職業能力や障害特性と仕事とのマッチングを行う事で高い定着率を実現
- 事業所名
- ヤマト運輸株式会社 栃木主管支店
- 所在地
- 栃木県鹿沼市
- 事業内容
- 貨物自動車運送事業
- 従業員数
- 2,531名
- うち障害者数
- 32名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 9 業務全般(乗務職も含む) 内部障害 6 業務全般(乗務職も含む) 知的障害 13 事務職及び作業職 精神障害 4 作業職 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
![]() 事業所外観
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1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
ヤマト運輸株式会社は「宅急便」を柱に事業展開を図り、更なる品質向上とお客様の利便性を高め、国内はもとより海外にもネットワークの構築をはかり多くの人々に愛されている。
こうした中で栃木主管支店は、県内78箇所のセンター店とともに、同様の取組をして県内のお客様の生活に欠かせない会社として活動している。
(2)障害者雇用の経緯
栃木主管支店の障害者雇用率は全国の主管支店の中でも上位に位置している。その様な会社で障害者雇用の窓口を行っている人事総務課障がい者雇用促進担当の藤沼泰弘氏に話を伺った。藤沼氏は「障害者雇用を始めた時には専任者もいない状況であり、具体的な方針を持って雇用を進めている感じではなく、特別支援学校や就労支援機関等と連携をとりながら採用を行っていた。採用をしてみると本当に良く仕事を行ってくれたことから、継続的な雇用を進めることができてきたが、障害者雇用率が法定雇用率達成まであと少しであるという状況や特定の仕事にしか障害のある人が就いていないという傾向もあり、今後の課題としては新たな職域を開拓・検討していき、様々な障害や能力に応じた仕事の切り出しを行っていくことが必要と考えている」と話す。
2. 取組の内容、障害者の職場配置と職務内容
(1)取組の内容
現在、32名の障害のある人が働いているが、今回はその内2名の採用に至るまでの経緯を説明する。
- Aさん(35歳/男性)精神障害者(統合失調症)/精神障害者保健福祉手帳2級
Aさんは専門学校を卒業後就職するが、人間関係で上手くいかなくなり30歳の時に統合失調症を発症する。その後近くの就労移行支援事業所を利用し就労に向けた訓練を受ける。3年程度訓練を受け病状も安定してきたことから、合同面接会に参加し、当社の2次面接まで進んだ。このところで、執筆者が所属する障害者就業・生活支援センターに登録し支援を受けながらチャレンジすることになる。
障害者就業・生活支援センター(以下「センター」という。)での就労支援は次のようなことを行った。
- ①2次面接に同行
まず、Aさんの2次面接に当たり、センター職員が同行する。会社見学後、会社側から職場実習の受入により、仕事とのマッチングを見ていきたいとの意向があった。本人からも同意が得られたため、栃木県独自の実習制度【障害者就業体験事業※1】の説明を行い、具体的な実習日時と勤務時間と職務内容について検討する。
※1【障害者就業体験事業】障害者の雇用と就労の促進を図るために2週間程度の就労を体験する機会を提供し、働くことの体験から就労意欲の向上へ繋げていくための制度。受け入れ企業側も共に働く経験から障害者雇用に対する理解を深めることができる。このことを通じて、障害者の雇用と就労が促進されることを目指す。
- ②実習中の状況確認
実習は、実習期間を10日間、勤務時間5時間として開始された。
実習中は、就労移行支援事業所の職員やセンター職員が本人の状況をこまめに確認していた。具体的には下記の点について確認を行っている。
1:体力面の確認
2:指示の出し方についての確認
3:社員との関係性についての確認
4:ストレス度合いの確認
5:仕事とのマッチング
