務処理能力や社内での経歴などを考慮して決定された。
- 発達障害を持つBさん、精神障害を持つCさんの場合
a 従事業務の内容
発達障害を持つBさん、精神障害を持つCさんと休職中のもう一人の3名は、いずれもパートタイマーとして、「ピッキング」と呼ばれる作業に従事している。
ピッキングというのは、顧客から受けた注文の品物を、発注伝票を見ながら倉庫から取り出し、注文主別にまとめる作業である。
一見、単純作業のように思えるが、実はこれがなかなか奥の深い、そして重労働である。
なんといっても取扱品目数が非常に多い。白川部長によると常時6000種以上を取り扱っているそうである。しかもこれが永久に同じものではなく、常に人気の出た商品、新商品と入れ替わっていくのである。発注・入出庫・在庫管理ももちろんたいへんであるが、現場でのピッキングもたいへんである。
また、取り扱っている商品は食品であるため、相応の注意と配慮が要求される。常温、冷蔵、冷凍と温度帯の異なる商品を取り扱わなければならない点も見逃せない（冷蔵・冷凍は、その中でさらに温度帯が4段階に分けられている。取材時時点では、冷蔵・冷凍商品のピッキング作業に障害者は従事していなかった）。
常温品の場合、作業時間中は倉庫の扉が大きく開け放たれたままである。いわば吹きさらしに近い状態なのだ。当然、夏は暑い中、冬は寒い中での作業となる。加えて、夏場は桜島の降灰の影響もある（降灰の被害の過酷さは、とても一言ではお伝えできない）。
注文主は、食料品店やスーパー、コンビニエンスストアといった事業者であるから、注文単位も、例えば清涼飲料水なら1本、2本といったものではなく、24本入り5ケースと言った具合である。ケース単位となるとかなりの重量だが、これを在庫の棚から取り出して台車に積み、さらに注文主向けの商品をまとめたパレットに上積みしていく。
さらに、同社の商品のほとんどが鹿児島県の離島や沖縄県向けであるため、定期航路を走る船のスケジュールに間に合うように作業を進めなくてはならない。作業スピードが要求されるのだ。ましてや、台風などの影響で定期船が欠航した場合の後、運航開始となると、これまで滞留していた貨物がいっせいに集中し、社内はさながら戦場と化す。
なかなかたいへんな作業であることが多少なりともお分かりいただけたであろうか。
b ピッキング作業に障害者を従事させることができるようになった理由
このようにたいへんなピッキング作業に障害者を従事させるにあたり、中期経営計画でも上がっていた管理システムの本格的導入と稼動開始が、結果として大きな役割を果たすこととなった。
以前はピッキングの作業のほとんどを人力に頼っていたため、長期にわたって勤続し、習熟度が深まっていかない限り個人の作業効率が高まることはなかった。一人前になるまでに相当の時間を要し、熟練の技術を持つベテランとそうでない者との間で能率に大きなばらつきが生じていたため、業務全体としての生産性がなかなか向上しないことが問題であった。
管理システムの稼動によって、ピッキング作業は格段の経験や熟練度を要求されるものではなくなり、全くの初心者であっても最初からある程度の水準の作業が可能となり、なにより障害者であっても作業に従事することが可能となったと白川部長は語る。
もちろん、システムの導入だけで障害者雇用が可能となったわけではない。トライアル雇用制度やジョブコーチ（職場適応援助者）支援制度も利用している。
特にジョブコーチには、障害者たるパートタイマーの雇用期間契約更新時（年1回）には必ず立ち会ってもらっている。障害者本人の心身の状況や仕事に対しての悩み、希望など、障害者がこれからもしっかりと働いてもらうための、大切な話し合いの場にしているという。
また、障害者が入ってくると、ベテラン従業員の一人を必ず専属の担当者とし、ペアを組ませるようにしている点も見逃せない。発達障害や精神障害を持つ者が一般的にコミュニケーションを苦手としている点への配慮から、当該障害者が感じた業務上の疑問や指示について、できるだけ負担を感じないで気軽に「聞く（尋ねる）」ことができる人として一人（である点がポイント）を担当に選んでいるそうだ。2、3か月後には、専属の担当者以外の従業員とも徐々に会話を交わすようになってくるのだとか。
また、障害者に対する「声かけ」も欠かさないようにしているとのこと。あいさつだったり、ちょっとした一言だったりするが、これが効果的である。
c 取組みと現在の状況
発達障害を持つBさんは、同社でフルタイムパートとして1日7時間勤務している。文字を始め、さまざまなものをそのフォルムというか映像で記憶しているそうであるが、もちろん業務遂行には何の支障もない。
Cさんは過剰なストレスから心を病み、うつ病と診断された精神障害者である。現在は1日6時間、ピッキング作業に従事している。
会社は、Cさんを雇い入れるにあたり一つの約束を交わした。それは、「体調が悪くて出勤できそうにないときは、必ず会社に電話をください」というものである。白川部長によれば、これまでほとんど休んだことはないが、約束はきちんと守っているそうである。
今回、取材の最終日にCさんの作業に10分間だけ密着させていただいた。発注伝票を挟んだボードを片手に、台車を押しながら倉庫内を縦横無尽に駆け回って次々に商品、清涼飲料水やカップ麺やお菓子などをケースごとピックアップしてパレットへ積む。注文主1軒分を捌き終えると、事務所に次の注文伝票を取りに行き、首にかけたタオルで汗をぬぐいながら、すぐにまた倉庫内を駆け回る。途中、在庫場所のわからない商品があると、他のパートタイマーに尋ねながら商品を見つけ出す。先日の降灰の影響で商品が灰をかぶっているときは、「灰をかぶったままだとクレームにつながりますからねえ」と言いながらこれを丁寧に落として台車に積む。
このハードさにはとてもついていけないと筆者の根が上がったところでCさんを呼びとめ、尋ねてみた。
「この仕事の大変なところはどこですか？」
「注文の商品と数量を間違いなくピックアップすることです。当たり前のことですけどね。そして在庫が見当たらない商品、あるいは在庫は目の前にあるが予約として押さえてある商品にあたったら、それを十二分に確認し、発注要請するかどうか判断することでしょうか。」
「やりがいや喜び、楽しいことはなんでしょう？」
「まずはみんなと一緒に仕事をしていること、仕事ができることがうれしいです。後は、手がすいたときに、ベテラン従業員さんたちといろんな話をするのが楽しいことでしょうか。」
Cさんは笑いながらそう答えてくれた。
ピックアップ作業1
ピックアップ作業2
パレット積作業
3. 障害者を雇い入れるかどうか迷っていらっしゃる経営者の皆様へ
取材の締めくくりとして白川部長に尋ねたところ、しばらく間を置いたあと静かに口を開いた。
「障害者は皆、そうなりたいと思って障害者になったわけではないと思います。障害者を雇用することで、例えば人件費の増大など、いろいろな問題が生じるのではないかと不安を感じることも多いでしょう。確かに障害者を雇用することで全てがプラスになるわけではありませんが、仕組みを変え、障害者でも働くことができる職場環境を整えることには大きなメリットもあります。当社にとっても、まずは当社の経営理念の一つ「地域社会の役に立つ」を具現化できたことは大きいと考えています。そして、障害者雇用によって社内に殺伐とした雰囲気がなくなり"マイルド"になったこと、職場の和が大きく育まれつつあることはうれしいです。」
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