障害者雇用の促進は、経営者の決断と現場の理解・協力
~その場凌ぎではなく、継続的な風土作り~
- 事業所名
- 株式会社ハチカン
- 所在地
- 青森県八戸市
- 事業内容
- 水産・畜産レトルト食品の製造(缶詰、ビン詰、レトルトバウチ)、業務用・家庭用の冷凍食品の製造
- 従業員数
- 600名
- うち障害者数
- 14名(内重度2名)
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 1 冷凍食品の原料加工 肢体不自由 4 冷凍食品・缶詰製品の製造、包装、梱包作業 内部障害 2 冷凍食品の製造管理、缶詰製品の原料加工 知的障害 7 冷凍食品・缶詰製品の製造、包装、梱包作業 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
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1. 事業所の概要
平成16(2004)年11月、八戸缶詰株式会社の製造部門と株式会社ハチテイの製造部門、日本水産株式会社清水工場を統合し、八戸缶詰株式会社と日本水産株式会社の出資により、設立資本金1億円で新会社株式会社ハチカンが設立された。そして、平成17(2005)年1月、ニッスイグループの次代を担うモデル工場として冷食工場と常温工場を竣工し、新会社として生産を開始した。平成23(2011)年度実績で年商156億円となっている。
当社工場は次の点にこだわった運営がなされている。
(1)フードディフェンス(フードテロ対策)
食品産業界で新たな課題となってきた予期せぬ外部からの攻撃から自社製品を守るために次の対策が取られている。
- 工場周囲、玄関、入出荷口に監視カメラを設置し画像を記録する。
- 外部へつながる各ドア(玄関、非常口等)、シャッターにマグネットセンサーと数字入力電子錠設置(警備警戒時に扉・シャッター開放で契約警備会社へ通報)、赤外線センサー設置(玄関、各水槽周囲他)
- 工場稼動時侵入者対策
- ①玄関は電子錠となっている(暗証番号入力・ICカード・インターホンのみ開錠可)
- ②工場内入場生体認証(掌静脈認証)システムの採用(登録者以外は入・退場不可)
- 使用添加水の防御
UF膜濾過導入による高度清浄水の導入と水周りへの外部テロ対策
(2)フードセーフティー(食の安全・安心対策)
食品の製造・加工工程のあらゆる段階で発生する恐れのある異物、微生物による汚染等の危害を予め分析し、製造工程のどの段階でどのように対策を講じれば安全な製品を得ることができるかということを重要管理点として設定し、監視することにより製品の安全性を確保している。
- 日水HACCP相当基準による認定の取得
- 工程の衛生区分と人の動線管理(床の色分け、入室前の手洗い、ローラー掛け)
- アレルゲンの区分け管理(原材料の置き場の区分け)
- 原料規格保証書による原材料のトレース管理(原材料の出所の記録・管理)
- エクセレントラボによる検査レベルの維持向上
- 日水グループ各工場検査室レベルの統一のための認定制度
- 検査員の検査レベルの審査
- ISO等の外部認証の取得
- 原材料のトレース管理と誤投入防止を目指すシステムの導入
(3)見ていただく工場(安心の為に)
当工場の安全への取り組みや衛生管理された製品生産の過程を一般の人に公開し、食品の安全管理に関心を持ってもらい、信頼を得るために工場全体を見学できる通路を設置し、通路階段には階段昇降機を設置するなどバリアフリーとしている。
(4)環境・省エネ対策
環境・省エネ対策のため廃食油をボイラーの燃料として再生活用している。冷凍機は自然冷媒の最新機「ニュートン3000」(前川製作所)を導入した。温排水を回収する蒸気ドレンも採用した。また、風除室、玄関とトイレは人の動きで点灯する人感センサー付LED照明。太陽光発電パネル(40Kワット)も導入し、屋外にはソーラーLEDの独立型照明塔5基がある。
2. 障害者雇用の経緯
平成16(2004)年11月、当社設立に先立ち、関係会社、工場の人員の統合、異動が行われ、新会社に身体障害者(肢体不自由、内部障害)2名、知的障害者2名が採用された。
