「地域と共に、障害者と共に」観光農園作り
~「食」と「農」地域の力を活用して~
- 事業所名
- 社会福祉法人誠友会
就労継続支援A型事業所「工房あぐりの里」 - 所在地
- 青森県上北郡
- 事業内容
- (法人全体)障害者就労継続支援A型事業所、障害者就労継続支援B型事業所、障害者共同生活援助事業、特別養護老人ホーム、短期入所、デイサービス、グループホーム
- 従業員数
- 23名
- うち障害者数
- A型(雇用)17名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 2 パン製造、果樹栽培 肢体不自由 4 レストラン調理、豆腐製造 内部障害 知的障害 9 レストラン調理・豆腐製造・パン製造 精神障害 2 農園管理(農機具運転・環境整備) 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 赤そば畑から共同体の施設全体を望む
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1. 事業所の概要と沿革
(1)事業所の概要
三沢市内から県道8号線を南下し、上北郡おいらせ町に入ってまもなくの道沿いに、「観光農園アグリの里おいらせ」と大きく書かれた文字と豆腐、にんにく、いちご、たわわに生っているバナナの写真を配置した大きな看板が目に入る。ここ一帯には、おいらせ広域物産館、工房あぐりの里、産直店舗のアグリの里、8連棟のハウス栽培のイチゴ園、ハウス栽培の熱帯果樹園があり、イタリア風の白い壁に誘われたゲートの向こうにはビュッフェ形式の農園レストラン百果良彩が見えている。昼前の11時、駐車場はすでに満車であった。
ここでは、「農」の力を活用して「見る、収穫する、食べる、ふれあう」をテーマとして、「地域と共に、障害者と共に」魅力ある観光農園作りを目指した、地域の物産振興、産業創造と障害者就労が織り交ぜられた事業が展開されている。
(2)事業所の沿革
現理事長が福祉大学に在学中、養護学校(現在の特別支援学校)でボランティア活動を行った際に、障害をもつ生徒たちの一途で、快活な姿に衝撃と感銘を受けるとともに、この生徒達の卒業後の生活に思いを巡らし、地元に帰って農業を基幹とした授産施設の設立を思い立った。しかし、昭和50(1975)年代後半、その計画は認可されることなく実現しなかった。一方、当時、おいらせ町(旧下田町)で特別養護老人ホームの開設の気運があったことから、昭和58(1983)年に社会福祉法人誠友会を設立する機会が前理事長に与えられ、特別養護老人ホーム木崎野荘を開設することとなった。それ以来、同法人は老人福祉事業、介護保険事業を推進し、同事業としてデイサービスセンター木崎野(通所介護、ショートステイ)、在宅介護支援センター木崎野(居宅介護支援)、デイサービスセンターいこいの森(デイサービス)、居宅介護支援センターいこいの森、グループホームいこいの森を次々と開設していった。
そのような中、法人運営の中心にいた現理事長は、老人福祉関係の各種研修会や大会に参加するときは、時間を作っては、先進の障害者授産施設や福祉工場、作業所、農業を取り入れた観光施設等もつぶさに見て回り、自らの構想を膨らませていくと共に、その実現の機会を窺っていた。
そのような折、現理事長は平成11(1999)年に障害者就労支援を目的としたNPO法人の立ち上げに参加することになった。
一方、平成16(2004)年からは、特別養護老人ホームの温泉を活用し、熱帯果樹のハウス栽培を始め、平成17(2005)年秋には、地元の会員約120名と共に「有限会社TCコーポレーション」を設立し、熱帯果樹のハウス栽培に、地域の農家が栽培した旬の新鮮野菜、自慢の加工品、特産品のPRも加えて、地域の産物を販売する産直店舗を作り、温泉を利用した足湯や熱帯果樹ハウスを併設した総合観光農園作りに着手した。
また、平成20(2008)年には、「株式会社アグリの里」を設立し、翌21(2009)年3月に、通年摘み取り体験が可能な水耕栽培システムを導入したイチゴ園を開園し、観賞動物や熱帯果樹園と共に、家族で滞在できる機能を加えていった。
そのなかで、障害者雇用を推し進めるために、先のNPO法人の事業を当法人が引継ぎ、平成21(2009)年8月には、障害者就労継続支援A型事業所(以下「A型」という)「工房あぐりの里」(定員20名)を開設し、翌9月にはA型の事業として、地元の特産物や自家栽培した素材を活かした食事、果物のデザートを提供する農業レストラン「百果良彩」を開業した。同レストランにおいては、食事提供の他に、パン、ケーキなどの加工品を製造販売している。
さらに、障害者の就労継続支援の幅を広げるために、平成22(2010)年8月には障害者就労継続支援B型事業所(以下「B型」という)「工房あぐりの里」(定員20名)を開設し、手づくり工房として、豆腐、惣菜、デザート作りを始め、レストランでの食材としての利用や物産館での販売を始めた。
また、来園者のニーズと事業所利用希望者の増加に対応するために平成25(2013)年10月には、新たに「多目的(飲食・加工・体験・学習等)工房」「水耕栽培設備」を整備し、他の事業との織り合わせを深める展開が実現することになっている。
2. 障害者雇用の経緯と雇用状況
平成21(2009)年8月、A型を開設するに当たっては、ハローワークに障害者求人を依頼し、応募者に対して事業所の見学、面接という流れで対応した。その際、実際に求人を出している仕事の内容を見てもらい、各人の障害に配慮した工夫なども提案しながら、採用を進めた。その中には、市町村の担当者、障害者就業・生活支援センターや就労移行支援事業所からサポートを受けたことがきっかけとなり応募し、採用となった障害者も多い。
当初は、短時間労働者8名からスタートし、現在は、身体障害者6名、知的障害者9名、精神障害者2名の17名が雇用契約を交わし勤務している。
3. 取組と業務内容
