一戦力としてステップアップできる会社を目指して
- 事業所名
- MPアグロ株式会社 札幌物流センター
- 所在地
- 北海道北広島市
- 事業内容
- 動物用医薬品等の卸売
- 従業員数
- 629名/うち26名(札幌物流センター)
- うち障害者数
- 12名/うち2名(札幌物流センター)
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 1(内重度1) 事務補助作業 肢体不自由 4 事務作業 内部障害 2(内重度1) 営業、事務作業 知的障害 2 ※札幌物流センター 商品倉庫作業 精神障害 3 事務作業、商品倉庫作業 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観
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1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
「MPアグロ株式会社」は、平成22(2010)年4月にメディパル(MP)ホールディングスグループ内のアグロ事業会社3社である「丸善薬品株式会社」、「エバルスアグロテック株式会社」、そして「株式会社アトルのA&F営業本部」を経営統合して新たな一歩を踏み出した会社である。
「人と動物の健康を通じ、皆様方から『信頼』して頂ける企業を目指す」という理念のもと、動物用医薬卸売事業(産業動物、小動物)では、動物の病気を予防・治療し、生産性を高めるための的確な情報提供と、今後ますます拡大が予想される小動物分野において小動物医療のよきパートナーとなることを目指している。また、食品関連事業では、あらゆるものを提供できる食品製造業者向けの総合商社機能を目指し、全国の仕入先のネットワークを生かした様々な提案を行っている。
北海道には、北海道営業部の6支店と、物流部の2物流センターがある。今回は、2つの物流センターのうちの1つ「札幌物流センター」の知的障害者Aさん、Bさんの雇用の取組を中心に紹介したい。
(2)障害者雇用の経緯
以前から営業職の身体障害者を雇用していたとはいえ、もともと障害者雇用に積極的だったわけではなく、周囲の障害者雇用への理解も十分ではなかった。企業として、本格的に障害者雇用に取り組み始めたのは、平成22(2010)年に「MPアグロ株式会社」として経営統合され、CSR遵守の気運が高まったことがきっかけだという。
札幌物流センターとしては、今回紹介するAさんが初めて雇い入れた知的障害者であり、平成22(2010)年の雇い入れに当たっては現場としても不安があった。
Aさんの雇用は、ハローワークからの紹介により検討を進めることになったものである。雇用に至るまでの段階や雇用後の定着支援については障害者職業センターを中心とした支援者による「支援チーム」で会社をサポートしていく体制が作られ、平成22(2010)年1月からトライアル雇用制度とジョブコーチ支援制度を活用しての雇用開始となった。
Aさんの雇い入れに当たっては、会社の不安や支援者へのニーズを確認するために、雇用開始前に支援者及び会社担当者での打ち合わせを行い、本人の特性や雇用後のバックアップ体制について情報提供・提案を行ったことで、安心して雇用することにつながっている。
2. 障害者の業務内容や処遇のステップアップ
(1)Aさんのステップアップ
Aさんが配属された札幌物流センターは、動物用医薬品や飼料等、年間約8000種類の商品を扱っている。出荷に向けての商品ピッキングや検品、梱包作業、入荷した際の商品補充、伝票の入力作業など商品の入荷・出荷に関係する業務は豊富にある。一方で、動物用医薬品等、扱うことのできる従業員が限られている商品もある。
元々会社として、「一戦力としてがんばってほしい」「本人の希望をはじめ、能力や特性などを考慮しつつ仕事の幅を広げていく」という方針があり、本人の能力やペースに合わせて、業務内容や労働条件等処遇面のステップアップを図る取組が行われている。
Aさんの場合、当初の業務内容は、商品ピッキング作業が中心であったが、現在では梱包作業や入荷した商品の補充、パソコンを使った入力作業も行っている。そして、業務内容の拡大に伴い、処遇面もステップアップが実現している。現在Aさんは勤続4年であるが、平成23(2011)年4月にパート従業員から嘱託社員へのステップアップを果たした。嘱託社員になると、労働条件(月給制、特別休暇の付与、福利厚生など)の向上、パート従業員は扱うことができない商品への対応等業務範囲の拡大、社員会議への参加、人事評価制度の適用など、様々な面でパート従業員と異なってくる。
会社の担当者によれば、Aさんを嘱託社員へとステップアップさせることを判断したポイントは、作業の正確さがあったこと、周囲との人間関係がうまく構築できたこと、仕事の幅を広げていける環境が整ったこと等、Aさん自身の仕事への取り組む意欲と能力を見て判断したとのことである。また、嘱託社員になった時期から、Aさんの勤務態度に責任感やコミュニケーション面での積極性、自信の向上などが感じられるようになったという。平成25(2013)年秋頃からパソコンによるデータ入力作業が追加されているが、これも仕事の幅を広げていきたいとAさん自らが希望してチャレンジしたものである。
![]() 出荷準備をしているAさん
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![]() パソコン入力作業中のAさん
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Aさんの例のように、当社では、障害者に対して業務内容、処遇の面でのステップアップを進める方針をとっている。一般の従業員と同様に意欲や能力の面で一定の評価が得られれば、パート従業員から嘱託社員へのステップアップのチャンスがある。