実習初日は表情が硬く、新しい環境からか疲労感も高まっている様子であった。疲労感100を上限とすれば、今はどのくらいか確認すると60と返答がある。
このことから、最初の5日間は勤務時間を5時間から3時間に変更し実習を行うことになる。周りの社員と積極的に関わることは無いが、現場の担当者から指示されたことはメモを取りながら学んでいく感じであった。
実習5日目に再度就労移行支援事業所の職員とセンター職員が本人の状況確認を行った。
その際、睡眠や食事も問題なく行えていることや、仕事にも慣れてきている様子から、現場の担当者の了解のもとで、6日目以降は勤務時間を4時間に延ばし様子を見ていくこととなる。
この頃から、本人の中で早く勤務時間を延ばしていきたいとの希望が強くなってくる。体力面でも当初よりも疲労感は軽減してきたと話しもあった。しかし、いつから勤務時間を延ばしていけるのか分からないことへの不安も感じられたため、9日目から勤務時間を5時間に延ばすことを本人に伝える。
実習9日目。本人の表情が悪いまま5時間勤務を行ったが、極端に負担感が高まったように感じられた。このため、本人の同意のもと実習最終日は4時間勤務で様子を見ることとなる。
実習最終日(10日目)に当社の担当者と本人、就労移行支援事業所の職員、センター職員で反省会を行う。
実習中の状況を考慮し、4時間勤務から徐々に5時間勤務にしていくか、5時間勤務で4日勤務から始めていくかを検討した結果、入社後1ヵ月間は4時間勤務から始めることで合意を得る。その後は継続的に状況を確認していき、本人の希望を尊重した上で当社担当者や支援機関で検討し徐々に勤務時間を延ばしていくことになる。
- ①2次面接に同行
- Bさん(20歳/女性)知的障害者/療育手帳B2
Bさんは特別支援学校を卒業後、就労するが人間関係のトラブルから2年で退職。その後、求職活動は自力でしていきたいとのことで、単独で行うが就職までつながらなかった。このため、センターにおいて支援を再開し、当社から求人が出ていたので、本人に情報提供し会社見学から開始することになる。
- ①会社見学
求人票の情報だけでは、求人に係る仕事が本人がイメージできるものではなかったため、会社見学の際に作業現場の見学をしてもらった。その中に本人の興味のある仕事(流し作業・仕分け作業)があったため、今後その作業を実習で体験してもらうかを調整し、合わせて実習の日時等の調整(開始日・期間・時間帯等)も行っていくことになる。
- ②実習中の状況確認
実習は、実習期間を5日間、勤務時間を5時間として開始された。
実習中は、センターが本人の状況をこまめに確認していた。具体的には下記の点について確認を行っている。
1:体力面の確認
2:指示の出し方についての確認
3:社員との関係性についての確認
4:ストレス度合いの確認
5:仕事とのマッチング
6:通勤手段について
実習初日には男性社員と混じり、流し作業を行っている。現場の担当者からの指示理解も早く安全に仕事を行えていた。しかし、職場に持ってきている水筒が小さかったため、十分な水分補給ができていなかった。そのため、センターから現場の担当者に状況を説明し、水分補給の時間を設けさせていただいた。全体を通して安全面での指示が多くあった。
実習2日目は、1.5ℓの水筒に変更し持参してくる。そのため、水分補給の時間を設けなくてもこまめな水分補給が可能になる。この日は、仕分け作業も体験してもらった。本人としては、流し作業よりも難しさを感じているとのことであった。理由は、数字を見て仕分けていくことが難しいという。しかし、実習中は両方の作業を継続して体験してもらうことになる。
実習4日目に、疲れ具合を確認する。100が最高に疲れている場合とすれば、どの程度か確認すると、10か20との返答がある。
実習5日目、本人の感想を伺うと「楽しくできた。希望職種は仕分け作業」とのこと。当初苦手意識のあった仕分け作業を希望していた。通勤手段が自転車であるため、今後継続して通勤を行えるか確認をした。大丈夫であるとのことであった。
本人の希望を確認した上で実習の反省会を行う。この場で次の2点の本人の希望が挙げられた。