現在、従業員(雇用A型17名)と作業員(非雇用B型30名)合わせて47名が障害のあるスタッフとして作業にあたっており、設備も計画的にバリアフリー化を推進している。また、仕事のハンディを補えるのであれば道具の工夫、機械化などは、積極的に取り入れていく姿勢で対応している。
(1)聴覚障害、知的障害のある人に対して
聴覚障害、知的障害のある人に対しては、写真と文章による作業工程のマニュアル化を図り、視覚的な情報を得やすいようにするとともに、コミュニケーションを確実かつ円滑にするために連絡ボードを活用している。さらに、本人の習得状況により支援度を下げ、「信頼≧自信≧責任」の関係を強化し、持ち場の定着を図っている。また、変更や新たな仕事内容に取り組む場合は必要に応じて作業工程のマニュアルは作成し直している。
- パン製造部門 H・Rさん(聴覚障害2級(女性))
H・Rさんは運転免許があり、早出のシフトにも対応し、計量から商品化までの全工程に携わっている。
- 農園管理部門所属 S・Kさん(聴覚障害2級(男性)、8時間勤務)
農作物の栽培や商品の納品、伝票の取扱いなどの事務的な仕事も担っている。
S・Kさんは、以前、レストラン部門にいたが、人との関係をうまく築けず、問題になりかけていた。しかし、その後、果樹栽培部門に配属になったとき、その個性は、遺憾なく発揮され、仕事の成果は他を寄せ付けないレベルに一気に駆け上がった。
![]() 9月、約2万株の定植作業が一段落したいちご
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![]() 10月成長したいちご
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(2)身体に障害のある人に対して
身体に障害のある人には、作業場通路や方向転換がしやすい十分なスペース、作業動線などについて確認しながら確保している。また高さ調整が可能な作業台などを選定している。
![]() レストラン厨房内風景
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- レストラン部門 T・Mさん(肢体不自由5級(女性))、K・Tさん(肢体不自由4級(女性))、M・Yさん(肢体不自由5級(女性))
3人ともレストラン部門に所属している。食材の仕込み、盛付け等の調理補助、洗い場を主に担当している。
- 豆腐製造部門 M・Mさん(身体障害2級(男性))、8時間勤務)
M・Mさんは、手作り豆腐全品と惣菜やデザートなどの関連製品の製造を担当している。在庫の管理を含め、部門の中心的な役割を担っている。
![]() パン作り風景
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![]() 工房内風景
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以上のことを推し進めるにあたって、各分野の障害のない従業員に対しても、定期会議にて障害への理解をはかる取り組みを継続し、障害者が働きやすい職場作りに努めている。
4. まとめと今後の展望
「観光農園アグリの里おいらせ」は事業の沿革等で述べたように株式会社アグリの里(イチゴ園)、有限会社TCコーポレーション(産直)、そして障害者就労継続支援部門の工房あぐりの里(福祉)の3つの組織が協働し、その利点、特徴を発揮しながら相乗効果を高め、お客様の需要、ニーズに応え、全体で、「地域・農業・観光・福祉・雇用」を紡ぎ合わせ、地域の活性化に携わることを基本理念の一つとして掲げ、事業を展開している。
そのなかで障害のある従業員は、就労継続支援という福祉サービスを利用しながらも、お客様に対しては商品や料理を通じて、サービスを提供している側となっている。いつも普通に地域と結び付きながら、開かれた環境で、自信をもてる仕事を生活の柱にし、この地域で生活していける収入を得ること。それが「社会的自立」であり、「経済的自立」であると、当事業所では捉えている。その観点からA型では、この地域で自立した生活に必要な収入が確保できることを事業運営(経営)のモットーとして事業を開始した。現在では、経営努力の成果が徐々に現れ、平均工賃(賃金)は月当たり8万6千円台となっている。
その一例として、集客力を高めるために、レストランでは、一流のプロシェフに料理をお願いし、その品質を高める配慮をしている。当初、シェフは、障害者と一緒に働くことに戸惑いもあったようだが、時を置かず、一途に、仕事の習得を目指し、それを会得していく障害者の姿に共感し、共に質の高い食品とサービスを展開している。その甲斐もあり、年々、来園者が増え、平成24(2013)年度は年間来園者が45万人に達した。また、WEB上の食べ物関連のサイトでは、盛んに取り上げられ、評判は高まる一方である。
また、ヒマラヤ原産の赤そばによる景観作りと加工品作りで特産物作りと観光開発を併せて目指したり、青森保健大学と協同し、食品の新素材であるもち小麦による新メニュー開発を行い、レストランでの提供、物産館での販売を通して、その消費の拡大戦略を立て、それを起爆剤として地域の生産者の動機付けを行い、農業振興を図ろうとしている。
さらに、事業所の実績を見聞きした障害者及び関係者からの利用相談の増加に対応するために「手作り工房あぐりの里」としてB型を開設し対応してきたが、B型における平均工賃は2万円台に留まってきた。そこで、現在、A型との工賃の格差を是正するためと、増え続ける来園者のニーズに応えるために、新たに「多目的(飲食・加工・体験・学習等)工房」「水耕栽培設備」を整備している。
共同体のさらなる発展を期すとともに、ひいては障害者の自立支援を充実させ、さらには、共に生きる地域の産業振興の一翼を担うために、時代の変化の機微を逃さぬよう、障害者福祉・雇用の促進、農業普及振興、地域物産振興に係る諸政策に対して、常に感度の良い複眼のアンテナを張り巡らせ、四方、八方からの情報を貪欲に取り入れてゆく理事長をはじめとする職員のみなさんの姿勢に、圧倒的なエネルギーを感じた。
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