現在会社全体としては、雇用している12名の障害者のうち、4名が嘱託社員にステップアップしており、今後も徐々に嘱託社員への登用を検討していく方針である。障害者であっても、作業内容や能力、勤務態度が一般社員と大きな差がなければ条件面も契約更新の時点で検討し、本人の頑張り次第でステップアップできるチャンスがあることや、人事評価制度のように社内の評価制度が適用される仕組みがあることが、一戦力として障害者の成長を促すことやモチベーションの維持・向上に繋がっていると思われる。
障害者雇用における業務内容や処遇面のステップアップについて、会社の担当者は、まず大前提として、一社員として業務範囲の拡大や作業スキルの向上などステップアップを目指すことは自然なことととらえている。さらに、ステップアップを実現するためには、本人のペースを重視することや、周囲の従業員や担当者が本人の能力や特性を知り、関わり方や指導方法を工夫することが大切だと考えているという。
(2)Bさんのステップアップ
Aさんの取材に当たって、Aさんの入社後2年弱して入社したBさんにも話を聞くことができた。Bさんは、就職を目指して障害者職業能力開発訓練施設で訓練を受け、求職活動に取り組み、ハローワークからの紹介を受け、平成23(2011)年11月からAさんと同様の支援体制や制度活用しての雇用に至っている。
Bさんは特性上、初めての環境に慣れることや作業を覚える際には丁寧な指導が必要なであったこともあり、雇用開始から2~3週間ほどは、本人の障害特性や理解度、業務の遂行力を把握するために指導担当者がほぼ毎日本人の近くでサポートしていた。具体的には「どのように伝えると理解できるか」「どの程度の難易度の作業に対応できるか」「どこまで関わっていく必要があるか」などをノートに記録し、本人への指導方法を整理していった。その結果、作業指導については、はじめに指導担当者が手本を示し、次に本人が実行し、その場でフィードバックしていく方法が有効であることが分かってきたという。
指導担当者の中で本人への対応方法が整理できてきた段階で、業務の指示や助言を指導担当者のみが行っていた環境から、本人からの質問や確認については指導担当者以外の従業員も対応できる環境にシフトさせていく体制がとられた。職場内の指導体制をシフトさせるために、事前に指導担当者から他の従業員に、本人たちの特性や指導方法を周知する機会が設けられた。
職場全体でBさんをフォローする体制ができたことで、指導担当者が本来の業務に注力できるというメリットのほか、本人のコミュニケーションスキル向上にも大きな効果をもたらしたという。雇用開始時点では、自分から話しかけることができなかった本人に周囲から声かけを行っていたが、周囲の従業員との関係性が築かれるにつれて、自分から話しかけることができるようになっていった。
このような会社全体のフォローを受け、今ではBさんは自信をもって業務に取り組んでいるところである。
![]() ピッキング作業中のBさん
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以上のようにAさん、Bさんともに職場に適応しており、2人から共通して「今後も色々な仕事をやれるようになっていきたい」「仕事は大変なときもあるが、楽しくやれている」「あまり時間がかかりすぎないようにスピードをあげたい」などと、前向きな話を聞くことができた。
3. 障害者雇用の効果、今後の展望と課題
(1)障害者雇用の効果
AさんやBさんの面接や現在の雇用管理に実際にあたっている札幌物流センターのセンター長は、「実際に会うまでは不安もあったが、面接で本人に会い話したことで、『履歴書の字が丁寧』、『話をしてみると的確な返答が返ってくる』、『本人から強い就労意欲が感じられる』などが実感でき、当初の不安が安心感に変わった。また、実際に障害者雇用に取り組んで感じる利点として、職場全体への影響という面では、2人の真面目さ、礼儀正しさなどがとてもよい刺激になっている」という。また、「雇用開始当初は挨拶や自発的な発信が少ない状態であったが、周囲からの働きかけ等の効果もあり環境にも慣れ、現在では自分から声をかけて話していくことも増えてきている。その結果、周囲の従業員も2人を特別扱いすることなく、一人の従業員として接する雰囲気・環境が実現されている。こうした雰囲気や自然と職場全体で障害のある従業員をサポートできる関係を構築していく上で、挨拶と声かけの重要性を実感した」という。「人材育成という視点から考えると、指導担当者の指導力の広がり、成長にもつながっている」と話してくださった。
AさんやBさんの例から分かるように、当社では、障害者に目標をもって取り組み確実に成長できる場を提供できる企業だと思われる。会社として、2人のこれまでの仕事を通して、本人の業務への意欲に応じて、ステップアップを後押ししてきたことが大きな支えになっているのではと感じられる。
(2)今後の展望と課題
会社としては今後も雇用を推進していきたいとの考えである。障害者雇用を進めることを通して、お互いに成長し、職場内の活性化を図ることにつながると考えている。また一人ひとりの個性が生かせる職場づくりにも大きな役割を果たすことにもなっている。
反面、受け入れ先(各支店など)や受け入れ先部署の検討も必要となってくる。現場従業員一人ひとりの理解をはじめ、障害者が仕事を通じて成長でき、一人の戦力として働くことができる環境をつくることも大切と考えている。そのためにも、社内でのコミュニケーションの活性化や協力体制は不可欠と考えている。
執筆者: | 社会福祉法人 愛和福祉会 札幌障がい者就業・生活支援センター たすく 支援スタッフ 内久保 譲
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