肢体不自由者についてはトイレ等の設備等と作業内容への配慮、また、内部障害者については日々の健康状態の観察と医療機関での定期検査の確認、作業内容への配慮、労働時間の管理がなされていた。
知的障害者は理解度や作業に対する対応の力量や何ができるのかが解りにくかった為、製造に直接関わらない危険性の少ない日々変化の少ない単純作業とした。
その4年後の平成20(2008)年に1名の身体障害者を採用したが、障害者雇用の重要性と必要性は認識していたが、人事担当者の業務量が多く、その対応に着手できず法定雇用率は未達成のまま推移していた。
そのような折の平成22(2010)年9月、障害者雇用に関して非常に前向きな新任の役員が就任したことがきっかけとなり、障害者雇用納付金を払っていればいいのではなく、払わなければならない状態がコンプライアンス、CSR(企業の社会的責任)の考え方から好ましくないというスタンスで、次の観点から障害者雇用が促進された。
- (1)コンプライアンスの観点から雇用率の未達成は許されない。
※未達成企業の社名公表等 - (2)地域の企業として雇用の場を提供するという社会貢献は当然である。
※従業員のほとんどが地元の人 - (3)未達成による納付金の負担を軽減。
その結果、平成22(2010)年から現在(平成25(2013)年11月)まで障害者雇用数10名増、雇用率1.66ポイント増が実現しているが、まだ満足できる状態ではないと考えている。
雇用人数 (重度換算後) | 雇用率 | 過不足数 | 従業員数 | |
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平成22(2010)年11月 | 6名(重度1名) | 0.95% | -5名 | 630名 |
平成23(2011)年11月 | 10名(重度1名)(+4) | 1.36% | -3名 | 737名 |
平成24(2012)年11月 | 12名(重度1名)(+2) | 1.88% | +1名 | 638名 |
平成25(2013)年11月 | 16名(重度2名)(+4) | 2.61% | +4名 | 613名 |
採用された障害者は主に食料品製造作業員として、冷凍食品・缶詰・瓶詰製品の原料加工及び製造、包装、梱包作業にあたっている。
勤務時間は基本的には8:00~17:00の実働8時間であり、1年単位変形労働時間制の為、7時間、8時間、9時間の月がある。休日は日曜と休日が飛び石となることは非効率的な為、その他の休日は会社カレンダーによっていて連休になることが多い。
3. 取組の内容
(1)担当要員の増強と知識の習得
平成22(2010)年まで障害者の雇用を担当する者が1名であったが、新たに看護師を採用し医務室設備、備品の充実を図り、従業員全体の健康管理を行いながら障害者を担当することとした。また、他に1名を加え担当者を3名とした。この3名のうち2名については平成23(2011)年度障害者職業生活相談員資格認定講習を受講させ、障害者雇用に係わる知識を習得させた。翌平成24(2012)年にはさらに1名を受講させた。
(2)現場実習の受入れと世話役の設置
知的障害者の雇用については6年間採用を行っておらず、ほとんど今回が初めての様なもので全てが不安であり、八戸第二養護学校、ハローワーク八戸、障害者就業・生活支援センターみなとの助言、指導を仰ぎながら手探り状態で、まず八戸第二養護学校の協力を得て生徒の実習受け入れをスタートさせ、いろいろな現場実習を経験していくなかで問題点の把握、対応策の検討を行った。
一方、従業員は知的障害者と接したことがない人ばかりで、知的障害の程度、理解力が分からず不安が大きかったが、養護学校の先生に付いてもらい実習を重ねることによって現場の理解は得られていった。また、従業員の中から世話役を決めて衛生面、作業面、安全面の指導をマンツーマン体制で繰り返し行った。作業においてはケガや事故のリスクも高い為、精神的負担も大きく悩んでいる人もいたが、結果として世話役となった本人のためにもなった。
(3)安全・衛生指導の徹底
前述したように当工場での衛生・安全管理基準は高く、工場への入場の際や区域の移動、トイレ利用時など、手洗い、ローラー掛け、手足の消毒を行わなければならず、その対応に時間がかかり、身につくまで養護学校や家庭においても訓練してもらった。
- 服への着替え
