地方都市における精神障害者の「自然体」での雇用
- 事業所名
- 北雄ラッキー株式会社 シティびほろ店
- 所在地
- 北海道網走郡
- 事業内容
- 各種商品小売業(スーパー)
- 従業員数
- 150名
- うち障害者数
- 2名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 精神障害 2 商品加工(パック詰め、品出し) 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - この事例の対象となる障害
- 精神障害
- 目次
![]() シティびほろ店・外観
|
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
北雄ラッキー株式会社は、本社を札幌市に置き、札幌圏を中心に道北・道東・道南と、北海道に根ざしたスーパーマーケットを道内に34店舗(衣料品専門店を含む)展開している。平成22(2010)年7月の障害者雇用促進法改正をきっかけに各店舗で障害者雇用を積極的に進めている。従業員数は 2,040名、うち障害者の雇用数は49名となっている。
障害 | 人数 | 従事業務 |
---|---|---|
視覚障害 | ||
聴覚・言語障害 | ||
肢体不自由 | 12名(内重度1名) | 商品加工・補充、レジ、管理業務等 |
内部障害 | 3名(内重度2名) | 商品加工、管理業務 |
知的障害 | 29名(内重度1名) | 商品加工、販売業務 |
精神障害 | 5名 | 商品加工(←うち2名が美幌店) |
発達障害 | ||
高次脳機能障害 | ||
難病等その他の障害 |
企業理念は地域のお客様の身近な存在として、日本一質の高いスーパーマーケットを目指している。ちなみに、目指す“質”とは「おいしさと豊かさ」、「感動を与えるサービス」、「仕事に対する向上心」のことである。
そのような北雄ラッキー株式会社の中で、「精神障害者をここまで自然体で受け入れている店舗は珍しい」と店長・木下氏は「シティびほろ店」について紹介してくださった。
当事業所(シティびほろ店)のある美幌町は北海道の東部・オホーツク総合振興局管内のほぼ中央部、オホーツク海から30㎞程度内陸に位置している。人口約21,000人の農業を基幹産業とした町である。この人口規模は、オホーツク管内では北見市、網走市、紋別市、遠軽町に次いで第5位であるが、近年、減少傾向がみられる。
平成5(1993)年、北雄ラッキー株式会社が道東地区進出の足がかりとして株式会社シティびほろと合併し、「シティびほろ店」を開店、現在に至る。また、道東地区には、当事業所の他、4店舗を展開している。
(2)障害者雇用の経緯
概要でも述べたとおり、昭和60(1985)年をピークに町の人口減少が進む中、事業所では、慢性的な人手不足が大きな課題となっていた。特にパートスタッフ欠員後の補充が困難な時期が続いた。
そのような中、平成21(2009)年にオホーツク障がい者就業・生活支援センターから就業支援員の訪問があり、障害者雇用についての問い合わせがあった。その際、特定非営利活動法人美幌えくぼ福祉会の支援スタッフも同行した。美幌えくぼ福祉会は、町立の保健福祉総合センターに事務局を構え、美幌町内で就労移行支援事業、就労継続支援B型事業、地域活動支援センターを展開する法人である(グループホームについても開設準備中)。主な利用者は精神障害のある人達であり、地域からの利用ニーズが高い法人である。
その時、対応を行ったのが、シティびほろ店管理マネージャーの三谷氏である。三谷氏は、事業所の仕事の特徴が「単純作業の繰り返し」と「手作業」が多いことから、高い作業効率を求めなければ、障害者も対応可能な職域として雇用できるのではないか、と考えた。
その後、実習生を複数受け入れ、その中で採用基準をクリアした人を雇用する流れを設け、現在、2名を雇用するに至った。
この時期の本社での障害者雇用の経緯と当事業所での経緯をまとめると次表のようになる。
☆障害者雇用の経緯 | |
本社 | シティびほろ店 |
|
|
2. 取組の内容
(1)実習生の受け入れ
平成22(2010)年、障害者雇用の可能性を模索するため、三谷氏が窓口となり、美幌えくぼ福祉会からの実習生を受け入れ始めた。