- 楽しくできた。流し作業と仕分け作業では、仕分け作業を行いたい。
- 土日は休日をいただきたい。
上記の希望を踏まえ社内で検討した結果、後日採用することとした。
- ①会社見学
(2)障害者の職場配置と職務内容
Aさんについては、体力面や指示の理解度等を考慮し流し作業に配置される。
「仕事は真面目に行いサボることが無い」と現場の社員からも評価されている。しかし、持病の腰痛が出始めてきたため、当社担当者に状況を伝えその時点で行える職務の洗い出しを再度行った。その結果、重量物を扱うこともある「流し作業※2」から座り作業である「キーヤー※3」の仕事に変更になり、腰への負担も軽減されたことから現在はその職務を行っている。
Bさんについては、当初苦手意識のあった「仕分け作業※4」に就いている。実習を通し体験をすることで、「自分にもできる仕事」であることを確認できたと思う。現在では社員の一員として十分に仕事を行えている。
![]() 作業中のAさんの様子
「キーヤーの仕事を行うことで、腰の負担は軽減できた。今後は、勤務時間を徐々に伸ばしていくことが当面の目標」と話す。 |
![]() 作業中のBさんの様子
「最初はできないと思っていた仕事だったが、実習を行い体験することで自分にもできることが分かり、今では自信を持ってできている」と話す。 |
※2・・コンテナに積まれている荷物をベルトコンベアに置いていく仕事。
※3・・伝票に記されている番号を機械が読み取れなかった際に、その番号を手入力していく仕事。
※4・・流れてきた荷物の番号とコンテナに書かれている番号を確認し同じ番号のコンテナに荷物を綺麗に積んでいく仕事。
3. 取組の効果、今後の展望と課題
(1)取組の効果
障害のある人の雇用に関しては1つの機関で行うのではなく、今回のように会社と支援機関が協力しながら進めていくことで、より本人主体の関わりができるのではないかと考える。また、採用前に実習を行うことで本人や障害のある人を受け入れる現場の社員たちにも事前の準備ができることから高い定着率を維持できていると考える(直近の定着率:90%(一年経過時点での定着率))。
実習は本人と仕事とのマッチングを見極める他に、一緒に働く社員との関係性も高められると考える。それは、書面上の情報では確認することのできない「人となり」が見られることから、就職後の受け入れ準備がより具体的に行える。そのことからも、実習を行うことは、本人や職場の人たちの不安感を軽減させることができることから、結果的に無理のない形で仕事に入ることができ、定着率を向上させる効果があると考えている。
最終的な目標を明確に持ちながらではあるが、障害のある人本人のその時の状況に応じて、勤務時間や仕事内容等を可能な限り柔軟に対応していくことも、結果的に障害のある人の働きやすい環境になっているのではないかと考える。
仕事に障害のある人を合わせるのではなく、障害のある人本人を中心に仕事を合わせていくといった視点が重要ではないかと考える。
(2)今後の展望と課題
現在雇用している障害のある人の多くは知的障害者である。その背景には、知的障害者が得意としている、「単純作業」や「繰り返しの作業」が多く存在しているからであろう。しかし、藤沼氏は「今後更に障害のある人を雇用していくとなると、新たな仕事を検討していかなければならない時期に来ている」という。
「そのためにも、引き続き関係機関との連携は不可欠であると考えており、本人の能力に応じた仕事を提供していけるように、また様々な障害の特性を生かした仕事を検討していけるような体制を構築していきたい。また、現在雇用している人たちへのきめ細かいサポート体制を更に充実させていき、障害のある人の定着率の更なる向上を図っていくことも課題と考えている。そのためには、社員への障害理解を更に進めていくことや各現場単位での担当者の明確化等が重要と考えている」と藤沼氏からお話をいただいた。
県西圏域障害者就業・生活支援センター「フィールド」
主任就業支援ワーカー 福島 和開
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