帽子、制服の着用の前後に毛髪等の異物除去の為に粘着ローラーをかけてから着替えなければならない。通常3~4分位でできるが、最初は15分以上かかる人もあり、かなりの訓練を要した。
- 手洗い
洗剤での洗浄、逆性石鹸での消毒、エアータオルでの乾燥、アルコール噴霧を約2分かけて行うが、洗い方が不十分だったり手順の抜けがあったりとこちらも訓練が必要であった。
- 持ち込み禁止物、禁止行為の厳守
書面や写真等の掲示物だけでは理解してもらえないこともあり、一つずつその場で繰り返し話をすることで身につけていった。
(4)作業現場での工夫、配慮と作業の様子
工場内においては衛生管理上、目の部分しか露出していない作業服装となることで、周囲の人が障害者を認識するのが難しかった為、帽子にピンクの二重線を入れて認識しやすく注意を払ってもらえるようにした。
現場の理解、協力のもとに作業習得が進み、現在では一般従業員と遜色なく作業を行っている。
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(5)送迎バスルートの一部見直し
採用にあたって、これまでの送迎バスルートを見直し通勤の便を図っている。
(6)福利厚生面での配慮、効果
イベント、納涼祭、新年会などの社内行事への参加を奨励促進するために参加費の負担や送迎を行い、一般従業員との交流を深め親睦を図っている。このことで、社内の障害者理解が深められるとともに障害者の就労意欲の向上につながっている。
また、社会性を高めるために地域で行われる行事、各種大会への参加を支援し、積極的に人と交流できるよう手助けしている。
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4. 雇用後の効果、まとめと今後の展望・課題
(1)雇用後の効果
世話役を任せられた従業員の中には障害者とともに働くことによって、今まで無愛想だった人が優しく教えるようになったり、コミュニケーションをとるのが苦手だった人が周囲の人達と上手く付き合えるようになるなどの変化が見られた。
また、仕事を教えるためには自らも勉強しなければならないので、以前にも増して衛生管理、安全管理などの仕事を深く理解するようになり、業務上の効果が現れた。
また、障害者と一緒に働いていることが一般従業員をほっとさせる効果を生み、年配者にとっては孫のような存在であり、現場全体が“和んで”きた。
(2)まとめと今後の展望・課題
障害者雇用促進に舵を切った当初、知的障害に対する知識の少なさ、知的障害者の理解の少なさで現場、従業員は不安に駆られたが、実習を重ねるうちにその理解が進み、世話役に選ばれた従業員を中心に工場全体で受け入れが進み、従業員の間でも仕事を教えることを通じて仕事への理解が深まった。
また、世話役を経験豊富な高齢者に任せることで、若い障害者にとっては頼もしい祖父母であり、先生であり、高齢者にとっては障害者とともに作業し指導することが生涯現役として会社に貢献できる仕事となり、高齢者の継続雇用のための就労モデルとなった。
障害者を雇用するにあたっては、一般従業員以上に責任を持って面倒をみるのが義務であるという覚悟を持ち、20年、30年先も継続雇用できるよう、また、加齢、症状の変化等に対応できるような仕組み作りが急務と考えている。
その一つの方策として、当工場で使用する野菜の栽培、原料処理、廃棄物の収集・処理等、可能な仕事が多くあるので、その作業内容を整理し取りまとめていくことで、働くための選択肢を広げていくこと、さらには生活の場を提供し生活支援をより推し進めるためにグループホームの併設なども視野においていくことが重要であると考えている。
また、地域社会貢献の一環として、現在は冷凍食品工場のみで実施している特別支援学校(養護学校)からの実習の受け入れを常温工場(缶詰・瓶詰製品の製造)でも行い、いろいろな現場実習を経験してもらい具体的な進路の方向性を見出していくことへの力添えをして行ければと考えている。
このように、当社が障害者雇用を促進してこれたのは経営者の決断とそれに応えてきた現場の理解、協力があればこそであった。今後ともその場凌ぎではなく、全社を挙げて継続的に障害者雇用の風土作りを進めて行きたい。
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