障害者を持つ家族に希望を与える就労スタイル
- 事業所名
- 長友製袋株式会社
- 所在地
- 福島県いわき市
- 事業内容
- セメント・製粉・飼料等の大型クラフト製袋の製造販売
フレコンバック・段ボール等の販売 - 従業員数
- 30名
- うち障害者数
- 6名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 6 梱包・検品・包みの充填 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観
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1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
- 設立の経緯
「一町六反以上の田んぼを持っている者には辞めてもらう」創業者の鯨岡兵吉が、勤務していたセメント会社から今で言うリストラを言い渡されたのは昭和50(1975)年の秋であった。いわゆる「いざなぎ景気」が終了し、セメント業界にも不況の嵐が吹き荒れていたころであった。
「このまま農業だけでは食べてはいけない」起業を決意した兵吉にアドバイスをしてくれたのは、後に衆議院副議長まで務めた叔父にあたる鯨岡兵輔であった。鯨岡兵輔は当時、東京の千住で鯨岡製袋という会社を経営していた。
「この事業は儲けは少ないが、不況にも強く、安定している」この言葉をもらった兵吉は、昭和52(1977)年9月、大型紙袋の再生を主な業務として、長友製袋工業所を設立し紙袋の製造・販売の事業を開始した。昭和55(1980)年、現在の長友製袋株式会社に名称変更し、昭和59(1984)年には製袋機械を導入して新袋業界に参入した。
- 事業の現状
製袋業界はいわゆるニッチ産業といわれ、大手が手を出す業界ではない。しかし、その歴史は意外に古く、新規参入はたやすいものではなかった。元々、米や砂利、セメントなどを容れる大型の紙袋は、三重構造になっており、リサイクルができる今で言うところの「エコ商品」であった。外袋と中袋を入れ替えるリサイクル作業は機械化ができず、すべてが手作業で行わなければならない。当社は会社の全景写真でもわかるとおり、周囲を豊かな水田に囲まれている。ここで活躍したのが、農閑期の農家の人手であった。内職として、袋の再生を行ってもらうことは、農家にとっても、当社にとってもとても有益であり、その品質の高さと低コスト生産により徐々に事業の基盤を築きあげてきた。
その後、再生袋はローコストの紙袋の生産が活発となり、その役割を終えるとともに、当社も製造機械を設備投資し新袋の製造・販売業に転換していった。新規参入で規模も小さい当社は既存の販売チャネルに参入することは困難なため、既存の製袋業者が手を出さなかったホームセンターなどにオリジナルで開発した家庭用の小さな米袋などの営業を重ね、事業を徐々に拡大し現在に至った。
![]() 新袋の製造の様子
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(2)障害者雇用の経緯
「うちの娘のように、障害を持った若者に働く機会を作ってあげることはできないだろうか?」創業者の鯨岡兵吉の叔父のY氏は、ダウン症の障害を持つ子の親として、同じ環境の家庭のことを考えると、雇用の機会を何とか作ってあげなければならないと、強く感じていた。ダウン症は、体細胞の21番染色体が1本余分に存在し、計3本持つことによって発症する先天性の疾患群である。一般に出産の800分の1という割合で発生しており、日本での患者数はおよそ5万人と言われている。
昭和60(1985)年、当時の社長であった兵吉はその叔父の気持ちを汲み、いわき福音協会の門をたたいた。社会福祉法人いわき福音協会は、昭和25(1950)年6月2日創立者大河内一郎氏の理念である「聖書的信仰に基づいて社会福祉事業を行う」目的をもって設立され、創立以来、障害児者への総合的な就業・生活支援事業等々、多様な福祉サービスを進めている。障害児者に対しては、本人の有する能力に応じた日常生活を地域社会において営むことができることを目指し、一人ひとりの意向を汲み自己実現ができるように支え、利用者の自立支援の強化を図ることなどを法人理念や基本方針に掲げている。そのため、就業支援についても積極的で、いわき障害者就業・生活支援センターも運営して、いわき市内の多くの企業から依頼を受けて障害者の就労支援を行っている。
兵吉はこの年、いわき福音協会から3名の障害者を受け入れた。障害者には大型紙袋の再生の仕事に携わってもらった。彼らの仕事ぶりは、期待以上であり、障害のない従業員に優るとも劣らないものであった。
「当社の仕事は障害者の能力を充分に発揮させることができる。地道に根気強く同じ仕事を続けることは難しいことだが、障害者には障害のない従業員よりもこれらの能力に長けた者が大勢いる。彼らを雇用することは、彼らのためにもなるばかりでなく、会社のためにもなるのだ」と、それ以来、いわき福音協会からの障害者を受け入れるようになった。地域貢献という観点からも企業を飛躍させる第一歩を踏み出した。