まず、1名を青果部門で受け入れたが、その時の様子を三谷氏は「結果的には、腫れ物に触るような形でスタートしてしまった。本人のストレス軽減を考慮し、奥の作業室で、単独で作業してもらった。それが失敗だった」と振り返る。ご本人がストレスなく仕事に取り組めるように黙々と作業を行える環境を整えたが、結果として周囲の従業員との関わりがほとんどなくなり、実習生が自分の存在価値を低く思うようになり、実習を続けることが困難になってしまったというのである。
その後については、最初に受け入れた実習生への対応の経験を踏まえ、次の実習生の受け入れ準備は三谷氏が中心に進めた。その時のキーワードが「自然体」である。
- 面談
美幌えくぼ福祉会から推薦を受けた実習希望者を三谷氏は、1人ずつ丁寧に面談した。症状の安定、仕事への意欲、配属先へのマッチング、実習時間など、希望者との面談を通して決定していった。実習希望者との「自然体」の関わり方を探ったのである。
- 実習の環境調整
実習生の状況に応じて実習時の配慮を行った。原則として、作業1時間につき15分の休憩を設けること、実習は、1日3時間で週2日~3日から始めることとした。
また、単独・孤独な作業環境は避け、他のスタッフに交じりながら作業するスタイルに変更した。
当初、実習生を受け入れる各部門から、精神障害者に対する偏見や不安が三谷氏の元へ寄せられた。しかし、三谷氏は、一貫して精神障害者の実習受け入れについての方針を現場へ伝えていくと共に、各部門を足しげく回り、現場のスタッフへ実習生の障害特性についての理解促進に努めた。つまり、「配慮(特別扱い)しないことが配慮」であることの浸透を目指した。
このような三谷氏の努力と各部門を担当するスタッフの理解が実習の継続を支えたのである。
これらの対応が功を奏し、8名の実習生を受け入れるまでになった。うち2名は雇用契約を結んでシティびほろ店の従業員となった。それが、AさんとBさんである。今回の取材の日現在、その他の実習生は、以下のように配属されていた。
実習生の配属先と人数 | |
荷受け・検品:1名 | レジ:2名 |
鮮魚:1名 | 惣菜:1名 |
精肉:1名 | - |
(2)実習から雇用へ
三谷氏は実習を通し、作業スキルの習得と共に精神的な安定が図られていることを見極めるため、適宜、面談を実施した。現場の作業だけでは見られない部分を知るためである。実習と面談を繰り返すうち、事業所の求める基準をクリアする実習生が現れ、直接雇用することを考え、その結果実習生として日配・日用品に配属されていたAさんと青果に配属されていたBさんの両名を採用し、同じ青果部門に配属することを決めたのである。同じ青果部門に配属した理由としては、「本人の希望と適性の判断」を基に「同じ部署に所属していることの安心感とストレスの軽減」と「互いに刺激し合うことで、作業スキルと仕事に対する意識向上の相乗効果」を期待したと三谷氏は語る。
現在、Aさんが午前シフト、Bさんは午後シフトというように、勤務シフトが異なることが多いが、Aさんは「同じ部署に所属している帰属意識と共に、お互い良い意味で意識し合う関係である」と話している。
(3)美幌えくぼ福祉会のフォロー体制
シティびほろ店での実習の継続に加え、AさんとBさんが採用に至るまで、美幌えくぼ福祉会のフォロー体制があったことは、欠かすことのできない事実である。
毎日の実習の終了後、美幌えくぼ福祉会の事務所で、1人ずつ必ず実習の振り返り作業が行われた。これがAさんを始め、実習生を支えたのである。実習生は、作業日報を記入することで、その日の作業を振り返ると共に就労支援員に報告をする。それに対し、就労支援員は、助言や労い(ねぎらい)等を口頭と日報への記入でフィードバックする。この作業を毎日繰り返したのである。
また、適宜、相談の時間(1人につき約1時間)も確保し、不安な内容や大変な気持ちを傾聴し、それに対する助言や提案を行い、実習生が安定して実習に取り組めるように支援を進めてきたのである。
美幌えくぼ福祉会のこのフォロー体制については、三谷氏をはじめ、事業所も理解していると共に信頼を寄せている。
3. 障害者雇用の効果、障害者の処遇
(1)障害者雇用の効果
- 障害のない従業員との連携・調和
三谷氏による実習時からの丁寧な取り組みが、スムーズに雇用へ繋がった。
そのため、青果部門の主任をはじめ、従業員、パートナー(パート)スタッフの理解も深まり、暖かい目でAさんとBさんの仕事ぶりを見守ることに繋がった。
Aさん、Bさんの作業スキルや適性を見極め、できる仕事は分け隔てなく作業を担当している。また、初めて担当する作業やミスがみられる部分については、経験の長いパートナースタッフが適切に指導している。