2. 障害者の従事業務、取組の内容
(1)障害者の従事業務
製袋の仕事は元来、昭和50(1975)年代まではすべて手作業で行われており、どちらかといえば熟練の技を必要としていた。昭和60(1985)年代に入ると手作業で行うべき仕事は大幅に減少し、機械による作業が主流となった。機械化により、経験などはさほど必要がなくなり、いかに確実に操作を行うかが問われるようになった。これにより、障害者雇用もさらに進むことになった。
機械のオペレーションや製品のチェックなど、障害のない従業員と同様にできる仕事が増えてきたのだ。当社には、58歳で在籍20年になるNさんを筆頭に在籍2年で25歳のUさんまで男性5名女性1名の知的障害者が従事している。いずれの障害者も上述のいわき福音協会からの推薦で雇用に至った。勤務時間は正社員と同じであり、賃金は福島県の最低賃金を支払っている。現在、障害者が従事している業務は袋製品の梱包・検品・包みの充填などである。勤務ぶりはいずれもまじめで堅実である。
![]() 機械による製袋作業の様子
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(2)取組の内容
「Sさんは音楽が大好きで、特にエグザイルの大ファンなんです。みんなの前で歌ったり、踊ったり、いわゆる会社のムードメーカーなんですよ」と取締役製造部長の小野文彦さんは目を細めて、若手のSさんについて語る。
「彼のおかげで社内は大変明るくなり、多少、障害者に対して偏見を持っていた従業員も、まったく偏見が無くなりました。」
入社時には仕事を覚えてもらうために、何度も何度も繰り返し作業を教えて、やらせて理解させなければならない。労災事故防止の意味でも、障害者に対する社員教育はとても重要である。あるときには大声を出さなければならないときもある。そして、一定のレベルとみなしたあとは、障害者といえども仕事を任せるようにしているのだ。
もちろん、毎日の朝礼やミーティングは欠かすことができない安全対策の手段である。Sさんも入社2年目ながら、今では検品の仕事を任されている。Sさんの同僚は「Sさんがいると、いつも職場が明るくていいね。仕事に来るのが楽しくなるよ」と語ってくれる。この同僚の言葉はSさんにとっても仕事への大きな励みになっている。
58歳のMさんは入社20年になる大ベテランだ。知的障害を持ちながら、ここまで長期間、同じ職場に勤務していることは珍しいと思われる。これも、Mさんが会社にとって必要な人材だからである。まじめな勤務ぶりは、障害のない従業員にとっても手本となる。Мさんについて小野製造部長は次のように語る。
「若い従業員はMさんの背中を見ながら仕事をしているんです。何も語らなくても、Mさんはみんなに指導・教育しているんです。」
平成23(2011)年3月11日、いわき地方を東日本大震災が襲った。その後に起こった福島第一原子力発電所の事故により、原発から35キロほどしか離れていないいわき市の北部に位置する当社は会社を休業し、避難を余儀なくされた。当社に従事する障害者も、その大半がいわき市の小名浜港より神奈川県や北海道に避難した。
事業は原発事故後1週間で再開した。しかし、働いてくれる従業員は少数で、多くは放射能の影響を心配し避難を続けていた。風評被害はあったものの、お客様からの製品の要望もあった。いわきに戻った従業員で製造を始めたが人手が足りず、避難していた者のうち3名の障害者にもいわきに戻ってもらい、作業に従事してもらった。障害者の家族は避難していたので、3名の障害者は社長の家に寝泊りして、会社のために一生懸命に働いてくれたのであった。小野製造部長は力を込めて次のように語る。
「非常時にここまでやってくれるとは思いませんでした。彼らには本当に感謝してもしきれません。」
![]() 工場内の様子
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3. 今後の展望
当社の立地場所は前述のとおり、周りを田畑に囲まれ、車以外に通勤する手段が無い。障害のない従業員は全員自家用車で通っているが、運転免許証を持ってない障害者には無理だ。当初は家族が送迎を行っていた時もあったが、家族の負担が大きく長続きはしなかった。
そこで、数年前より、会社で送迎バスを購入し障害者に対し自宅から会社までの送迎サービスを開始した。会社の負担は増加したが、家族の安心感と確実な勤務による雇用の継続を考えると止めることはできない。
送迎バスを運行するようになって、小野製造部長は「新たに学校ルートから新卒者を採用しようと考えているんです」という。障害者を子に持つ親御さんにしてみれば、子供の将来が一番の不安である。一方で通勤させることは不安と負担がのしかかる。当社の障害者雇用モデルは地方都市での障害者雇用の見本になるのではないだろうか。
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