時間に追われる忙しい作業の中でもAさんとBさんに「よく働いているね」と現場のスタッフから労いの声掛けも聞かれ、良い雰囲気の職場となっている。
- Aさんのケース
青果部門で採用になったAさんは、専門学校を卒業後、システムエンジニアとして働いていた経験がある。その時に精神障害(統合失調症)を発症する。離職後、地元である美幌に戻り、しばらく外出することも困難な時期を経験するも、美幌えくぼ福祉会を利用することとなる。利用後間もなくしてからシティびほろ店での実習に参加する。
実習では、菓子等の食品売り場を担当し、品出し作業の他、売価変更やポップ作成を実施できるまでに至り、採用となる。
採用後、配属された青果部門では、野菜(長芋や南瓜、蓮根等)をカットし、パック詰めする作業を担当する。また、鍋の季節には、カットした白菜や長ネギ、きのこ、型抜きした人参など、鍋用の野菜盛りパックの作成を担当する。包丁の扱いも腕を上げ、スムーズに作業をこなしている。
採用から、もうすぐ1年を迎える。採用当初の頃は部門の変更もあったため、「現場スタッフの中に1歩踏み込む姿勢が必要だった」とAさんは振り返る。「正直、自分の中に抵抗感はありましたが、働くことでは『皆と一緒だ』と意識し、勤務してきた」という。現在は、同僚であるパートナースタッフとのコミュニケーションも深まり、初めての作業や慣れない作業についてもスムーズに指導を受けている。
Aさんは「働くことで自信がつきました。上司である主任を信頼していますし、何より会社に感謝しています。こんな道東の小さな町で、働く機会をいただけたのですから。本当に貴重なチャンスをいただけたと思っています」と現在の心境を語っている。
また、今後の目標は、プライベートにおいて“婚活”で素敵なパートナーを見つけることであると話す笑顔が印象的であった。
![]() Aさんの作業風景
|
(2)障害者の処遇
- 賃金等の処遇
パートナースタッフ契約であるAさんの処遇は以下の通り、他の従業員と同様である。ここでも、特別扱いしない「自然体」がうかがえる。
勤務日 勤務時間 給与 福利厚生 週5日 8:00~12:00 時給制
(パートナースタッフ)他従業員と同様
週20時間の勤務であるが、繁忙日に限り、残業が最長4時間に及ぶことがある。その際も、1時間につき15分の休憩を入れるなど、配慮がある。
- 仕事の役割と処遇のバランス
上記にもあるようにAさんは「野菜のカット、パック詰め」、Bさんは「商品の品出し」が主な作業内容である。Aさん、Bさん、それぞれが三谷氏や青果部門の主任と相談する機会を設け、作業とのマッチングを考慮しながら、担当業務を決めた。今後も様子を見ながら、ご本人と相談しながら、徐々に業務の難易度を上げていく予定である。
4. 今後の展望と課題
(1)課題
現在、同時期に採用されたAさんとBさんとの間に成長度合いの差が出てきており、具体的な対応策や取り組みを検討しているところである。
また、2名を雇用して約1年。今後も末永く働いてもらえるよう、定着に向けたフォローアップの必要性も感じている。
それには、今後も美幌えくぼ福祉会と連携していくことが必要であり、企業としても関係機関からのフォローを欠かせないものと認識しているとのことである。
(2)今後の展望
現在、実習生として受け入れている6名をパートナースタッフ契約へ繋げていくことを検討しているところである。
それに不可欠と考えるのが、
- 自然体で受け入れる職場の雰囲気と体制
- 面談の機会を大切にし、1人1人の働き方、マッチングを話し合う
ことであるという。
依然、北海道の地方都市の思わしくない経済状況の中、小売業界は厳しい状況が続いているが、事業所も障害者もこれを互いにチャンスと捉えていくことが大切である。何らかのきっかけで精神障害を発症された方に“働く”ことを通して充実した人生へつなげるチャンスを提供すると共に、事業所はそれを通して人財とお客様の信頼を得、かつ、店舗の繁栄を継続していくことがシティびほろ店の理念であるという。
三谷氏が、「シティびほろ店は障害者を採用しているのではない。働き手(労働者)を採用しているのです」と端的にかつ力強く信念を語ってくださったのがとても印象的であった。
執筆者: | 社会福祉法人川東の里 風楽里 第1号職場適応援助者 前多 智哉 |
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。